軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

掴みかけた安息-11

「なるほどね……スライム状の化け物が増えたのはあれが現れたからか。変異体が動き出したのも、恐らくあれが来たからだ……ボスって考えた方がいいだろうね」

暫くの沈黙を破って、來栖が顎に手を置いてぶつぶつと語りだす。

「ボスってお前……冷静に分析している場合じゃねえぞ」

「さすがに僕も驚いているよ、開いた口が塞がらなかったくらいにね。でも、ボーっと見ている場合じゃないだろう? あれは……今も尚、この世界に向かって接近している」

対策方法を考えなければ、近い未来、人類は必ず滅亡する。そう言いたいのだと、言葉にされなくても誰もが一瞬で理解できた。

しかし、どんな対策方法があるのか? 相手は惑星サイズ、恐らくはこの世界と同等の質量を持つ存在。ぶつかられただけでも世界毎滅ぼせる圧倒的な存在。

「こいつは一体…………なんなんだ? 何者だ……どこから現れた?」

「……さあ? わかっているのは、こいつが今起こっている全ての騒動の黒幕で、確実にこの世界に向かって近づいているということだけだよ」

「これまるごと生物なのか? それとも隕石に生物が付着しているだけなのか?」

「どちらの可能性も捨てきれないけど……前者である可能性で考えた方がいい。表面にいる生物だけを倒して終わりで考えていたら違いました、なんてことで世界が終わりかねないからね」

それは、生物というにはあまりにも大きすぎた。遠目から見れば、接近する隕石にしか見えないだろう。仮に、それが生物だとして、自分の意志でこの世界に向かってきているのだとすれば――希望はなかった。

生物から分離しているスライム状の化け物たちだけでも手一杯の状況で、惑星サイズの化け物が接近している。ぶつかられても終わり、接近すればするほど身体から分離したスライム状の化け物の被害が増すため、どちらにしても終わる。

研究室にいた全員がその圧倒的存在を目にし、喚き叫ぶのではなく、目を見開いて肩を震わせ、言葉を失った。

「ああ、もう終わりなんだな」と、受け入れるしかなかったから。

「……デミス」

その時、研究室内にいた一人の研究員の男性が、そう漏らした。

「終焉を告げる者……終焉の王。あいつは…………我々人類を終わらせに来たんだ」

再び静けさが研究室内を包み込む。その言葉を笑う者は誰もいなかった。馬鹿げた話ではなく、適切な表現で、現実を語っただけだったから。

「デミス……いいじゃないか、丁度、どう呼ぼうか悩んでたところだ」

「來栖……お前」

変わらず毅然とした態度で、不敵な笑みを浮かべる來栖にライアンが驚愕する。

「今後、惑星型生物の名称をデミスと呼称する。今まで仮称として初期型と呼んでいたスライム状の化け物も、今後デミス細胞と呼称する。さて……デミスがこの星に到達するまで、およそどれくらいの期間が残されているのかな?」

「げ、現在の速度のまま変わりなければ、おおよそ、半月ほどでこの星から十万キロメートル以内の地点に到達するとのことです」

誰もが諦めかけているその状況での問いに、ディスプレイを映しだした男性は計算して割り出した、この世界に残された時間の猶予を伝えた。

「本格的に時間がないね……急ぎ、対策を考えよう。ほら、手を動かして」

その掛け声を聞いても、誰も動こうとはしなかった。やるだけ無駄だと、その場に居た全員の心が既に折れかけていたからだ。

「來栖……さすがに今回はどうしようもないぞ? どう考えても敗北は必至。避けられない……避けようがない」

ライアンも、そのうちの一人だった。既に手の打ちようがないと諦めてしまったのか、手に汗を滲ませて身体を震わせる。

「それはまだわからない。可能性が残っているなら……あがくのが僕らの仕事だろ?」

「一体どんな可能性だ」

同じく、セイジも既に心が折れかけていた。どう考えても絶望的で、バッドエンドは避けられない状況にも関わらず、いい加減な言葉で希望を持たせるかのような言葉を吐く來栖にイラついたのか、セイジは來栖に掴み掛かる。

「俺の脳みそを騒動員させても、もう助かる道はない……お前もわかっているはずだ。わからないなら教えてやろうか? ……質量の問題だ! 俺たち人類が仮に攻撃の手を加えたところで、地面に攻撃しているようなもんなんだ……わからないのか?」

「なら、このまま死ぬかい?」

「対策なんて考えている場合じゃない……逃げることを考えるんだ。各国に用意されている宇宙船を総動員すれば……人類の一割…………いや、十万くらいの人間は逃がせるはずだ」

「それの無意味さは、君も理解しているんじゃないのかい? 船団は現在建設開発中のコロニーのように、自給自足が行えない。運よく逃げられたとしても、エネルギーの供給、食糧問題に必ず直面する。というより、そもそも逃げれるとは思えないけどね……デミス細胞は宇宙空間でも活動できるみたいだし……恐らく変異体も同じだよ。どこまでも追いかけてくる」

「ああ……わかっている。わかっているから希望を持たせるようなことは言うな……俺たち人類にできるのは、少しでも長く生きるために……逃げることだけだ。俺たちが抱いていい希望は……運よく逃げ切った人類が、どこかで繁栄するという……万に一つない奇跡を頭の中で描くことだけなんだよ」

「君らしくもない言葉だね」

「それはこっちの台詞だ。お前らしくもない……どう考えてももう終わりのこの状況で何を粘ろうとしている? お前はそんな、少年漫画の主人公のような諦めの悪い熱い男じゃないはずだ。合理的に考え、諦める時はさっさと諦める、冷たい男だろう?」

「勿論僕も諦めたよ。これはどう考えても無理だってね」

「なら何故?」

「向こうも僕たちと同じタイミングで情報を耳にしたんだろうね。リーシアからたった今連絡があったんだ……なんて書いてあったと思う?」

それは、三人を、來栖を良く知っているからこそ、リーシアがデミスを目にした瞬間、どうするべきかを考えるよりも早く、送ったメッセージだった。

『どうせお前らのことだから無理だって諦めたのだろう⁉ 無理でも頑張らんか! 言っとくが我は諦めてないからな! 我が諦めてないってことはパートナーである來栖! お前も諦めてはいけないということだ! わかったな⁉ わかったよな⁉ とにかくなんとか対抗する手段を考えい! 我が身体を張る、お前らは考えろ!』

メッセージを読み上げると、來栖は「だってさ」と、自分たちの判断力の速さをよく理解していると苦笑する。

あまりの滅茶苦茶な文に、聞いていた研究室内の一同はもちろん、セイジとライアンも呆けた顔を浮かべて固まった。