作品タイトル不明
『ふーん』って感じ-10
「まさか、レベル999に至るほどの男がこんなにも華奢で弱そうな見た目とは……人は見かけによらないというのは本当のことなのだな。また一つ勉強させてもらった……すまなかったなタカコと鏡浩二よ、とんだ無礼を働いてしまった」
「いいのよ? 勘違いなんて誰にでもあることだから。王家だからってそこは変わらないわ。同じ人間だもの」
現在、鏡たちは宿屋の食堂でレックスたちが荷物をまとめ終えるのを待っていた。5人席のテーブルには鏡とタカコ、それと王女の三人、クルルとニニアンとフラウが座り、別席では席の配置に文句があるのかアリス、メリーがブー垂れながら座り、どうでもいいのか油機、フローネ、ロイドが落ち着いた様子でお茶を飲んで座っている。
護衛していた兵士たちは宿屋の外で待機しているせいかその空間は敷居が高く、たまたま宿屋を利用していて居合わせた冒険者や、店主やスタッフたちにとっては、とても居心地の悪い場所になっていた。
「まあ、クルルとか日常茶飯事で勘違いしまくってるしな。さすが姉妹というか」
「な! 私はそこまでおっちょこちょいじゃありません! 少なくとも今は!」
クルルが頬を赤くして弁解するが、アースへと初めて旅立つ直前にタカコのバー内で足を引っかけてきたことを思い出し、「説得力無いなー」とアリスが乾いた笑みを浮かべる。
「ある程度の事情はクルルから聞いていたが……まさかそんな緊急を要する事態になっていたとは、こちらに戻ってきた機にゆっくりと主の武勇伝を聞かせてもらおうと思っていたのだが……そんな暇はなさそうだな」
「どうしても聞きたいなら、全てが終わって帰ってからになるな。そういえば、クルルが第三王女って言ってたからいるのは知ってたけど、会うのは初めてだっけか?」
「貴様! 姉さまに無礼であろう! もっと敬意をもった言葉遣いで話さぬか!」
「よい。むしろ立場的に言えば私たちが敬意を表さなければならないところだぞ?」
「む……村人にですか?」
「その村人にしか世界は救えないのだ。なら、フラウが代わりに世界を救ってくれるか? 言っておくが、我等が真の敵は魔王なぞ取るに足らない化け物だぞ? 王の役割を引き継がなかったお前にはわからんだろうがな」
ニニアンが不敵な笑みを浮かべながら脅すような言い方をすると、フラウは餅を喉につまらせたような顔で視線を逸らす。
「そういえばあんた……」
「ニニアンと呼び捨てにしてくれていいぞ」
「えっと……ニニアンは王の役割をシモンから引き継いだんだよな? てことは、管理者権限は使えるってことでいいのか?」
「ああ、父上からあらかたの事情を含めて引継ぎは済んでいるからな。來栖様からの連絡も受けているから、何か協力してほしいことがあるなら喜んで手を貸すぞ」
「とりあえず、管理者権限で他の国に行っても俺たちの認識が変わらないようにしてもらうのと……グリドニア王国に送ってもらうのはやっぱり無理か?」
「ふむ……さっき話を聞いて個人的に調べてみたが、やはり転送は無理だ。グリドニア王国の王が転送を拒否している。言われるまで気付かなかった……すまぬ。やはりまだ管理者としての自覚が足りないようだ」
申し訳なく思っているのか、ニニアンが落ち込んだ様子で頭を下げる。しかし、元々ロイドから聞いてそれは想定内のため、鏡は慌てることなく――
「じゃあダークドラゴンのところに転送してくれ。もしくは連れてきて」
代替案をだした。
「ダークドラゴンの元にまで転送はできるが……連れてくるのは難しい。同じ管理者でも、ダークドラゴンは私よりも遥かに力が上なのでな」
「そうか、待ってる間にダークドラゴンに来てもらったら手っ取り早いなあと思ったんだけど」
「それなら、来てもらえるように頼んでみたらどうだ? 念話で繋ぐことはできるが」
「え? マジで?」
それから、ニニアンと鏡は念話通信を行うべくそそくさと準備を行い始める。二人だけで進む話についていけず、タカコやアリスは「外の世界を知るまでは考えられないような会話をしている」と、遠い目をしながらその様子を見守った。
