軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話:ストラスとの協力プレイ

暗黒竜グラフロスに乗り、移動していた。

目的地はストラスのダンジョンだ。

俺は彼女に、双方の軍の強化に必要な提案をして、ストラスが受けてくれたので、その案を実行するために向かっている。

「おとーさん、最近お空の旅が多くて楽しいの!」

「やっぱり、空は速いからな」

護衛のクイナがはしゃいだ声を上げる。

近頃は大手を振って暗黒竜グラフロスに乗ってアヴァロンを出発できる。

昔なら竜が出たと大騒ぎになっただろうが、今やグラフロスはアヴァロンの看板だ。

誰も驚きはしない。

むしろ、ヒポグリフより圧倒的に速力に優れ、積載量もあるグラフロスを輸送に使わせてくれという問い合わせを受けるぐらいだ。

最近は、グラフロスの数も十分だから貸し出すこと自体に問題はないが、人間が近づくと【畏怖】で殺してしまうという問題があり断っている。

「あっ、おとーさん。ロロノちゃんから聞いた?」

「ん? 何の話だ」

「えっと、最近ね。新型アヴァロン・リッターの素材を集めるために【森】や【鉱山】を調べてたら、いろいろと発見があったらしいの。爆薬の原料が自前で調達できるようになりそうって言ってたの」

「それは初耳だ。時間が出来たら本格的に調べてもらおう」

アヴァロンでは、グラフロスの空爆や、最下層にあるMOABなどに高性能爆薬を用いているが、それらの原料はこの世界では手に入らず、俺の【創造】に頼り切っている。

どうしてもRDXなどの化学物質は【創造】でないと調達できない。

原始的な黒色火薬などの素材を集められるが、それでは威力が足りない。おかげで、俺の【創造】の九割は、こういう薬品やレアメタルの供給に使われていた。

もし、自前で火薬が調達できるなら、今まで以上に【創造】を自由に使える。……いろいろと作ってみたいものがあるのだ。

「ロロノちゃんのことだから、きっとすごい爆弾をアヴァロンの中にあるものだけで作っちゃうの」

「それは楽しみだ」

ロロノなら、アヴァロンで使っているものよりも、あきらかに品質の劣るものしか作れないのであればわざわざ口に出さないだろう。

かなり期待できそうだ。

ストラスと会う前に良いニュースが聞けて良かった。

「クイナ、掴まれ。そろそろ降下するぞ」

「やー♪」

クイナが後ろから抱き着いてきた。それを確認し、グラフロスの手綱を引き、急降下させる。

いよいよ、ストラスのダンジョンへ到着だ。

ストラスのダンジョンへたどり着くと、いつもの部屋に案内された。

しばらく待っていると、天使型の魔物、ストラスがラーゼグリフのローゼリッテを引き連れてやってくる。

いや、よく見るとその型にもう一体いた。

翡翠色のミニチュアサイズのドラゴン。風騎竜バハムートのエンリルだ。

あの子はストラスを守るために、ああやって小さくなりつつ常に傍にいる。

本来の姿では巨大すぎて、こんな部屋には入らない。

クイナがよっと手を挙げて挨拶するとエンリルも応える。

クイナとエンリルはすっかり仲良くなっていた。

子供同士、通じ合うものがあるのだろう。

「呼び出してしまって、申し訳ないわ。少し立て込んでいてね」

ストラスはつい最近まで魔王の力を失っていて、アヴァロンに滞在していた。

いろいろと仕事が溜まっているのいだろう。

「気にするな。俺から申し出た案件だ。……新しいドレスも似あっているよ。香水も変えたみたいだね」

「ふふ、わかってくれて嬉しいわ。少し大人っぽくしてみたの」

ストラスがはにかむ。

彼女はお洒落に気を配っている。会うたびに可愛らしい服を見せてくれるので、会うのが楽しみでもあった。

「本題に入ろう。すでにストラスはエンリルの二ランク下の魔物の【渦】を作っているんだな」

「当然ね。魔王としての力を取り戻し次第、すぐに作ったわ。Bランク、メダル合成じゃなければ作れない魔物を一日一体、生み出せるのよ。作らないはずがないわね」

Sランクの魔物を作る利点は飛びぬけて強い魔物を手に入れられることだけではない。

Aランクの魔物までしか作れない魔王は、CランクまでしかDPで購入できない。

それに対してSランクの魔物を作ることができれば、Bランクの魔物をDPでの購入、【渦】での量産が可能になる。

戦場での優位性は言うまでもないだろう。

「Bランクの魔物を量産できるのは強力だ。ただ、弱点もある。主力が偏り過ぎる」

アヴァロンでも抱えている問題だ。

Bランクの魔物を多く用意して主力にするのはいい。

だが、魔物には相性が存在する。

暗黒竜グラフロスの場合、死の属性を持つため、聖属性の攻撃に極めて弱い。

つまるところ、グラフロスと同格、あるいはそれ以上の聖属性の相手と戦えば一方的に倒される危険性がある。それこそ、数の差を覆すほど一方的に。

加えて、アヴァロンの航空戦力はグラフロス頼りで空を舞う彼らの援護に行ける魔物は少ない。

かろうじて、アウラとハイ・エルフたちで支援ができなくもないが、厳しいだろう。

可能であれば聖属性を苦手としないBランクの魔物を大量に空に置いておきたい。

だからこそ、ストラスとの協力が必要となる。

「私もそう思っていたの。エンリルの二ランク下。Bランクのテンペスト・ワイバーンは強力な魔物よ。でも、打たれ弱いし攻撃力に欠けるわ。あなたの暗黒竜グラフロスのような決定力のある魔物が欲しいわね」

