軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

掴みかけた安息-12

「リーシアには悪いが……さすがに今回ばかりは無理だ」

「そうだね。僕も無理だと思うよ……でも、あがくことならできるかもしれない」

「あがくことだと?」

あがく手段すらまともに思いつかなかったのか、セイジは來栖の言葉に興味を示す。

「デミス……あれは恐らく、この星にぶつかるような真似はしないはずだ」

「何故そう言い切れる?」

「僕たちを殺すことが目的なら、確かにぶつかられて終わりだけど……あれはそうじゃない。デミスが自分の分離体を飛ばしてくる理由はなんでだと思う? 変異体が急に動き出して人とデミス細胞が交わるように手伝い始めた理由は? 何故……デミスはこちらに向かってきている? その答えを、僕たちはもう知っているはずだ」

「俺たち人間が……デミスにとってご馳走だということか?」

セイジの問いに、來栖は頷いた。どうして人間だけがデミス細胞に取り込まれる速度が以上に早かったのか? デミスは生物なのか? それを考えれば、デミスがどうしてこちらに向かってきている理由も簡単に想像がついた。

デミスは、自分の細胞と相性の良い人間を餌として、繁殖、成長を果たそうとしている。あれが生物だとするなら、それが目的と考えてもなんらおかしいことではなかった。

「あの化け物が……一体どんなことをしてくるのかはわからない。でも体当たりで折角の餌を台無しにするようなことはしないはずだ……あれが、仮に生物だとするならね」

「だがよぉ……來栖」

それでも結局絶望的なのには変わりはない、そんな焦燥感のある表情で訴えるライアンに、來栖は「もう、どうなろうといいじゃないか」と、投げやりな言葉を吐きながら柔らかい笑みを浮かべる。

「諦めていないやつがいるなら、付き合ってやろうじゃないか。どうせ僕たちは……絶望して諦めたんだ。ならもう死のうが死なないがどうでもいいはずだ。それなら、最後の最後にまだ諦めてない奴に手を貸して滅びを待つのも…………悪くないだろう?」

「……たったの半月だ。できることは少ないぞ?」

「だから僕らは諦めたんだ。そんなことわかっている上でやろうって言ってるんだよ」

「変異体のサンプルをゆっくり解析している場合ではなくなったな」

観念したのか、セイジも來栖と同じく、もうどうにでもなればいいと、半分諦めたかのような柔らかい笑みを浮かべる。

「各国に至急連絡をとれ! 残された時間で……できる限りのことはするぞ!」

そして、セイジの叫びに呼応して、その場にいた研究員たちの瞳に活力が戻った。

同じくデミスの存在を目にした各国の研究室は、やるだけ無駄だと、アースからの離脱を考えて脱出用の宇宙船団を用意する中、一つの研究室だけが、「それでは多くを見捨てることになる」と、最後まで戦うことを希望した。

結果的に、宇宙船団を作って逃げたとしても、人間の反応を追ってデミスがアースに迫っているのだとすれば、逃げたところで無駄だと來栖が仮説をたてたことで、宇宙船団の準備を行いながらも、残される人々のために対策を練る方針となった。

來栖がまず提案したのは、地下施設の増築、そして変異体に対抗するための搭乗型ロボットの開発だった。

現行のアーマーでは、変異体に囲まれたときに意味を果たさず破壊されてしまう。よって、アーマーと同じく人間を守る機能を保つために操縦席への開閉スイッチが外に設けられた、人間であれば誰もが操縦できる人型戦闘兵器、ラストスタンドの開発が進められた。

