軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02.適材適所を見抜く

次の日、俺は再び役所に来た。

ロビーの掲示板の前で、依頼を眺めていく。

仕事をして、生活のための収入を得たい――というのも大事だけど、そろそろ「先」に繋がる仕事もしなきゃな。

その「先」に繋がりそうな仕事はないもんかと、掲示されてるものを片っ端からチェックしていく。

そんな俺の横で、二人組が同じように掲示されている依頼を見ていた。

「おっ、みろよ。これ報酬結構いいんじゃねえか?」

「どれどれ――よく見ろよバカ、これ、竜のコスト自前じゃねえか」

「あっ、ほんとうだ……」

二人組はそう言って、その依頼から興味を失った。

どういう依頼なんだろう、と、俺は逆に興味を持って、二人が見ていたヤツを見た。

依頼は、手紙の配送だ。

役所に入ってくる依頼の九割は「運搬」で、のこりの一割が「討伐」だ。

厳密に言えば一割にも満たないごく少数な「その他」があるけど、そういうのは本当に少ない。

百件に一件あるかないかくらいだ。

この依頼は、手紙の配送――つまり「運搬」だ。

さっきの二人組の言うとおり、報酬自体はいい。

しかし、ドラゴンにかかるコストは出さないって明記してあって、それがネックになってる。

今の俺のような――そしてたぶんさっきの二人組もそうだ。

野良の竜騎士は、自前の竜を持たない事も多い。

そういう場合、竜をレンタルして仕事をするんだけど、そのコストも入れないといけない。

それを入れちゃうと、確かに二人組が諦めたとおり美味しいとはいえない仕事になっちゃうが。

「……やってみるか」

俺は、その依頼人の名前が気になった。

昨日と同じ、街の高級住宅街にある屋敷にやってきた。

パトリックの屋敷よりも、更に一回り大きな屋敷。

敷地をぐるっと一周しただけで淹れたてのお茶が完全に冷めてしまう位、それくらい広い屋敷だ。

その屋敷の応接間で、一人のお嬢様と向き合っていた。

見るからに上品なドレスで身を包み、尊大な態度でソファーに座っている。

金色の髪に縦ロール……は今まで見てきた「お嬢様」の十人中九人がそうで、流行りなのか伝統なのか、とにかく多い。

そして座って向き合っていて、身長が俺より一回り小さいのに、体を反ってナチュラルに見下すような視線を向けてきている。

そんな、一目で分かるほどの地位と権力に甘やかされて育ったタイプのお嬢様だ。

この子が今回の依頼主、カトリーヌ・モリニエール嬢だ。

「今度のは若い人なのね。大丈夫なの?」

「大丈夫だと思います」

「竜が使えるの?」

「はい」

「どれくらい?」

「それなりには」

ずけずけと質問をしてくるカトリーヌに、それなりの応答をした。

「ふーん、まあいいわ。別にあんただけに頼むわけじゃないしね」

「そうですか」

俺は小さくうなずいた。

手紙の配送というのは――特に大事な手紙ならば、複数ルートから複数通同じものを出すのが当たり前なのだ。

離れた街に何かを届けるというのは実に難しいことで、手紙が確実に届くという保証はないから、そうするのは当たり前だ。

報酬自体はいい依頼、それにきっちり複数通出すやり方。

依頼主の名前でにらんだ通り、大手の依頼主だ。

こういうのをこなして、「先」に繋げていくのが当面の目標だ。

「ではおたずねします。どのようなお手紙なのでしょうか」

「なに、詮索するつもり?」

「内容が分かった方が運びやすいです。早くなる可能性もありますし、機密ならいざという時、即隠滅も想定に入れなければいけませんから」

「ふーん、そういうものなのね」

カトリーヌ嬢はちょっと感心した様子で、納得した。

「いいわ。ラブレターなのよ」

