軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話:戦いが終わったあとで

我が家に戻った俺は書類仕事を片付けていた。

一日しか留守にしていないのにそれなりに嘆願書や契約書の類が届けられている。適当にそれらをこなしていく。

そして、それらをこなしながらフェルのことを考えていた。

フェルの尻尾を蹂躙して唇を奪った俺は、もっとすごいことをすると約束したらしい。

それ以上のことを普通に考えると一つしかない。

とはいえ、それは 魔王(ひと) としてどうなのかという問題が頭によぎる。

一番楽なのは、【覚醒】して成り行きに任せること。

ぶっちゃけた話をすれば、俺はそういう経験が一切ない。【覚醒】した俺はフェルをいいように弄んだらしいが、当然そんなことを今の俺にはできない。

「ないよな。やっぱり」

頭に浮かんだ考えを追い出す。

よし、クイナが喜んでくれているあれをしよう、あの子はクイナの妹だ。クイナが大好きなあれならきっと喜んでくれるだろう。

不在時にたまった書類を片付けたあと、俺は【刻】の魔王ダンタリアンと【竜】の魔王アスタロト、そして【風】の魔王ストラス宛の手紙を書いていた。

内容は今回の経緯について。一応、マルコを【新生】させたことも書いているが、俺のプロポーズ部分は伏せている。

実際のところ【刻】の魔王も【竜】の魔王も俺が手紙を書くまでもなくこちらの状況ぐらいは把握しているだろう。

それでも、助けてもらったのだからきっちりと報告する義務があるのだ。

すべてを書き終えた俺は、最後に三日後に食事会を開催するので是非参加を、それが難しいのであればそちらに説明と礼に伺うので都合のいい日を教えてくれと付け加える。

食事会を提案したのは、一度全員で会う必要があると感じたからだ。

【刻】の魔王あての手紙にはフェルが元気でいることを、【風】の魔王あての手紙にはローゼリッテの力が役に立ったと書き添えた。

書き終えた手紙をストラスから預かった青い鳥に持たせる。

ローゼリッテとフェルとはもうすぐお別れだ。

そのことが少し寂しい。

とくにフェルはクイナたちと随分仲良くなった。クイナたちも悲しむだろう。

とはいえ、フェルがいなくなって寂しいのは【刻】の魔王も同じだろう。笑顔で送り返してあげよう。

俺は青い鳥を空に放った。手紙の返事を待ってこれからのことを決めないといけない。

青い鳥と行き違いになって、【竜】の魔王からの手紙が届いた。

そこには、【獣】の魔王を襲撃した魔王たちのことが書かれている。

黒幕だった【黒】の魔王は【竜】の魔王の襲撃を受けてダンジョンの奥に引きこもって守りを固め、そのうえで宗教を利用して人間を扇動して【竜】の魔王のダンジョンを襲う準備をしているらしい。

【竜】の魔王は、人間ごときに遅れをとるつもりはないから心配するなと書いてあった。もし、彼が助けを求めることがあれば駆けつけよう。

そして、残りの六人の魔王のうち一人はアヴァロンの襲撃の指揮をとっていたが【刻】の魔王に討たれ、二人はMOABの爆発に巻き込まれて死んだ。

死亡した三人の魔王のダンジョンはトップがいなくなりろくな抵抗もできずに水晶を【竜】の魔王の派閥に砕かれてしまったらしい。

残り三人はなんとか自分のダンジョンに戻りダンジョンの死守に成功したそうだ。その三人は状況が悪くなるとすぐにマルコのダンジョンの襲撃から手を引きすべての戦力を守りに徹したことが功を奏したようだ。

黒幕は今だ健在。実行者の半数が生きているのはあまりよくない。

そいつらはアヴァロンを攻撃できる。

どこかでこちらから仕掛けて潰すことも考慮しないといけない。

マルコの魔物たちも今は俺の支配下にある。さほど難しいことではないはずだ。

そして倒した二人の魔王に思いを馳せる。

【覚醒】状態では、喰らった魔王の力が行使できる。

たとえば、俺は前回【邪】の雌の魔物を孕ませて新たな魔物を生み出すという能力が使えることに気付いた。こんな能力を一生使うつもりはないが、今回倒した二体の魔王。その能力が戦力になるかはどこかでテストしたい。

