軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

掴みかけた安息-10

スライム状の化け物によって姿を変えられてしまった存在。後に変異体と呼ばれる存在の捕獲は、多大な犠牲を払うことになった。

ヒーロー6人を相手にようやく倒せた相手に、ヒーロー一人と、ただの人間でしかない研究員だけでは手に余ったのだ。

頼みの綱だった麻酔弾は回避され、それどころか、魔力銃器による攻撃すらもほとんど命中することなく、命中したところでほとんどダメージが通らない。

元は人間だったとは思えない速さ、耐久力、力を変異体は見せつけたのだ。もぎ取るように人間の首を切断し、障子紙を破るようにいとも簡単に人間の身体を突き破る。

最終的に、能力として身体を硬質化させるヒーローの力を譲り受けていたリーシアが、捨て身の攻撃で直に麻酔薬を打ち込むことで戦いは収束した。

死亡者3名、負傷者は5名。ヒーローが一人いたとしてもこれだけの被害が出てしまう事実に、今も尚、増え続け止められないでいる変異体に誰もが恐怖し「これをこのまま放置してはいけない」と判断した。

來栖とセイジの狙い通り、麻酔が効いたのは不幸中の幸いだった。それでも常人よりも遥かに麻酔が切れる速度は早かった。とはいえ、その間に完全に拘束し、変異体を調べる準備を整えることはできた。

そしてこの時の「変異体を調べる」という判断が、結果的に人類の命を繋ぎ止める結果となる。

「原因はまだわからないのか⁉」

「わかりません!」

一週間後、セイジの慌てふためく叫び声が、新たに設立された地下研究施設内の一室で響き渡る。

この一週間、生物を変異体へと変化させてしまうスライム状の化け物の急増を重く見た各国政府は、各地の地下研究施設に対策本部、並びに緊急時の避難所を設立し、事態解決に向けての行動を開始していた。

來栖、ライアン、セイジたち研究員も召集をかけられ、対策本部へと加えられる。

しかし、変異体を捕縛して生態調査を先駆けて行っていたことから、來栖が室長として任命され、手伝う形でセイジとライアンも加わり、研究が行われていた。

また、臨時の際すぐに情報を共有、出動、及び防衛が行えるよう、リーシアたちヒーロー業界で活躍する者たちも地下研究施設で控えるようになっていた。

とはいえ、ヒーローたちが研究施設内にいることは少ない。というのも、スライム状の化け物の大量発生に応じて、常に市民のために出動しなければならない事態になっていたからだ。

最早、人々は安心して地上を出歩くこともままならず、スライム状の化け物と遭遇しないよう、入り込む余地のない密室の建物内にたてこもるしか難を逃れる術がない状態だった。

「少し落ち着いたらどうだいセイジ?」

「こんな状況で落ち着いていられるか! むしろこの状況で落ち着いているお前がおかしいんだ! ライアンは情報収集のために捕縛している研究対象の下へすっ飛んでいったぞ」

「取り乱しても何も変わらないからね」

「くそ……折角事態が好転しようとしていたのに、どうして急に!」

セイジの言葉通り、本格的に対策本部が設けられたことにより、事態は好転しつつあった。変異体は超人たちと同じく、生物としての急激な進化を遂げてはいたが、麻酔が通用する、燃やすことで細胞を死滅させ、高い防御力を無効化できるなど、既に対策手段を発見していた。

それだけではなく、スライム状の化け物が跋扈する地上で、ヒーローたちが活動できたのも、スライム状の化け物が超人たちと融合し、変異体にしてしまう恐れが少ないことを來栖たちが証明していたおかげでもあった。

超人たちや、人間以外の動物との交わる速度が異様に遅いことから、すぐに遺伝子構造の問題であると來栖は判断したのだ。動物はもちろん、進化し、人間とは少し遺伝子構造の異なる超人たちは、襲われてもすぐには融合しない。

その間にスライム状の化け物の核を潰せれば、難を逃れられる。

また、スライム状の化け物に直接的に接触しなければ融合が始まらないことから、完全に肌との接触を防ぐ浸透性のないアーマーを着用、軍用の戦闘機に搭乗するなどで、超人ではない者もまともに戦うことができるようになっていた。

だが、事態は急変し、悪化する。

「元々、想定はしていただろう? だからこそ、僕たちはあの時、命懸けでサンプルを入手したんだ。むしろ、あの時行動していて良かったと思った方がいい」

「……確かにそうだが。どう動いてくるかまでは想定していなかった。まさか……こうも連携をとって攻撃を仕掛けてくるとは思わなかった」

今まで変異体となった生物は、こちらが接触しない限りは動こうとはせず、静止を保ってきていた。だからこそ、こちらに優位な奇襲を常にかけることができ、事態は一旦の収束へと向かっていた。

だが、それがどういう訳か、突然動き出したのだ。

「駄目だ……届いた情報通りみたいだぜ。保管されている研究対象も大暴れしてやがった。拘束具をぶっ壊さん勢いでな」

その時、不測の事態に大騒ぎする研究室内にライアンが戻る。

「行動に一貫性はないのか?」

「まだ情報が少なすぎるせいで多くは言えないが……スライム状の化け物が生物に取りつくのを支援しているという報告が既に上がっている。アーマーの破壊はもちろん、ヒーローたちも拘束され……取り込まれそうになったという報告まである」

