軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

掴みかけた安息-5

『リーシアね……どうして見た目が変わってるんだい?』

『そういう能力だ。我は見たとおり超人でな……小さい頃に悪い奴らに捕まってだな……なんとか脱出しようとあがいていたらこうなった』

『話はよくわからないけど、後天性の発現を果たしたってことね。そういえばこの前……取り込ませろってわけのわからないこと言ってたのって、こういうこと?』

リーシアは、この国の経済を支えている一つの財閥の令嬢だった。身代金を要求するためにリーシアを攫った結果、超人として目覚め、それ以降、自分のような目に合わせる悪を許せなくなり、現在までのヒーロー活動に繋がっている。

この時代、人類は新たな進化を遂げようとしていた最中であり、生まれもって超人の者もいれば、後から突然超人に目覚める者もいた。そしてそれは、決して珍しいことではなかった。

超人への覚醒は、能力関係なしに細胞レベルでの変化が起きるため、身体能力がある程度は向上する。そのため、まだ幼かったリーシアでも大人相手に太刀打ちできたのだ。

しかし、超人になり、目覚めた能力を合わせても最強と呼べる力を得たリーシアには欠点があった。それはオツムが弱いこと。

『そういうわけなので、お前は今日から我のパートナーだ』

『唐突だね。脈絡がなさすぎて驚こうにも驚きにくいんだけど?』

『そう! その冷静な感じがいいのじゃ! 頭も回るみたいだしな!』

『会話したいなー』

來栖をおいてけぼりにしてマシンガンの如く吐き出されるリーシアの言葉を、來栖は取り乱さず、コーヒーを飲みながら半分聞き流して対処する。

『で、どうして僕なんだい? 「見つけたぞ」って言ってたあたり、僕を探していたみたいだけど……具体的に君の言うパートナーの定義って何?』

『定義……? よくわからん。とにかくだ。この前、お前と会った時、お前は自信がなさそうだった。それだけ凄い能力がありながら……凄い道具を作れる頭脳や、冷静に敵を分析する力がありながらだ』

『自信がなさそう……?』

『言わんでもわかっておる。さっきも言ったが、自分じゃなければ作れなかったと言えるような凄い研究成果を出して、名声が欲しいのだろ? 自分はこんなに凄いのだと世に知らしめたいのだろ⁉』

「いや? 全然?」という言葉が喉の奥まで出かかったが、このまま泳がせておいた方が面白いと判断した來栖は、グッと飲み込んでしまう。

來栖が求めているのは、誰も手をつけていない分野を解き明かすやりがいであって、成果による自信ではない。成果は求めておらず、ただ自分が全力で夢中になれる何かが欲しいだけだったからだ。

『そこで提案じゃ。我は……パートナーを欲しておる。知略に長け、この前見せてくれたようなヒーロー活動に役立つアイテムを作ってくれるようなパートナーだ。お前が作った道具で我が戦い、世に名を知らしめる。そうすればお主が求めている名声も手に入り、自信がつくじゃろう? 我ながら……完璧じゃ』

『いいよ』

『そう言うだろうと思っておったわ! だが我はそんなことでは諦めんぞ? どうせタダ働きはごめんだとか言うのじゃろう? 安心せい! お前が今どんな仕事をしているかはわからんが倍は払ってやる。更に衣食住の面倒も……えぇ⁉ いいの⁉』

『絵に描いたようなテンプレートに沿った反応をしてくれるね』

気持ちの良いくらいのオーバーなリアクションに、來栖は苦笑する。

『ふむ……そりゃそうだな。これだけの好待遇、断る方が変というものだ。まあ我を我と見抜ける男だ……絶対に断らせないがな』

『いや、別に報酬はいらない。君のパートナーになるつもりもない。君のために道具を作ってあげるというのは構わないってことさ』

『はぁ? なんでだ? お主が作戦をたてて、我が敵を潰す。道具だけと言わずに、我をサポートしてくれればいいのに』

『戦略をたてるのなんて……僕以外にもできるだろう? とにかく、道具だけなら作ってあげるよ……暇潰しにね。それ以外は協力しない』

『ふむ、まあ最初はそれでいいじゃろう。タダで働いてくれるらしいしな』

それは、來栖にとって一時の退屈凌ぎでしかなかった。いつものように、街に赴いて自分の研究成果を試す、暇潰しと同じだった。

リーシアという存在に興味は持った。だが、それは興味でしかない。

何に興味を持ったのかを知ってしまえば、その興味もいずれ薄れる。そしてリーシアの能力を知った來栖にとって、その興味は既に薄れつつあった。詳細にリーシアの能力を知ってしまえば、その興味も消えてなくなるだろう。

だが、自分の研究成果を勝手に試してくれるリーシアの提案は悪くなかった。危険も減って、自分の研究成果も勝手に試してくれる。

そう考えて、パートナーにはならないが、手助けはする形をとった。利用していると言っても過言ではない。

だが、それがきっかけとなって、來栖の日々は大きく変わることになる。

『とぅあいへんじゃぁぁぁぁぁああ來栖ぅぅぅぅうう! 大変なんだぁぁぁあ! 我がいつも利用している銀行にA級指定されている犯罪者共がぁぁぁ!』

『僕にとっては今のこの状況の方が大変だよ。ここ男子トイレなんだけど? そしてまさか男子トイレの大便器の扉を破壊してくるとは思わなかったよ』

『気にするな』

『いや、気にするよ。ここ共用のトイレだからね?』

『いや、お前は気にしていないはずだ。だっていつも通り冷静だから』

『すごいこじつけ』

リーシアとの日々は、今までの常識を覆す勢いで、來栖の日々を彩った。

『來栖が悪いのじゃ。お前がこんなちんけな研究所から出ようとしないから、我がここで住むはめになっておるのだぞ?』

『知らないよ。君だけ地上で暮らせばいいじゃないか。むしろなんで僕の研究所に入り浸ってるの?』

『馬鹿野郎。パートナーというのは絆が大事なのだ。寝食も共にしないと駄目に決まっておるだろう?』

『僕、君のパートナーじゃないんだけど』

『あと、なんか我の能力を研究させて欲しいと言ってる奴らがおるから、もう出るに出れなくて』

『それ自分のせいじゃん。正直、君のお父さんうるさいんだよ。娘は元気かとか、娘は大丈夫なのかとか、研究所に多額の支援金を出してくれるのはありがたいけどさ、なんで僕に直接言ってくるの?』

『便座に座りながら我に言うセリフではないのう。なっさけな』

『君のせいなんだけど?』

『ええいとにかく! 早くケツを拭いて行くぞ! 我らの地元で他のヒーローに手柄を取られるわけにはいかん! A級ごとき、我らのコンビの前では虫けらにすぎんわ!』

『いやいや、道具なら貸してあげるから一人で行ってくればいいだろ……ちょ!』

無茶苦茶だった。來栖は今まで自分から興味をもって干渉することはあっても、相手側から興味を持たれて干渉を持たれたことは少なかった。もたれたとしても、ここまで過激に接触して、無理やり自分を引っ張りだして働かせようとする者は一人としていなかったのだ。

果てしなく鬱陶しかった。研究の邪魔だと思った。だけど、めんどうではなかった。

そして、いつしか退屈と感じていた日々は、退屈と考える余裕さえないほど、忙しくなっていた。