軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それは、その一瞬でしかなくて-3

「さっきのなんてただの前座にしかすぎない、ここからが本番だよ」

気を引き締めなおすように來栖が一同に声をかけた直後、再びデミスの身体から生えた触手が猛速度で襲いかかる。それも一本だけではなく、今度は数十本の数で。

エデンからの砲撃をその身に受けても動きが止まることはなく、それどころか、その軟体な触手の特徴を生かし、近くに居た変異体やデミス細胞たちを砲撃から守りながら接近してきた。

「…………早い!」

触手のあまりの速さに、ロイドは眉間に皺を寄せる。

「想定していた攻撃だね、エクゾチックフルバーストを発動した触手をどう回避するかがここからの課題だ……これをクリアしなければ、未来はない」

必ず訪れる問題と既に覚悟を決めていたのか取り乱さずに來栖は語った。

エクゾチックフルバーストは身体能力を上げる技ではなく、1秒を10秒感覚といったように時の感覚を狭めるスキルである。しかし、もとよりあまりある触手を完全に扱いきれていなかったデミスにとって、それは数倍の速度で触手を扱えるようになったのも同意犠だった。

「初撃はなんとかなりましたが……連続されるときついですね」

ロイドも、一瞬どうしたらいいものかと冷静さを欠くが、すぐに落ち着きを取り戻す。

「力を温存しておきたいところでしたが……致し方ありません!」

そしてすぐ、闘気によって作られた剣を大量に生成し、雨のように斬撃を放つ殲滅技、エクスカリバーを迫りくる触手へと撃ち放つ。

激しい斬撃の雨と、その後に続いて撃ち放たれた魔法使いによる爆破魔法が次々に触手、そして変異体を退けていくが――

「っく……しまっ!」

爆破魔法による爆発によって視界から消えていた一本の触手が、一同の眼前へと迫る。

「ティナ君!」

直後、海パン一丁の変態が一同の上空に飛びあがった。

そして大きな叫び声をあげると、ティナはすかさず「はい!」と返事をし、光の粒子をディルベルトへと注ぎ込む。全身が仄かな光で満たされたその後、ディルベルトの身体全体を押し込むように触手がぶつかるが、まるでそこに透明な壁があるかのように触手はせき止められた。

無論、触手の動きを止めたあとディルベルトが何もしないわけがなく「君は私のボディーに負けたのだよ」と叫び声をあげると、身体全体を捻って裏拳を放ち、触手を吹き飛ばす。

「ん……はぁ! 美しい! ティナ君の力を受け、最強無敵の王が……ここに、爆……誕!」

髪を信じられないくらいもったいぶりながらかき上げるディルベルトを前に、ティナは「今すぐ解除したい」と、どうしてこんな変態を守っているのか疑問に思ってしまう。

「よし、それじゃあティナ、君はディルベルト君と組んで皆を触手から守ってくれ、頼んだ」

しかし無情にも、それが最善の策だと來栖はハッキリと告げた。

「この変態と……密着」

ティナは目に見えて嫌そうな表情を浮かべる。

唯一デミスと同じ『エクゾチックフルバースト』の力を持つディルベルトは、その力を発動すればロイドとレックスと同等以上の反応速度で行動することができた。

しかし、皆を守り切れるだけの力はディルベルトにはない。しかし、ティナを密着させ、ティナにもエクゾチックフルバーストの恩恵を与えれば、ティナの持つダメージを百分の一に抑えるスキル『淑女の施し』を素早く発動できるため、守り切れる可能性が高まった。

「おっふ、いくら私が王様で高貴すぎるからと言って遠慮なんていらない、さぁ!」

準備はできているのか、ディルベルトは尻を叩いてスパーンと軽快な音鳴り響かせた。

ウィンクしながら白い歯を見せて笑う海パン一丁の男を前に、ティナは死んだ魚のような目をしながら何も言葉を発することなく、もぞもぞと嫌そうにディルベルトの背中へと密着する。

「他にも前方から来ます!」

その時、フローネの叫び声が辺りに響き渡った。

たった今、絶望的な攻撃を防いだばかりにも関わらず、休む暇なく再度触手が迫りくる。

「後方からも……! 挟み撃ちに……!」

今度は正面からだけではなく、その長い触手の特徴を活かして包み込むように全方向から。

「大丈夫さ、ここまではセイジも想定しているはずだから」

しかし、來栖は取り乱すことなく、やはりそこも想定していたのか笑みを浮かべる。

『やっほー! 聞こえる? ここからはあたしたちに任せて、ロイドさんたちは力を温存して!』

直後、一脳に直接響き渡るように、ラストスタンドからの通信と思われる軽快な声が響いた。

そして一同の目の前に突如、スラスターから噴出されたエネルギーの粒子を撒き散らしながら、ラストスタンドは異なる、一回り大きいサイズの白い塗装が施されたロボットが姿を現した。