「ラブレター」

「ブーケ男爵におくるラブレターの返事」

「男爵様と文通をしてる、ってことなんですね」

「そういうこと」

「場所はリボー。どれくらいで届けられる?」

「リボー」

俺は脳内にある地図を引っ張り出した。

目的地のリボー、そしてこの街ボワルセル。

その 直線距離(、、、、) を頭の中で計算した。

「竜にもよるけど、一日で」

「へえ、早いのね。他の人はみな三日って言ってたのに」

「……」

「まあいいわ、届けられるならなんでも。じゃあ任せるわ」

カトリーヌ嬢は手元にある鈴をならした。

すると使用人が一人入ってきて、トレイにのせた手紙をカトリーヌ嬢に手渡した。

カトリーヌ嬢はそれを受け取って、俺に差しだした。

「受け取りの証を代わりにもらってきて、それでそれと引き換えに報酬を渡すわ、いいわね」

「わかりました」

俺は頷いて、屋敷をでた。

その足でボワルセルの街の東側にやってきた。

繁華街から離れたここは、何軒かの貸し竜屋がある。

その貸し竜屋にいって、竜をレンタルするつもりだ。

それにしても、予想以上の依頼だ。

依頼主の名前を見たとき、モリニエール家の令嬢だと予想した。

モリニエール家なら、上手く行けば「先」に繋がる仕事になるかも知れないって思ったからだ。

もちろん繋がらないかも知れない。

だけど、こういうのは積み重ねだ。

物事の成功というのは、成功する可能性のある行動を繰り返して、どこかでその可能性を引き当てることだと俺は思う。

つまり動かなきゃ成功には繋がらないと言うわけだ。

今回のはどれくらいの可能性があるのか分からないが、動かなきゃゼロなんだから、俺はこの依頼をうけた。

だが予想以上だ。

依頼のモリニエール家だけじゃなく、届け先の男爵家とも繋がる可能性がある。

例え低い可能性でも、可能性は可能性だ。

俺は、この仕事を全力で全うしようと思った。

そうして、『オーバーシード』という名前の貸し竜屋に入った。

カウンターがあって、眼鏡をかけた壮年の男がいる。

手元に視線を落として何かを読んでいたが、客である俺が入店したのに気づき、顔をあげてこっちを見てきた。

「いらっしゃいませ」

「お客さん、どのような子をお探しで」

俺は店越しに「奥」をみた。

貸し竜屋というのは、その商売の性質上、表の店舗はただの飾りだ。

大事なのは店舗の奥にある、竜がいる「庭」である。

俺はそこを見た。

「ワイバーン種はいるか。早い子がいい、荷物はない、俺一人だ」

店の人に、要求をまとめて伝えた。

厳密には手紙という荷物はあるが、手紙は荷物として物理的に考慮しなくていいから、「ない」ってことにした。

「ワイバーン種でしたら三頭います。どうぞこちらへ」

俺は奥の庭へ案内された。

様々な竜がいた。

俺が来たことで顔を上げてこっちを向いた子もいれば、伏せたまま視線だけをちらっと一瞥しただけの子もいる。

もちろん、完全に無視する子もいる。

竜はそれぞれが違う性格をもってて、当然こういうときも違う反応をする。

「あちらです」

「自分で見る」

「はい」

店の人はそこで止まって、ついてこなかった。

こういうことは多いから、向こうも慣れてるのだ。

普通の竜騎士は「会話」はできないにしろ、それぞれがそれぞれのやり方で、意思疎通できる扱いやすい子を選ぶ。

そしてそのやり方は、各竜騎士の秘密、メシのタネだ。

見られたくない人はかなり多くて、中には門外不出、とまで言い切る竜騎士もいる。

貸し竜屋の人間ともなればそういうのはよく見ているから気にしないものだ。

俺は三人のワイバーン種に近づいた。

『来たぞ来たぞ来たぞ』

『人間だー』

『さっきのより間抜け面だな』

