軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

95.一通の手紙

「本当すみません!!」

次の日の朝、パーソロンにやってきた姫様が、開口一番に謝って腰がほぼ直角になるくらい頭を下げた。

仕事に行くコレットを送り出した直後で、家の表で姫様と向き合っていた。

あまりの様相に、彼女に擬態のスキルをかけてジャンヌにする――という流れじゃなかった。

「いきなり謝ってどうしたんだ? とにかく頭をあげて。それじゃ話もできない」

「すみません……」

姫様はシュンとした表情のまま顔を上げて、申し訳なさそうに、上目遣いで俺を見あげてきた。

「トタンの事……ですけど」

「ああ、ダメだったのか?」

この様相での謝り方はそうとしか思えない、俺はなるべく「責めてない」というのを意識しつつ、姫様に聞いた。

「はい……」

「そうなのか。王国にもないほど希少なものだったってことか」

「そ、そうではありません!」

姫様は慌てて、弁明するような口調で言ってきた。

「本当はあったのです」

「うむ?」

「その……帳簿上といいますか、資料上といいますか。希少なりにもある程度の量は保持していたのです」

「それが実際はなかった、と?」

「はい……あまりにも普段使わないものですから、誰が、いつ、……極論どうしたのかもさえ。横流ししたのか不必要なものとして処分したのか……」

「ああ……なるほどなあ」

俺は小さく頷いた。

クリスからも話をきいて、ある程度トタンの事はわかっていたが、この話でますます理解したような気分になった。

「あまり気にする必要はない」

「し、しかし……シリル様に献上できなかったのは――」

「普通のご家庭にもたまにある話だからな」

「え? そ、それはどういう事でしょうか?」

姫様は驚き、戸惑った。

「たまにあるんだ。家の古い蔵を片付けてたら古い、ボロい何かが出てきて。それを処分した後に実はものすごい宝だったと知るパターン」

「そんなことがあるのですか?」

「姫様なら分かると思うけど、たまにものすごい骨董品とかお宝が世に出てくるだろ?」

「え? あっはい。時々そういうのがお父様に献上されます」

「だろうな」

俺は小さく頷いて、続けた。

「ああいうものの中に、普通に考えたら持ち主が手放さないようなものすごいものもあるだろ?」

「はい……ごくたまにですけど」

「それがそういうパターンだ。持ち主じゃなくて、価値を知らない家族が処分してしまった」

「なるほど」

「まあ、そこそこのお宝でもよくある話だ。だから本当に、気にする必要はないんだ」

「はい……ありがとうございます、シリル様」

慰められたジャンヌは、感動した瞳で俺をじっと見つめた。

「それはまあいいんだけど、だとすると困ったな、トタンじゃないとダメなのか? クリスに聞いてみないと」

「あの!」

「うん?」

「トタンでしたらあります。その……採取しないといけませんが」

「なるほど……まとまった量が取れるのか?」

「はい。ブーケ男爵が所有しているヌレイエフ廃坑が、今もっとも簡単にまとまったトタンが取れる場所とのことです」

「なるほど」

「ですが……ブーケ男爵は気難しい人で……」

姫様はまたしてもうつむいてしまった。

いちいち消沈する姿は見ていてちょっとかわいそうになってくるから、何とかしてやりたいと思う。

「どれくらい気難しい人なんだ?」

「その……下手に権威を押しつけると、かえってつむじを曲げてしまうタイプらしく」

「あらら、そりゃいけない」

俺は更に頷いた。

なるほど、それが姫様が今日落ち込んでいる一番の原因なんだな。

だってそうだ、彼女は王女なんだ。

しかも、父親である国王にそこそこ甘やかされているタイプだ。

そんな彼女が、黄金と同じ程度の価値であるトタンを集められないはずがない。

備蓄分がなかったら、新規で――金と権力にものを言わせて集めればいい。

なのにこんな顔をしているのは、それが通用しない相手だってことだ。

「それとなく探りは入れてますが、どうやらブーケ男爵は難しいみたいで……」

「それならしょうがない」

「本当にすみません……」

「いいさ、気にしないでくれ」

「はい……」

とはいうものの、やっぱり消沈してしまう姫様である。

一方で、俺はなにか引っかかっていた。

「……」

さっきから妙に、何かあたまに引っかかっている。

「あの……何とかしますので、もう少しお時間を」

「え? ああいや、姫様に不満があるとかそういうことじゃないんだ。ただ引っかかりを覚えてな」

「ひっかかり、ですか?」

「ああ、ブーケ男爵、という名前をどこかで聞いたような気がする……どこだっけな」

「えっと……」

「何かその男爵についての情報はないか?」

「情報ですか? そうですね……リボーに住んでいて、それで――」

「リボー? まってそれも聞き覚えがある」

俺は手をかざして姫様の言葉をとめつつ、もう片方の手でこめかみを押さえて、考えた。

「………………思い出した」

ポン、と手を叩く。

「カトリーヌ嬢の文通相手だ」

「え?」

「もしかしてなんとかなるかもしれないぞ」

「え? え? え?」

姫様は困惑したが、俺には光明が見えてきた。

カトリーヌ嬢の屋敷、かつて手紙を受け取ったあの部屋。

あの部屋で、 ジャンヌ(、、、、) と二人で、カトリーヌ嬢と向き合っていた。

「というわけなんだが……ブーケ男爵に掛け合ってもらえないだろうか」

俺は事情を説明して、カトリーヌ嬢に頼んだ。

かつてのクライアントで金持ちの令嬢。

彼女を動かすためにはかなりの覚悟と 出血(、、) が必要と思ったが。

「わかりましたわ」

予想に反して、彼女はあっさりと承諾してくれた。

「ほんとうか?」

「ええ。手紙を出しましょう」

「手紙でいいのか?」

「ええ。わたくしの大事な人の頼みを断ったら、今後一切お手紙は出しません――これで充分でしょう」

「あ、ああ」

俺はちょっとだけ苦笑いした。

その物言いで、カトリーヌ嬢とブーケ男爵の力関係が分かった。

そして、ブーケ男爵がちょっとかわいそうになった。

「少し待っていてくださいまし、今したためますわ」

カトリーヌ嬢はそういって、席を立って部屋をでた。

手紙を書きに行くんだろう。

その部屋に残った俺とジャンヌ。

俺はジャンヌを向いて。

「どうにかなりそうだ」

「こんなに簡単に……シリル様すごい……」

ブーケ男爵の気難しさを俺以上にしっているからか、ジャンヌはものすごく感動した目で俺を見つめてきたのだった。