作品タイトル不明
絶対的な強さの壁-7
「お前……何言ってるかわかってんのか?」
「わかってるよ。お前が頑なに弱いやつを連れて行こうとしないのもわかってる。でも、それでも私は行く。理屈じゃないんだよ……行かなくちゃいけないんだ。他でもない、私が」
「お前が向こうに行きたいのは……油機の件があるからだろう? 俺たちが戻るのを待ってられないのか? 俺たちが戻れば嫌でも話す機会があるだろう? わざわざ危険な場所に行って命を投げ出すような真似をする必要なんてないんじゃないか?」
「そうかもな」
鏡の返しに、メリーは瞼を閉じて「そう来ると思ったよ」とでも言いたげな不敵な笑み浮かべる。
「でも、お前たちが戻ってくる保証もどこにもないだろ?」
メリーの言葉に、鏡は一瞬言葉に迷う。少しでも自分たちが有利に戦えるようにメリーやアリスを連れていかないことから、『必ず戻ってくる』とは嘘でも言えなかったからだ。
「まあな、でも……お前やメリーを連れて行けば、その戻ってくる可能性も低くなるんだ。お前たちを人質に取られたりすれば、俺たちが不利になる……この間みたいにな」
「その時は見捨てればいい。何も死ぬ覚悟をしていないわけじゃないんだ。あんたの足を引っ張るようなら、それまででいいんだ」
「……簡単に、言うなよ?」
死んでもいいという言葉に、鏡は表情を強張らせてメリーを睨みつける。その形相は普段温厚な鏡が仲間には決してみせない怒りと失望を感じさせるもので、メリーは思わず身体をびくつかせた。
そのあと、メリーは何も言い返さないまま数秒の時間が過ぎ去る。
「そんなおせっかい……いらないよ」
だがそこで、いたたまれない沈黙を破るようにしてアリスが喉の奥から絞り出したかのような震えた声でそうつぶやいた。
「今のボクは鏡さんに協力したいという理由だけで行きたいんじゃない……自分のために行くんだ」
「……自分のため?」
「最初は確かに鏡さんの助けになりたいと思って……いつかは死ぬことだってしらされながらもここに来た。でも、今はそうじゃない。知りたいんだ……メノウが殺されなきゃいけなかった理由を。ボクたちを作った本当の目的を……この耳で」
「だから、それは俺たちが戻ってからでもいいだろう?」
「さっきメリーさんも言ったけど……鏡さんが戻ってくる保証はないでしょう? 何より、ボクの命がそれまでもつかもわからない」
その言葉返しに、鏡は一瞬目を見開く。だがすぐにアリスが何を言わんとしているのかに気付き、瞼を閉じて歯を噛みしめた。
「確かにボクとメリーさんがいれば、足手まといになるかもしれない。鏡さんがボクたちを簡単に見捨てられないからそう言ってくれてるのもわかってる。でも、ボクが真実を知るには多分もう……この足で向こうに行く以外にないんだ」
「アリス……あんたまさか」
いつもであれば、無茶なことを言い出したアリスを止めていたパルナも、この時は頬に汗を垂らしてアリスを見つめるだけで、動こうとはしなかった。
「お願いだよ鏡さん……ボクは知りたいんだ。前に進まなきゃいけないんだ! じゃないと、メノウに顔向け出来ないから」
鏡とパルナは、アリスがメノウを失ったショックから立ち直るのが妙に早かったのが気になっていた。その理由が今わかったような気がして、表情を曇らせる。
「メノウを失ったことを悲しんでいる暇はなかった……ってことか」
メノウは最後に魔力をアリスに託して消えていった。その間際、メノウは『アリス様も、私と同じ状態にある』、『これで、あなたも暫くは持つはずです』と、気になる言葉吐いていた。
無茶な戦いを要求されたとはいえ、メノウが消えたのはこの世界に来てからほんの数日のことだった。そしてメノウはこの世界に来た当初から異常なほどに戦うことを避け、魔力を温存しようとしていた。
仮に、何もせずにいるだけでも、身体を維持するために魔力を大きく消費していたのだとしたら? 既に二週間近くこの世界で過ごしているアリスは、いつ消えてもおかしくないくらい魔力消費している可能性があった。
「死ぬかもしれないんだぞ? いいのか? 俺はメノウを守れなかった……だから何かあったらきっと俺はお前を守れない。それでも行くのか?」
その問いに、アリスは真っ直ぐに鏡の瞳を見つめて頷いた。
何もしなくてもアリスはいずれ消えてしまう。そして鏡たちが戻らなければ、それは避けられなくなる。帰ってきたとしても、いつ戻れるかわからない以上、間に合わない可能性も充分にありえた。
「……わかった」
「ありがとう……鏡さん」
渋々と承諾する鏡にパルナも異論は唱えなかった。アリス救うには結果的に、一緒に連れて行く方が可能性は高かったからだ。
「だが、メリーは駄目だ」
「なんでだよ! アリスが行くなら足手まといが一人増えたくらいそんなに変わらないだろ!」
「守るべき仲間が増えるんだから変わるだろ? ……いい加減諦めてくれ」
「言っとくけど、お前向こうで敵に見つからないように潜入するとかって言ってたけど、お前ら旧文明の機械とか触れるのかよ?」
「どういうこった? 旧文明の機械が触れなかったらなんだってんだ?」
「向こうもここと同じ地下施設なんだぜ? どうせ来栖の野郎はこの地下施設にもあるセントラルタワーみたいな場所に隠れてるだろ。なら、ドアを開けたり、ロックの解除したりするのに私がいた方が絶対便利だぞ?」
「は? 馬鹿にしてんのか? ドアくらい開けれるっつの」
「へぇ。じゃあやってもらおうじゃねえか!」
メリーはそういきり立つと、腹部にある操縦席への装甲が開いていないラストスタンドを指差し、「あのラストスタンドの操縦席の扉を開いてみろよと!」と叫ぶ。
鏡は暫く沈黙したあと、ゆっくりとラストスタンドの傍へと近寄り、コンコンと装甲を叩いたり、色々触ったりしてなんとか開けられないか試すが、挑戦も虚しくラストスタンドの操縦席への入り口は開かなかった。
「いやいや、今見せてもらったばかりなのにわかるわけがないだろ?」
「向こうに行った時も同じような展開になるかもしれないぞ?」
「いや……その時はその……ほら、無理やりこじ開けるとかさ?」
「見つからないように潜入するのに? 大きな音をたてるようなことすんのか?」
「それは……あれだ。かなり静かに……こじ開けたり……その、ふんって! 一瞬でこじ開けて……その、ふんって! 音を一瞬だけに留めて……あとは『にゃーん』とか言っとけば多分あれ、誤魔化せるはずだから……な?」
「な? じゃねえよ」