作品タイトル不明
掴みかけた安息-6
思えば、來栖がリーシアに興味を持ったのも、超人としての特性が特殊だったからではなく、類のないその性格に惹かれたからかもしれない。
見た目が変わっているにも関わらず、さも知っている前提で話してかけてくる抜けた部分や、それでもめげずに強引に引っ張りだそうとする積極的な姿勢が、來栖にはなく、また、來栖のやる気を刺激する良い成分になっていたのだ。
鬱陶しい、邪魔だとは思っても、嫌な気持ちにはならなかった。「またか」と、呆れるだけで、その「また」に付き合ってやろうと思えてしまっていた。
つまり、心地が良かったのだ。退屈を凌いでいたわけじゃなかったが、それを感じさせない穏やかな気持ちにさせられていたのだ。
「ヒーロー活動のサポートねぇ……リーシアが出動した現場はさぞかし賑やかなんだろうなぁ。正直、敵になった奴がカワイソウだ」
物思いに來栖が過去を振り返っていると、ライアンがジッとリーシアを見つめて苦い顔を浮かべる。
「お、おぉ? そうだろ? ちなみに……我があまりにも凄すぎて敵がカワイソウということで言っておるのだろ?」
「いや、來栖が作った道具を使ってるんだろ? こいつの作る道具っていうか兵器って、想像しただけで慈悲がなさそうだからよ……もちろん、リーシアの能力も驚異的だけど」
「おー……まあそうだな。來栖の作る道具は威力が強すぎたりするから、最初に試し打ちしておかないと危険だな。民間人にまで被害が及びそうな時があったしなぁ」
目にしてきた兵器の数々を思い浮かべて、リーシアは遠い目を見せる。実際、來栖の作る道具のほとんどは、世間一般に流通している道具よりも遥かに出力が大きく、やりすぎてしまうことが多々あったからだ。
拳銃サイズの魔力銃器だから威力が弱いと油断していたら、小さなビルが消滅したり、空を飛ぶためのブースターを作ってくれたと思ったら、危うく大気圏を突破してしまいそうになったりと、とにかく凄いには凄いが、凄すぎて扱いずらいものばかりだった。
「行くぞぉ! って言った瞬間に宇宙にまで行きそうになった時は流石の我も焦ったぞ? 我が質量を倍加させる超人の能力を取り込んでいなかったら、そのまま宇宙空間まで突っ込んで死んでたのかもしれないのだぞ!」
今もその時のことは怒っているのか、プリプリと怒りながらリーシアは來栖に詰め寄る。対する來栖はアホを見るように冷めた視線をリーシアへと向けていた。
「使い方も聞かずに『よっしゃ我ならいける!』とか、訳のわからないこと言って先走るリーシアが悪い。そもそも僕の作る道具はいつも説明している通り、緊急用のアイテムしか作ってないよ。大概のことは魔法か……リーシアの能力でなんとかできるからね」
その説明で、ライアンもセイジも「なるほど」と納得した顔で、アホを見る顔を二人は浮かべてリーシアを憐れんだ。
ただ一人、來栖の言っている意味がわかっていないのか、リーシアだけが不満そうに「どういうことだ! 道具は使ってこそだろ! ヒーロー活動はいつだって緊急事態なんだ!」と喚き散らしていた。
それが、來栖たちにとっての、最後の安息の時間だった。
永久に、老い果てるまで続くと思っていた。その時にはまだ実感できていなかったが、それが來栖たちにとっての幸せの絶頂期だった。それを嫌というほど思い知る。
「おぉ……?」
その時、リーシアの腰元のポーチに入っていた携帯電話が耳うるさく鳴り響いた。
普段は研究所内で音うるさく鳴り響かないよう、私的に使っている携帯電話はマナーモードにして音が鳴らないようにしている。つまり、ヒーローとしての活動を求められている緊急事態を意味していた。
「ほぉ……? そんな偏狭な場所にか? 一体どんな危険な奴なんじゃ?」
よほど危機迫った状況なのか、リーシアは強張った顔を浮かべながら電話先の相手と言葉を交わしていた。暫くして電話を切ると、リーシアは送られてきた映像を携帯電話の液晶画面に映した。その映像を、來栖たちも覗き込む。
そこには、まるで悪魔を体現したかのような紫色の身体をした化け物と、同じく紫色の身体をした、闘牛に見えなくもない黄色の眼光を放つ化け物が映っていた。
