軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それは、その一瞬でしかなくて-4

「誰がどのラストスタンドに乗ってるかすぐわかるわね」

「ラストスタンドに乗ってても特徴が出るなんて、本当にノアのアースクリア出身者は面白い人たちばかりですね」

「あのお姫様に関してはピッタのおかげだと思うけど」

姿は見えないはずなのに、どれに誰が乗っているのかがわかるのが面白いのか、パルナとロイドは笑みを浮かべる。

「あれは……!」

しかし、フローネの声に反応して視線をデミスへと向けると、すぐに表情を強張らせた。

巨大なデミスの肉体の表面、そこに数えきれない量の魔法陣が生成され始めたからだ。

「まさか……ここまで魔法の使い分けができるとはね」

これは想定外の事態なのか、來栖も顔を歪ませる。

魔法陣の生成は単純な魔力だけではなく、知力による魔法の理の理解が必要となる。

無論、魔力回路を通して魔力の流れを調整するなど細かな技術が必要だ。誰もが使える力ではあるが、攻撃用として簡単に扱える力ではない。

だからこそ戦士や武闘家は魔法に頼らず、また、アースに魔力銃器と呼ばれる代物が存在する。

「鏡さんを倒した魔法ほどじゃなさそうですけど…………かなり危険な匂いがします」

「ティナ君の力でなんとか耐えられないかい?」

「耐えられるには耐えられるでしょうけど……ダメージを無効化するわけじゃないので、ずっと撃ち続けられたらかなりきついですよ? 変異体やデミス細胞もいますし」

嫌な予感を感じ取ったのか、ディルベルトの背中にしがみついたティナが顔を歪める。

「生成された魔法陣を崩せば魔法は発動しません! 数が多いですが……少しでも減らせれば」

デミスが生成したのは一つ一つが低威力だが、炎や電撃や氷による魔法を撃ち放つ魔法陣。それも魔力が続く限り撃ち放たれ続ける連射式のもので、止めるには魔法陣を崩すしかない。

『あたしたちに任せて! メリーちゃん、狙える⁉』

『やってみる!』

直後、ラストリボルトがその機動性を活かして先行し、魔力銃器を構える。

『っつ……邪魔が!』

だが、当然の如く先行したラストリボルトに変異体やデミス細胞が一斉に群がり、油機は捕まって身動きがとれなくならないよう、変異体とデミス細胞を蹴散らして逃げ惑った。

『くっそ……こんだけピュンピュン動いてたら狙えねえぞ油機!』

『そんなこと言っても……! あの数に捕まったらこの機体でもぼこぼこだよ⁉』

そうこうしている間にも、デミスの表皮に生成された大量の魔法陣が輝きを増していく。

『しまっ……!』

そして、こちらが干渉する間も与えられないまま、魔法陣から魔法が撃ち放たれ、魔法発動による光がラストリボルトの中で、照準を合わせていたメリーの視界を奪った。

「クーちゃん! なんとかできないの⁉」

「無理です、私の魔法はここからじゃまだ届きません!」

「じゃあティナ!」

「わかっています! でもずっとは耐えられませんよ!」

今も尚、こちらからデミスへと向かって移動しているのも相まって、猛速度で接近してきている複数の魔法を前に、慌ててパルナたちがなんとか守る手段を考える。

「くだらんな」

だが、魔王がつまらなさそうに溜め息を吐いた瞬間、一同は何が起きたのかわからず、驚いた顔を浮かべて固まった。

エデンの前方、丁度ラストリボルトの目の前にぶつかりそうな魔法だけを遮る形で、薄黒い半円状の渦が生成されたからだ。

「あの村人を倒した、ただの力押しの魔法であれば私でもどうしようもないが、そんな誤魔化しの数だけの魔法、いくら放ったところで私には通用せん」

薄黒い渦にデミスの放った魔法が振れると、魔法は渦に流されるようにして円の輪部へと移動して放出され、エデンにぎりぎり当たらずに後方へと流れていく。

「あれは一体……なんですか?」

「低威力の魔法は魔力の質量が軽く、速くは飛ぶが貫通力に欠ける、なら軌道を変えればいい」

魔王は簡単なことのように口にしたが、その返答を聞いてフローネは狼狽を顔に漂わせた。

エデンは大陸と呼べるくらいには範囲が広く、その前方全体を覆うとなれば膨大な魔力が必要となる。だが、魔王は膨大な魔力を消費しているわけではなく、最小限に魔力の消費を抑えて重力魔法を使い、敵の魔法を潰すのではなく受け流していたからだ。

