作品タイトル不明
追い求めた真実は残酷で-8
「とにかく、グリドニアに渡って管理者に合うんだ。向こうにもエステラーやシモンのような存在がいるはずだからね」
「アースクリアに行けってのはわかった……もう一つは?」
「……メノウ君についてだよ」
メノウという名を耳にした瞬間、一瞬にして部屋にピリついた雰囲気が漂い始める。
「メノウが……なんなの?」
どんな言葉が来ても受け入れる。そんな覚悟が垣間見える表情でアリスは浮かべた。
「メノウ君は死んだ。だが……彼を蘇らせることは出来る」
衝撃な事実のはずなのに、特にメノウと強い繋がりのあった一同の表情は強張ったまま変化しなかった。メノウのコピーが立ち塞がった時から既に、それが可能であることはわかっていた。
「メノウ君を殺したのは僕だ。それは事実であり僕の罪……蘇らせたからと言って、それが消えることはない。何故なら、蘇らせたところでそれはメノウ君の分身でしかないからだ」
それでも今まで口にしなかったのは、蘇らせることが正しいと、誰も思っていなかったからだ。
来栖の言葉通り、蘇らせたところでそれは自分たちと共に過ごしたメノウではない。この世界で起きた出来事を知らない別のメノウ。決して、戻って来るのが自分たちを庇って死んだメノウではないことを一同は理解していた。だからこそ、一同は触れずにいた。
戦いは終わったわけじゃない。なのに、戦いの最中で命を失った者の命を蘇らせてまた戦わせようとするのは、命を弄ぶ行為に等しいと感じていたから。
「蘇らせてほしい」
それでも、アリスはハッキリとそう告げた。意外だったのか、一同は少し驚いた様子でアリスへと視線を向ける。
「いいんだね? わざわざ僕が聞いてきた意味を理解していないわけじゃないだろう?」
「それでも、メノウなのには変わりはない。確かに……この世界で生きていたメノウはもう帰ってこないのかもしれない。でも、蘇ったメノウも、メノウなのには変わりない。平和な世界を追い求めた……メノウの意志を継いだ存在には変わりないはずだから」
想像通りの答えだったからか、來栖は満足そうに笑みを浮かべると踵を返した。
「……わかったよ。それじゃあ早速だけど――」
「待って、蘇らせるのは今じゃないよ」
だがアリスのその一声で、部屋を出ようとしていた来栖の足が止まる。
「今じゃない?」
「蘇らせるのは……全部が終わってから。メノウはもう……充分に戦ったから」
「これからの戦いは少しでも戦力が欲しい。その選択は自分たちを窮地に追いやる選択になるとわかって言っているのかい?」
「だからだよ。これまでの経緯とこれから戦うべき相手を伝えれば、メノウはまた自分を犠牲にして戦おうとする。どうせ亡くなっても蘇る命だと、ボクたちが止めても己を顧みずに戦い続ける。ボクは……メノウを戦いの道具にしたくない」
「本当に……それでいいのかい?」
「本当にそれでいいのかどうかは、あなたが一番理解しているはずだよ。だから、僕たちにわざわざ確認をとってきたんでしょ?」
アリスの返しに、來栖は数秒口を閉ざしてアリスの瞳に視線を向け続ける。暫くして來栖は、「それは勘違いだよ。僕がわざわざ聞いたのは……ただの義理さ」と皮肉めいた笑みを浮かべると、そのまま部屋から出て行った。
言葉の意味がわからず、アリスは困惑した表情を浮かべる。
「悪いな、あいつは昔から素直じゃないんだ。ひねくれていてあれが普通でな……許せとは言わんが、せめてデミスを倒すまでは我慢してくれないか?」
「本当ですよ……! あんな化け物がいなければ今頃ボッコボコにしてますよ! 鏡さんが!」
「さすがティナたん、他人任せ」
ライアンがすかさずフォローするが、今までの行為を含めてふざけた態度を見せる来栖にティナが激怒し、去っていった休憩室の出入り口を睨みつけた。
「ごめんね、皆の気持ちも聞かずにボクの独断で決めちゃって」
「いいや、あれで正解さ。あいつはいくら死んでも代わりがいるってわかったら、いくらでもアリスのために死のうとするやつだしな。來栖もそれがわかっていたからわざわざ聞いてきたんだろ。あいつなりの気遣いだったんじゃないか? 最後の言葉はちょっとよくわからなかったけど」
憤怒するティナを宥めるようにポンッと手を置き、勝手をしたと感じてシュンッと俯くアリスに顔を上げるように鏡が促す。鏡の言葉に同意なのか、アリスと來栖の掛け合いを見守っていたタカコ、レックス、クルル、パルナ、デビッドも納得したように笑みを浮かべていた。
「決まりだな。さっさとデミスを倒して、メノウを呼び戻してやろうぜ。蘇るにしても、時間が空けばあくほどあいつも自分のいない間に何があったんだって寂しがるだろうからな」
そう言いながら鏡は視線をライアンへと向ける。すると、ライアンは察したのか車椅子を動かしてついてくるように促した。それに一同も続く。
「アースクリアに戻るには、再び三倍速で時が過ぎるアースクリアの環境に調整する必要がある。しかし、調整を行うにしても、アースクリアに戻るには自分が眠っていたカプセルに一旦戻る必要もある」
「ガーディアンから戻ることは出来ないのか? わざわざ戻るのも面倒なんだけど」
「來栖から聞かなかったか? アースクリアには空きのカプセルを用意するだけの余裕がない。誰かが死ねば、代わりに新たな生命がそこに入れられるからな。それに、お前たちのデータはノアにある。戻すにしてもノアから戻った方が早い。今頃來栖がノアに戻るためにラストスタンドを準備している頃だろうよ」
ガーディアン内の通路を車椅子で移動しながら、ライアンは首だけを振り返らせて「さて、誰がアースクリアに戻る?」と不敵な笑みを浮かべた。
「そう難しく考えるな、グリドニア王国に渡ると言っても、危険性はこのアースで日々を過ごすよりずっとマシだ。久しぶりに向こうに戻って肩の力を抜いてくるくらいに考えりゃいい。三倍速で時間が進む世界だ……こっちで過ごすより余裕はある」
それを聞き、先頭を歩いていた鏡は背後を振り返って戻るつもりのある者を確認する。そして、想像以上にその気になっていた者が多く、思わず苦笑いを浮かべた。