ストラスも同じ悩みを抱えていた。

彼女の主力とするテンペスト・ワイバーンも強力な魔物だ。

その速さはグラフロスをも凌駕する。風と雷を扱い、遠距離も近距離もカバーできる汎用性もすばらしい。

だが、攻撃に鋭さがあっても重さがなく決定力にかける。耐久力のある魔物が空に現れたときには、エンリル以外での対処が難しくなる。

そう、俺は空で聖属性を苦にしない魔物を求め。

ストラスは空で攻撃力が高い魔物を求めている。

そして、お互いがお互いの望む魔物を所持している。そうなればすることは一つだ。

「ストラス。自由に竜を舞わせる場所はあるか?」

「ちゃんと用意しているわ。あなたの暗黒竜グラフロス。その力をたっぷり見せてもらうわ」

「こっちこそ、テンペスト・ワイバーンの性能を見定めさせてもらう」

「そうして。もし、お互いに満足がいったときは約束通りに」

「ああ、月五頭から始めよう」

魔物の交換だ。

【渦】で一日一体供給されるので俺のグラフロスもストラスのテンペスト・ワイバーンも替えがきく。

定期的に魔物を交換することで偏った編成を解消するのだ。

とはいえ、実際に性能を見ないと不安がある。

今日は、お互いの魔物の性能を確認し、魔物交換の契約を行うためにここに来た。

「……プロケル、これはお願いになるのだけれど。良かったら、あなたのアビス・ハウルも交換に入れてもらえないかしら? 空での高火力も求めているけど、私のところでもっと深刻なのは、地上の機動部隊、異空間要員が不足していることよ。アビス・ハウルがいれば、どちらも強化できるわ」

少し、考える。実は、この展開は予想しており、【収納】でアビス・ハウルを一体だけ連れてきている。俺がストラスの立場なら絶対にアビス・ハウルは欲しがると思っていた。

ストラスのテンペスト・ワイバーンは魅力的だ。

聖属性を持つ魔物は、たいてい防御力が低い。テンペスト・ワイバーンは圧倒的な速さで追いつき蹴散らしてくれる。

何より、制空権の確保がグラフロス単体よりずっと楽になる。風を操る彼らはサポート要員としては最高なのだ。

……しかしBランク魔物同士、一対一の交換とはいえ、こちらが二種類出すのは一方的に損をしている気がしないでもない。

「わかった。お互いの魔物が満足のいく性能だと確信できれば、グラフロスとアビス・ハウルを併せて交換に出し、同数のテンペスト・ワイバーンをもらう……その代わり、これは貸しにしておく。いつか必ず返してもらうからな」

「ありがとう。覚えておくわ。あなたに借りっぱなしね。ちゃんといつかまとめて返すわ」

俺は小さく笑う。

ストラスのことだ。きっと、いつか大きな力になってくれるだろう。

そうして、俺たちはストラスが用意したお互いの魔物のデモンストレーションの会場に移動した。

ストラスのドレスは背中が大きく開いており、どきりとする。

「なんなら、借りは体で払ってもらっても構わないが?」

あっ、ストラスがこけた。

顔を真っ赤にして振り向く。

おそろしく動揺しているようで口をぱくぱくさせていた。

「なっ、なっ、なっ、いきなり何を言い出すのかしら」

「冗談だ。いちいち真に受けないでくれ。それより、急ごう。早くテンペスト・ワイバーンの性能が見たい」

「……じょっ、冗談? ……そういう冗談はやめてほしいわ。本気にしちゃうから」

ストラスが立ち上がり、速足で前を歩く。

手の甲をクイナがつねっている。頬を膨らませていた。

「おとーさんの変態」

「悪かった。今のはないな。ストラスにも後で謝っておく」

今のはさすがにどうかしている。

最近、毎日のように爆発的な感情を受け入れているせいで、いろいろとおかしくなってきている。

自覚がないうちに、黒いほうの俺に引っ張られている。

このままだと、いつかフェルに手を出したときのように暴走しかねない。

……一度、娼館でも行こうか。

たまったものを吐き出せば、落ち着くだろう。

ストラスのダンジョンにある【渓谷】に来ていた。

ストラスの魔物は飛行能力を持つ魔物が多い。切り立った崖が多く足場が細くいりくねり不安定だ。

なにより、青い空が広がっている。【渓谷】は彼女の魔物たちにとって絶好の狩場だろう。

そこで、お互いの魔物を【収納】から解き放っていた。

空を黒と翠の竜が舞う。

「ストラスのテンペスト・ワイバーンはすごいな。風を操れる竜はここまで速いのか。雷撃もいい。爆薬なしに上空から地上を狙えるのはうらやましいよ」

「あなたのグラフロスこそ。ここまで基本スペックが高いなんて反則よ。なんて威圧感と力強さ! この打撃力がほしかったの! グラフロスだけでなくアビス・ハウルの地上戦での強さも素敵ね! 異空間系の魔物とはとても思えないわ」

