軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

逃げていても始まらない -11

「ま、魔王様! お目覚めになられましたか!」

その時、薪を集めるために森の中を歩きまわっていたメノウが戻り、拾い集めた薪を地面へとまき散らしてそう叫ぶ。

「メノウか……心配をかけたな」

「ご気分は悪くはありませんか? 喉は乾いておられませんか? お疲れでしょう? 今すぐ食事の用意を……いやしかし食料が! 今すぐ何かとってまいります!」

「よい。お前は相変わらず極度の世話焼きだな、どんな時でも落ち着きを持つようにいつも言っているであろう」

「す……すみません」

微笑を浮かべながら魔王はそう言うが、メノウは真に受けて落ち込んだ様子を見せる。

その光景を見て、恐らくこんなやり取りを見れる人間は世界で自分だけだろうなと思い、鏡は思わず噴き出して笑いだす。

「確かにメノウは自分の心情が直接表情にも出るしな。焦ってるときなんかもろばれだぜ? 最初に会ったときとかも、うろたえまくってたしな」

「んなっ! 突然上空に人間が飛んできたら誰でもうろたえるだろう! しかも私の攻撃が一切効かないのであればなおさらだ!」

「あーあの爆破魔法三連発な。あれ実は結構痛かったんだぜ? 服も燃やされたし」

「ならちょっとくらい痛がる素振りを見せてくれてもよいだろう! 鏡殿はむしろ動じなさすぎなのだ!」

「……っぷ! ふははははは!」

すると今度は、二人のやりとりを見て魔王が噴出すようにして笑い始める。まさか、人間は倒すべき敵であると思い込んでいた自分の配下が、これほどまでに人間と打ち解けているとは思っておらず、何故かおかしくなって耐えられなくなった。

「どうやら私だけが特別なわけではなかったようだな。村人……やはりお前は惹きつける何かを持っている。全く……不思議なやつだ。お前のような者は見たことがない」

「それはちょっと違うな」

「どういうことだ?」

「確かに俺は変わってるかもしんないけど、こうやって俺とメノウとあんたが話してるのは、別に特別なことじゃない。これが普通なんだ。普通で、本当なら誰でもこうやってわかりあえるはずなんだよ」

「つまり……何がおかしいと言いたい?」

「この世界の在り方……かな。だから、あんたに協力してほしいことがある。昔みたいにな」

そう言うと、鏡は魔王に手を差し出した。すると魔王は、差し出された手を見て鼻で軽く笑ってしまう。

「私はお前に協力したことなぞ一度もない。お前が勝手に挑んできて、勝手に強くなっただけだ。……だから、協力するのは、これが初めてだ」

そして、「ここまでされて断るわけがあるまい」と付け足すと、魔王は鏡の手を取った。

「それで? 何をするつもりだ?」

「ああ……とりあえずだな……おっ?」

質問をしてきたにも関わらず、魔王の視線が自分でもメノウでもない場所に向けられているのに気付き、鏡は言葉を途絶えさせてその視線の先を追う。

「か、鏡さん? お、…………お父さん?」

するとそこには、状況を把握出来ないのか困惑した表情を浮かべながらも、嬉しさのあまりにも目元に涙を溜めて立ち止まるアリスの姿があった。

その背後には、同じようにして困惑した表情を浮かべて立ち止まるティナと、木に手を置いて探し回ったと言わんばかりに大きく溜息を吐くタカコの姿もある。

「え……え? え、どうし……え……? お、お父さん?」

「……随分と久しぶりに思えるな。息災だったか?」

「……お父さん!」

脳内で整理がつくよりも早く、横たわりつつもこちらに視線を送ってそう言った魔王に向かって駆け出し、アリスは飛びついた確かめるように抱きしめた。

「……少し、背が伸びたか?」

「多分……少しだけ」

魔王も、アリスの身を案じていたのか、飛びついてきたアリスの頭を優しく撫でると、安堵した優しい表情を浮かべる。そして、その光景を満足したような表情で鏡は見届けると、小さな声で「だよな」と、自分の考えは間違っていないと改めて確かめた。