「変わった見た目をした敵だな。超人なのは間違いないのだろうが……見た目の変化が激しいところを見ると、ミュータントか? この牛みたいな見た目をした化け物は、こいつの能力で変化したのか?」
「洗脳型かのう? 自分の力を分け与えて配下にするミュータントが極稀におるからな。だとすると、早々に倒してしまわないと厄介だぞ」
超人は、三種に分類分けされる。人間の見た目のまま、身体の細胞に変異を起こして魔法とは異なる方法でエネルギーを生み出す者、また、莫大な力を発揮する者を超越者。
身体的な能力も通常の人間と変わらない人間の見た目で、物理法則を無視した特殊な能力、所謂スキルと呼ばれる力を発揮する者を新人類。
そのどちらも兼ね備えるが、力と引き換えに人間としての身体を失ったものをミュータントと呼称していた。
そして、ライアンの言葉通り、その映像を見た四人は、瞬時に敵をミュータントであると判断した。
「……変だね」
その時、來栖は違和感を抱いた。事件現場が、どこかの牧場のような場所だったからだ。周囲には、紫色の闘牛とは別に、普通の牛も存在している。
そこに立っている二体の存在を除けばのどかな牧場で、事件なんて起こりそうもない。
「ねえ、このミュータントは一体何をしでかしたんだい? 見たところ、動かずにジッとしているみたいだけど?」
來栖が問いかけると、リーシアは困った表情で首を左右に振る。
「それがよくわからんのだ。ここの牧場の主からの助けを求める連絡を受けて、先行隊が駆け付けたらしいのだが……到着した時には、牧場の主はいなくなっていて、あの二体の化け物がおったらしい」
「恐らく……やられたんだろうな。特性のわかっていないミュータントを相手にするのは、取り押さえるだけでも危険だからな。下手に仕掛ける前に戦力を整えて倒す算段なんだろう。ちゃちゃっと手伝ってきたらどうだ?」
リーシアの浮かべる深刻な顔で気を張ってしまったが、蓋を開けばいつも通りのヒーロー活動だと、セイジは「やれやれ」と溜め息吐いて席を立ち、自分の研究へと戻る。
「確かにいつもと変わらねえなあ。なんでそんな深刻そうな顔をしているんだ?」
「いや、こんな見たこともないミュータントがいきなり牧場に現れたら『どういうことなの?』ってなるだろ! 目的も全くわからんし……我でも困惑くらいするわ。街中で暴れておるわけじゃないんだぞ? もしかしたら悪い奴じゃないかもしれないだろ!」
「確かにな、そりゃそうだ」
ようやくいつもの調子で頬膨らませながら怒ってきたリーシアを見て、ライアンは豪快に笑い声をあげる。
しかしその隣で、來栖だけが眉間に皺を寄せてその映像を凝視し続けていた。
「ねえリーシア。牧場の主の死体はあったのかい?」
「死体? なんでそんなことを聞くのじゃ?」
「ちょっとね、二体の化け物に牧場の主さんは殺されちゃったのか気になってさ」
「まだ見つかっていないみたいだぞ? 多分どっかに隠れておるのだろ」
「……そ」
物事には必ず、それを成り立たせる経緯がある。例えば銀行に、銃を持った男が居て、周囲に弾痕の跡と死体が数体転がっていれば、嫌でも何が起きたのか? 何を目的にここへと訪れたのかを想像できる。
來栖は一際、その経緯を推測する力が強かった。
経緯から相手を判断し、次にどんな行動を相手が思考するのか推測を立て、こちらの打つ手を決める。推測通りに動かないリーシアのような厄介な者もいるが、大概は正解に近い推測をたてることが來栖にはできた。
リーシアから見せてもらった、話の経緯、暴れまわらずにその場に立っている姿、牧場を襲ったという目的のわからない行動、消えた牧場の主。そして、近くにおいてあった牧草の山と、暴れまわったのが窺える地に散乱した牧草、しかし血痕のあと一つ見えない現場。食べ与えさせていたと思われる牛はおらず、代わりに紫色の身体をした牛の化け物が立ち尽くし、同じく紫色の身体をした人型のミュータントが、牧草をかき分ける『フォーク』を持っている。
そのことから、來栖はありえない一つの推測をたてていた。というより、それとしか考えられなかった。でも、それはあまりにも現実離れしていた。
「まさか……ね」
だが、どうせこの後、リーシアを含む他のヒーローたちの手によって葬り去られる存在であると、來栖はその推測を言葉にするのをやめた。そう考えた瞬間に、興味が失せてしまったから。