もとより、隕石などの飛来物の対策として開発の進められていた破壊兵器、アースディフェンダーの出力を小型化した最新鋭のロボットを、量産するという計画だ。

無論、半月程度で行える準備はしれている。だがそれでも、やるしかなかった。

諦めない者たちが、そこにいたから。

「我に……続けぇぇぇええええええ!」

立ち上がる者たちが、そこにいたから。

「っち……どうして俺が一般人なんか助けなきゃいけねえんだ? 一般人共を恐怖のどん底に叩き落とすのが俺たちだっただろう?」

「言うな。その一般人たちも含めて、全てが消えようとしてるんだ。敵を選んでいる場合じゃないんだよ……もう」

悪も善も、そこにはなかった。人類が存続するか滅亡するかの二択。あったのはそれだけだった。割に合わなんて吐いている余裕はなく、出し切るしかなかったのだ。

「っくそが……ずっと追いかけていた。S級の犯罪者なんかに助けられるなんて……」

「助けたつもりはない。お前が勝手に助かっただけだ」

「俺の仲間を殺したこと…………忘れていないからな」

「どうだっていい……復讐したいならすればいいさ、何に対処するべきかわからない愚か者であるならな」

憎しみ合っている場合ではなかったから。

「どういうつもりだ……どうしてお前たちが? 何故俺たちに手を貸す?」

「手を貸す? そりゃ勘違いだ。俺たちはお前たちを利用しているだけだ。自分が生き残るためにな……せいぜい俺が最後まで生き残れるよう、必死に戦うんだな」

その手を握らなければいけない――人類の全てが、人類として戦わなければいけない時が来てしまったから。

『この声が……聞こえるか?』

無論、誰もが最初から手を取ろうと思ったわけではなかった。多くの者がプライドを優先して、力を合わそうとはしなかった。

『我はリーシア。リーシア・セルモンド。ついこの間まで……ヒーローとして活動していたものだ。今は、世界中で起きているこの事件の戦闘指揮を請け負っている』

『誰がこんな奴と?』――そんな我儘を言って、自分たちのことだけを考えていた。自分たちが大切な者たちのことだけを考えていた。

『落ち着いて行動しろなんて言わない。誰かを助けられるなら……助けてやってくれなんて生易しいことも言わない』

しかし、その考えは、全世界にいる全人類に向けた。リーシアによる念話通信によって覆された。

『自分を守れ。自分だけが生き残ることだけを考えろ』

その演説は、力を持たない者にとっては、あまりにも無慈悲な言葉ばかり吐かれた。しかし、それはある特定の力を持つ者たちには、強く響いたのだ。

『そして次に、自分が生き残るためには何をすればいいのかを考えてくれ』

多くの者が考えた。人生で一度あるかないかの時間、深く考えぬいた。

リーシアも、自分の言葉が、力を持たない者にとってはあまりにも慈悲がないことは自覚していた。だが、それでも、今本当に目を向けなければいけないことを、伝えなければいけないと考えていた。だからこそ、演説を行った。

『もし、それがわかったら……今度は自分たちが何であるのかを思い出して欲しい』

人類のために。一人のためではなく、人類という種のために。

『今まで何をしてきたかなんてどうだっていいんだ……重要なのは、自分が何なのかだ』

そして多くが気付かされたのだ。自分たちが人間であることに。アースに住まう、アースに長く歴史を残してきた誇りある存在であることに。

『今、自分たちが、自分たちという存在の全てが消えようとしている。全てがなかったことになろうとしている』

それに気付いた時、多くの者が怒りを抱いた。他の者が抱く怒りを共感できた。アースに住まう生命として、アースに住まう生命を奪わんとしている存在に。

『限りなき善行を積んできた? 限りなき悪を働いてきた? どうだっていい……どうだっていいんだ。そんな歴史も、自分が生きてきた証も……全てがなかったことになろうとしている。お前たちの全てが、最初からいなかったものになろうとしている』

記録を紡ぐ者がいない。それはつまり、自分の存在の否定にも繋がった。

生きてきた意味なんて、何一つない。今まさにそれを、デミスによって告げられていることに気付いたから。

『それに気付けたなら……集って欲しい、我の下に』

誰もが理由をもって今を生きている。誰もが理由があって正義を貫き、悪を貫いていた。その理由は人によって様々だっただろう。

今の世の中が認められない。

金が欲しい。

この世界の秩序を守りたい。

人々の笑顔を守りたい。

人々の笑顔を奪いたい。

血が見たい、殺したい。

血を見せたくない。尊い大切な命を救いたい。

『その姿を見て、憎しみのあまり殺意を抱くかもしれない。だが……集って欲しい』

その理由の全てが奪われる事態を、誰もが認められなかった。自分が理由を持って生きてきたその歴史を、奪われるわけにはいかなかったから。

『戦おう。主義や理念を捨てて、我らがそこにいたという証を守るために』

そして、長く、辛い、正義も悪もそこにはない――長く理不尽な戦いが幕を開けた。