ただ、【覚醒】をして自我を失うのが怖い。クイナたちに監視してもらって特訓が必要だろう。

「さて、今日はこれぐらいにしておこうか」

肩を回す。

いろいろと疲れてきた。

魔物たちもそうだが、俺自身今回の戦いでかなり疲れが溜まっている。

少し息抜きに街に出よう。

アヴァロンの商店では、いつも以上に俺の魔物たちが買い物を楽しんでいた。

報奨金を得て財布のひもが緩んでいるのだろう。

実は俺の魔物たちは給料を渡していて普段から経済活動に貢献していたりする。

その財源は【鉱山】からとれてろくに使っていない銀から作った銀貨だ。今回の報奨金もそこから回している。

「あっ、おとーさんなの!」

「ご主人様、こっちなのです」

クイナとフェルが手を振って俺を招いてくる。それぞれにキツネ尻尾と狼尻尾をぶんぶんと振っている。こうしてみると本当の姉妹にしか見えない。

彼女たちは串焼きの肉を頬張っていた。あれはクイナの大好物だ。

たしか、羊肉をヨーグルトに付け込んで柔らかくして臭みを抜いたものをスパイスに付け込んで焼いたものだ。値段も手ごろで美味しくボリュームたっぷりで俺も好きだ。

「おとーさん、あーん」

クイナが串を俺の口元に突き付けてくる。

俺は苦笑しつつも口を開くと、串が突き付けられた――二本。

「フェルのも食べるです」

もともと大きめにカットされた肉なので口の中がいっぱいになり噛みにくい。

とはいえ、吐き出すわけにもいかずに根性でなんとか咀嚼する。

「あっ、ありがとう。美味しいよ」

クイナとフェルの頭を撫でてやる。キツネ耳と狼耳の感触が心地よい。

「やー♪」

「感謝しやがれです」

二人とも言葉は違うが喜んでくれている。

「二人は食べ歩き中かな」

「そうなの! ほんとうはロロノちゃんとアウラちゃんも一緒が良かったけど、二人とも先にやることがあるって鍛冶場と果樹園に行っちゃったの」

どこか寂しそうにクイナは呟く。

ロロノとアウラも自分が留守にしている間のことを気にしているのだろう。

「そっか、じゃあ俺が一緒に回ろうか。ちょうどお腹も減ってるし」

「やー♪ おとーさんと一緒なの」

クイナが左手に抱き着き、それを見たフェルが右手に抱き着く。

両手に美少女の状態だ。

そんな俺たちを見て、アヴァロンの住人たちがぼそぼとつぶやいていた。

ロリコン大魔王。

そんな言葉が聞こえたのはきっときのせいだ。

俺の正体が魔王であることが人間に気付かれるはずがないし、ロリコンじゃない。

三人でぶらついていると、屋外に机と椅子を広げて開催するタイプの酒場の近くに来た。

そこでは、ルルイエ・ディーヴァとオーシャン・シンガーたちが酒盛りをしていた。

大胆にも樽で酒を注文して、かたっぱしから料理を注文して大騒ぎをしている。

派手好きの彼女たちらしい。

笑い声が響いてくる。

「あっ、パトロン。こっち来なよ! クイナとフェルもおいで。美味しい料理たくさん頼んでるからさ!」

こっちに気付いたルルイエ・ディーヴァが元気な声で呼びかけてくる。

クイナとフェルの顔を見ると、美味しそうな食べ物に目がひかれて涎が出ている。

これなら、誘いに乗ってもいいだろう。

「じゃあ、お言葉に甘えよう」

「美味しそうなの」

「しゃーねえです。言ってやるです」

クイナとフェルはそれぞれの尻尾を揺らしながらテーブルに突貫する。

オーシャン・シンガーたちはお姉さん属性がある。可愛らしい二人をたっぷり甘やかしてご飯を食べさせていた。ご馳走を食べるクイナたちも、二人を愛でるオーシャン・シンガーたちも可愛らしい二人を愛でてご満悦だ。

