軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話:魔王たちの食事会

ついにこの日が来た。

今日は食事会だ。ただの昼食会ではない。マルコを救出するために協力してくれた【竜】の魔王アスタロト。【刻】の魔王ダンタリアン、【風】の魔王ストラスを招いていた重要な魔王の会議でもある。

招待した魔王たちは全員参加してくれるようだ。

そして、ともに戦ってくれた天狼のフェルシアス。ラーゼグリフのローゼリッテとの別れの日でもある。

二人ともいい子で別れるのが名残ほしい。

今は、わけあって屋敷の外にいた。

「ご主人様はフェルが帰っちゃったら寂しいです?」

天狼のフェルが俺の服の袖をひぱって上目遣いになって訪ねてくる。

寂しいかどうかと聞かれたら答えは決まっている。

しゃがんでフェルと目線を合わせる。

「寂しいよ。俺はフェルのことを好きだからね。やっぱりいなくなると寂しいよ」

彼女は有能だ。それだけでなくクイナたちともずいぶん仲良くなってくれたし、俺にも懐いてくれている。

「ご主人様はフェルが好き。嬉しい。でも、好きならどうしてご主人様はフェルを……なんでもないです」

何かを言いかけて彼女はやめた。

たぶん、引き留めてほしいのだろう。

だが、それはしない。フェルがいなくなって寂しいのは【刻】の魔王も同じだ。もし、クイナたちをよその魔王に貸し出し。そして、その魔王が返さないと言い出したら、俺はそいつを殺す自信がある。

……ただ、今回はフェルに対して、もし俺がクイナたちにやられたら間違いなく殺すようなことをしでかした。誠意をもって謝ろうと思う。

「フェル、そうしたいと思ったけどね。フェルには幸せになってほしいからやめたんだ」

引き留めてもらえず、悲しそうにしているフェルの頭を撫ぜる。

「フェルもご主人様のことは大好きです!」

目を輝かせてフェルは微笑む。

うん、素直でいい。

「あら、私には何かないのですか?」

天使型の魔物ラーゼグリフのローゼリッテがからかうような口調で問いかけてきた。

「おまえにも感謝しているよ。今回の戦いをよく支えてくれた」

裏方に徹し、俺たちを支えてくれた。

彼女の力がなければ戦いはより厳しくなっていただろう。

「言葉だけじゃ足りませんね。ご褒美をください。【刻】の魔王の魔物にはいろいろとしたのに、私は特別なご褒美をもらってませんよ?」

「何でも言ってくれ。俺にできることならね」

ローゼリッテが”いろいろ”を強調していたのはきっと気のせいだ。

たしかにその通りだ。街で遊ぶための金など、他の魔物たちと同じ褒賞を与えてはいるが、それ以上のことはしていない。

わざわざ、【風】の魔王のもとから来てくれたんだ。

なにかしらの褒美は必要だ。

ローゼリッテの近づいてきて耳元でささやく。

「ストラス様にキスをしてあげてください。それでいいです」

となりにいた、フェルが首をかしげている。

彼女には聞こえていないようだ。

「そんなことをしたら、あいつ怒るぞ」

「怒るでしょうね」

「おい」

わざと主人を怒らせて楽しいのか?

「でも、照れ隠しです。すごく喜びながら怒ります。あの子はそういう子です。というわけで、お願いしました。まさか、【創造】の魔王ともあろう方が約束を違えることはないですよね」

「俺はできることはと言ったぞ」

「あらあら、あなた相手ならあの子はいつも無防備ですわよ。できないとは言わせません。それでは私は留守にします。みんなにお土産を買って帰らないと。この街にはたくさん素晴らしいものがあって目移りしますわ」

