軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話:【誓約の魔物】会議

プロケルが【覚醒】を使いこなすために【平地】に出発している間、天狐のクイナ、エルダー・ドワーフのロロノ、エンシェント・エルフのアウラの三人はクイナの秘密基地に集まっていた。

プロケルすら知らない地下の部屋。

もともと、キツネには穴を掘り巣を作る習性があり、天狐のクイナも例外ではなかった。こっそりとアヴァロンの地下に巣穴を作ってある。

世界最高の鍛冶能力をもつロロノが手を貸していることもあり、地下でありながら非常に快適な部屋に仕上がっている。

ここに三人で集まるときはだいたいプロケルに聞かれたくないことを話している。

いかに【誓約の魔物】とはいえ、年頃の女の子であり父親に知られたくないことはそれなりにあるのだ。

「第三回、【誓約の魔物】会議を始めるの!」

今日の議事進行はクイナだ。

松明の明かりに照らされた部屋でクイナがポンッと黒板をたたく。

トレードマークのキツネ耳がピンとたち、やる気十分の様子。

それとは対照的にロロノとアウラはソファーに座りながら、まったりとアヴァロンで買ったクッキーを食べている。

「ロロノちゃん、アウラちゃん、なんでそんなに緊張感がないの! 由々しき事態なの!」

クイナは珍しく頬を膨らませながら大きな声をあげる。

エルダー・ドワーフのロロノが小さなため息を吐いてから口を開いた。

「クイナ、なんでわざわざ【誓約の魔物】会議をはじめたの? 私はご褒美に何をもらうか相談したかっただけなのに」

【誓約の魔物】会議はよっぽどのことがない限り開かれない。

ロロノがクイナのところに相談に行ったら、クイナがいきなり【誓約の魔物】会議を開催するといい、アウラまで強引に連れてきたのだ。

今回のようなロロノが何をおねだりするべきかなんて話題で【誓約の魔物】全員を集めたりしない。

それぞれ、それなりに忙しいのだ。この三人の時間を使うのならそれなりに成果を出さないといけない。

「ロロノちゃんのご褒美は今回の議題に関係してくるの!」

クイナはどや顔をして胸をそらす。

アウラが手をあげる。

「アウラちゃん、発言を許可するの」

「クイナ議長、今回の議題を聞かせてください。内容によっては帰らせていただきます。昨日は遊べなかった分、今日はハイ・エルフの子たちと騒ぎたいんです」

「ん。私も戻りたい。ゴーレムの修理をしたい」

昨日と今日はすべての魔物たちに休暇が与えられている。

だが、アウラには留守にしていた分、念入りにリンゴの木々の世話をする必要があり、昨日は遊べなかった。

昨日のうちにきっちりと必要なことを終わらせていて、今日は朝に最低限の世話をし、昼から配下のハイ・エルフたちと遊びに行く約束をしていたのだ。

ロロノのほうは、昨日溜まっていた鍛冶屋としての仕事を終わらせ、今日は【獣】の魔王のダンジョンから回収できたゴーレムたちのパーツを使って壊されたゴーレムを修理する予定がある。

