軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九章 向き合うこと、それが始まり

「次のステージ……ね。鏡ちゃんはそこに何があると考えてるの?」

「わかるわけないだろ。少なくとも……強くないと生きていけない場所だろうな」

「まあそうよね……でも、驚きだわ。まさかそんな場所にダークドラゴンがいたなんて。いえ……それよりも、私達人類が掲げる大目標、魔王討伐が終わることのない仕組まれた戦いだったなんて。頭がパンクしそうだわ」

王都付近に広がる大地、ヘキサルドリア平原を歩きながらタカコと鏡はそう言葉を交わす。その背後をついていくようにして、ティナとアリス、魔王と、魔王に肩をかしながら歩くメノウの姿があった。

タカコの言葉を聞いて、魔族であるアリスとメノウは表情を曇らせる。魔王ですらも、表情こそ変わりはしないが、どこか重たい雰囲気を醸し出していた。

「ほら、そんなしょげた顔するなよな。……俺が絶対に守ってやるから」

「う、うん! 第三の軍だよね! ……ありがとう。鏡さん」

そして、そんな三人の重たい空気を感じ取ると、鏡はすぐさまメノウの背中をバンッと叩き、次にアリスの頭を優しく撫でて笑顔を浮かべた。

するとその様子を見て、魔王が思わず笑みを浮かべる。

「アリス。出会ったのがこの村人で良かったな……これも、運命というやつか? 不自由ない生活をさせてもらっていたのだろう?」

「うん! 鏡さんに出会って本当によかったって思ってる。……まだお互いちゃんと知らないのに、魔族であるボクを危険から守ってくれた……大切な人なんだ」

はっきりとそう言われ、鏡は少し頬をかいて照れくさそうに上を向く。そして、当時その危険であったティナは、「ふ……なかなか耳が痛いですねぇ」と苦笑を浮かべていた。

「私にとってもすっかり特別な存在になった。…大昔に会った時は、こうなるとは想像も出来なかったが……立派になったものだ。よくぞ村人の身でそこまでの力を得たものだ」

「むしろ、村人だったからかもしれないぜ?」

「……そうなのかもしれんな」

聖の森から王都に向かい始めてから、途中で休憩を挟むなどして半日が経過していた。

現在6人は、魔族であることや犯罪者であることなど全く気にせず、多くの行商人が利用する、王都と他の町を繋ぐ街道を堂々と歩いている。

途中何度か王都から他の町へ移動しようとする冒険者や、行商人に出会ったが、特に怪しまれることもなく、適当に挨拶を交わしてやり過ごしていた。

「まさか奴等も、普通のおっさんにしか見えないこれが魔王だとは思うまい」

「どうやら、犯罪者の烙印は押されたみたいだけど、まだ全然知れ渡ってないみたいね。ステータスウインドウさえ開かなければ、なんとかやり過ごせそう」

そう言って、タカコはチラッと背後を歩く魔族三人の様子を窺う。まさか、魔王のいるパーティーに自分が参加することになるなんて人生何があるかわかったもんじゃないと、タカコは感慨深く溜息を吐いた。

後ろを歩く三人が、冒険者や行商人が疑わない程に自分達と変わらない人間にしか見えなかったのも、溜息を吐いた要因でもある。

かつては、これらと戦おうとしていたのだ。そう考えると、この世界の仕組みのおかしさを鏡が気付けたことに、偉大さを感じてならなかった。

「っつ……」

「大丈夫か魔王? あんたに死なれたら俺はめちゃくちゃ困るからな?」

「無理させようとしておいてよく言えたものだ。まあ……私も、その世界の仕組みを聞いてしまった以上、我が配下、そして我が娘のためにも死ぬわけにはいかなくなったのだがな」

言葉では強がって見せてはいるが、魔王はメノウから素直に肩を借りる程に衰弱していた。だが、この状態でも充分にメノウよりも強く、メシアを動かし勇者と互角に戦う力を持っている。大人しく肩を借りているのも、少しでもマシな状態を保つための手段でしかなかった。

「呪い系の衰弱状態みたいだから回復魔法も効かないし……精霊の加護薬持ってきてたら良かったけど、あんな高価なもん持ち歩くのも怖いから持ってきてないしな」

「よい……この状態でも充分に戦える。お前程ではないにしてもな」

「別にあんたに戦ってもらうつもりなんてないって。話し合いに行くだけだし」

「話し合い……だと? そういえば話が途中だったな。私に何をさせるつもりだ?」

「あんたと王様で、停戦協定を結んでもらう」

ごく自然に吐かれた言葉に、その場に居た全員が声を裏返して、「はぁ!?」と声をあげる。

「そ、そんなの無理に決まっているじゃないですか! 今までずっと敵同士だったんですよ?」

「無理……かもな。でもやらなきゃ始まらないだろ? ティナだって最初は敵視してたけど今はしてないじゃん?」

「そうですけど……さすがに国に理解してもらえっていうのは無理でしょう! 今までの行動全てを否定することになるんですよ!」

「それは魔族も同じだろ? だからトップ同士の話し合いが必要なんだよ。それに、それで話し合いが成功すれば、クルルもレックスも解放されるだろ?」

それを聞いて、ティナは呆然とした表情を見せる。そして、「この人……アホなのかな」と、思わずつぶやいた。その言葉に同意見なのか、タカコも溜息を吐いて頷いて見せる。

「そもそも、相手が聞く耳持たなかったらどうするつもりなの?」

「あー……まあその時は戦うしかないね」

タカコの問いの返答に対し、ティナは思わず、「結局戦うんじゃないですか!」とツッコみを入れる。

「戦うって言っても、魔王に戦ってもらうつもりはないさ、それだと喧嘩ふっかけてるのと同じだからな。戦うのは俺だけさ」

「それでまともに話を聞いてくれるとは思わないけど?」

「でも、それだと何も始まらないだろ? 俺さ……どうしても伝えたいことがあるんだ。今回で停戦協定が結べなくてもいい。でも、停戦協定を結ぶ意志が魔王にあるってわかってもらいたい。無謀な交渉だってのは俺にもわかってる。ただ……今までずっと言えないでいたことを、王様に伝えられるだけでいいんだ。だから多少強引になったとしても俺は王様に会いに行く」

鏡がそう言い切ると、アリスは突然トテテと歩を早め、鏡の隣に並んで歩きはにかむような笑顔を向ける。

「……どしたの?」

「ボク、やっぱり鏡さんが大好きだよ」

面と向かって吐かれたその言葉に、鏡は思わず照れ隠しに視線を逸らす。

単純に、自分達のために仲間に無謀と言われるような真似をしてくれるのが嬉しくて堪らなくなっての行動だった。アリスは、その道の難しさを知っているが故にわかっていた。それだけの無茶をしなければ、大きくは変えられないことを。

そしてそれは、人間の協力が必要不可欠であり、その人間に大きな損害を与えるのもわかっていた。それを鏡は、自分から望んでやろうとしている。その事実に、嬉しくならないわけがなかった。

「残念ながら、その協定が結ばれる可能性は限りなく低いかと思われます」

だがその時、アリスの思いを遮るような言葉が一同の背後から聞こえる。

感じ取れなかった気配が突然現れ、一同は一瞬にして表情を強張らせると戦闘態勢をとって背後を振り返る。

「で、デビッドさん!?」

血相を変えてタカコがそう叫ぶ。

そこに立っていたのは、肩で息するほどに疲弊し、全身が傷だらけで今にも倒れそうな程にボロボロになった状態のデビッドだった。