軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

88.飴と毒

ボワルセルの街中、大衆カフェのオープンテラス席で。

俺はジャンヌと二人でその席に座って、街中を眺めていた。

「本当に……すごいとしか言えません」

「ん?」

「あそこの二頭と、今角を曲がった中型の子。どれもシリル様の竜具を使ってらっしゃいましたよね」

「ああ」

俺は小さく頷いた。

ジャンヌは結構めざとかった。

彼女が指摘した三人は、いずれも彼女の言うとおり、俺が作った竜具を使っている。

竜具屋「シャドーロール」を通して、俺は大量に竜具を市場にばらまいた。

ドラゴンから直に需要を聞いて作ったものは、はっきりと各ギルドのドラゴンたちのパフォーマンスを上げていた。

「やっぱりいいものは売れるのですね!」

「それだけじゃないけどな」

「え? どういう事ですか?」

「ドラゴンのレンタルがあるだろ? ああいうのには無料で提供した」

「無料でですか?」

「ああ。賃竜はギルドじゃないから直接の商売敵じゃないし、提供がしやすかった。レンタルのドラゴンが実際に、他のドラゴンに宣伝してくれたから一気に広まった」

レンタルのドラゴンといえど、現場でギルドのドラゴンと一緒になることがよくある。

そしてそういう時のドラゴンたちはどんな会話をしているのかというと――ものすごく夢のない話だが、おばちゃんたちの井戸端会議と結構似ている。

うちのご主人はここがだめ、いやいやうちのはこうこうこういうかんじでもっとダメ――と。

実質自慢合戦のような事をしている。

それはつまり、「情報交換」を常にしていると言うことだ。

だから俺はレンタルのドラゴンたちに無料提供した。

すると、レンタルのドラゴンからギルドドラゴンに話がいって、ギルドドラゴンが竜具屋につれてかれて選ぶ事があれば自然と俺が作ったものを選ぶ――という訳だ。

「今のところ上手くいって……提供分以上の売り上げが伸びてる感触だ」

「なるほど! さすがシリル様!! 商売もお上手です!」

ジャンヌは興奮気味で俺を称えた。

そうこうしているうちに、道の向こうからレアが戻ってきた。

レアは口にわたあめ(の棒)を咥えながら、ものすごい速さで走って戻ってきた。

『ただいま、おとうさん!』

「お帰り。どうだ、買えたか」

その様子をみれば聞くまでもないことだが、俺はレアを抱き上げて、テーブルの上に置いてその頭を撫でつつ、聞いた。

『うん! これを買えたよ』

「そうか、よかったな」

『うん!』

「あの……シリル様」

「ん?」

さっきとはうってかわって、不思議そうに聞いてきたジャンヌの方を向いた。

「買えた、というのは……レアちゃんにおつかいに行かせてたのですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだ」

俺はふっと笑い、テーブルの上でわたあめを美味しそうに頬張っているレアを撫でつつ、答えた。

「ボワルセルの商業組合を通して、うちの『ドラゴン・ファースト』の紋章をつけたドラゴンが欲しいものがあるってなったときに、全部おれにつけるように連絡したんだ」

「つけ、ですか」

「ああ、後で払いに行くってね」

「あっ、それでレアちゃん、これを買ってきたのですね」

「ああ」

わたあめ相手に、楽しそうに苦戦しているレアを見て、口元が自然とほころぶ俺とジャンヌ。

「今回の竜具で儲かったから、ドラゴンたちに好きなものを買ってやろうと思ったけど、一人一人聞いて回るより、欲しいものを買えるような仕組みを作った方がいいって思ってな」

「さすがです……ドラゴンが一人で、しかもドラゴンが欲しいものを買いに行くのなんて聞いたことがありません」

「そりゃ、うちが『ドラゴン・ファースト』だからな」

俺は胸を張って、ちょっと得意げになっていった。

たしかに他のギルドにゃ出来ないことだろう。

だけど、うちはドラゴン・ファーストだ。

うちならできるし、むしろそうしたい。

他のギルドには出来ない「ドラゴン・ファースト」ができるっていうのをアピールしたいって気持ちがある。

それが成功したから、自慢したいという気分になっていた。

「あっ……」

「ん?」

近くで何者かが声を上げた。

声はこっちに向かって放ってきたものだった。

なんだろうと、ジャンヌと一緒に声の方を向いた。

するとそこに、バラウール種のドラゴンをつれたルイがいた。

ルイは俺を睨んでいた。

何か言いたげだったが、しばらく俺を睨んだ後、何も言わずに「ふん」といって、ドラゴンをつれて立ち去った。

「なんだったのでしょう」

「あいつがつれてたバラウール種の子、俺が作った『鞍』をつけてたから、それなんじゃないの?」

「鞍、ですか?」

「ああ。バラウール種は人を乗せるとき、できるだけ揺らさないように教育される。それが出来るようになるけど――それが負担じゃないって事は無い」

「そうなのですか?」

「コップの水をこぼさないように運ぶことはできても、それで神経を使わなくなるって訳じゃないだろ」

「あっ……」

ジャンヌはハッとして、頷いて納得した。

「あの鞍は、ルイーズにいろいろ聞いて、意識しなくても乗せてる人間を揺らさないようにできるものだ。揺らさないために使う神経を使わなくてよくなった結果、バラウール種の得意な航続距離が更に伸びたってわけだ」

「なるほど! ……あっ、シリル様の竜具を使っているのが不満なのですね、あの男は」

「そういうことだろうな」

俺は頷いた。

「小さい男」

ジャンヌは冷ややかに、ルイの去っていく後ろ姿を眺めた。

俺も、ルイの後ろ姿を見た。

その隣にいる、バラウール種の子を一緒に眺めた。

ルイがつれてる子もそうだって事は、リントヴルムにそれなりに浸透してるってことだろう。

「シリル様、あの様な無礼者に竜具を卸すのはもったいないのでは?」

「いいんだ、使うのはドラゴンだからな。ドラゴン・ファーストだ」

「それは……そうですが」

「それに」

俺はにやりと笑う。

「普段じゃなくて、すっかり使い慣れた後、敵対するようになった時に供給を断った方が痛いだろ」

「なるほど! たしかにそうですね! さすがシリル様」

「ありがとう。だから、普段はまあ……手抜きはしない、むしろ品質のいいものを優先的に回すくらいがいい」

「そうですね」

ジャンヌは納得した。

俺達はルイの後ろ姿が人混みの中に消えていくのを眺め続けた。

継続的な収入が増えた。

気にくわないリントヴルムにも、飲めば飲むほど後から効いてくる毒を仕込んだ。

竜具に手を出した事が、考え得る限り最高の結果に終わったのだった。