軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

敗者への現実-3

「レックス……ウチ、もう無理。寝ル」

「寝るな! この中で一番暖かそうな獣耳と尻尾を生やしてるくせに!」

だが、話し合いを始める前に寒さという試練が一同に待ち受けていた。

吹雪が襲う外では落ち着いて話していられないと、古の時代からそのままの形で残されていた家屋の一つへと入り込んで暖を取ろうとしたものの、外に比べればマシ程度に冷えきっていた。

元々薄着だったペスは縮こまってブルブルと震えあがり、いつもすました顔を見せているレックスも歯をガチガチと鳴らし、両肩に手を置いて震えている。

「フローネさん……本当に大丈夫なのかな? こんな中に置いて来ちゃって」

そんな中、特に寒さを感じた様子もなく、アリスがフローネの身を案じて家屋内の出窓越しに吹雪く外を心配そうに見つめる。

「アリスが……なんか、寒くなさそうなんだが?」

そして寒がっている様子のないアリスを、レックスは羨ましそうにジト目で見つめた。

「ボクが昔住んでた山奥も冬になれば結構寒くて、体温調整のために魔力を使う方法は知ってるんだ。それにボクに魔法を教えてくれた師匠はクルルさんとパルナさんだし、これくらい出来ても変じゃないでしょ?」

「そ、そうか! ならその体温調整する魔法を僕たちにもかけてくれ!」

「あ……ごめんねレックスさん。ボク、魔力を操作して体温調整する方法は知ってるんだけど……皆の体温を調整する魔法はボク、その……まだ知らナイ」

「こ……こいつ」

舌をペロッと出して視線を逸らすアリスを見て初めてイラつきを覚えるが、うだうだ言っても仕方がなく、レックスは諦めて他に暖具になるようなものが屋内にないかキョロキョロと探し始める。

「アリス……一応だが、その……魔力の出力を抑えられるなら抑えれないか?」

その傍らで鏡が不穏な表情を浮かべた。魔力を使用していると聞いて、メノウの末路を脳裏に過らせてしまったからだ。

「あ、大丈夫だよ鏡さん。体温調整で使う魔力は本当に少量だから……ずっと使い続けてたら大変だけど、その前になんとかしてくれる……だよね?」

「そうだけど……一応な、とにかく、我慢出来るならなるべく使わないようにしてくれ」

「……うん、わかったよ。使うのは外にいる時だけにするね」

アリスはそう言うと魔力を体温調整に使うのを素直にやめたのか、「サムッ!」と身体を震わせ始めた。その様子を見て、鏡は更に表情を曇らせる。

一体いつまでアリスの魔力はもってくれるのかと、突然消えてしまわないかと不安になりながら。

最早、こうして悠長にどう攻め入るか話し合っている時間すらないのではないかと落ち着けない状態が鏡の中で続く。

「師匠。アリスのことを想って焦る気持ちはわかるがもう少し冷静になれ……急がないといけない気持ちを皆理解しているからこそ、こうして速さを重視して戦力的にも頼りない少人数でここまで来たんだ。全てのことに急ごうとしなくていいだろう?」

「ああ……そうだな」

レックスに諭されて鏡は返事をするが、表情は曇ったままだった。来栖の元に向かいたいという気持ちが、アリスのことだけじゃなかったからだ。

「やれやれ……」

そんな鏡にため息を吐き、レックスは再び暖具がないかを屋内にあったタンスの中を開けるなどをして探し始める。

その最中、アリスと同じく寒そうにしていないタカコの姿が視界に入るが、特に気にすることなくレックスは「何か羽織れるようなものはないのか……」と散策を続行した。

「どうして私には何も聞かないのかしら?」

明らかに視線が合ったのに無視されて、タカコが顔を近づけてレックスに問う。

「いやぁ……タカコだしな、変ではないというか、自然体というかな。なあ師匠?」

「まあ、寒がっていたら逆に怖いな」

「どういう意味かしら?」

鏡も同じことを思っていたのか、顔を見合わせて二人は頷き合う。

「あれでしょ? タカコちゃんのことだから気合とかそういう類のあれでしょ?」

「なんか腑に落ちない言い方するわね? まあ気合というのも間違ってはいないんだけど……鏡ちゃんなら同じこと出来るはずだけど? レックスちゃんに出来るかはわからないけど」

「俺に出来る? っていうか、そもそもそれって何をやってるの?」

「闘気を全身に送りこんで肉体を活発化させてるの。勿論それで寒さが完全に防げるわけじゃないんだけど、体温の低下を防いでくれるし、肉体も頑丈になるのよ」

「いやいや、俺そんなの使えないんだけど? チャージブロウみたいなの?」

「あれは魔力を消費するからちょっと違うけど、鏡ちゃんはいつも使ってるわよ? 鏡ちゃんが戦う時なんて闘気が駄々漏れで大気が震えてるくらいなのに」

自覚がないのか、鏡は「え、そうなの?」と驚愕した。レックスやアリスは既に何度かその光景を見ているため、納得した表情を見せる。

「無意識でやってたのね……まあ、鏡ちゃんならそれくらい出来ても不自然じゃないけど。実力のある武闘家なら皆使う技術の一つね、じゃないと岩なんて硬すぎて拳で殴れないもの……私はスキルがあるから関係ないけど」

「ああ……あれか、本気でフンッ! って感じで殴る時の感覚のあれね。あと、やるぜ! ってめちゃくちゃ気合を入れた時のあれかな?」

「……アバウトだけど、多分それね。気血を送り込んだ拳は岩をも粉砕する力を秘めるようになるわ。勿論魔力と同じで気にも限りはあるし、鏡ちゃんみたいに駄々漏れしてるのにいつまで経ってもなくならないのは異常だけど」

本来であれば、全身を巡る気を操作するのには長い修行の期間を必要とする。まずは、自分の力をどんな環境でもちゃんと発揮できるよう、真冬の寒い時期に外へと出て、硬直して怪我のしやすくなった身体を、瞬時に暖かい時期と同じように動けるようにほぐすなどして、コツを掴んでいく。そうして長い修行を重ねて得られるのが闘気を操り方だった。

「あ、本当だ……寒くない。でもこれ……すげえ疲れる」

「いつもは手加減してるからここ一番の時にしか使わないのだと思ってたけど……ちゃんと知らないだけだったのね、今度ちゃんとした操り方をレックスちゃんと一緒に教えてあげるわ。さすがの鏡ちゃんでもずっとそれじゃもたないでしょうし」

鏡は長い闘いを経て、闘気を身体に巡らせる方法を無意識に使っていたが、それはタカコのような武闘家のように操る域にまでは達していない。本当に身体に送り込んでいるだけで、今も大気を震わせるピリついた闘気が鏡の周囲に纏っている。

「よし、これで落ち着いて話せるな」

「いや師匠。僕たちはそれが出来ないから変わらず寒いし、師匠にその闘気を出されると落ち着かないからやめてくれ、ていうか目立ちすぎてこの場所が敵にばれるぞ」

「えー! でもこれ解くと寒いし!」

「おい……私なんか、闘気とかそんなこと言ってられないただの一般人なんだぞ? 私がこんな状態でお前だけ寒くないとか絶対許さねえからな」

レックスとメリーに言われて、渋々だったが確かにバレるのは良くないと鏡は再び丸まって寒そうに身体を震わせる。

そして、とにかくこのままこの場所に居ても寒いのは変わらないからと、落ち着かない中でも話し合いを始めることとなった。