ようするに、アウラもロロノもすごく忙しいのだ。

「よくぞ聞いてくれたの! 今回の議題はこれなの!」

クイナが勢いよく黒板に文字を走らせる。

そこには限界まで大きく文字が書かれていた。

「おとーさんを盗られないようにするには? これが今日の議題なの!」

勢いよく告げたクイナとは対照的に、アウラとロロノの顔は冷めていた。

「クイナちゃん、私は帰りますね」

「じゃあ、クイナ。もし、いいご褒美が思い浮かんだら教えて」

二人は立ち上がり帰ろうとする。

「待ってほしいの、クイナの話をちゃんと聞いて」

二人の服の裾を掴んでクイナが踏ん張る。

「あの、クイナちゃん。別にご主人様は盗られたりしませんよ」

「同意、みんなをちゃんと愛してくれる」

クイナを諭すように二人は優しく話しかける。

「それは甘いの。昨日はクイナがおとーさんの日だったの……なのに、なのに、フェルちゃんにとられたの」

涙声でクイナが訴えた。

ちなみに、おとーさんの日と言うのは、プロケルと一緒に眠る日のことをさす。

ローテーションで、クイナ、ロロノ、アウラと日によってプロケルと一緒に眠る魔物は変わる。建前上はプロケルの護衛だ。

そして、その日はプロケルを慕う魔物たちにとっては、もっとも楽しみな日だ。たっぷりとプロケルに甘えることができる。

「おとーさん、フェルちゃんにご褒美あげる日だからって、クイナの番なのに、一緒に眠ってくれなかった。おとーさんの日がなくなっちゃった」

それはクイナにとって、かなり衝撃的な事件だった。キツネ耳がぺたんと倒れ、キツネ尻尾もしぼんでいる。

「クイナ、たまにはそんな日もある。あまり落ち込む必要はない。それに、マスターに私が話す。とばすんじゃなくて、一日ずらすようにしてもらう」

「ロロノちゃん、大好きなの」

クイナがロロノに抱き着く。

ロロノがよしよしとクイナの頭を撫でる。

だが、クイナはまだまだ不安があるようで、話を続ける。

「……でも、クイナは今回だけだとは思えないの。こんなこと初めて。ワイトが強くなっても、ルルちゃんが現れても、おとーさんの日がなくなるなんてなかった。フェルちゃんは特別なの」

「そうかもしれない」

「フェルちゃんだけでも大変なのに、【獣】の魔王マルコシアス様が来ちゃったの。あの人もおとーさんの特別なの」

その一言で、ようやくロロノとアウラも事態の深刻さに気付いた。

「これは検討の必要がある」

「ですね、少しまずいかもしれないです」

二人がソファーに座りなおす。

クイナも黒板の前に立つ。

「最悪の話をするの。これから、毎日おとーさんの日をマルコシアス様が独占する。あの人に夢中で、おとーさんはクイナたちのことを見てくれなくなる」

三人の【誓約の魔物】たちは顔を真っ青にする。

大好きで尊敬している【創造】の魔王が自分たちに関心をなくす。

それは悪夢以外の何物でもない。

「ここは、クイナたちが一致団結してなんとかする必要があるの!」

クイナが再び声を張り上げた。

アウラとロロノも頷く。全員で問題意識を共有したのだ。

「クイナちゃん、まずはご主人様に好かれるにはどうしたらいいかを考えましょう。ご主人様にとって絶対に必要な存在になれば、気にしてもらえると思います」

「その通りなの。おとーさんは働きに報いるって、よく言ってるの」

クイナはアウラのほうを見て口を開く。

「まず、アウラちゃんはすごいの。アウラちゃんがいるから人間は楽に農業ができるし、アウラちゃんのリンゴはすごいの! アヴァロンには絶対アウラちゃんが必要なの!」

「そう言われると照れますね」

人間の感情を食らうためにはまず人間を集めないといけない。

アヴァロンの畑で作物を育てれば、大きく育ち、栄養たっぷりで味が良くなる。さらに豊作が約束される。作物が病気になることもなく災害も起きない。そのことは人間の間で有名になり、次々に農民たちが移民してきている。

それらは、エンシェント・エルフとハイ・エルフの祝福の力だ。

さらに、彼女たちが直接育てているリンゴには下手なポーションよりも有益で、中でも【はじまりの木】と呼ばれる黄金のリンゴを実らせる木は別格。

エンシェント・エルフはアヴァロンにとって絶対に必要な存在だ。

「ロロノちゃんもすごいの! たくさんすごい武器を作ってるし、ロロノちゃんの武器目当てにたくさんの人間が来てるの! 街が住みやすいのもロロノちゃんのおかげなの!」

「ほめてくれてうれしい。それが私の役目」

ロロノもまんざらではない顔だ。

クイナの言う通りで、ロロノがいなければアヴァロンの戦闘力は三分の一以下になる。それぐらいロロノの作る武器やゴーレムに依存している。人間に向けの商品としてロロノが作る武器の評判は国中どころか他国にまで響き渡り、連日それ目当ての客が押し寄せる。

