軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バッドエンド-5

「レックスちゃん!」

その途中、反対側から猪かと一瞬間違える迫力でこちらへと迫る筋肉の塊が視界に映る。

「……タカコ!」

タカコはレックスの姿を捉えると、急ブレーキをして立ち止まった。よく見ると、タカコの右腕にはぐったりとした様子のティナが担がれている。

「相当慌てていたようだが……そっちもデミス細胞が現れたのか?」

「ええ……そっちも仲間を置いてけぼりにするくらい随分と慌てていたみたいだけど?」

ウインクしながら背後を振り返るようにタカコが促すと、レックスの走る速度についていけなかったパルナとフラウの二人が後から追って現れる。

「……あんたね、あたしたちを置いていくんじゃないわよ!」

「す、すまない」

「お……お主ら、体力の化け物か? なんであんな速さで走っておいて息切れしないんじゃ!」

「そりゃ、フラウ様とはレベルが違いますから」

合流を果たすと、タカコは担いでいたティナを地面へと降ろす。

ティナは地面に降ろされると何も言わずに、暗い顔を浮かべて俯いた。

てっきり、ティナがぐったりとしていたのはタカコの激しい動きに目が回ったからだと思っていたレックスは、疑問に感じて首を傾げる。

「レックスちゃんたちはトレーニングルームから出てきたところ?」

「ああ、そっちは?」

「私は鏡ちゃんとディルベルトちゃんがどんな特訓をしているのか様子を見るために外に向かったんだけど……折り返して戻ってきたのよ。ティナちゃんはその途中で拾ったわ」

「折り返してきたというのは何故だ?」

「……この施設が囲まれてるのよ、数えきれないくらいの数のデミス細胞と変異体たちにね」

その事実を受けて、レックスとパルナは目を見開かせる。だが、中に入り込んでいるなら当然のことだと考え直すと、すぐに次にどうするべきか思考を巡らせた。

「さっき……施設内で変異体と遭遇した。変異体が中に入り込める穴はないことを考えればデミス細胞の犠牲になった者が既にいると考えられる。ここはまず、内部の安全を確保した方がいいんじゃないか?」

「そう言ってもいられないわ、外を放置すればデミス細胞にいくらでも中に入り込まれることになるのよ? 鏡ちゃんとディルベルトちゃんがいるけど、二人だけじゃ心配だわ」

「なら……二手に分かれるか?」

「その必要はないわ、さっき王様やクルルちゃんたちとバッタリ出くわして、他のアースクリア出身の人たちと協力して内部を守ってもらえるように頼んでおいたから。だから私はレックスちゃんたちを探していたのよ。そっちから来てくれて助かったけど」

既に動いていてくれたことにレックスは表情を明るくすると、「それなら急ごう」と再びを走り出そうとする。しかし、戦いに出向こうとするレックスの手を素早く掴むと、ティナは恐怖に怯えた顔で首を左右に振った。

「どうした……ティナ?」

「どうして……デミス細胞がここにいるんですか? 戦いは……まだ先のはずでしょう?」

ティナの異常な怯え方に、レックスは眉間に皺を寄せる。だが、ティナに構っている余裕もなく、レックスは力強くティナの肩を掴むと、「しっかりしろ!」と叫んだ。

「うだうだ言ったところでもうどうしようもないんだ! 敵が迫ってきている……これは避けようのない事実だ!」

「だって……まだ準備も何もできてません。スキルだって扱えて……なんで? どうして?」

現実を受け止めきれず、混乱している様子だった。恐らくはどんな言葉をかけたところで今のティナには響かないだろうと早々に判断すると、レックスはタカコに顔を見合わせて頷き合う。

「……ここで悠長に話している暇はないわ。ティナちゃんには申し訳ないけど、今は猫の手も借りたい事態よ、一緒に来て頂戴」

そしてそれだけ伝えると、タカコは一足先に外へと向かって走り出す。ティナの様子を見ていたパルナとフラウも、かける言葉が見つからずその後に続く。

「……ティナ、僕たちは元々、想定外の敵と戦う予定だったんだ。いつ何が起きるかはわからない……だから僕たちはその時が突然来ても良いように特訓していた。それはお前も同じのはずだ……なら、今できることを全力でやろう」

