作品タイトル不明
再び-10
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「んん……んぐぐぐぐぐ! ぶは! もう無理です!」
餅を喉に詰まらせたような青い顔で息を噴き出しながら、修道服を着用した緑髪ツインテールが弾力のある白い床へと倒れ込んだ。
「おい…………まだ十分も経っていないぞ? 体力がなさすぎじゃないか?」
その隣で、あまりの短さにセイジが顔を引きつらせる。
「そりゃ……連続で発動し続けたらそうなりますよ」
エデン内部にあるトレーニングルーム。そこは元々、ここで働いていた研究者のために作られた施設で、アースクリア出身者であればほとんど意味をなさないトレーニング機器が大量に置いてあった。
とはいえ、トレーニングルーム内は広く、ちょっとやそっとでは壊れない弾力性のある壁と床でできており、アースクリア出身者同士がそこで組み手をしても問題はない。
そんな部屋の中で、セイジはティナのスキルの指導を行っていた。
というのも、過去にティナと同じ力をもった超人のことをよく知っているため、ティナの力を伸ばすための助力ができると考えたからだ。
「これでも昔に比べたら体力ついた方なんですけど……というか、このスキルがやっぱり消耗が激しすぎるんですよ」
「いや、前にも言ったが過去にその力を持っていた超人は、そこまで消耗せずに扱いこなしていた。お前がまだまだそのスキルを扱えていないか……そもそも性質が似た力なだけで、異なった力なのかもしれん」
「……異なった力って」
「……そもそも、アースクリアで肉体を成長させたお前が過去の超人より体力がないなんてことは絶対にありえん。となれば、その二択しかないだろう?」
「じゃあ後者ですね。過去の超人さんは低燃費で、私は高燃費、能力は一緒」
だからこんな格好になってしまうのも仕方がないと、真面目な顔で訴えるティナに、セイジは呆れて溜息を吐く。
「ま……それならそれで使いこなしてもらうが」
しかし鋭い眼光を浴びせて、セイジは特訓をやめないという固い意志を示した。
「でも何回やっても上手くいく気がしないんですが……過去の超人さんはこの力を一体どれくらいの範囲で発揮していたんですか?」
「大体……目が届く範囲にいる者たちは全員守っていたな。つまり、その程度はできなくてはならないということだ」
想像以上の範囲の広さに、ティナは遠い目を浮かべた。
ティナが持つスキル「淑女の施し」は、体力と魔力を大きく消費する代わりにダメージを百分の一に抑えることができる。
こうして力を扱えるようになろうとしているのも、デミスとの戦闘時、鏡とディルベルトも持つ体感速度を変化させる力を駆使した攻撃を仕掛けてくる恐れがあったからだ。デミスの全身から生え伸びる無数の触手全てで攻撃を仕掛けられた場合、人類は数分もしないうちに全滅するだろう。それを、耐え抜くためだ。
だがティナは現状、自分の周囲にいる僅かな距離内でしか能力を発揮できず、また、継続して発動できる時間も現在最長で三十分と、デミスと戦うにはまだまだ心もとない状況だった。
「まあ……発動継続時間はそのうち伸びるだろう。実際、この一週間で三分も継続時間が伸びている。扱え始めている証拠だ」
「でも……効果範囲は狭いままですけどね。正直どうすれば広くできるのかわかりません……」
「普段はどうやって発動しているんだ?」
「えっと……この人を守らなきゃって強く意識して、周囲にバリアみたいなのが展開されるイメージを描くんです」
「……イメージ?」
その言葉に、引っかかったような顔で、セイジは思案する。
というのも、付与する力として対象を指定する際、イメージだけでというのは少し異質だったからだ。身体能力を上昇する魔法にしても、回復魔法にしても、自分ではない誰かを対象に力を発揮する場合、付与するための力の道筋を作る必要がある。
回復魔法は特にわかりやすく、直接手を触れたりかざすことで魔法発動のための対象への道筋を作っている。その際、聖書や杖に魔力経由させるのは、力の道筋をより明確化させ、魔力の流れをコントロールしやすくすることで、魔法の効果を増幅させるためだ。