さらに、上下水道をはじめとした各種インフラはロロノが造り上げたものだ。アヴァロンは世界でもっとも衛生的な街として、住民たちの生活に貢献している。

ロロノなしのアヴァロンなんて考えられない。

「そして、クイナは……クイナはなんなの? なんにも一番じゃない。クイナは、おとーさんに必要なの?」

クイナの声がどんどん小さくなる。

自分の体を抱いて震える。

クイナは必死に一番を探すのに、何一つ思い浮かばない。最悪の結論が頭に浮かぶ。別に自分がいなくてもアヴァロンには何一つ問題ないのでは?

「クイナちゃんは必要です。アヴァロンで最強の魔物ですから!」

アウラが励ましの言葉を放つがクイナはよりいっそう顔を青くする。

「クイナが最強? それはいつの話? 見ればわかる。マルコシアス様に勝てない。届かない。ワイトにも勝てない。フェルちゃんとは互角、こんなのぜんぜん最強じゃない」

クイナは最近まで、【創造】の魔王プロケルの魔物で最強である自負があった。

ワイトに勝てないのはまだいい。戦略次第で勝てるし、ワイトには爆発力はあるが、不安定で扱いにくい。プロケルにとって一番は自分だった。

フェルという互角の存在が現れた。心がざわついた。でも、戦闘経験の差でぎりぎり上だから問題ないと考えた。

だが、【獣】の魔王マルコシアス。あれは別格。どうあがいても勝てない。性能でも経験でも違いすぎる。

今度はロロノが口を開く。

「クイナは、すべての魔物のリーダー。一番慕われている。焦る必要はない」

「それも違うの。ワイトのほうが上、そっちでも一番になれない。ワイトみたいに、うまくみんなを使うなんてクイナにはできない」

クイナが頭を抱える。

信頼されている自覚はある。他の魔物たちに言うとこは聞いてもらえる。

でも、それだけだ。ワイトのようにうまく使うなんて絶対に無理。

クイナは急に怖くなっていた。

もう、自分はどこでも一番になれない。だから、おとーさんの日を取られた。

自分は必要ない。嫌な想像がどんどん湧いてくる。

「……言われてみれば、もうクイナが一番なことはないかも。私もアウラもクイナの一番を見つけてあげれない」

ロロノは淡々と事実を告げる。

クイナの目に涙が溜まる。

「ロロノちゃん。言葉を選んでください」

「嘘を言ってもどうにもならない。でも、マスター……父さんは一番じゃないからって理由で魔物を嫌いになるような 魔王(ひと) じゃないことは、クイナも知っているはず」

「それはクイナも知ってる。でも、クイナより上な魔物がいたら、クイナより大事にしても変じゃない……」

クイナはわからないのだ。一番だから今までプロケルが優しくしてくれたのか、クイナだからプロケルが優しくしてくれたのかが。

クイナが知っているのは、一番じゃなくなった途端に、おとーさんの日を奪われた。その事実だけなのだ。

「わかった。クイナは一番じゃなくなってから不安なら、クイナを私が最強にする」

「無理、あの人は強すぎるの」

「その差は私が埋める。世界最高の鍛冶師の誇りにかけてクイナを最強にして見せる。大きくなったクイナのそのすべての力を活かしきる。そんな圧倒的な武器を作る。そうすれば、あの人を超えられる」

