軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話:【創造】の魔王のご褒美

俺の寝室に天狼のフェルがやってきていた。

もじもじして恥ずかしそうにしている。

彼女への対応はもう決めてある。

「フェル、ここに座って」

「はっ、はいなのです」

ベッドに座り、隣に座るように促す。

フェルは顔を赤くしてひざの上に手を乗せてうつむいている。

よほど緊張しているのだろう。

肩をたたくとぴくりと体を震わせる。

「ご主人様、今日はたくさん可愛がってほしいです。前みたいに乱暴にしてもいいのです」

フェルが潤んだ瞳で俺を見上げてくる。

いったい意識を失っていたときの俺はどんな対応をしたのだろう。冷汗が流れる。人づてにはちゃんと尻尾をもてあそんだと聞いているが、それ以上のことをしていてもおかしくない反応だ。

まあいい、今の俺なりのやり方で彼女を喜ばせてやろう。

「ああ、たっぷり可愛がってやる」

フェルの小さな体を押し倒す。

彼女の体がベッドに沈み込んだ。彼女をうつぶせにして白い狼尻尾をもちあげる。

薄い寝間着なので体のラインがよくわかる。まだ、十三歳程度なのに妙に色っぽい。

「ひゃう」

敏感な尻尾を触られてフェルが変な声をあげる。

そして、その表面を焦らすように撫でてやる。

「じゃあ、いくよ」

粘りのある液体をたっぷりと手に絡ませ、彼女の尻尾に手を伸ばす。

フェルのために用意した特別なものだ。

「ひゃっ、冷たいです。それにねっとりして」

「たっぷりとつけてあげるからね」

フェルの尻尾の根元まで粘液を染み込ませる。

「変です、これ変です。尻尾、熱くなってくるです」

「変じゃないよ。これがフェルを気持ちよくしてくれる」

ちなみに俺が今塗りこんでいるのは最高級のシャンプーだ。

香りがいいし薬効があってほんのり体が暖まる。

清潔さを保つだけではなく、健康にもいいらしい。

とあるキツネ獣人がたくさんいる村での大ヒット商品らしい。その村の特産品で獣人に対する最高のお土産になるということで商人たちが仕入れている。クイナのお気に入りなのでいくつかストックがあった。

