軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

LV999の村人-8

すぐさま敵は鏡を止めようと動くが、止められる者はおらず、鏡はデミスへと突き進む。

『……力が、増している?』

手を下さずとも、ただ鏡に触れただけで消し飛ばされる己が分身を見て、デミスは気付いた。明らかに、半日前に戦った時よりも青き輝きが増し、強くなっていることに。

半日前までは、確かに攻撃の動作があったはずだった。だが、今はそれすらない。

『なんだ、これは? ……どういうことなのだ、これは⁉』

あまりにも不可解な現象に、デミスは声を荒らげる。

殺したはずだった。思えば最初に打ち放った魔力のほとんどを消費した一撃も、この存在を試すためだとはいえ、殺すつもりで放った一撃だった。

だが、目の前の男は生きていた。生きてまた、自分の目の前へと立ち塞がってきた。

だからまた殺した。殺したつもりだった。

なのに、この男は死ななかった。

殺したと思いきや、塵も残さず消滅したと思いきや、再び現れては襲いかかってくる。

何度も何度も、絶対に死んだと思えるような攻撃を叩き込み続けた。

なのに、この男は再び目の前へと迫ってきている。未だ闘志を燃やし、悪魔のような顔つきでこちらを睨み続けている。

『き……貴様!』

その瞬間、生まれてからずっと、一方的に対象を捕食し、あらゆる生命体を虐げ、この世界の神とすら自称したデミスに、初めての感情が芽生えた。

それは、恐怖。

何度殺しても現れる。現れては自分を殺そうと立ち向かってくる。

不死身でないにもかかわらず――いや、不死身でないからこそ余計に恐ろしかったのだ。

不死身でないのに、どうして殺せないのか?

死ぬような目に何度もあっているのに、どうして立ち向かってこられるのか?

どうして、再び現れる度に大きく力を増しているのか?

自分と同じように、誰かを取り込んで力を得ているわけでもないのにも関わらず。

『き……貴様は!』

デミスにとって、それは、初めて知らなければならないと感じた存在だった。

何をしたところでまた現れる、どれだけ痛めつけて殺しても、強くなってまた現れる。自分にやられたという恐怖すらも乗り越えて、今度は自分に恐怖を与えようとしている。

そこにいたのは、不屈を体現したかのような男だった。

不屈の魂をもった、不屈の塊、不屈の化身。

何をやったところで、この男が諦めることは永遠にないのだろう。

となればもう、今ここで、次こそ確実に殺してしまうしかなかった。

そう思ったからこそデミスは、ありったけの魔力を注ぎ込み、物理的なダメージを加えた次元を歪ませるほどの大技、『星喰い』を放った。そして命中したはずだった。

「……どうした、何もしてこないのか?」

それでも結局、この男は目の前に現れた。

全身から血を噴出させ、ずたずたになっているはずの肉体で。

死者とも変わらぬ姿で未だ動き続け、痛みを感じているはずなのに何度も意識を失い、常人であれば狂ってしまうほどの実力差を感じているはずなのに、それでも挑み続けるこの男にデミスは無意識のうちに震え、恐怖した。

『し……死ぬのが…………!』

そして、遂に我慢できなくなったデミスは心でずっと叫んでいた悲鳴を言葉にして喚き散らす。

『死ぬのが怖くないのか⁉』

自分が恐怖を感じているということを認め、目の前の男が何を考えているのかを問いを。

「お前……何言ってるんだ?」

そんなデミスを前に、鏡は猛速度で接近しつつ、心底不思議そうな顔を浮かべた。

「今さら俺が、死に怯えるとでも思ってんのか?」

仮に、そんなものに怯えているのであれば、今頃、鏡はアースクリアの世界で平凡な衣服屋を営んでいただろう。

「俺が一番怖いのは……死じゃない」

だから、ここにいる時点でそんなものに恐れるわけがなく、デミスを睨みつける。

「何も果たせないまま、目指してきた目標に到達しないまま…………このまま諦めちまうことだ」

デミスは勘違いしていた。

鏡がこうして何度も立ち向かってくるのは、死を恐れておらず、命があるからただひたすらに挑戦し続けているのだと。

「俺は諦めない。だから、俺はまだお前の目の前にいる」

だから、殺せば終わると思っていたのだ。

だが、そんな考えじゃ殺せないことを思い知った。この男を殺したいのであればまず、その心を折るしかなかったのだ。それに気付くのが、あまりにも遅すぎた。

「死の恐怖なんて……とっくの昔に、俺のレベルが…………5の時に捨ててるんだよ」

その男の身体から溢れる青色の闘気と魔力が、自分の身体と同じサイズにまで膨れ上がっていることに気付いた時には、もう、全てが遅かったのだ。

「そんな俺が今、どれだけのレベルになったと思ってる? 死ぬのが怖いなんて……思うわけがないだろ? 思わなかったから、今こうして、お前の目の前にいるんだ」

そして理解する。

この男がどうやって際限なく強くなり続けたのかを。どうしてその境地に辿り着けたのかを。

それはこれまで、他者から奪い続けてきた自分とは真逆の理由。己の力だけで、努力してきたからこそ手に入れられた最強への秘訣。

「俺を……誰だと思ってやがる? 俺は本来、こんなところに辿り着けるはずのない……才能のない凡人なんだよ」

弱いという、心の強さ。

理不尽を許せないから、絶対に認めようとしない頑固者だから、こんなところにまで辿り着いてしまった。壁があれば、乗り越えなければ気が済まない男だったから。

なのに、一発で乗り越えようなんてことは考えていない。だから、死を恐れない。

そうやって、何度も何度も躓いて、それでも一方的に未来を奪おうとする者が許せなくて、必死に駆け上がってきたからこそ、どんな壁が目の前に立ち塞がっても、登ることをやめない。