「厄介だな……いくら取り込まれにくいつっても、取り込まれるまで身動きを封じられたんじゃあ超人も犠牲になる可能性があるってことだろ?」

「ああ……それにただの人間であんな化け物になるんだ。超人が化け物になったら……一体どんな手に負えないのが生まれてくるかもわからん」

まだ犠牲は出ていなかったが、既に人間以外の生物が変異体として脅威になっていることから、その結末を想像してライアンとセイジは顔を青ざめさせた。

「何がきっかけで突然動き出したのか……まずこれを探る必要があるな。どっからか電波が飛ばされて命令を受信したからか、変異体の総数が一定以上になったからなのか。いくらでも考えられるが……とにかく原因さえわかれば、また動きを封じることもできるかもしれん」

「だとしても防戦一方だな……今回の騒動を起こした奴を特定できれば事態も変わるんだが、そもそも……あのスライム状の化け物がどこから発生しているのかすらわかっていない状況だ」

「各国は関連を否定してるんだよな? どこも同じ被害を受けているとかで」

「そうだが、被害者を装っている可能性もある……そもそもの原因をなんとかしないと、対処方法ばかり考えていても埒が明かないぞ? ……おい來栖、聞いてるのか?」

解決策を話し合う二人を前にボーっと虚を見つめる來栖に、セイジが肩を揺さぶって声をかける。

「こんな時に何をボーっとしている?」

「ん? ああ……いや、原因と聞いて色々と考えていたんだよ。多くは今回の騒動をどこかの国がやったことだと思ってるみたいだけど……本当にそうなのかなーって」

「どうしてそう思う?」

「生物以上に恐ろしい兵器はない。仮にこれが兵器として作られたのだとしたら、ただの人間を化け物にしてしまうなんてとんでもない兵器だ。でも、それにしては見境がなさすぎるし、これによる利益も見込めない」

「……兵器としての運用がされていないということか?」

その返答に來栖は頷く。

これが兵器であるならば、目的があって然るべきだった。しかし、世界中に見境なく影響が出ていることから、仮にこれが一国が世界へ能力の誇示するためにやっていることであったとしても、結果的に世界を敵に回すだけで利益は生まれない。

むしろ、このまま対策もろくに見つからず放置すれば、世界が滅ぶまであった。

「世界を滅ぶのを望んでいる奴のテロだったりするかもな」

「それならまだわかるけど。そんなことを望んでいるテロ組織にこんな兵器を開発する力も財力もあるとは思えないし……一番気になるのは、発生源だよ」

「海から発生しているんじゃないかって説が今のところ有力だな。実際、湾岸から這い上がってきたという目撃情報もあるらしい」

「海を経由しているのは間違いないとは思うよ。でも、直接は海じゃないはずだ……じゃないと、海に面していない地も変わらず被害に合っているのはおかしい」

「何が言いたい……? 地下から発生しているとでも言いたいのか?」

「地下からなら、地面を掘り起こせる力があのスライム状の化け物にあるはずだ。実際それなら地下施設であるここが一番被害を受けているだろうし、その線はないよ」

「じゃあどこから来てるって言いたいんだ?」

「地下じゃなくて、上だよ」

「……上? 空か?」

「空じゃない、宇宙さ。仮に宇宙から僕たちに気付かれないように飛来してきているのだとしたら……全世界で被害を受けているのも、各国が関係を否定しているのにも頷ける。そもそも、僕たち人類が発生させたものじゃないんだから」

「……っは、宇宙人の仕業だとでも言いたいのか? ………………馬鹿な」

「ない」とは言い切れなかったのか、セイジは徐々に声のトーンを下げていく。

普通であれば笑い飛ばすような話だった。しかし、それが來栖の口から放たれたのであれば事情が変わる。少なくとも、この状況で冗談でそんな話をするような男ではなかったからだ。

「僕の予想が正しければ……多分――」

「た、大変です!」

來栖が持論を言葉にした瞬間のことだった。外部からの情報を整理する仕事を請け負っていた研究員が、何を見たのか席から突然立ち上がり、室長である來栖の前へと慌ただしく近付いてきた。

「何だ? 何があった?」

「こ、これを⁉」

何をそんなに驚いているのか、セイジが問いただすと、聞くより見た方が早いと言わんばかりに研究員は來栖達の目の前にディスプレイを出現させた。

來栖は、それを見るまでに「仮に、最初は少数だったスライム状の化け物が徐々に増えた原因も、今になってようやく紫色の化け物が動き出した原因も、その宇宙人がこの星の近くにまで近付いたことによるものだったら?」と言おうとしていた。

「まさか……いや、ありえない」

「衛星が捉えた確かな映像です……こちらに向かって確実に接近しているとのこと」

あまりの現実味のなさすぎる映像に、セイジとライアンはもちろん、來栖も目を見開いて言葉を失った。それは來栖とセイジの「宇宙人」という発想からあまりにもかけ離れた存在だった。

全身から生え伸びる触手をうねらせ、その身体からスライム状の化け物を無数に分離させてはアースへと向けて放出する――惑星サイズの怪物。

それが、來栖たちがデミスを初めて目にした瞬間だった。