軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89.人手不足

夕方、拠点パーソロン。

元荘園は、今も半分くらいは復旧されないまま、手つかずの状態だ。

そんなパーソロンの中を、俺は観察しながら歩き回っていた。

『ゴシュジンサマ、何をしてるの?』

「ルイーズか」

立ち止まり、振り向く。

昼寝から起きたばっかりなのか、ルイーズが頬に土をつけたままこっちに向かってきた。

彼女は俺の前に立ち止まって、まわりをきょろきょろ見回した。

『何かさがしもの?』

「ああ、ちょっと下見」

『下見?』

「そろそろ手をつけてないエリアにも手をつけようかなって。手始めにパトリシアの竜舎をつくってやらないとなって思う」

『わたしは今のままでもいいかもしれない』

「へえ? なんでだ?」

『パトリシア、おっきくてやらかいから、寄り添ってねるとすごく気持ちがいい』

「あはは、そうなのか」

俺はその光景を想像してみた。

大型種のパトリシアの横に体を寄せて眠る、小型種のルイーズ。

知りあいで犬猫両方飼ってる人がいて、その家で見た、大型犬の懐で丸まって寝ている生まれたての子猫。

その光景を思い出していた。

『だから、今のままでもいい』

「それならそれで、パトリシアのために作っとくから、パトリシアの方にいって一緒に寝るってのもありなんじゃないか」

『その手があったか』

ルイーズはハッとして、頷いた。

最新参のパトリシアだが、この様子だとそれなりに上手くやれてるみたいでちょっとホッとした。

『あっ』

「どうした」

『コレットが帰ってきた』

「そうか。じゃあ出迎えに行こうか」

『うん。乗ってゴシュジンサマ』

ルイーズはそう言って、体を伏せた。

俺はポンポンと撫でながら、彼女の背中に飛び乗った。

パーソロンの中、彼女の背中にのって移動する必要はまったくないけど、そうしたくてやってるみたいだから、それに合わせて背中にのった。

俺を背中に乗せて、ルイーズはパーソロンの入り口の方に向かっていった。

歩くこと一分程度、俺達は入り口のところにやってきた。

そこに、座っているコレットの姿が見えた。

「むっ」

夕焼けの中、コレットが元気ないように見えた。

俺はポンポンとルイーズの背中を叩いた。

ねぎらいも込めての、「とまって」というニュアンスのジェスチャーだ。

ルイーズがとまったあと、俺はその背中から飛び降りて、コレットの方に向かっていった。

「お帰りコレット」

『あっ……ただいま』

「うん、なんかお疲れ?」

『ちょっとだけ。そうだ、これ今日の売り上げ』

コレットはそう言い、腹の中からいくつかの革袋を吐き出した。

見慣れた形の、硬貨がぎっしり詰まった革袋だ。

『数えてないけど、たぶん一万ちょっと』

「わかった、ありがとう。それより大丈夫か? 本当に疲れてそうだけど」

『ん……わるいけど、明日やすんでいい? 採鉱と竜具の運搬、両方やってたら疲れた』

「そうか。もちろん休んでいいぞ。無理をする事はまったくないからな」

『ん、ありがと』

コレットはか細い声で、短くそう言った。

普段の彼女からは想像出来ない、明らかに元気のない返事だ。

コレットはそのまま、トボトボとした足取りで竜舎の中に入った。

それを見送った俺とルイーズ。

『コレット、疲れてたね』

「そうだな」

『働き過ぎなのよね。もっと寝ないとダメなのに』

「ルイーズがいうと説得力があるな」

『睡眠は大事だよ、ゴシュジンサマ』

「そうだな」

俺は頷いた。

それに関してはルイーズの言うとおりだと思う。

……まあ、ルイーズはルイーズで、他の子に比べて寝過ぎだ、という問題もあるが。

疲れてるコレットに、美味しいご飯でも用意するか――と、思ったその時だった。

ドゴーン!!!

遠方からものすごい爆発音が聞こえてきた。

音だけじゃない、地面が揺れるほどの爆発だ。

『ゴシュジンサマ、あっち!』

ルイーズに言われて、パッ、と彼女がさす方角に目を向けた。

それは入り口とは反対方向の、いわばパーソロンの「裏口」あたりだった。

そのあたりに土埃が舞い上がってるのが見えて、黒煙も上がっている。

ただ事じゃない、そう思って俺はかけ出した。

『ゴシュジンサマ!』

「戦闘になる、ルイーズは来るな!」

『う、うん!』

ルイーズを止めたあと、全速力で駆け抜けた。

パーソロンを突っ切って、爆発の現場にやってきた。

パーソロンの裏側で、エマが戦っていた。

『シリルさん! ごめんなさい! 数が多すぎて』

「気にするな!」

申し訳なさそうにするエマにそう言って、ぐるっとあたりを見回して、状況を把握する。

相手はライオンだった。

エマを7~8体くらいの雌ライオンが取り囲んでいて、少し離れたところに群れのボスであろう、たてがみが立派な雄ライオンがいた。

その雄ライオンがただのライオンじゃなかった。

普通のライオンよりも二回りも体が大きい。

それだけじゃなく、たてがみがまるで燃えているかのようだ。

更に、全身にバチバチと、電気を纏っている。

「雷獅子か」

特徴的なモンスターで、すぐにそれの正体を思いついた。

雷獅子は天を仰いで咆哮した。

率いているであろう、雌ライオンたちが一斉に俺に飛びかかってきた。

「九指炎弾」

俺は両手を突き出して、無数の炎弾を雌ライオンに放った。

炎弾を喰らって、雌ライオンはキャンキャン鳴いて逃げ惑った。

どうやら、雌ライオンの方は普通のライオンのようだ。

こっちは問題にならない、と、俺は改めて雄ライオン――雷獅子の方をむいた。

雷獅子とにらみ合った。

瞳からでも分かる、殺気がぐつぐつと煮えたぎっている。

「九天炎龍」

髪を抜いて、吹き出す。

髪は紙人形に――俺の竜人の姿を模した紙人形に変わった。

その竜人の紙人形に炎をつけて、突進させる。

炎の竜人紙人形が、四方八方から雷獅子に飛びついた。

雷獅子は再度咆哮、雷を落として迎撃した。

それを避けて、炎の人形が全方位から飛びついて、雷獅子を燃やした。

雷獅子は炎上した。

しばらくのたうち回った結果、全力の咆哮で、気合で炎をふきとばした。

体から黒煙を立ちこめらせつつ、俺を睨む雷獅子。

しばらくにらみ合った後、雷獅子はぐるりと身を翻して、俺達の前から立ち去った。

「ふう……」

無事撃退出来たようだ。

あれクラスのモンスターと、本気での「潰し合い」になったら、ただじゃ済まない。

向こうがそこまで「やる気」がなかったのがよかった。

『すごいですシリルさん、あれを簡単に追い払っちゃうなんて』

「向こうもやる気はそこまでなかったからな。それよりもエマは大丈夫だったか?」

『あっ、はい。わたしは大丈夫です』

「そうか」

それならよかった、とちょっとホッとした。

『ごめんなさいシリルさん……シリルさんにご迷惑かかっちゃって』

「いや、気にするな」

『本当にごめんなさい……、巡回してたら見つけたんですけど、私一人じゃかなわなくて』

「うん」

俺ははっきりと頷いた。

そのまま振り向き、パーソロンの中を見る。

コレットの事、エマの事。

共通した問題点が一つ。

人手が足りないということだ。

もう少し……仲間のドラゴンを増やさないといけないのかもしれないな。