「こ、こ、これはどういうことですか? どうして魔王がこんなところで鏡さん達と? ええ? 1万ゴールド集めたんですか? いやいやいや! ありえないでしょう!」

そして、魔王とアリスが抱き合っている姿を見届けてようやく、おどおどとした様子でティナがそう言いながら、タカコと一緒に鏡へと近づく。

「こんな短期間で集められるわけがないだろ……結構お金も手に入ったけどな」

「じゃあどうして魔王がここにいるんです? もう1万ゴールド集めなくていいんですか?」

「それはまだ集めなきゃいけないけど……それよりも先にそっちの説明が先だろ? どうしてここにいるんだ? カジノの運営はどうしたんだよ?」

鏡がそう問いかけると、ティナは表情を曇らせた。そしてそのまま、徐々に瞳に涙を浮かべ始めたため、鏡も少し表情を強張らせる。

「王国の連中が来たのよ……そして、王国の連中の前で、アリスちゃんが魔族であるということがもろばれしたのよ。目の前で角を見せちゃってね」

「あ、アリス様が魔族であるとばれただと? 何故だ? ま、まさか……デビッド殿が!?」

「違うわ。デビッドさんは私達を庇ってくれたのよ? アリスちゃんが魔族だってわかっていながらね。私達がここまで逃げてこれたのもデビッドさんのおかげよ」

その言葉を聞いて、メノウは、「そうであったか……」と感慨深くつぶやき、一時、デビッドは危険な存在であると思ってしまっていた自分を悔いた。

「じゃあ、どうしてばれたんだ? ていうか、デビッドが味方してくれてたなら、どうして王国の連中がきたんだよ?」

「パルナ……あの子の仕業よ」

「あらら、なるほどな……そういえば結構悩んでたみたいだったしな」

鏡はそういうと、軽く溜息を吐いた。まるで、『そうなるのも仕方ない』、『そうなると思っていた』とでも言っているかのように落ち着いた様子に、タカコとティナは首を傾げる。

「……クルルとレックスは?」

「王国の連中に捕まったわ……私達も逃げるので精一杯で、助けられなかった。立場が立場だから……ひどい目にはあってないとは思うけど。心配だわ」

「なるほどな……じゃあ今頃、レックスとクルルはお城にいるわけね」

「さすがに、今回ばかりはお手上げだわ。魔族と一緒に過ごしていることもばれちゃったし、クルルちゃんとレックスちゃんに会いに行こうにも王国だし……って、どこ行くの鏡ちゃん?」

珍しく、表情を曇らせながらそうつぶやくタカコをよそに、鏡はそんなことどうでもいいと言わんばかりにスタスタと荷物を持って歩き始める。

「え? いや、今から王都に行くんだけど? お前らもとっと行くぞ。魔王がここにいることに関しては……まあ歩きながら話すわ」

そして、タカコの呼びかけに反応して振り返ると、あっけらかんとした表情で鏡はそう言い切った。

「ちょ、ちょっと鏡さん! タカコさんの話聞いていたんですか!? 今回の相手はモンスターじゃないんですよ! 王都に行っても私達は魔族に寝返った犯罪者として……って! あぁぁあああああああ!」

「おおー、気付かなかった。ステータスウィンドウに犯罪者の烙印押されてるじゃん」

ティナの言葉に反応して鏡がステータスウィンドウを開くと、役割を表示している部分の隣に、犯罪者の烙印であるマークが記されてあった。

ティナも気づいていなかったのか、すぐさま自分のステータスウィンドウを開くと自分の役割の隣にもその烙印が記されてあり、たまらず絶叫する。

「……どうするつもりなの鏡ちゃん?」

あれほどまでに犯罪者の烙印を押されるのを拒んでいた鏡が、あっけらかんとした態度でそう言い切ったのが気になり、タカコは鏡の肩を掴んでどういうことなのかを問いただそうとする。

「どうするも何も、元々俺は王都に用があるんだよ」

「何をするつもりなの? ティナちゃんも言ったけど、相手はモンスターじゃないのよ?」

「相手が誰だとか、関係ねえよ」

そう言うと、鏡はタカコの手を振り払い、再び王都の方向へと振り向きなおした。

「あの時はモンスターが俺の前に立ち塞がったから戦った。今回は、王国が立ち塞がったってだけだ。俺は自分の目標のために行動してるだけだぜ?」

「そうだけど……今回は相手が悪すぎるわ!」

「シンプルに考えようぜ? タカコちゃんはクルルとレックスを助けたくないのか?」

その言葉を聞くと、タカコは押し黙った。むしろ、助けたいという感情しかない。だが、王国が相手であればどうしようもないという現実が、タカコの行動を遮っていた。

すると、そんなタカコを見て鏡は苦笑する。

「わかるよ。俺も……ついさっきまでそんな感じだったから。でもさ、気付いたんだよ。それじゃ駄目なんだって。それがこの世界のルールだからって何もせずに耐えるだけじゃ、何も始まらないってさ」

今まで、それがそういうものだから仕方がないと鏡は思っていた。理解を得られないから、多分無理だからと行動せずにいた。でも、それは逃げていただけであると気付いた。

それと同時に、鏡は自分の信条を思い出した。

それは、100%無理でないのであれば、逃げずに戦うということ。

そしてそれは、無理だと思い込んでいただけで、決して0ではないはずの可能性だった。

「行こうぜ王都、自分の思いをシンプルにぶつけに……レックスとクルルを助けにな!」

無理と思い込んで、何もしなければ何も始まらない。

そんな、鏡の意志がなんとなく伝わったからか、タカコとティナは表情を切り替えて頷くと、鏡が行く先を追いかけた。