「そういえばお前、そのスキルを発動する時……祈ってるよな? 何故だ?」
「別に祈らなくても力は発動できますけど……こうした方がやりやすいんですよ」
それなのにティナは、手をかざすどころか、手を組み合わせて祈る方が良いと言う。
少なくともそれだけで、過去の超人とは少し異なる力なのがわかった。
過去の超人は目で保護する対象をとらえ、一人ずつ手をかざして守っていたからだ。
「もしかしたらだが……無駄に力を放出しすぎなのかもしれんな」
一つの可能性を見出し、セイジは考えるように顎元に手を置く。
過去の超人と比べティナは、手をかざすことも目で対象をとらえなくてもスキルの効果を付与することができる。それが背後にいる人物であっても、そこにいるとわかってさえいれば自動的に守っていた。
となれば、無意識のうちに全く関係のない場所へと力を放出しているのではないかとセイジは睨んだのだ。
「私はその自覚がないんですけどねぇ……別に無駄に放出しているつもりもありませんし」
しかし、自分でもよくわかっていないのか、ティナは困り顔で床に頬をくっつけた。
少なくとも、今は自分だけを対象に発動しているため、本人に自覚がないのであればその可能性は薄いかと、セイジも考えを改める。
「……とにかく、扱えるようになるまで繰り返し発動を続けろ。俺は他に用事があって一度ここを離れるが、俺がいなくなってもちゃんとやれよ?」
「…………任せてください!」
「今の間はなんだ?」
溜息を吐き「本当に世界を救うカギの自覚はあるのか?」とセイジは文句を漏らす。
そしてそのまま出入り口へと向かうと、トレーニングルームから立ち去った。
「随分と大変そうね」
「ティナ! 大丈夫ですか?」
そしてセイジが部屋からいなくなるや否や、トレーニング内で新たに得た力を試しつつ、遠くから見守っていたタカコとクルルの二人が駆け寄る。
「全然大丈夫じゃないですね……死にそうですよ」
ようやく解放された反動か、ティナは青い顔を浮かべて深い溜息を吐いた。
「このスキル……セイジさんが考えている十数倍は疲れるんですよ。体力だってすぐに回復するわけじゃありませんし……連続で発動し続けるなんて無理です。正直このタイミングでどっか行ってくれて助かりました」
「そうなるわよね……いつもそのスキルを使ったあと、ほとんど動けてなかったし、特訓するにしても難しいと思うわ」
そう言いながら、タカコはティナを起こし上げる。
「私からセイジさんに、もう少し容赦していただけるよう口添えしましょうか?」
次にクルルが心配そうに問いかけると、ティナは少し思い悩んだあと首を左右に振った。
「セイジさんの気持ちもわからないわけじゃないですから。私がこの力を扱いこなせないとデミスとの戦いは勝ち目ないみたいですし……それに扱いこなせる前提で、あの人は私たちに力を貸してくれることになったんですから」
だから、やれるだけのことはやる。その覚悟を既に決めているのか、ティナは気を取りなおして笑顔を見せると、大きく息を吸い込んで祈るようにスキルを発動させた。
「あ、これは無理ですね」
だがそれも長くは続かず、ティナは再び地面へと這いつくばる。
「何やってるのよ……」
「かるーく発動して、さっきセイジさんが指摘していた無駄に力を放出している可能性を探ろうと思ったんですが、かるーくでも想像以上にきつかったです……」
既に体力がない状態で再発動したせいか、虚ろな瞳で横たわるティナを見てタカコがやれやれと首を振りながら再び身体を起こしあげた。
「ところで……私はまあこんな感じですが、二人はどうなんですか? クラスチェンジで得た新しい力の調子は?」
「ぼちぼちってところかしら。私の新しく得た力は試すと物を壊しちゃうから、イメージで戦う時の動きを練習しているわ」
「あー……まあそうなりますよね」
そう考えられるだけの理性がタカコに残っていて良かったと、ティナは安堵する。
タカコの新しく得た力は、元々タカコが得ていた相手の防御力を無視して攻撃が可能だったスキルを、拳だけではなく全身を駆使して粉砕することが可能になるスキルだった。
やりようによっては、ただ歩くだけで地面を粉砕することもできる。