そして今、頂へと辿り着いたのだ。

「そんな俺が、なんでここに辿り着けたと思う?」

鏡の全身から溢れでた青き闘気と魔力の塊が、鏡の拳へと集約されていく。

デミスと同等のサイズにまで膨れ上がった力が、小さな腕に全て圧縮され、鏡の拳ははち切れそうなほどの光に包まれた。

『来るな…………来るなぁぁぁぁああ!』

その瞬間、デミスはかつて感じたことのない絶望に襲われ、これまでゆっくりと動いていたのが嘘だったかのような速度で、宇宙の果てへと逃げ出した。

それは、ハッキリとわかるほどに、これまで度々感じていた悪寒が強まったことで抱いた感情。

死への恐怖。

これまで積み重ねてきた全てを失うわけにはいかなかった。

だから、デミスは無様にも逃げ出した。

生き延びれば、他の星の生命を喰らって蓄え、復讐する機会も訪れるはずだから。

だが、鏡に見逃す気はさらさらなかった。

「これが最後だと言うのであれば……受け取れ! 師匠!」

デミスが逃げ出したのを見て、前線で戦っていたレックスは次の一撃が最後であることを悟った。

倒しても倒せなくても、終わりとなる一撃。

故にレックスは、この戦いが始まって以降、ずっと使わずに溜め続けていた力を全て握りしめていた剣へと注ぐ。

受けたダメージを蓄積させ、己が力を発動する時に上乗せするスキル『リベンジ』によって、レックスが負ったダメージの全てのエネルギーが集約された剣は、剣内に収まらなかったエネルギーが放出されて、眩い光を放つ剣となる。

「クルル……お前の力も貸せ!」

「…………! はい、わかりました!」

レックスがその剣を振りかぶり、鏡の下へと投げつけた瞬間を見計らって、クルルは与えた衝撃を倍加させるスキル『英雄の陽炎』を発動させる。

レックスのスキル『リベンジ』と、クルルのスキル『英雄の陽炎』の力が合わさり、投げられた一本の光輝く剣は、鏡に追いつかん速度で直進を続けた。

「「「「「「「「行け! 英雄!」」」」」」」」

戦場にいた全ての者たちが叫んだ。

デミスは、さらに速度を上げてこの宙域から逃げ去ろうとしていた。

このままでは確実に逃げられる。逃がさないためには、右の拳に籠めた力だけでは足りない。命そのものを燃やさなければ、今の鏡であっても確実に逃げられてしまう。

だから鏡は、それまで黄泉へと片足を突っ込むに等しき想像を絶する肉体への負担があったがために使わなかった力を解放した。

その瞬間、時が止まったような感覚が鏡を包み込んだ。

それはもはや、時間の感覚を狭めるといった領域の力ではなかった。

全ての存在の動きを支配し、止まったに近い時を、動かす鏡が持つ最後の力。

『エクゾチックフルバーストAct7』

鏡は、後方から一直線に飛んできたレックスの剣を掴み取り、勢いを殺さないどころか、さらに勢いを増してデミスへと直進する。

「なんでここまで辿り着けたのか、教えてやるよ」

止まったに近い時の中で、鏡は呟く。

そして加速していく、音速を超え、光の速度を超えてデミスの下へと一直線に。

「それは……俺が…………!」

最早誰にも認識されることのない止まった時の中を叫びながら、鏡は握りしめた剣を振るい、拳に籠められた全ての力を剣へと乗せて前方へと解き放った。

「レベル999に昇りつめただけの……ただの村人だからだ!」

クルルのスキルによって倍加された、レックスのスキルによるエネルギーが一気に放出され、白く光り輝く三日月状の巨大な斬撃が撃ち放たれる。さらにそこに、鏡の力による青き光が後を追って加わり、次元を歪ませる威力の斬撃と衝撃波がデミスの全身を包み込んだ。

それは、世界の理不尽に見舞われた男が、世界の理不尽を認めたくなくて、その世界を作ってしまった存在をぶっ飛ばすことを目標にしていたからこそ放てた、存在を否定する一撃。

神(かみ) 殺(ごろ) しの 一撃(いちげき)

『我が……消え…………?』

放たれた濃密なエネルギーはそのままデミスの身体を飲み込んで銀河の果てまで吹き飛んだ。

衝撃波によって粉々に砕かれたデミスの身体は、濃密なエネルギーの波動に耐えきれずに少しずつ崩壊しては朽ちていく。

『ありえぬ…………ありえ………!』

デミスが最後にどうなったのかはわからない。

だが、永遠に止まることのない衝撃波に飲まれたデミスが再び戻って来ることはないだろう。

たとえ生きていたとしても、その衝撃を脱し、戻ること等できないから。

そして、主を失った変異体、デミス細胞、モンスターたちは次々に活動を停止させると、肉体を元のただの肉塊へと変化させていく。その瞬間、誰もが人類の勝利を確信した。

「…………これでいいんだろう? ………來栖」

光の速度で技を放った身体は、デミスを倒したところで勢いを止めることはなく、そのままデミスの後を追うように直進していく。全てを出し尽くした鏡は、デミスの最後の瞬間を見届けると、最後に青き星を一瞥してゆっくりと瞼を閉じ、満足そうに笑みを浮かべた。

「鏡……さん?」

一同が勝利を喜ぶ中、アリスはいなければならない最大の功労者の姿を探し回る。

しかし、デミスが消え、平和の訪れたその場所に、鏡の姿はなかった。