お互いの魔物に思いっきり暴れさせていた。

ストラスはグラフロスとアビス・ハウルをお気にめしたようだ。

逆に、俺のほうも翠の翼竜。風を操るテンペスト・ワイバーンを気に入っていた。

暗黒竜グラフロスのいいサポート役になると思ったが想像以上だ。

ストラスと顔を合わせて笑い合う。

「ストラス、俺のほうはテンペスト・ワイバーンをなんとしてでも手に入れたくなった」

「私もあなたのグラフロスとアビス・ハウルが欲しいわ」

「なら、交渉成立だな」

俺とストラスはがっちりと手を握りあう。さきほど、俺がうっかりもらした言葉を思いだしたのか、ストラスがまた顔を赤くした。

だが、交渉は成立した。

月に一度、十頭の魔物を交換する契約を結んだ。

これで、アヴァロンの航空戦力が暗黒竜グラフロス一辺倒から、テンペスト・ワイバーンとの混成部隊になった。

これは大きな進歩だろう。

「見てみろ、ストラス。グラフロスとテンペスト・ワイバーンがなにかしようとしてるぞ」

「あの子たち、いったい何をするつもりかしら?」

グラフロスとテンペスト・ワイバーンが編隊飛行しながら、鳴き声で意思疎通をしている。

そして、それは始まった。

テンペスト・ワイバーンが先行し全力飛行。【風】の力で風の道を作る。その道を使うことでグラフロスがテンペスト・ワイバーン並みのスピードで追随する。

こんなことまでできるのか。

アヴァロンの空を彼らが舞う。その日が待ち遠しくなった。

「すごいわ。こんなことができるならほかにもいろいろと出来そう……ねえ、プロケル。これから予定はあるかしら?」

「予定はあるが。空けることはできるぞ」

いくらでも仕事はあるが、今日終わらせないといけない緊急案件はない。

そう返事すると、急にストラスがもじもじとし始めた。

しばらく待っていると意を決して口を開く。

「あっ、あの、良かったら。私の部屋で夕食を食べていかない? がんばって作るから。その、いつもプロケルにはご馳走ばかりしてもらって悪いと思っていたの。せっかく、私のダンジョンに来てくれたのだから、今回は私にご馳走させて」

不安そうに上目遣いで俺の表情を伺ってくる。

ストラスの手料理か。

そんなことを言われたら断れるはずがない。

……もしかしたら、俺をダンジョンに呼んだ真の理由はこれかもしれない。

「是非ご相伴にあずかるよ。知らなかった。ストラスが料理を作れるなんて」

「ええ、やっとプロケルに食べてもらっても大丈夫なぐらいにうまくなったの。うれしい。気持ちを込めて作るわ」

ストラスの笑顔がとても可愛く感じる。

後ろで、ローゼリッテがガッツポーズをしていた。エンリルがローゼリッテの腕の中で暴れている。

……たぶん、仕組んだのは奴だな。ストラスの姉を自称するだけはある。相変わらず、面倒見のいい魔物だ。

それから、ストラスの手料理をご馳走になってから帰った。

食後に泊まってくれとストラスは言ったものの、あんな冗談を言ってしまうぐらいに俺は不安定だ。……過ちを犯しかねない。

別れ際、ストラスは妙に残念そうにしており、ローゼリッテは舌打ちし、エンリルは嬉しそうに鳴き声を上げていた。

ストラスの料理を思い出す。

味自体は、アヴァロンにあるプロの料理店のほうが美味しいのだろうが、味以外の幸せな何かがたくさん詰まっていた。

ちょっと食べすぎた。

ストラスが料理を作りすぎたせいでパンパンに膨らんだお腹を撫でる。

今日はここに来てよかった。……テンペスト・ワイバーンを得られたからだけじゃない。ストラスとの優しい時間は、俺にとって価値のあるものだった。

これでまた明日から頑張れるだろう。

そういえば、ストラスが気になることを言っていたな。

【竜】の魔王アスタロトは残りの寿命が少ないこともあり、自分の魔物や資産を自分の派閥に分配し始めたらしい。

そして、真の宝は【竜】の試練というものを開催して、乗り越えたものに託すとのことだ。

「まあ、俺には関係ないか」

ストラスにとって重要な案件だろうが、【竜】の魔王にとって俺は、友人に過ぎない。

とはいえ、真の宝とは何か気になる。

どこかのタイミングを見てストラスに聞こう。

消える前にもう一度ぐらい【竜】の魔王と飲み交わそう。彼には恩があるし、いろいろと話を聞きたい。

とびっきりの酒と、とびっきりの食事で笑って送り出してやろう。

それが残される俺が旅立つ彼にできる唯一のことだから。