「私にできることなんて……何もないですよ」

「お前が皆を守るためにスキルを扱いこなせるよう努力をしていたのは知っている。そしてまだ扱いこなせていないこともな。でも……それはお前の責任じゃない」

レックスの必死な訴えに、ティナは表情を歪める。鏡も言っていた自分の責任ではないという優しさが、逆に、責めているような言葉に聞こえて胸に突き刺さったからだ。

「戦ってどうするんですか? セイジさんも言ってたじゃないですか、デミスは以前よりも強くなってるって、戦ったところで……私のスキルがろくに発動しないんじゃ負けるのがオチですよ」

「かもな……でもそうじゃないかもしれない。だから僕は諦めるつもりはない」

それは、鏡がいつも口にしていた言葉だった。

諦めてしまっている今の自分にとっては耳障りな言葉でしかなく、絶望しか待っていない現状を前に、一体どんな顔をしてそんな言葉を吐いているのか見てやろうと、ティナは顔をあげてレックスに視線を合わせる。

そして、言葉を失った。

誰かに期待をしているわけでもなく、ただ、欲した未来を求めて必死にあがこうとする、鏡がいつだって浮かべていたものと同じ、勇ましく戦意に満ち溢れた顔つきだったから。

「行こう。戦って勝てなかったとしても、僕たちが今日まで努力してきたことを無駄にしてはならない。僕はティナの努力を知っている……だから、お前の力が未完成でも、必ずお前の力が必要になる、そう断言できる」

レックスはハッキリそう告げると、ティナに手を差し伸ばす。

ティナは真っ直ぐな眼差しを向けるレックスにそれ以上何も言い返せず、手を取ると、二人はタカコに追いつくために長く無機質な通路を再び駆け出し始めた。

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「お前たちが来てくれたおかげで助かった……なんとか命を繋げることはできたみたいだ」

セントラルタワーの最上階、エデンを浮遊させている機能を含めて全システム管理している一室で、ゲル状の液体にまみれて腰を抜かしたセイジが、眼鏡を整えながら安堵の溜息を吐いた。

「間一髪でしたな。まさか、既にデミス細胞に取りつかれているとは思いませんでしたが」

「丁度飛びつかれた瞬間だったんだ。クローンの身体とはいえ、恐らく俺も一瞬でデミス細胞に取りこまれるからな……実際、危ないところだった」

片手に持った大剣を振り払い、剣についたデミス細胞の核とゲル状の液体を落としながら、シモンは、転移か階段を経由してでしか入れない、最上階への入口に視線を向ける。

そこには、大量のデミス細胞と、居住区画で人間を襲って変化したのか、変異体たちが押し寄せていた。まるでそこに、倒すべき敵がいるのだとわかって行動しているかのように。

入り口はクルルとアリスの二人が低威力の魔法を連続で放つことでせき止めていた。全力で魔法を放てば、地下施設もろごと破壊してしまうことになるため、押し出すように弱い魔法を連続で放っている。

しかし、それでも大多数を相手にせき止められたのも、ミリタリアによる敵の身体能力を極限まで低下させるスキル『神に愛されし者』の力が発動しているからだ。

「よく……ここにいるとわかったな。プライベートルームにいた可能性だってあったのに」

「あなたなら臨時の際、他の施設ともやり取りが可能で、エデンの全機能を管理しているここに来ると考えました。むしろ、よくぞここまで辿り着けたものです」

「さっきも言ったがギリギリだった……ここに来たのもついさっきだしな」

そう言うと、セイジは身体に付着した粘液を嫌そうな顔をしながら振り払った。

「一体何が起こっているのでしょうか?」

片手でスキルを発動させながら、ミリタリアは余ったもう片方の手で倒れたセイジに手を差し伸べる。

「簡単な話だ……デミスが目を覚ました。俺たちが奇襲を仕掛けるよりも早く」

最早、それ以外に考えられなかった。恐らくそうなのだろうと予測していたミリタリアも、「やはり……そうなりますか」と、険しい顔を浮かべた。