単純に、相手の魔法をかき消すだけなら高密度の魔力を放てば誰にでもできる、だが魔王は、必要最低限の魔力だけでこの危機を見事に回避してみせた。

「さすが、保管されていた魔力タンク五人分を空にしただけのことはあるね。これを乗り越えたら……一応魔力を補充しに一度戻ってください」

「お父さん……こんなに凄かったんだ」

期待以上の成果だったのか、來栖は安心して笑みを浮かべる。

アリスも、実の父親が全力で戦うところを見るのは初めてで、魔王に尊敬の眼差しを向けた。

「何故、世界の管理者である私ではなく、あの方が、いや……これまでの歴代の魔王が魔王と呼ばれていたか知っているか?」

「わかるわけないじゃないの……私たちはずっと敵対し続けてきた間柄だったんだもの」

そんな一同の反応が今更すぎておかしくなったのか、エステラーは笑みを浮かべてタカコに問いかける。

「忘れたか? 私が魔王様に何をしたのか?」

それを言われて、タカコは気付く。世界の管理者でありながら、魔王をわざわざ弱らせなければ意のままに操れなかった過去の出来事に。

「魔王とは、魔族を束ねる王に与えられる称号ではない。魔の力が……最も強い者に送られる称号なのだ」

魔王が倒されリセットが行われることにより、魔王と魔族は再編される。

だが、その時に生まれる魔王の強さは必ずしも一定ではない。

あまりに強すぎる魔王が生まれてしまい、いつまで経ってもアースへと渡る者が現れないことから人類に危機感を与える運びになったように。

その理由は単純だった、新たに再編された魔族の中で最も強い者が魔王となるからだ。

「重力魔法ってだけでも難しいのにあんな広範囲に……クーちゃんでも難しいんじゃない?」

「同じことはできそうですが……あれだけの広範囲の制御は骨が折れそうです」

「あ、一応できるのね……クーちゃんも大概化け物だったわ」

「……化け物」

同じく魔法を扱う者としてもその精度は圧巻だった 受け流された魔法はエデンの周囲へと跳び、変異体やデミス細胞へと当たっている。

結果的に相手の魔法を利用することで、さらに有利な状況となっていた。

「魔王ちゃんが戦うのを見るのはこれで二回目だけど……相変わらず凄まじいわね。弱っていたあの時でも充分凄かったのに、全力だったらこんなこともできるのね」

「一応、私はアースクリアにとってのデミスみたいなものだからな。まあ、規模が違うが」

「ふふ、戦わなくてよかったわ」

皮肉で言ったつもりがおかしくなったのか、魔王とタカコは顔を見合わせると鼻で軽く笑う。

「魔力は定期的に補充しながら頼むよ、君に消えられては困るからね」

直後、継続して魔法の発動を続ける魔王の手元に來栖から小瓶が投げ渡される。それを魔王は片手で受け止めると、すぐさま指で軽快な音をたてながら蓋を開け、一気に飲み欲した。

「一度……人間が使っていたポーションと呼ばれるものをこうやって飲んでみたくてな」

「成分は違うけどね、説明してわかっているとは思うけどそれは緊急用だ。魔力が無くなりそうだと思ったらすぐにエデン内部に保管している魔力タンクで回復して」

そう言うと、來栖はアリスを一瞥して不敵に笑みを浮かべる。「これでいいんだろう?」と言っているような來栖の表情を見て、アリスも微笑を返した。

決して、魔族をないがしろにするつもりはないという意志を感じ取ったからだ。

「よし……活路を開くぞ、魔族はエデンの外周に沿って待機し、敵の接近を防げ! さっきのようなよほどの攻撃は魔王様がなんとかしてくれる!」

魔王によって攻撃が遮られ、ラストスタンドによる援護も加わったところで、エステラーがエデンの地上で魔力の都合上行動することなく待機していた魔族に号令をかける。

すると、魔族は待っていたと言わんばかりに咆哮をあげ、指示に従って動き出す

「また……来るぞ!」

無論、おとなしく勢いに乗せてくれるわけもなく、デミスは効果がないとわかるや否やすぐさま魔法による攻撃を止めて、表皮に生える触手を一斉にエデンへと向けた。

それを利用する形で、変異体やデミス細胞たちが一斉に迫りくる。

『凄まじい攻撃だが……耐えられている! いける、このまま……突っ込むぞ!』

近付けば近付くほどに攻撃は激化していく。

実弾と魔力が尽きたのか、エデンに備えられていた砲口からの援護射撃はなくなり、さらに数を増したデミスの触手も加わって、遂にデミス細胞と変異体たちはエデンへと降り立つ。

無論、デミス細胞と変異体たちは遠くからエデンに近付けさせまいと魔法を放つ魔法使いや呪術師を中心に狙うが、それをカバーするように戦士や武闘家たちが立ち回った。

ロイドとレックスも加勢し、油機とメリーが搭乗するラストリボルトと、シモンが搭乗する巨大な剣を手にしたラストスタンドが共にデミスの触手を退けていく。

稀に、さばききれなかった触手がエデンに衝突したが、それもティナのスキルによって抑えられた。とはいえ、エデンの外装はスキルの効果が及ばず、触手とぶつかる度に衝撃によって破壊されていく。

さらには触手にぶつかった時の反動でエデンの外へと弾き飛ばされた者も存在し、かといって救出のために泊まるわけにもいかず、エデンは少しずつ犠牲を出しながら突き進んだ。

辿り着いたところで、次のチャンスに繋がるだけでしかない小さな希望を掴み取るために。

エデンが破壊されてしまうのが先か、到着し、チャンスを掴み取るのが先か、たったの十数分が、永遠にも感じられる緊迫した戦いが続いた。

『來栖……ここまでだ! 行け…………行けぇぇぇえ!』

噴きだしていたガスが止まり、減速のために逆噴射が始まる。そして、通信室でエデンを動かしていたセイジの叫び声がエデン全体に響き渡った。

月面のクレーターのようにデコボコとしたデミスの表皮、表皮から分離するように次々に生み出されるデミス細胞、そこに点在するデミスの核へと繋がっているだろう洞窟のような巨大な円形の洞穴、その洞穴から噴き出すように出現する変異体、表皮を埋め尽くさんばかりに生え伸びる大量の触手。

一同は、その全てを見上げるだけでハッキリと確認できた。

遂に、一同は到着したのだ。