その速さは、まるで瞬間移動をしてきたかのようで、動きを追いきれなかった目が、白く美しい残像を宇宙空間へと残す。

『メリーちゃん……準備はいい?』

『任せろ、狙いは絶対に外さない』

油機の掛け声が聞こえると、白い機体の全身が、エネルギーの流れによる青い光で輝く。

すると機体は、再びその場に白い残像を残し、生え伸びる触手の真横へと一瞬で移動した。

そしてすぐさま、白くて長い、刀のような剣を腰元から右手で抜き去ると、眼にも止まらぬ速さで振るう。

すると、刀の切っ先から、搭乗者の魔力が籠められた三日月状の巨大な斬撃が放たれた。

巨大な斬撃は複数の触手を同時に一刀両断するだけではなく、斬撃の軌跡上にいた変異体たちも殲滅する。

『まだまだぁ!』

それだけでは終わらず、白い機体は刀を持っていない左手で、背負っていた魔力銃器を素早く取り出すと、斬撃の当たらなかった少し離れた場所の触手へと向ける。

そして、パルナが使うマジックバーストに似た、高出力の魔力弾を撃ち放つと、狙った触手の背後に隠れていた触手ごと撃ち抜き、エデンへの接近を防いだ。

『へ……2枚抜きだぜ』

直後、メリーの得意気な声が響き渡る。

『見たかぁ! これがライアンさんの千年の結晶! ラストリボルトの力だよ!』

一瞬にして十数本の触手を処理した白い機体を前に、エデンの地上にいた一同は一瞬言葉を失うが、すぐにそれが味方であると心強さを感じて歓声をあげた。

「すっご……何あの機体、私たちがちまち魔法使うのが馬鹿らしくなるんだけど」

魔法で援護を行っていたパルナも、攻撃の手を止めてラストリボルトへと視線を向ける。

「確かに……あれはとんでもないですね、ロイド君や、レックス君とはまた違った凄さがある。機体である以上、エネルギーが無くなれば動けなくなる欠点はあるのでしょうが……素晴らしい。あれがライアンの最後の作品ですか……まるでアニメに出てくるロボットだ」

事前にその存在を知っていた來栖も、ここまでの力とは思わず嬉しい誤算だと笑みを浮かべた。

恐ろしいのは、これでまだラストリボルトが未調整の機体であることだ。実際、今の一連の動作は、ただ接近攻撃を仕掛け、魔力銃器を撃っただけで特別な力を発揮したわけではない。

仮にあれが完成していたらと想像して、來栖は少し残念そうに口元に手を当てる。

『なるほどな……これならワシでも、生身で戦うよりも大きな攻撃力で敵を切り裂ける』

だが、大きな戦力はラストリボルトだけではなかった。

渋い声が聞こえると共に、ラストスタンドの倍はある巨大な大剣を手に持った機体が現れ、これまたデミスの触手を一刀両断する。

『エッケザックスか……いいものをくれたものだ。魔力銃器とかいうもので敵をちまちまと撃ち殺すよりも、こっちの方がワシの性に合っている』

想像以上にしっくりとくるのか、シモンはラストスタンドの一部と思えるような軽快な動きで大剣を振り回す。シモンが乗っていたラストスタンドには魔力銃器は備えられておらず、代わりに魔力によって剣先が青く光る巨大な大剣が握られていた。

『王よ、私の傍から離れぬようお願い致します。私の周囲で戦えば、たとえ囲まれたとしても王の力であれば難なく突破できるでしょう』

シモンのラストスタンドを筆頭に、エデン内部の格納庫で待機していた他のラストスタンドが一斉に姿を現す。ミリタリアのスキルは敵の能力を下げる重要な役割を果たすため、ミリタリアが乗っていたラストスタンドには、その機体に乗っている搭乗者が重要な人物であることを示す青色のマントがつけられていた。

『ふ……洗脳の力が何の役にも立たない今、お前の方がずっと役に立つな』

『お戯れを……この機体に乗っている以上、私は魔法も放てなければ回復もできません、近接の戦いに長けている王の方がずっと役に立つはずです』

『それだけが救いか……ワシの技術も、無駄ではなかったようだな』

感慨深く鼻で軽く笑うと、シモンが搭乗するラストスタンドのすぐ真上を魔力弾が通過する。

『父上! 援護致します!』

それは、シモンの死角となっていた場所から変異体が接近していたのを素早く察知したフラウが放った魔力弾だった。シモンは油断していたのか「大剣は小回りが利かん、助かった」とすぐさまフラウに感謝の言葉を述べる。

『フラウ……後ろだ!』

その時、フラウが搭乗するラストスタンドへと顔を向けると、フラウのすぐ背後からデミスの巨大な触手が接近していたのを目にし、声を荒らげてシモンが注意を促す。

『大丈夫……です!』

だが、フラウが搭乗していたラストスタンドは突如機体を回転させ、ラストスタンドの標準的な装備である片手剣を薙ぎ払った。

シモンのように一刀両断というわけにはいかなかったが、勢いをつけて斬りつけたため傷は深く、触手は怯んで後退する。その隙をついてすかさずシモンが大剣を振るい、触手を切断した。

「後ろにも目がついているみたいな動きだな……ピッタが乗っているのか?」

普通ではありえない動きを見せたラストスタンドに、レックスが感心を示した。