「ロロノちゃん、なんで」

「クイナは、私のお姉ちゃん。たまにうざいけど、いつも心配してくれたし優しくしてくれた……そのお礼。それに、クイナは私にとって世界で一番のお姉ちゃんだから、見捨てられない」

「ロロノちゃん!」

クイナが涙目になってロロノに抱き着いて泣く。

その涙はもう悲しい涙じゃなかった。

「私も、新しいポーションを作っているんです。黄金リンゴを使ったポーションで魔物の存在能力を引き出すもの。それを毎日飲めば少しずつ強くなるはずです。早く完成させてクイナちゃんに届けます。……私もお姉ちゃんのことは好きですし、負けてほしくないですから」

「アウラちゃんも大好きなの!」

クイナはアウラに抱き着いた。

なんだかんだ言って、クイナはほかの魔物たちに慕われている。それは、今までクイナが他の魔物に優しくして、世話をしてきた結果だ。

クイナは目をこすりながら座り込む。

今のクイナに司会は無理だとロロノは判断して、司会を引きついだ。

「今回の議題の結論は、クイナを強くして一番の座を取り戻す。そのために、【誓約の魔物】全員が全力を出す。クイナ、私とアウラはサポートするけど、強くなるのはクイナ自身の努力が重要」

「わかってるの」

「それとは別に、マスターに直接話をすることも必要かもしれない」

「同意見です。やっぱり、私はご主人様がクイナちゃんが言うように、一番強い魔物だから優しくしてくれたなんてことはないと思います」

クイナとロロノは頷く。

同時に、そう思っていても不安は消しきれない。

「ロロノちゃん、いいことを考えました。ご褒美、こういうのはどうですか? これならご主人様からたくさん話を聞けますし……なによりロロノちゃんも嬉しいですよね?」

そして、アウラは自分の考えを話し始めた。

それを聞いて、クイナとロロノの表情が明るくなる。

「アウラちゃん、いい考えなの」

「ん。私もそれがいい」

クイナとロロノはアウラを褒める。

そしてロロノがごほんっと咳払い。

「これで、【誓約の魔物】会議は終わり。これからも【誓約の魔物】として、マスターを支えていく……三人で」

パチパチパチと拍手が鳴り響き、【誓約の魔物】会議が終わる。

今回の会議でまた三人の友情が深まっていた。

~プロケル視点に戻る~

【覚醒】の訓練が終わり、ようやく家に戻ってきた。

マルコが俺に右腕にしがみついて離れないものだから、ここに来るまでに多くの住民たちにからかわれた。

でも、悪い気分じゃない。

家の前にロロノがいた。

「父さん」

ロロノが俺を見つけて駆け寄ってくる。

銀色の髪が翻る。

「ロロノ、ご褒美が決まったのか」

「ん。決まった。私の欲しいのは父さんの時間。お願い、一日だけずっと一緒にいて。私だけのために父さんの時間を使って。私だけの父さんでいて」

ロロノが俺の胸に手を置いて懇願する。

俺は苦笑する。

「もちろん、いいに決まってる。そうだな、アヴァロンにいるとみんなにつかまっちゃうし、外にいこう」

ロロノがぱーっと目を輝かす。

そんな彼女が可愛くて頭を撫でる。

「ありがとう! 父さん、楽しみにしてる」

そう言って、ロロノは走り去っていく。

可愛いい奴だ。これぐらいで喜んでくれるなら、喜んで協力する。

「うわあ、プロケル。顔がにやけてる。やっぱり君はロリコンだね」

「違う、娘が可愛いだけだ」

マルコがからかってきた。

それを受け流し、ロロノと外出する日の計画を立てる。

一日、完全にフリーにしてロロノへのご褒美にするには、次の食事会絶対にやらかすわけにはいかない。それどころじゃない状況に陥る危険もあるのだ。

気を引き締めていこう。

そう言えば、最近クイナたちにあまり構ってやれていない。

たまには父親として家族サービスも考える必要があるかもしれない。