軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

なりたいではなく、ならねばいけない時-8

「いちいちすげームカつく言い方するなあいつ。私はレベル1だから当然何も見えねえんだけど……タカコ。あんたは見えてんのか」

レベルが低すぎてレックスの動きさえまともに捉えられないメリーには、ただただディルベルトの挑発を見続けるしかなく、苛立った様子でため息を吐く。

「見えないわ……だからこそ驚いているの。こんなこと……ありえないわフローネちゃんやクルルちゃんはどう? 見えてる?」

「わかりません。あそこまで速い者はガーディアンの到達者たちの中にもいないかと」

「私も見えません……何をしているかもわからないです」

しかし、高レベルであるはずの三人にもディルベルトの動きは見えておらず、圧倒的な力を持った敵と対峙した時とはまた異なった恐怖が三人を襲った。

「鏡さん……気付いていますか?」

「んー……ぼんやりだけど、俺たちとは確実に違う速さの概念なのは間違いないな」

その時、何かに気付いたのかロイドと鏡の二人が目を凝らしながらディルベルトの動きに注視する。

「どういうこと鏡さん? 鏡さんとロイドさんには見えてるの?」

二人が何かに気付いたことを知ると、アリスがすぐさま鏡の隣へと立って二人に問いかける。

「俺はあの速度で動けるから一応な」

「僕はかなりボンヤリですけどね、ただ……僕でボンヤリというのは……かなり驚異的な力とも言えますが」

見えているだけで、やはり脅威には変わりないのかロイドが頬に冷や汗を垂らす。

「一体何をしてるのよ? あたしたちにもわかるように説明してくれないかしら?」

「まあ平たく言えばめちゃくちゃ速い動きで避けてるんだけど、なんていうかな……実際の速さはそこまで上がってないんだよな。ただ、的確に反応して動いているというか、反射神経が異常すぎるというか、次に起こす行動が的確すぎるというか」

説明をしてもらったが、やはり何をしているのかはわからず、パルナは首を傾げる。鏡もまだ確信を得ていないのかハッキリとしたことは言わず、引き続きディルベルトの動きを注視し続けた。しかし、同じ動きが続くだけで力の正体の発見の糸口は掴めなかった。

「レックスさん……どうやらあなたでは無理のようです。私が変わりましょう」

暫くして、このままでは拉致があかないと変化を求めてロイドがレックスの前へと出る。

「くそ……こんなはずじゃあ」

レックスも、腑に落ちない様子ながらも、自分ではどうあがこうが戦いにもならないと判断し、素直に下がってパルナの隣へと立った。

「相手が悪かっただけよ。能力もわからないんじゃ、分が悪すぎるわ」

「だが……それでも」

何もできなかったことを恥じているのか、パルナが慰めの言葉をかけるが、レックスは歯を噛みしめて悔しそうに拳を震わせる。

「レックス」

そこで、鏡が名前を呼ぶだけで何も言わず、レックスに視線を向ける。すると、自分がいまするべきことは悔しがることではないとすぐにハッとした表情を浮かべ、ロイドとディルベルトの戦いに注視し始めた。

「では、僕がお相手致しますよ」

軽く身体をほぐすと、ロイドは礼儀正しく一礼し、先程のレックスと同じように構えをとる。

「ほう……その構え、中々に美しい」

「一応ですが、レックスさんと同じように攻撃事態は手を抜かせてもらいますよ。一国の王を手刀で殺してしまったら大変ですので」

「その余裕……美しい。だが、その余裕が散った時、君も……私も、より美しく輝くだろう」

「ふふ……先程から面白い方ですね。では……参ります」

「……っつ⁉」

にこやかな笑顔を浮かべていたロイドから気圧されるほどの殺気が放たれ、直後、ロイドがディルベルトの視界から消え去った。すぐさまディルベルトもタカコたちには見えない速度で三歩後退するが――、

「おやおや、どうしました? その余裕のない顔は美しくないんじゃないですか? 僕が散ってこそ美しいのでしょう?」

ディルベルトの首筋に手刀を触れさせて、背後からロイドが姿を現した。

「ふむ……さすがはガーディアンが誇る戦士というわけですか、まさかこの速度に合わせられるとは……とんでもない化け物だ。でも、私の美しさはこの程度ではない」

「……ッ⁉」

しかし、その言葉を吐いた次の瞬間には、ロイドはディルベルトに背後を取られていた。ロイドにも、ディルベルトが何をしたのかわからず、顔を引きつらせて頬に汗を垂らす。

「あいつ……いつの間にロイドの後ろに?」

その動きをなんとか捉えられたのは、ギリギリ鏡だけだった。鏡でさえ、ディルベルトの動きはボンヤリとしか見えないほどで、表情を強張らせる。

「少しだけ精度を上げさせてもらいました。どうですか? 反応出来ましたか?」

「これは……無理ですね、僕でもお手上げです。参りました……僕では勝てそうにありません。ですが……弱点があるようですね」

「ほぉ……?」

ヤレヤレとため息を吐いて、ロイドは両手を上げながら降参する。だが、何か見抜いたことがあったのか、少しだけだったが不敵な笑みを浮かべてディルベルトに視線を向けた。

「どうやらその力、疲労が半端じゃないようですね、呼吸が乱れていますよ?」

「素晴らしい……君はどうやら私が思っていた以上に美しいようだ」

首筋に垂れ落ちた汗を指摘し、ロイドはそのままタカコたちの元へと下がった。

「原理はわかりませんが、どうやら元々高くない身体能力を無理やり動かす類の力のようですね、自分の力以上の動きを強要するため、消費も激しい……といったところでしょうか? 恐らくは……鏡さんのかつての制限解除と同じ、脳が身体に送る命令に対して何らかの関与を施す……そんな力では?」

「ほぉ……ライアンも、中々の人材を育て上げたようだな」

見抜いたかのような視線を向けてくるロイドに対し、指摘通りなのか、セイジが感心した声をあげる。

「お褒めに預かり光栄です……ですが、後は鏡さんに任せたいと思います。大事なのは、結果的に勝つのではなく、そのスキルを相手に勝てるかどうかだと思いますので……少なくとも、僕では勝てそうにありません」

そう言いながら、ロイドは鏡へと視線を向け、「後は、頼みましたよ。全てはあなた次第です」と背中を押す、鏡も元々そのつもりだからか、「任せろ」と言葉を返すと、一歩前へと出た。

「それじゃあ行くぞー?」

その問いかけに、ディルベルトは余裕の笑みを浮かべて「いつでもどうぞ」と返事をする。だが、言い終えた時には既に、鏡の姿は目の前にはなく、ディルベルトの背後にあった。

「どうした? 動かないのか?」

気の抜けるような声で無邪気に聞いてくる鏡に対し、一瞬恐怖心を抱いたのかディルベルトは目を見開いて頬に汗を垂らす。

「……想像以上だ。精度をあげたのに……それでも喰らいついてくるとは。君は……まさにダイヤモンドだね」

その返事に、鏡は「だろう?」と返し、そのまま二人は一歩も動かないまま、「ふふ……ふ」、「はは…………ははははは」と不気味な笑い声を上げ始める。その異様な光景を前にして、ティナは変わらずヤバイ人をみるような目で見つめながら二人の行動を見守った。

「ちょっと何を言ってるかわからないんですけど、とりあえず鏡さんはあの動きについていけてるってことですよね?」

「逆に考えましょう。鏡ちゃんでようやく追いつける速さ……それを、デミスが持っているとするなら……とんでもない脅威よ?」

「……あ」

タカコの気付きを耳にして、ようやくティナも表情を強張らせて手に汗を滲ませる。