軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再び-11

「タカコさんが常識的な人で本当に良かったです……変な人がその力を手に入れていたら多分、もうなんていうか……色々な物が壊れていたでしょうから」

「当然よぉ~ティナちゃん。がさつな女は嫌われちゃうでしょ? 扱いは難しいけど……デビッドさんのためならどんな破壊的な力も抑え込んでみせるわ」

「デビッドさんのおかげで一人のラスボスが封じられたって考えると凄い」などとは口にせず、ティナは「素晴らしいです! きっとデビッドさんもその心意気にイチコロです!」と満面の笑顔を返した。

「クルルさんはどんな調子ですか?」

「え? 私? 私がクラスチェンジで得た恩恵は、そもそもの魔法の威力があがるものなので、これといって特別なことはしていませんよ?」

「あれ? じゃあもうデミスとの戦いに向けて準備万端ってことですか?」

「そう……ですね。一通り使える魔法の威力がどうなっているのか、変化を確かめておくくらいでしょうか」

クルルはクラスチェンジによって、常人ではありえない繊細な魔力コントロールを身につけていた。魔力の無駄な放出を防ぎ、多くの魔力を魔法に込められるようになったおかげで、今まで使っていた魔法も、同じ魔力の使用量で格段に強い力を発揮できるようになっていたのだ。

しかし、今まで使えていた力にプラスされた力のため、特に扱うための修練は必要ない。

「だから今は、私よりも時間が必要な人のために、何かしてあげられないかって思ってます。ティナも回復が必要でしたらすぐに頼ってくださいね? タカコさんも、技を試したかったら氷柱を魔法で作りますのでいつでも言ってくださいね」

「あら、それは助かるわ」

優しく余裕のある笑みを向けてきたクルルを見て、ティナは「……ありがとうございます」と口にしつつも、どこか寂し気な表情を浮かべた。

その自信に満ちた顔が、今のティナには少し辛かったからだ。

「……ティナ?」

その小さな表情の変化にすぐさま気付き、クルルは心配そうに声をかける。

だがティナは、誤魔化すように頬をぐにぐにと揉みしだいた。

「大丈夫です。ちょっと疲れすぎて顔が歪んだだけなので」

やれるだけのことはやる。しかし、努力が必ずしも結果に結びつくとは限らない。

このまま自分のスキルを扱いこなすことができなければ、デミスとの戦いに向けて特訓しているタカコの努力も無駄になり、クルルのその自信を見せつける場も失わせることになってしまう。

もし、もし間に合わなければ――そう考えるだけで、心が張り裂けそうになった。

「どうして自分だけがこんな目にあっているのだろう? 準備万端? クラスチェンジした人はやっぱり違いますね」と、自分でも嫌悪するような劣等感を感じてしまうほどに。

「……見せつけてくれますね」

その時ふと視界に、同じくトレーニングルームの端の方で特訓を行っていたレックスの姿が視界に映り、そんな不安がさらに高まる。レックスは食事をとる暇も惜しんで、クラスチェンジで新たに目覚めた力を扱いこなすための特訓を行っていた。

レックスが新たに得たのは、鏡が使っていたスキル「制限解除」に似た力であり、無意識のうちに30%にまで制限をかけている力を100%にまで引き出すことができる。

だが、鏡の時のように一度使えば自動的に効果が切れるまで発動し続けて終われば動けなくなるほどに疲弊するなんてことはなく、発動時間を自由に調整することまでできる。

無論、身体への負担はかつての鏡の時と同様に凄まじかったが、レックスは発動時間をあらゆる動作の入りと終わりの部分だけに絞ることで、その力を扱いこなそうとしていた。

跳躍の瞬間に制限を解除し、効果の発動を止め、再び止まる瞬間に制限を解除する。その繰り返しを行い、効果の発動時間を一瞬に収めることで、身体への負担を最小限に減らそうとしていたのだ。

「鏡さんを見ているようです……あのレックスさんが、昔の鏡さんの通常時以上の動きをしているなんて、昔の私は想像できたでしょうか?」

言葉にして、ティナは失笑する。

きっと昔の自分なら、無理だと鼻で笑っていただろう。そんな鼻で笑ってしまうことを、レックスはやり遂げたのだと、これまたティナは劣等感を抱いた。

「どうしてこんな気持ちになるんでしょうね……」

そして二人に聞こえないくらいの小さな声で、ティナは呟いた。

仲間の成長は素直に嬉しいはず、なのに、どこか「嫌だ」と感じてしまっている。

理由はわかっていた。自分が臆病者だからだ。

アースに来たばかりの頃は、強さに差はあったが、皆、それぞれ地獄のような修練を重ね、気持ちでは同じ立ち位置に居たはずだった。しかし、度重なる絶望を前にして、少しずつ差が生じていった。

