軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それは、その一瞬でしかなくて-8

「予想はしていたが、また強くなったのだな鏡殿は……際限がないというのは凄まじい。いや……鏡殿だからこそ、その力が真価を発揮するのだろうが」

同じくデミスの体内の中、肉の壁から這い出されるように出現したデミス細胞と変異体を僅か一秒で瞬殺し、手に付着した粘液を払う鏡を見て、メノウが驚愕の表情を浮かべる。

「それで通常なのだろう? 制限解除をせずとも常に倍近くの力を出せるとは……信じられん。私には鏡殿の動きが何も見えないぞ」

二人は、來栖たちが侵入したデミスの体内への入り口とは正反対に位置する場所から体内へと入りこんでいた。体内に入り込んでから早くも一日が経過しており、二人はどこがゴールかもわからないデミスの体内を彷徨いながら歩いている。

迷路のように入り組んだデミスの体内だったが、メノウがマッピングをしながら進んでくれているため、一度体制を整えるために戻ろうと思えば戻れたが、最早そんな時間の猶予は残されていないだろうと二人は食糧と魔力タンクの入ったミリタリーバックを背に突き進んでいた。

「朧丸殿は大丈夫だろうか……敵が宇宙船を無視して我々を追いかけてきたから、多分無事だとは思うが……最悪、全てが終わったあと漂流した先で誰かが見つけてくれることを祈るしか……まさか移動途中で通信機を破壊されているとは、とんでもない失態だ」

一日経っても極稀に敵に襲われるだけで何の変化もなく、終わりの見えないデミスの体内に焦りが生まれ、メノウが暗い表情で溜息を吐く。

「なあ、メノウ」

反応がなく、ずっと独り言のようになっていたメノウに鏡が語り掛ける。

「……なんだ? 鏡殿」

珍しく話しかけてきた鏡に、メノウは顔を上げてすぐさま反応すると、パッと表情を明るくさせた。

「こうやって二人で一緒に薄暗い洞窟の中を歩き回るの、なんだか久しぶりだな」

「……そうだな」

そして、昔のことを思いだし、メノウはしんみりとした表情を浮かべる。

「昔、必要最低限の会話しかしない私との旅はつまらないと言われて……ショックだったのを今でもハッキリと覚えている。まあ今だと……鏡殿の方が、口数が少ないように思えるが」

実のところ、メノウも鏡と同じことを考えていた。昔一緒にダークドラゴンの下に行ったときと似ていると。だからこそ、今度はつまらないと言わせないために言葉を絞り出してずっと語り掛けていたのだ。

「どうだろうか? 今の私は小粋なトークを……いや、私はできていただろうか?」

今の自分ができていないのはわかりきっている。だからメノウは、今はもう存在しないかつての自分のことを鏡に問いかけた。自分は成長することができていたのかを確認するために。

「残念ながら……こっちの世界に来たメノウも最後の最後まで昔と変わらなかったぜ? ……誰かを心配して、誰かのために、自分を犠牲にしてまで……用心を促していた」

ほんの少し前の出来事なのに、ずっと昔のように感じられるメノウの最後を思い出して、鏡は少し悲しそうに控えめな笑みを浮かべた。

「でもさ、今だから思う。間違っていたのは……俺だったんだなって」

ここにいるメノウが偽物というわけではない。だが、だからといっていなくなってしまったメノウのことを忘れるわけはなかった。そのメノウから、たくさんのことを教えてもらったから。

「必要最低限の会話でも、一緒に居て、居心地が悪くないのはつまり、どっかで楽しいって思ってるからなんだ、お前をいなくなってから気付いたよ」

改めてメノウを前にして、その大切なことが鮮明になっていくのを感じた。

失って、再び出会うことでようやく気付けたのだ。「ああ、そうだったんだな」と。

「さっきから口数が少なかったのはそういうことか?」

「俺たちの間に多くの言葉は必要ない、俺とメノウの関係ってのは、そういうもんだろ?」

同意なのか、メノウは微笑を浮かべる。

「って言いたいところだけど、俺が喋らないのは実は別に理由があったりする」

「……別の理由?」

「聞こえるんだよ……声が」

「声だと? 私には何も聞こえないが……今も聞こえているのか?」

「集中しないと声を拾えないけど……今も聞こえてる。頭の中に直接響いてる感じ」

メノウと言葉を交わさずとも気が落ち着くのに変わりはなかったが、語り掛けてくるメノウに鏡がずっと返事をせずにいたのは、微かに聞こえてくる声を拾うためだった。

「その声は鏡殿に何を……?」

「呼んでるんだよ、さっきから『こっちへ、こっちへ』ってな、だからその声に従ってさっきから歩いてるんだぜ?」

走らず、歩いて行動していたのは声の聞こえる方角を確かめながら進むためだった。それを理解して「……だからか」とメノウは一度納得すると、すぐに顔を強張らせる。

「信用していいのか?」

「相変わらず用心深いな。どっちにしろ、当てずっぽうに歩いたところでキリがないだろ? なら、この声を信じて進んでみるさ」

呼んでいる。誰かが鏡を呼んでいる。

思い当たる人物はいたが、本当にそれだという確信はもてなかった。

何故なら、既に敵は攻撃を開始したから。

だが、デミスの体内に入り込んで一日が経つというのに、たまに現れるくらいで一向に敵が出現しないことから、万が一の可能性があるのかもしれないと鏡は感じ始めていた。

答えは、声の先にある。

それを確かめるため、鏡は少しずつ、確実に声の聞こえる方向へと歩を進めていった。