ローゼリッテが翼を翻えして去っていく。去り際に約束ですわよ。と念を押すことを忘れない。

頭が痛くなってきた。ローゼリッテはストラスのことを妹のように思っているのだろう。にしても過保護すぎる。

「ご主人様、困ってるですか?」

「少しだけね」

「フェルがなんとかしてやるです!」

フェルが鼻息を荒くしている。俺は苦笑してぽんぽんとフェルの頭を撫でる。

「大丈夫、俺がなんとかするから。それより、フェルにも自分の準備があるだろう。精一杯可愛くしてもらうといい」

「わかったです! 可愛くなったフェルを楽しみにしているです!」

フェルが俺の屋敷に消えていく。

今、俺の【誓約の魔物】たちとマルコは精一杯のお洒落をしていた。この街で一番のデザイナーにドレスを用意してもらい、さらに着付けと化粧まで任せてある。

クルトルード商会のコナンナはそんなところにまで手と気が回る。

せっかくなので、フェルとローゼリッテの分もお願いしている。ローゼリッテはとっくに着替えを終わらせているが、フェルのほうは退屈で抜け出してきていた。

滅多にクイナたちはお洒落なんてしないから、艶姿を見るのは父親としては楽しみである。

「来たか」

空を見上げると、遠くに巨大な竜が見えた。

あんなものに乗ってくるのは一人しかいない。

さて、出迎えようか。

俺はそう考えて、門のほうに向かった。

街の門に向かう。

それとほぼ同時に、門の前に神気を纏った巨大な竜が着陸した。

白い体を黄金の神気で纏った竜。

西洋の正統派ドラゴン。竜としてはオーソドックスな外見だが、うちに秘めた力は圧倒的で畏怖すら覚える。

最強の竜。おそらくは【竜】の魔王の切り札。

そんなものを足代わりにするとは驚きだ。

「【創造】の魔王よ、来てやったぞ。ほう、一皮剥けておるな。わしが見込んだとおりの男だったようだ」

かかかと、笑い声が聞こえた。

見上げると、竜に乗った【竜】の魔王アスタロトが見下ろしていた。

彼は逞しい肉体をもった老人の外見をしている。だが、老いを一切感じさせない。俺には到底出せないような貫禄と燃え盛る野心を併せ持っていた。

体が勝手に膝をつこうとする。それをこらえるのに必死だ。

「よく、お越しくださりました。歓迎の準備をしておりますのでこちらに」

「うむ。……いや、待て。もう一人来ておる。二度手間はお主も面倒であろう。しばし待て」

アスタロトが振り向く。それに釣られてそっちを見ると空間が歪みんだ。合われたのは二人と一体。

一人目は、美しく気品がある貴族の青年。【刻】の魔王ダンタリアン。前に見た時よりもいい服を着ている。

二人目は魔物だ。炎のたてがみを持つ麒麟。【刻】の魔王が誇る最強の戦闘集団【 時空騎士団(クロノスナイツ) 】の切り込み隊長。かつて俺を試すためのゲームでアウラを圧倒した悪夢のような存在。最後の最後にアウラは逆転勝利したが、その戦いでこの魔物は【刻】の力を一切使わずに戦っていた。今のクイナたちですら勝てるかは五分といったところだ。

三人目は、腰がまがった人のよさそうな老人だ。初めて見る魔物。だが、俺にはわかる。この老人の正体はとんでもなく強力な魔物。炎還麒麟のテフレールに匹敵するような魔物だ。おそらく、【刻】の魔王の【誓約の魔物】の一体だろう。

「ほう、いつも時間に正確なダンが約束の時間よりまえに来るとはめずらしいのう。なにか心配事でもあったか」

【竜】の魔王は親しみを込めて、【刻】の魔王ダンタリアンのことをダンと呼んだ。

「その名で呼ぶな。僕たちは決別した」

「それはダンがそう思っているだけじゃな。わしはそうは思うとらん。にしても、負けず嫌いは相変わらずだ。わざわざわしに対抗してそんな連中をただの食事会に引っ張りだしてくるとはな」

「アスト……貴様の勘違いだ。僕が連れてきたわけじゃない。こいつらがついてきただけだ」

【刻】の魔王は、右手で目元を多い嘆息する。

すると、炎の麒麟と老人はそれぞれに口を開く。

「よくも姫さんをかっさらいやがったな。もし、姫さんにひでえことしてやがったら承知しねえぞ」

「フェル、わしの孫はわしのことをなにか言っておらんかったか? おじいちゃんに会いたいとか、おじいちゃんと一緒に寝たいとか、おじいちゃんのお菓子が食べたいとか」

なんだ、こいつらは?

