作品タイトル不明
それが、僕の答え-3
「自分は勇者で特別な存在だって驕っていました。ちっぽけな自分に気付かずに、選ばれた存在だって……師匠に出会うまでは自分は遥か高みにいる存在だと思っていました」
レックスはスキル「リベンジ」によって蓄積したダメージを解き放ち、真・剛天地白雷砲で素早く一体を倒すと、もう一体に向かって素早く跳躍し、先程と同じように視界を奪おうとする。だがそれは失敗し、再びレックスは壁へと叩きつけられる。
今度は視界を奪うことは叶わず、ドラゴンはゆっくりとレックスを追い詰める。回復する間も与えられず、剣をつっかえ棒代わりに起き上がると、再び挑もうと剣を構えた。
あまりの硬い意志を前にして、フラウは「逃げよう」という言葉を放つの忘れ、息を呑んでその光景をただただ見つめ続ける。
「……思い知らされたんですよ。役割だけに目を向けた生き方は、自分をダメにするって」
ドラゴンの尻尾による薙ぎ払いをギリギリのところで回避すると、レックスは剣を投げつけてドラゴンの胸元に突きさす。その瞬間ドラゴンは怯み、その機を逃さずにレックスは胸元に突き刺した剣を足場に拳でドラゴンの片目を殴りつける。
そして引き際に、自分が使える低威力の爆破魔法をもう片方の目に至近距離で撃ち放って視界を封じてからレックスは一度離脱する。するとしたり顔で、「今度は上手くやってやったぞ」とふらふらになりながらもにやついた笑みを浮かべた。
「役割とは自分の生き方を決定づけるものじゃ、それに目を向けた生き方が……自分をダメにしていただと?」
「ええ……そしてそれに気付いた時、今まで僕の肩に圧し掛かっていた重いものが取れた気がしました。今まで敵だって思い込んでいた相手も、いつの間にか友として接するようになっていた」
今は傍にいない男を思い出して、レックスは握りこぶしを作り上げる。その時、新たな絶望が二人を襲った。両目を失ったドラゴンに加え、更にもう二体のドラゴンが背後から現れたからだ。
圧倒的過ぎる戦力の差にフラウは絶句し、レックスは不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。
「その日から、僕は本当の意味で更なる高みへと歩み始めました……修練を積んで、僕はレベル214という強さを手に入れた。でもそれはまた……強くなったと驕っていただけだったんですよ。驕っていたから……友を失った」
握っていた剣は両目を失ったドラゴンの胸元にあり、レックスの手元に武器はない。それでもレックスは、前へと進もうとした。まだ可能性は残されていると、目の前の恐怖に屈してそれを見失ってはいけないと。
「驕ってばかりじゃな……情けないとは思ったことはないのか?」
そんな命を賭して何かを成そうとしているレックスを最早止めようとは思わず、フラウは背中を見つめながらその生き様を見届ける。
「勿論思いましたよ。情けなくて……どうしようもない奴だっていつもいつも僕は……気付かされては後悔して、また強くなろうとして、また過ちに気付く」
その時、レックスは振り返ってフラウに対して苦笑を浮かべた。その時に浮かべたレックスの苦笑は、フラウが今まで見てきた済ましたような、作られた笑みではなく、心の底から表現された本当のレックス象ったような無邪気な笑顔。
「約束したんです……強くなると。誰にも負けず、師匠がちゃんと頼りにしてくれる男になるって……あいつに。なのに、僕はまた挫折した。ずっと追い求めてきた真実は残酷で、僕なんかじゃどうしようもないって……強くなることを放棄したくなるくらいに心がぽっきりと折れた」
「ならば、どうしてお主はまたその恐怖に挑もうとしている?」
「……師匠のおかげですよ、初めてデミスの正体を知った僕は、こんなのどうしようもないと絶望しました。もう駄目だって……こんなの倒しようがないと。でも、師匠は違った……『ふーん』って感じだったんだ。いつものように臆さず、どうやって対処するべきかだけを考えていた」
素手で戦おうとしているのか、レックスの全身にチャージによるオレンジ色のオーラが纏われる。
そして「通路は狭い……あのサイズのドラゴンが素早く動くことはできないはずだ。そこを突く」と、拳を握り締めた。