『……何用だ?』
まもなくして、念話による会話が宿屋にいる全体に聞こえ始める。影響の範囲が広く、宿屋の店主、たまたま居合わせた冒険者たちが「な、なんだなんだ⁉」と騒ぎ始めたが、どうせわからないうえにその内話すことと、一同は放置することにした。
「もしもしもっこり、こちら鏡浩二。応答願います」
「なんじゃその喋り方は」
「いや、昔漫画で読んだSFものがこういう喋り方してたからさ。あ、漫画とかお姫様は読まないか? もっぱら朧丸の念話でもたまにこういうごっこ遊びしてたりするんだぜ」
「誰じゃ朧丸て」
『もう一度言うぞ……何用だ? 我にコンタクトをとってくるということは余程のことであろう』
本題を話そうとしない鏡に痺れを切らし、ダークドラゴンがため息まじりに言葉を繰り返す。
「久しぶりだな、一年ぶりか? あんたからすれば3年と半年ぶり?」
『戻ってきているのは来栖様から聞いていたが、まさか念話でコンタクトを取ってくるとはな。積もる話はあるが、まずは用件から聞こうか』
「背中乗せて」
『ん?』
「背中乗せて俺と飛ぼ?」
『すまぬが、どういうことか全然わからん。どうしてそうなったのかちゃんと理由を話せ』
「グリドニアに行きたいんだけどちょっと問題があってな、この念話が同じ管理者であるニニアンからとばされてるって言えば、あんたならどういうことかわかるだろ?」
それだけ伝えると、ダークドラゴンは数秒塾考し、すぐさま理解したのか「……なるほどな」と呟いた。
『転送拒否か……それも、我等に気付かれないように偽装工作も施されているな。我の千里眼に映るグリドニアの地……そこから見える光景がある規則に従った動きになっている』
「あんたでも気付かなかったって……よっぽどだな。で、規則に従った動きってつまりどういうこと?」
『偽りの映像を我に見せているということだ。我でも……グリドニアの地が今どうなっているのかがわからぬ』
異常事態だとダークドラゴンも感じているのか、どこか重々しく放たれたその言葉を聞いて、フローネとロイドは「やはり」表情を暗くする。
「どうやら、事態は想像していたより深刻なようです。グリドニアの管理者だけが敵に回っているのであれば、その管理者を問い詰めて事情を聞きだすだけで良かったですが……」
「国そのものに異変が起きているとなると、時間が掛かるかもしれませんね。何が起きているかはわかりませんが、絶対に悟られないように国を巻き込んでいるということは、国そのものが敵として僕たちの前に立ち塞がる可能性がありそうです」
『ふむ……我も同じ考えだ。よほど、知られたくない何かがグリドニアにあるのだろう』
事態は刻一刻を争う。そう感じたのかフローネとロイドは立ち上がって鏡の背後へと回る。
理解したいのか鏡も二人に視線を合わせて頷くと、席から立ちあがって言葉を続けた。
「そういうわけだから今すぐグリドニアに行きたい。乗せてくれるな?」
『主たちは来栖様が認めた者たち……異論はない。一時の休息を楽しむと聞いていたが故、来るのを待とうと思っていたが、皮肉にも世界を救わんとする戦士に休息の間はないということか。……よかろう。今そちらに参る』
「え? いやお前デカいからここに今来られると……」
嫌な予感を鏡は抱くが反応遅く、鏡たちのいる宿屋内の床に突如、転送によるものと思われる光を放つ魔法陣が生成される。ダークドラゴンの巨体を知っている者たちは少し焦りながら身構えるが、魔法陣から転送されてきたのは、真っ黒な装束に身を包んだ高身長の若い男だった。
『待たせたな』
「「「いやいや、誰」」」
口で喋ろうとはせず、変わらず念話で話そうとしてくることからこの男がダークドラゴンであることは察するが、脳内に残っているダークドラゴンの姿とはあまりにもかけ離れた見た目に、鏡はもちろん、アリスと油機も声を揃えてツッコミをいれた。