まさか、フェルに早く会うためだけに今日の食事会についてきたのか。

「【刻】の魔王ダンタリアン様。心中をお察しします」

「ありがとう。でも、いつもわがままを聞くわけじゃないんだ。僕もフェルのことは心配だったからね。彼らの気持ちを無視できなかった。フェルに何かあったら……殺すぞ」

魂を凍らせるような冷たい視線。

駄目だ、言えない。嫁に行けなくなる一歩手前まで行ったなんて。

「とにかく、中へ」

「うむ、そうじゃのう。話が長くなりそうだ。立ち話はきついのう」

【竜】の魔王は、乗って来た魔物を【収納】する。

そうすると、一人の少女が姿を見せた、きっと竜の巨体に隠れていたのだろう。

「ストラス。来てくれてうれしいよ」

「別に、あなたのために来たわけじゃないわ。ローゼリッテが手紙でいい街だって自慢してたから気になってきただけよ」

ストラスは相変わらずだ。

おそらく、俺の周りで唯一正しいツンデレを体得している存在。

見ていて微笑ましい。

今日は一段とお洒落を頑張っていた。黒く仕立てのいいドレスに素材を生かすために最低限にした化粧。初めてみる首飾りがあった。

「それでもありがとう。ストラスに会いたかったから」

「……っ。エスコートしなさい。あなたがホストでしょう」

ストラスが手を差し伸べてくる。

いいことを考えた。この場でローゼリッテに頼まれたご褒美。ストラスへのキスを果たそう。

「喜んで、お姫様。誠心誠意エスコートさせていただきます」

俺はストラスの前で膝をついて、手の甲にキスをする。

ストラスが耳の先まで真っ赤にした。

「そっ、その、よろしくお願いします」

なぜか敬語になって、目を逸らしながらストラスは頷いた。

やっぱり、ストラスといると楽しい。ずっといい友人でいたいものだ。

「【創造】の魔王よ。それ、わしにはしてくれんのか?」

【竜】の魔王が淡々と問いかけてくる。

「……してほしいですか?」

「冗談じゃ」

がははと【竜】の魔王が笑った。

未だにこの人のことが良くわからない。

今日の食事会のためにレストランを一つ貸し切りにしている。

商人や、超一流の冒険者をターゲットに絞ったレストランで品がいい。

魔王同士の話をするのだ。人間は立ち入らないほうがいい。

いつもは一流のピアニストが場の空気を読んだり、リクエストで演奏するのだが、その代わりに異界の歌姫ルルイエ・ディーヴァがいた。

彼女は音に関するすべての技能が超一流らしい。彼女の弾き語りは場を盛り上げてくれるだろう。

さっそく、ピアノを奏でる。海を連想させる心をお落ち着かせる旋律。この音があがるだけで場の格が二つはあがる。

「ほう、感じがいい店じゃのう」

「僕たちを招くにあたり、最低限のものは用意してくれたようだね」

【竜】の魔王と【刻】の魔王も満足してくれていた。

ストラスは、さきほどからずっと俺の手を握り続けている。案内が終わっても離そうとしない。振りほどくこともできずに少し困っている。

たぶん、彼女なら俺が案内したなら場末の定食屋でも喜んでくれそうだ。

「プロケル、彼女たちはまだ来ないのか?」

若干の苛立ちを感じさせる声で【刻】の魔王が問いかけてくる。

普段は常に余裕がある振る舞いをする【刻】の魔王にしては珍しい。

「そろそろ来ますよ。少し、準備に時間がかかっているみたいですね」

「そうか……、それとプロケル。僕相手に敬語はやめろ。僕は君を対等の男と認めたから手を貸した。今更敬語を使われると馬鹿にされているようで勘に触る」

「わかりま……わかった。ダン。そうさせてもらう」

ダンと言われた瞬間、【刻】の魔王ダンタリアンはごふっとせき込み、それから彼に似つかわしくない大きな笑い声をあげた。

彼の魔物の二体まで驚愕の表情で彼を見る。

「ふはは、まったく。やっぱり、君のことは好きになれそうにない。だが、悪い気はしない」

「なんじゃ、お主らいつの間にそんなに仲良くなった。わしも、敬語をやめてもらうか。だが、 義父(ちち) としての威厳も必要じゃからのう」

「アスタロト様、何をおっしゃられているのですか!?」

ストラスが顔を赤くして突っ込む。ようやく手を放してくれた。

そろそろか。

もうすぐ、本来の約束の時間だ。

そんなことを考えていたら。扉が開かれた。

現れたのは六人の美少女たち。

クイナをはじめとした【誓約の魔物】の三人。

【風】の魔王から借り受けたラーゼグリフのローゼリッテ。

そして、【刻】の魔王の娘、天狼のフェルシアス。

最後に、俺の魔物として【新生】した獣の魔王マルコシアス。

それぞれの魅力を最高に引き出すドレスと化粧、アクセサリーを身に着けている。

【刻】の魔王が、目を見開く。

そして、呆けたような表情で口を開いた。

「最高に綺麗だ」

役者は揃った。食事会の始まりだ。