作品タイトル不明
なりたいではなく、ならねばいけない時-9
「どうやら……私も本気を出さないといけないようだね」
「まだ……本気じゃなかったのか? さすがにこれ以上は俺もきついんだけど」
「だが君はこれを乗り越えなければいけない。でなければ、セイジ様は君たちを認めない……さあ見せてやろう、セイジ様により潜在能力を引き出され、クラスチェンジ……覚醒をした私の美しさをな!」
「クラス……チェンジ? 覚醒?」
聞きなれない言葉を耳にして、鏡が一瞬呆けた顔を見せる。その瞬間、鏡の背中に衝撃が走り、気付けば部屋の壁に身体を激突させていた。
「ごっぱ⁉」
突然の衝撃に鏡は息を噴き出してしまう。その光景は、見ていた者たち全員に驚愕の表情を与えた。何も、見えなかったからだ。鏡すら唐突のことに反応しきれない速度で、ディルベルトが鏡の背後へと回って攻撃を仕掛けていた。
「そんな……鏡さんが背後を取られた⁉」
それが少しショックで、クルルが意識せず口元を抑える。
「いやでも見ろ、ダメージはないっぽいぞ?」
しかし息を噴き出しただけで、「あービックリした」と余裕の表情を浮かべる鏡の姿に安心し、メリーがホッと息を吐く。
「ということはやっぱりあのスキル、ロイドさんが言ってた通り……身体能力あげるような力じゃないのかな?」
その様子から、アリスが冷静にディルベルトのスキルの詳細を確認する。これで絶対にやられる心配はないと一同は安堵するがその瞬間、鏡とディルベルトによる目にも止まらぬ激しい殴打と蹴りによる攻防が始まった。
風を切る音と共に、鏡とディルベルトによる無数の残像が部屋のあちらこちらに残り、その度に打ち合う音が鳴り響く。
「んぁ⁉ ふぁ⁉ んふ~美しい! 美しい美しい美しい美しい! ビューティフォォオオオ!」
「うるせぇぇぇえ! 戦う時くらい黙って戦えぇぇええ!」
そんな激しい攻防の音に混じって、言葉攻めによる戦いも行われていた。
凄いのだがいまいちしまりのない戦いに、一同は一瞬だけ呆然とする。
「物凄い攻防ですね……鏡さんも攻撃は当てられていないみたいですが、寸でのところまで喰らいついています。正直、何が起きているのかほとんど見えてませんが」
レベル450。それもレベル以上の力を発揮するガーディアンの到達者であるロイドにも何も見えないのか、お手上げの様子で首を左右に振った。
「とりあえず……風を切る音がすっごいうるさいのだけはわかります」
一応理解しようと努めてはいるのか、ティナが目をくるくると動かしながら言葉を漏らす。
「ここまでの力があるとはな……ガーディアンで行われた戦いは見ていたが、まさかあのスキルに喰らいつくだけのポテンシャルを秘めているとは……素直にその力を認めるしかない。むしろ、圧倒していると言っていい……ディルベルトの体力も、もう持たないだろうからな」
驚いていたのはタカコたちだけではなく、敵であるセイジもだった。セイジの認識では、レアスキルを扱えるディルベルトの動きについていけるはずはなく、それにギリギリのところで喰らいつける鏡はもはや、セイジにとって化物としか言えなかったからだ。
「だったら、六大大陸の旧文明の兵器の起動を止めて、ボクたちと一緒に戦ってくれるってこと?」
「いいや……それはない。あのスキルを使ってるのはレベル110のディルベルトだ。あのスキルを……デミスが使ってくることを考えろ。ディルベルトよりも圧倒的に体力も、パワーもある……お前たちはあの速さで動くデミスに勝てるか?」
その問いかけに、困り顔でアリスは俯いてしまう。あの速さで動くデミスを想像して、お世辞にもなんとかできるとは言えなかったからだ。
「控えめに言って……難しいですね。そもそも発動条件の難しいレアスキルとのことなので、必ずその力を使ってくるとは限りませんが、使われると恐らく一瞬で終わります。故に、この戦い……たた勝つだけは意味がありません。スキルの力に打ち勝たなければ」
「そうだ。そしてそれを防ぐ術はない。確かにこのスキルはロイド、お前が言った通りに消耗が激しい。身体能力を底上げする力でもない。デミスがあの巨体でこのスキルを使おうと思えばとんでもない消耗になるだろう。使わせるだけでも大ダメージになる。だが……このスキルを発動されれば人類は一瞬で終わりだ」
否定できないのか、ロイドは目を瞑って「でしょうね……」と小声で呟き、頷いた。
「そろそろ教えて頂戴……一体このスキルの正体は何なの? ディルベルトちゃんはどうやって圧倒的に格上の力を持つ鏡ちゃんについていけているのかしら」
いよいよそれだけの力を誇るレアスキルの正体が気になり、タカコがセイジを問い詰める。すると、セイジもずっと隠すつもりもなかったのか、頷いて目を瞑ると――、
「時間制御……それがあのスキルの正体だ」
そのレアスキルの力の正体を明かした。