クイナのほうは成長していて若干絵面がおかしいが、彼女たちにとってはまだクイナは小さなクイナなのだろう。

「パトロン、ほら飲んで飲んで」

そして、俺は少し離れた席でルルイエ・ディーヴァと向かい合っている。

「ありがとういただくよ」

この店ではブドウから作ったワインを扱っていた。

以前は非常に高価で手に入らなかったが、ヒポグリフの空輸が始まってから安く仕入れられるようになったものだ。

店主の目利きがいいのか、若いワインだが非常に味わい深い。いい酒だ。

「今回は本当に死ぬかと思ったよ。パトロン、無理させすぎ」

「悪かったな。ルルイエ・ディーヴァに甘えすぎた。反省してる。異空間に展開する戦力の増強も考えておく。二度と無理はさせない」

「あっ、僕がお願いしようとしていたこと先に言って、それだと文句言えないじゃん」

俺は苦笑する。

ルルイエ・ディーヴァが酒を一気に流し込んだので、新たな酒を注ぐ。

「ねえ、パトロン」

「なんだ。ルルイエ・ディーヴァ」

「名前は可愛いのにしてね。ださいのはやだよ」

「安心してくれ。俺の名づけのセンスはいいぞ。三人ともすごく喜んでくれたからな」

クイナもロロノもアウラも今の名前を気に入ってくれている。ネーミングセンスには自信をもってもいいだろう。

「あの子たちならパトロンにもらった名前ならどんな名前でも喜ぶでしょ。まあ、僕も人のこと言えないけどね。ああ、ちょっと今のなし。こんなセリフなし。僕のキャラじゃないや」

そう言ってルルイエ・ディーヴァは青い髪を振って否定する。

こんな反応を見せる彼女は珍しい。

俺たちはたわいのない雑談をする。

気がつけば、ワイトとドワーフ・スミスの夫妻や白虎のコハクまで酒盛りに参加してる。おい、ちょっと待って。今、子供が出来たとかワイトが言ってなかったか!? 出来るのか、子供。種族が違うと相性しだいだけど、すごいな竜族。

「むう、よそ見して僕と話すのそんなに退屈」

「そんなことないよ。ほら、もっと飲んで」

ふう、一瞬ルルイエ・ディーバを不機嫌にしてしまったがお酒の力でごまかせた。

さすがにワイトに子供が出来たとか言われたらそっちが気になって当然じゃないかな? 言い訳は余計に怒らせるだけと経験で学んでいるので素直に謝る。

そうして、盛り上がっていき、突如ルルイエ・ディーヴァが真面目な顔になった。

「ねえ、パトロン。昔はいろいろと変なこと考えてたこと、今はパトロンがパトロンで良かったと思うよ。たぶん、他の魔王のもとに生まれてたら、こんなふうにみんなで笑いあう楽しい飲み会なんてできなかったと思うし」

ルルイエ・ディーヴァが優しい目でオーシャン・シンガーと彼女たちに愛でられているクイナとフェルを見た。

「そっかな」

「そうだよ。だから、パトロンにお礼をしようと思ってね。今から歌うよ。パトロンのための歌。誰か一人のために僕が歌うのなんて特別なんだぞ」

そう言うと、彼女は立ち上がる。

そして、歌い始めた。

優しい歌だった。心が癒されていく。

今回の戦いの疲れも昂りも消えていくようだ。その歌はまるで海だ。歌におぼれていく。

なんどか彼女の歌を聞いたことがあるが、いつもはもっとアップテンポの高揚感溢れる曲だった。

今日の歌は穏やかで安らぐ優しい歌。

この歌を聞いて確信する。

これこそが本当のルルイエ・ディーヴァの歌だ。

誰もが押し黙って聞き入っていた。この歌に余計な音はいらない。邪魔したくない。

そう思わせる力があった。

そして歌が終わる。それと同時に割れんばかりの拍手が響いた。

「どう、僕の歌は」

「最高だったよ。また聞かせてくれ」

「しょーがないな。そこまで言うならまた聞かせてあげるよ。ベッドの上とかでね」

「おい!」

ルルイエ・ディーヴァの冗談に周りが騒ぎだし、クイナとフェルが頬を膨らませてこちらに向かってきた。二人を宥めたり、もう大人だからとクイナがお酒に手を出して……いろいろとひどいことになったり。

それからしばらく宴会を楽しんで家に戻った。

自室で若干残った仕事を片付けているとノックの音が聞こえた。

ついにこのときが来たのか。

「入るです。ご主人様、ご褒美をもらいにきたです」

そこにいたのは薄い寝間着に着替えたフェル。頬が上気している。温泉に入ったあとだ。

もう逃げられない。さあ、覚悟を決めるんだ。

「よく来たねフェル。たっぷりとご褒美をあげよう」

フェルが尻尾を揺らしながら俺の胸に飛び込んでくる。

たっぷりとフェルにご褒美を上げよう。

俺は微笑んで、彼女に手を伸ばした。