つながれている三人のワイパーン種は、結構いい性格をしていた。

「間抜け面とはひどいな」

『間抜け面なんだからしょーがないでしょ』

『あれ? 人間、おいら達の言葉が分かるの?』

「ああ」

『ひゃー、めっずらしい』

『なに、ドラゴンに拾われて育ったわけ?』

「そういうわけじゃないけど」

俺は微苦笑した。

ごくごくたまに聞く、ドラゴンに拾われて育てられた子供の話。

もちろん俺はそういうのじゃない。

「それよりも仕事を一緒にして欲しい。手紙を運びたい、できれば早く。一番早い子は誰だ?」

『速さならおいらだね』

『まて手紙? それはどういう手紙だ? ラブレターか? ラブレターなのか?』

「あ、ああ」

俺は気圧された。

ワイパーン種の一人のテンションが、一瞬で振り切ってびっくりした。

『どっちがどっちに送ってるんだ? 男と女どっちだ?』

「女から男だけど……」

『じゃあおいらが行く。そのかわり手紙はおいらがくわえて持ってく』

「え、いやそういう理由で……」

しかもくわえて、とか。

なんて、俺が困惑していると。

『でたでた。またかよこの助平が』

『人間の雌の何がいいんだろうねえ』

『まあでも、こうなったらこいつ速いからなあ』

「……ほう?」

困惑していたが、ワイバーン達のやり取りが引っかかった。

「こういう時だとお前速いのか」

『あったりめえよ』

「……わかった、じゃあよろしく」

俺は少しだけ考えて、「すけべえ」な子に頼むことにした。

竜も、いろんな性格がある。

人間と同じで、性格とそれにマッチするシチュエーション次第で、普段以上の能力をだせる子がいる。

この「すけべえ」な子がそういうタイプみたいだ。

そしてそれは。

俺以外、誰も分からないしできないやり方だ。

俺は振り向き、店の人のところに戻っていった。

「あの右側の子を貸してくれ」

「いいんですか? 速さなら真ん中の子のほうが」

「いや、あの子でいい」

「わかりました」

店の人はちょっと首をかしげた。

自分が真ん中のが速いと言っても、まったく考慮もしない俺。

それを不思議に思ったようだが、説明してもしょうが無いことだから、俺は黙ったままでいた。

その子と店を出て、背中にまたがった。

『手紙くれ手紙』

「はいはい」

急かされたから、約束通り、カトリーヌ嬢の手紙を渡した。

『ヒャッハー、美少女の匂いだ! 手書きてがきテガキィィィ』

一瞬でテンションがMAXを振り切った。

大丈夫なのかこれは――と思った次の瞬間。

俺は、空の上の人となった。

「すけべえ」な子は凄かった。

ワイパーン種というのは、小型種の内でも、短いながらも飛行能力を持つ種だ。

二つの場所を移動するのに、最短の距離は直線だ。

そして直線を行くためには、空を飛ぶのが必要不可欠だ。

俺は最初から、最短距離の直線込みで、一日だと推測して、それをカトリーヌ嬢に言った。

しかし「すけべえ」な子は速かった。

約束通りカトリーヌ嬢の手紙を持たせると、俺の想定を遙かに上回る速度でリボーに向かってくれた。

そして、半日でついた。

四半日でついて、手紙を届けて、証明を受け取って四半日で戻ってきた。

ちなみに中身だけ渡して、封筒は貰って「すけべえ」な子に渡した。

それで帰り道も四半日で戻って来れた。

当初より半分の時間で戻ってきた俺に、カトリーヌ嬢は大いに喜び。

「すごいわねあなた。また頼むわね」

「はい」

「そういえば名前は?」

「シリル・ラローズです」

「シリルね、覚えておくわ」

その言葉に、俺は心の中で密かにガッツポーズした。

予想以上の結果だ。

カトリーヌ嬢、そしてたぶんその家とつながりを持てたから、今回の仕事は文句なしの大成功だった。