特にレックスは、めげずに何度も立ち向かい。強くなろうとずっと努力してきた。

メノウがいなくなって以降、ずっと逃げてばかりの自分とは違って。

今も、力を一瞬だけ解き放つことで無駄のない動きを掴もうとしているのか、目にも止まらぬ速さでゴムボールのように床、壁、天井構わず跳躍するレックスを見ていると、まるで「折角努力して強くなったのに、お前がスキルの力を扱いこなせなかったら意味がない。わかってるよな?」と責められているようで、気が滅入った。

メノウが亡くなったとき、思い出したのだ。死に対する恐怖を、大切な人を奪われることの絶望感を、そして、死の責任を取らされる苦悩を。だからこそ、ガーディアンでの戦いのとき、アースクリアに帰ることを提案した。

アースクリアの宿命である記憶のリセットを甘んじて受け、全てを忘れ去るためにだ。

「そして私は逃げた」

結果的にガーディアンにいくことになった時、ティナはついていかなかった。

誰一人欠けてはいけない、誰も死んでほしくないと後に口にしたが、死ぬ可能性が非常に高い死地へとついていかなかった。

鏡に引く気がないのならば、死なないようにせめて守ろうとついていくべきタイミングで。

その理由は簡単だった。死の責任を負いたくなかったから。

後にデビッド、シモン、ミリタリアの助けが来て、もしかしたらまだ助けられるかもしれないと思い直し、ガーディアンへと向かったが、はっきり言って遅すぎた。

それなのに、ティナは鏡に説教垂れるかのように「理想は世界が救われることじゃない。私たちが……全員無事に笑って暮らせる世界です!」と口にした。一度は見捨てたくせに。

「私は……卑怯者だ」

それでも、結果的には鏡に新たな力が目覚め、誰も死ななかったのだからと前向きに考えた。しかし、セイジに実力を認めてもらうため、クラスチェンジを行うことになった時、またティナは同じ過ちを繰り返した。

今回、誰よりもクラスチェンジをしなくてはいけなかったのは、ティナのはずだった。

セイジがチャンスを与え、クラスチェンジの試練を受けさせてくれるようになったのも、ティナの持つスキルがあったからだ。ティナがそのスキルを扱いこなし、皆を守るのが全ての前提として道が開かれた。

だからこそ、スキルを扱いこなせる力を身につけることも含めて、ティナはクラスチェンジしなくてはならないはずだったのだ。

しかし、責任を負わされる恐怖に、責めるかのような視線を向けてくる彼らに、どうしても向き合えなかった。だから、また逃げ出した。嫌なことから目を背けて、背け続けて今こうしてここにいる。

「なーにが、クラスチェンジまであと一歩ですよ。笑っちゃいましたよ」

一歩どころか、そもそも門の前にすら立っていなかった。

門のあまりの恐ろしさに逃げ出しただけで。

「……神に仕える身になったとしても、貧民街出身の醜い根性はなくならない……か」

遺伝子レベルで細胞に刻み込まれた過去のトラウマが、ティナを蝕んだ。自分は所詮その程度なのだと、自虐してしまうほどに。

「あんた……さっきから何を虚ろな目でぶつぶつ言ってんのよ?」

「え⁉ あ、わ! ぱ、パルナさんいつからいたんですか?」

「ついさっきよ、三人してレックスの頑張りを見守ってるのかと思ったらなーんか一人だけ様子が違うじゃない? どうしたのよティナ? 悩みでもあるの?」

「いえいえ、別に……それよりパルナさんこそどうしたんですか? 料理しに行ってたんじゃ?」

「もしかしたらデミスとの戦いで役にたてるんじゃないかってことを思いついてね。早速試そうと思って戻ってきたのよ」

その言葉に、ティナは「へー……やったじゃないですか」と、少し引きつった笑みを浮かべる。

デミスに対抗できる力が増えるのは素直に嬉しい。嬉しいはずなのに、素直に喜べない。

何故かはわからなかったが、心の拠り所を失ったような気がしたから。

せめて、最後の時が来たとき「私は全力でやった。できることはやりつくした」と言い訳できるように、ティナは再び疲れた身体に鞭を打ってスキルを発動した。