「師匠のようになりたいと思い続けてきた。でもその時僕は確かに思いました。『なりたい』じゃなくて、『ならねば』いけない時が来ていると」
そのままレックスは徐々に腰を落として、下半身に力を籠め始める。敵を速さで翻弄出来なければ勝ち目はないと、圧倒的な戦力差を前に冷静に、僅かな可能性を信じて勇気を振り絞った。
「勇者……そんなものになんの価値がある? 本当に価値があるのは役割なんかじゃなくて、どんな相手でも臆さず立ち向かえる……勇気をもつことなんだって……また教えられたんです」
剣のない今、頼れるのは己が身体のみ、それを理解して、レックスは限界ギリギリまで力を溜め続ける。その反動に耐えるために歯をギリギリと噛みしめる勢いで。
「そう……壁があるのは当然なんだ。大切なのは、どんな壁にぶち当たっても、何度でも挑み、進み続けられる勇気! 強さとは……諦め続けなかった結果として得られる力なんだ」
身体から溢れ出る闘気が、己の拳へと収束していく。本当の武器は剣ではなく、心なのだと体現するように力強く。
「これからも幾多の絶望が僕を襲うだろう……でも、それでいいんだ! それが答えだったんだ! 僕はもう知っていたんだ! 何度でも絶望したっていい……絶望した回数だけ諦めずに挑んで、勇気を振り絞ればいいんだ!」
そして、レックスは駆け始めた。その時、フラウは目を見開いて驚愕する。
「だから……今ここで乗り越えて、あの日からずっと探し続けてきた……僕がなりたいものを今度こそ……堂々と師匠に言ってやる!」
それは、とてもチャージしたからといって出せる速度ではなかった。フラウのレベルでは、最早目では追いきれない速度だった。
全てを置き去りにするかつてない速度で、レックスは地を蹴ってドラゴンの元へと一直線に駆け抜ける。
「役割なんてどうでもいい……だが、もう脇役なんて言わせないとな!」
両目が無事のドラゴンも反応しきれていないのか、狼狽えた様子で、超速で接近するオレンジ色のオーラを纏わせたレックスに注視し、身構えた。
「それが……僕の答えだ!」
しかし、身構えた時には既に、レックスは目の前にまで跳躍していた。慌ててドラゴンは尻尾で薙ぎ払おうとするが無駄に終わり、振り回せるほどの余裕が通路になく、壁に引っかかってしまう。
直後、レックスから耳を塞ぎたくなるほどの雄叫びが上げられると共に、ドラゴンの脳天に衝撃が走った。
スキル「リベンジ」を使わないレックスでは剣を持っていても傷をつけられなかった頭部の竜鱗を貫き、レックスは拳を真っ直ぐに地へと向かって振り下ろす。
振り下ろされた拳は、レックスの恐怖を克服しようとする勇気に呼応して力を増幅させ、ドラゴンをそのまま頭から地面へと叩きつけ、地面を破壊するまでの威力を発揮した。
それは、何度絶望を体験しようと、何度実力差を感じようと、何度も何度も、もう一度と高みを目指し続けたレックスに宿った力。それから放たれた限界を超えたレックスの一撃。
不屈(ブレイブ) の 魂(ソウル)
先程まで圧倒されていたはずの相手を一撃で倒してしまった拳を見つめ、レックスは一瞬呆けた顔を見せると、すぐさま顔つきを変えて残り二体のドラゴンへと目を向ける。
そして跳びあがると、レックスは残りの二体のドラゴンも、最初の一体と同じく一撃の元に葬り去った。
スキル……覚醒
効果……その者は恐れない。あらゆるものに立ち向かおうとする勇気は身体へと呼応し、己が無意識の内に30%にまで制限をかけている力を100%にまで引き出させる。
それは、鏡の制限解除に似た力だった。憧れ、そして追い求めた人物が持っていた力。
そしてレックスは、ようやく追いつくための第一歩を踏み出したと、にやついた笑みを浮かべ、そのまま地面へと伏して意識を閉ざした。
その力は憧れた男に向けての第一歩にしか過ぎない。
だが二度とレックスが驕ることはないだろう。それを、フラウはレックスの目の前に突如出現したステータスウインドウを見て確信した。この男が道を間違うことは決してないだろうと、その役割に尊敬の念を抱いて。
名前……レックス・チクビボーイ
役割……勇王