しっかりとシャンプーを尻尾に絡ませたあとは泡立てる。

シャンプーするときのこつは毛の根元をしっかりと洗うこと。

「やっ、そこ、弱いです、だめ、ひゃっ」

さきほどから熱い吐息をフェルが漏れている。指先がフェルの気持ちいいところを覚えていて勝手に強く刺激する。

【覚醒】したときのことを頭で忘れていても体が覚えているのだ。

的確に弱いところを攻められ続けたフェルはどんどん色っぽくなっていく。尻尾が熱くなっているのが手に伝わってくる。

駄目だ、こっちまで変な気分になってしまいそうだ。

おかしい、俺はロリコンじゃない。これはただのシャンプーだ。

落ち着こう。

「洗うのはこれで十分かな。水で流すよ」

「はい、なのです」

ベッドの上で水の魔術を使って尻尾を洗う。水の魔術は便利だ。水の玉を浮かせることができる。魔術を駆使すればベッドを濡らさずに尻尾を洗うことが可能だ。

荒い終われば火の魔術で乾かす。

エンシェント・エルフは圧倒的な風の力を持っているが、四大属性の魔術をすべて使えるという強みがある。

彼女を【誓約の魔物】にした俺も一応全属性使える。

「フェルの尻尾、綺麗になったよ」

「ふぁっ、ふぁい」

「でも、まだまだこれからだ」

俺は微笑んで、ブラシを取り出す。

シャンプーして乾かすだけでもきれいになるが、ブラッシングをしなければ片手落ちもいいところだろう。

「それはなんです」

「フェルを気持ちよくするための道具さ」

「これ以上、気持ちよくなるです?」

「もちろん」

期待半分、怖さ半分でフェルが問いかけてくるので頷く。

そして、まずはさっと指で尻尾の毛を梳いてみる。若干のひっかりを感じた。

ブラッシングのし甲斐がある尻尾だ。気合が入る。

そして、ブラシを押し当てた。

フェルの体が震えた。

ブラッシングには自信がある。クイナにねだられて繰り返すうちに上達したのだ。

ブラッシングには、毛艶を良くし、健康的な被毛の促進、絡んだゴミの除去のほかに、マッサージ効果や血行促進効果がある。

一流の術者によるブラッシングは快楽だ。その快楽を知った大型犬はブラシをちらつかせるだけで尻尾を振って全力で駆けよってくるほどだ。

俺の腕前はその領域に達している。

手際よくブラッシングを開始する。

「ご主人様、ぽかぽかするです」

さきほどまでの弱点を強引に刺激するやり方ではなく。

あくまで優しく、彼女の尻尾を愛でてやる。

フェルはリラックスして、全身の力が抜けてふにゃっとなっていた。

すべてを俺にゆだねている。

「どう、気持ちいいかな」

「気持ちよすぎて、溶けちゃいそうです」

「それは良かった。もうすぐ終わるからね」

尻尾の隅々までブラシが入った。

最後に指でさっと梳く。一切の抵抗がなく指が抜けていく。

「終わったよ。フェル、鏡を見てくれ」

部屋の隅にある姿見を指さす。

「うわああ、尻尾がつやつやできれい。すごい! お姫様の尻尾です」

シャンプーとブラッシングで艶が出て毛先が整った尻尾を見て、フェルが感嘆の声をあげる。

見てほしいといいながら、尻を突き付けて尻尾をピンとする。

「これがご褒美だ。喜んでくれたか?」

「ありがとうなのです! 尻尾が喜んでいるのです!」

白い尻尾をフェルは嬉しそうに何度も振った。

ふう、これで満足してもらえてよかった。

「でも、ご主人様。ちょっと想像してたのは違ったです。もし、次のご褒美があるなら、そのときは黒いご主人様にめちゃくちゃにしてほしいです」

「……それは、そのとき考えよう」

俺は引きつった顔であいまいに答えてフェルの頭を撫でた。

まあ、その心配はないだろう。

【刻】の魔王が食事会に来るにしても、食事会を断って個別に挨拶に俺が向かうにしても、そのときにフェルは返す。

もう、フェルにご褒美を与える機会なんてないのだから。

「約束です!」

「ああ、約束だ」

フェルが頷く。そのあと胸の前で指先を合わせてもじもじし始める。

何かを言いかけて躊躇している。

「フェル、なにか言いたいことがあるのかな」

「その、わがままを一つ言わせてくださいです。……できれば今日も黒くてカッケーご主人様になってほしいです。何もしなくていいです。黒いご主人様に会いたいです」

【覚醒】か。

どっちみち、新たに得た魔王の力を確かめる必要があった。

フェルが黒い俺に会いたいというのであれば、今この場で【覚醒】するのは無駄にはならない。

問題は、俺が変なことをしでかさないかだ。一度目の覚醒ではきちんと理性を保っていた。今の落ち着いた精神状態であれば問題ないだろう。

フェルが期待を込めた目で俺をみている。

しょうがない、彼女への餞別代りにわがままを聞こう。

俺は少女のお願いに弱い。

「わかった。少しだけだ。黒い姿になるだけだからな。なにもしないぞ」

「わかったのです!」

目をキラキラに輝かせてフェルが俺を見上げている。

もうすぐお別れだ。選別に彼女の願いを叶えてやろう。俺は【覚醒】する。

灼熱の塊が背中から溢れ四対の翼を形作る。角が生え頭がどこまでも冴えわたり全能感が満ちる。心が世界が黒く染まる。

意識が遠くなり俺が眠り……黒い俺が目を覚ました。

フェルがきゃーっと叫んで飛びついて来る。

「黒いご主人様です! その冷たい目、ぐっとくるです!」

フェルに抱き着かれた俺は苛立ちを感じる。なれなれしい。あれだけ教育してやったのに自分の立場がわかっていないと見える。教育でだめならお仕置きが必要だ。

犬にふさわしいしつけをしてやろう。俺は彼女に手を伸ばし……

目が覚める。

隣でフェルがぐっすり眠っていた。俺の腕に抱き着いて幸せそうに眠っている。

昨日の記憶があいまいだ。

俺とフェルは二人とも服を着ている。それを見て一安心した。

ゆっくりと記憶を探る。

まず、吸収した二人の魔王の能力が何かを突き止めるという目的が達成できたかを確認する。大丈夫、ちゃんと覚えている。これは強力な武器だ。俺が運用すればアヴァロンの戦力は二回りは強大になる。単体ではさほど強力な力ではないが、組み合わせることで”化ける”のだ。

