軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

何一つ、諦めたくないから-8

『ああ……お主の考えている通り、我の話には続きがある。今回、あるお方のお力添えにより、お主たちは特別に次の舞台に出ることを許されている。本来存在しないはずの身体を次の舞台に用意してまでな』

「あるお方だと……一体誰だそれは? 何のために我々だけ?」

『それはいえん……その目的も、我からは何も明かすことを許されてはいない』

まるで、ダークドラゴンは全てを知っているかのような口ぶりだった。全てを知っている上で、話すことを許されていないのを苦しんでいるかのようだった。それが余計に、自分たちを試しているかのような感覚に陥らせる。

『出るかどうかはお前たち次第だ。お前たちには選択肢を与えられている』

その言葉を受けて、迷う必要はないとでも言うかのような意志のこもった面構えでメノウとアリスはダークドラゴンをまっすぐに見据える。

『これは……この世界の仕組みやルールなど関係なく、あの村人に携わる者へのせめての慈悲として個人的に我が漏らす独り言だが、お主たちが次の舞台に出たとしても……そこに待っているのは救いようのない現実と、絶望だけだ』

だが、メノウとアリスの毅然とした態度を見て、ダークドラゴンは憐れむかのような、まるで行かない方がいいと遠回しに言っているかのように、そう告げる。言葉の意味がいまいち理解できなかったからか、メノウとアリスはお互い顔を見合わせると困惑した表情を浮かべた。

その様子に、ダークドラゴンは仕方がないと言いたげに目を瞑り、言葉を続ける。

『お主たちに与えられる身体は、本来の身体が存在する人間とは異なり、不安定な作りのものだ。自身で魔力を生成することができず……その身体は最初に与えられた特殊な魔力によって維持されている。そしてその魔力は時間の経過と共に徐々に失われる。魔法を使ったとしても、その魔力が消費されることになる』

「……その魔力が無くなった時、どうなると言うのだ?」

『お主たちは消滅する』

叩きつけられた過酷な現実を前に、メノウは思わず絶句する。だがその傍らで、アリスは表情を一切揺らがさず、決意したかのようなまっすぐな瞳でダークドラゴンを見据えていた。

『次の舞台で生きながらえたくば……不用意に力を使わないことだ。さすれば、長くて一年はその身体を維持できるだろう』

「それでは……行く意味がないではないか! そもそも戻ってくることは……できるのか?」

『ここに戻ることは可能だろう。だが、戻れるかどうかは我の知るところではない、全てはあるお方のご意志によって決定されること』

命の保証はなく、外に出たところでろくに役にたつこともできない。その事実を聞いて、いくら鏡に大きな恩があろうとも無謀な行為であると、メノウは口を閉ざし、苦悩した。

『我が提案できる条件はここまでだ。もし意味を成さないと思うのであれば行かなければよい』

ダークドラゴンはそれが当然であると、まるで心が揺らいで思い留まろうとしていることを助長するかのようにそう言葉続けると、安堵したかのように溜め息を吐いた。

「……行くよ」

だがその時、躊躇った様子もなく、アリスはそう告げる。

「たとえ死ぬことになったとしても、ボクは……あの人の力になりたい。きっとあの人に会えなかったらボクはとっくの昔に死んでいた。あの人のおかげで、ボクが欲しかったものは全部手に入った。夢見た世界を過ごせるようになったんだ。でも、あの人の夢はまだ叶ってない」

『……良いのか?』

「ボクは、あの人の夢のためなら、この命が尽きても構わない。たとえボクの最後の夢……あの人と一緒に平和に過ごす日々が訪れないとしても……それでも!」

ダークドラゴンに告げられたアリスの言葉は、何よりもまっすぐな信念が込められていた。

それが瞬時に分かるほどに、アリスの眼差しはまっすぐにダークドラゴンの瞳を捉えていた。この場に残された時からずっと変わらず、一切の迷いを見せないままに。

「あの人に会いたい……鏡さんに会いたい。きっとこのままここに残ってもボクは後悔する。戻ってこないことに不安を抱きながら毎日を過ごして後悔するより、ボクは鏡さんに会いに行って、そしてあの人のために戦って……死ぬ道を選ぶ」

「アリス様……」

三年間、鏡がいないことで苦しんでいたアリスを知っているメノウにはその想いが痛いほどに伝わった。今でこそ落ち着きはしたが、鏡がいないことで元気を失い、空虚になっていた頃のアリスをメノウは知っている。そして、デビッドにより鏡に会えるかもしれない提案をされた時、誰よりも心の中で喜び、その瞳に輝きを灯らせたことも。

「ならば私も、あなた様にお付き従うまで。この命……アリス様のために、そして鏡殿のために捧げましょう。あなた方のためにこの命を燃やすのであれば……私も後悔はしない」

あまりにも一途なたった一つのその想いに感化され、迷っていた素振りを見せていたメノウも決心したかのような顔つきでダークドラゴンにそう告げた。

遠回しに引き返すことを進めていたダークドラゴンだったが、二人の揺るがないその眼差しを前に、観念したかのように小さく溜め息を吐く。

その直後、ダークドラゴンの眼が怪しく光輝き、アリスとメノウの足元はレックスたちを次の舞台へと誘った時と同じように、眩い光に包まれた。

「なれば……これ以上は何も言うまい。だが次の舞台へと向かう前に一つだけお主に聞かせて欲しい。魔族の身でありながら、何故そこまであの村人に肩入れしようとする?」

ダークドラゴンは真意を問いただすかのように、相手を圧倒するほどに迫力のある巨大な顔を、アリスへと近付け、睨みつけるかのようにまっすぐと見据える。

するとアリスは、あまりにも唐突なその質問に、意外とでも言いたげに一度目をぱちくりとさせた後、答えが決まっているのか迷った素振りを一切見せず――、

「あの人が……大好きだから」

はにかんだ笑顔をダークドラゴンへと向けて、はっきりとそう告げた。

『誠……面白き者たちよ』

最後に告げられたその言葉に、ダークドラゴンはその恐ろしき容姿からでもはっきりとわかるほどの満足気な笑みを浮かべる。

願わくば、村人と共に再びこの地へと戻ってくるよう心の中で祈りながら、ダークドラゴンがアリスとメノウの二人を足元に発生させていた光で包み込み、次の舞台へと送りこんだ。