絶対に無視できない。リスクを負ってでも【覚醒】を完璧に制御する必要があるだろう。

そして、フェル相手に何かやらかしていないかの検証も必要だ。

大丈夫だ。ちゃんと記憶はある。俺はちゃんと理性を保っていた。少しフェルと話をして眠った。”それ以外の記憶がない”ので変なことはしていないだろう。

「フェル、気持ちよさそうだな」

フェルの可愛い寝顔を見ていると手放すのが惜しくなる。

「お父様、フェル、がんばるです」

そんなことを考えた瞬間、フェルの寝言が聞こえた。

その言葉で正気に戻る。彼女は俺といるより【刻】の魔王のところに戻ったほうがいいのだ。

フェルが目をこすり置き始めた。

「むにゃ、おはようです。ご主人様」

寝起きが弱いのが、だらしない顔をしている。こんなフェルも可愛い。

三分ほどたって、ふにゃふにゃしたフェルがいつものフェルに戻る。……いや、いつものフェルじゃない。何か様子が変だ。顔を赤くして両手をほほに当て首を左右に振る。

「ご主人様、昨日はたくさんたくさんフェルを可愛がってくれてありがとうです!!」

「喜んでもらえてうれしいよ」

「やっぱり、ちょいわる魔王様はかっけーです!」

フェルがぶんぶんと尻尾をふる。

昨日のシャンプーとブラッシングを喜んでくれたのだ。そうに決まっている。

窓から青い鳥が入ってくる。

足には手紙が巻き付いていた。

きっと、俺が送った手紙の返事だろう。

「フェル、【刻】の魔王から食事会に参加すると返事があった」

「お父様が来てくれるのですか!」

フェルが嬉しそうに声を弾ませた。

やっぱり、【刻】の魔王のことが好きなのだろう。

俺は微笑み彼女の頭を撫でる。

手紙はマルコからのものもあった。マルコも食事会に参加できるとの返事があり、ほかにもとてもいい話があった。ロロノも喜ぶだろう。

さて、フェルへのご褒美は終わった。次はもう一人へのご褒美だ。ロロノはちゃんとご褒美を決めたのだろうか? よし、マルコからの朗報を伝えがてら確かめてみよう。

フェルと別れてロロノの工房に向かう。

ロロノの工房には留守にした間の仕事がかなり溜まっているだろうし、今回の戦いで壊れたゴーレムと銃器の修理、さらには銃弾の補充という仕事がある。

通常の弾薬であれば俺の【創造】で補充できる。だがミスリルバレットやオリハルコンバレットといった特殊な弾丸はロロノが作る必要がある。

彼女は生真面目だ。後回しにしていいと言っても最低限の補充が終わるまで休もうとしないだろう。

ただ、それで一人だけ休日がないのはかわいそうだ。後日個別に休みを与えよう。休めと言って休まないなら俺と一緒に旅行に行くように命令するのもいいだろう。

もしロロノがご褒美を自分で決めなかったら適当なグルメ旅行に連れていこう。あの子は食いしん坊だから喜んでくれるはず。

そんなことを考えながら工房に入る。

「ロロノ様、頭を撫でてほしいなんて控えめすぎるよ! もっと大胆に! 女は度胸!」

「そうそう、この子を見習いなよ。もうおなかに赤ちゃんまでいるんだって」

「あのワイト様を落としちゃうなんてね」

「そうだ、プロケル様へのご褒美、いい案があるわ。プロケル様の赤ちゃんが欲しい。これで一発だって」

「「「それだ」」」

ロロノが配下のドワーフ・スミスたちに囲まれておもちゃにされていた。

白い肌を真っ赤にして、ロロノがうつむいていた。

きっと俺へのご褒美について相談した結果だろう。

……ただ、赤ちゃんはないだろう。娘に何をさせるつもりだ。

「ロロノ、いるか」

あえて大きい声をだす。ロロノとドワーフ・スミスたちがこちらを一斉に見る。

そして、慌ててドワーフ・スミスたちが慌てて持ち場に戻りロロノが取り残される。今の話は聞かなかったことにしよう。

「マスター。今日はどんなよう?」

「ご褒美が決まったかと思って聞きにきたんだ」

ドワーフ・スミスたちが聞き耳を立てている。

ロロノは顔が赤いままだ。そして、震えた声でつぶやく。

「父さんの、赤ちゃんがほしい」

それを言うのか!?

自分の表情が凍り付くのを感じた。ドワーフ・スミスたちがきゃーっと歓声をあげる。

ロロノが上目遣いに、『駄目?』と小さくつぶやく。

「無理だ」

「私のことが嫌いだから?」

不安そうにロロノは俺を見つめる。

「魔王は子供が作れないんだ。俺にできることならなんでもするって言ったけど、それはどうにもならない」

「ん。わかった。残念」

「それとね。俺は娘にそんなことはできない。それは、好きとか嫌いじゃなくてロロノが娘だからだ」

ちなみに魔王が子供を作れないというのは本当だ。魔物同士では相性次第で子供が作れるが、魔王は魔王同士でも魔物相手でも子を為せない。生殖機能はあるがなぜかできない。

……【邪】の【交配】という能力を吸収していて例外的に可能だがそれは黙秘する。素直に話す必要もない。

「わかった。ほかのを考える。今日の日が変わるまでにはかならず」

ロロノが少し寂しそうにそう言った。

「そうしてくれ。それと、もう一つ案件がある。いいニュースがある。マルコがダンジョン内で壊されたゴーレムの体を全部集めて回収してくれたそうだ。ついさっき、暗黒竜グラフロスと妖狐たちにとりに行かせた」

魔物の体は死後一定時間たつと青い粒子になって消えるが、あくまで魔法生物であるゴーレムの体は消えない。原型が残る程度の破損であればあとから回収できる。

「それって」

「うん、全部とは言わないけどゴーレムたちを直せるだけの材料が手に入る」

「やった、あの子たちを早く治してあげられる!」

感極まった声でロロノは俺に抱き着いて喜びの声をあげる。

それを見て苦笑する。

本当にこの子はゴーレムたちのことが好きなんだ。

暗黒竜グラフロスたちが帰ってきたら、すぐにでも届けさせよう。

ただ、父親としてはもっと自分のことを考えてほしい。今回のご褒美を自分で考えさせるというのはロロノに自分が何を望んでいるかを意識してもらうためでもあった。

しばらく、みんなと雑談して部屋をでる。

俺はこれから仕事だ。

せっかく、名だたる魔王たちを呼ぶんだ。このアヴァロンでできる最大のもてなしをする。そのための準備が必要だった。