作品タイトル不明
第十章 ぶっ倒して終わりだろ?-3
その時洞窟内に、「きゅるるるる」と情けない音が鳴り響く。何の音かとパルナが周囲を見渡すと、アリスがお腹を押さえて少しだけ頬を紅潮させていた。
「……あ、そうだ。デビッドからお弁当預かってるわよ。あんた忘れて行ったでしょ?」
「え! パルナさん持って来てくれてたの?」
パルナの言葉に、アリスはパアッと表情を明るくさせる。よほどお腹が空いていたのか、弁当という言葉への食いつきっぷりにパルナは苦笑すると、持ってきていたカバンの中から一つのお弁当箱を取り出した。
そのまま弁当箱をアリスへと渡すと、アリスは目を輝かせながら弁当箱を包んでいた布を取り外す。その一連の行動をパルナはニコニコと満足した表情で見届けた。
「あれ……パルナさんは食べないの?」
「私はお腹空いてないからいいのよ。後でお腹が空いたときに食べるから」
「……ふーん」
疑った目線を向けて暫くじーっと見つめてくるアリスに、「いいからさっさと食べなさい」とパルナは手をプラプラと揺らして促す。するとアリスは、フォークで弁当箱の中に入っていたソーセージを突き刺すと、「あーん」と言ってパルナの口元へと運ぼうとする。
「だから……私はお腹減ってないって言ってるでしょ?」
「往生際悪いなあ……ボクにはお見通しだよパルナさん」
ソーセージを突き付けながらジッと見つめてくるアリスからパルナは徐々に目を逸らす。本当は一つしかないお弁当を、パルナがアリスに渡しただけだったのだが、アリスはそれを一瞬にして見抜いた。パルナが持つカバンは二つのお弁当が入る程大きくはなく、お腹が鳴ったタイミングでお弁当を渡してきたことから、それがパルナの気遣いであると、普段のパルナの行動から簡単に予想できたからだ。
「気持ちは嬉しいけど、パルナさんの分を奪ってまで食べたいって思わないよ」
「ったく……最近ますます勘が良くなったわね。誰に似たんだか……」
「勘じゃないよ? パルナさんならそうするだろうなーって思っただけだから」
その勘が当たっていたのを確かめると、アリスは再びパルナの口元にフォークを近付ける。少し気恥ずかしいのかパルナは周囲に誰もいないのを確認してから、渋々と受け入れて差し出されたソーセージを口の中へと含んだ。
「じゃあ後は全部ボクが食べるねー」
「私の分少なすぎでしょ!?」
そんないつもの日常的な会話をしながら、二人は終始笑顔で食事を取り始める。こんな日々を過ごせるようになったのも、全ては三年前、鏡が魔族と人間の間にあった大きなわだかまりを取り除いてくれたおかげだった。
魔族を憎んでいたパルナは三年前の戦い以降、今まで毛嫌いしていた分以上に魔族との交流を積極的に図るようになった。それだけじゃなく、鏡と交わした約束を今でも守り、誰よりもアリスを大切に見守り続けている。たまに、メノウとパルナとの間で過保護対決が勃発する程に。
アリスも三年前と比べ、身体だけではなく精神的にも大きな成長を遂げていた。最初は、鏡が戻ってきた時に、魔族と人間がすっかりと仲良くなって手を取り合うようになった世界を見せて驚かせようと、周囲の人間に協力してもらい、人間と魔族の仲を繋ぐためのアイデアを考案して取り組み、助力出来ることがあればどんな条件でも引き受けて人間と魔族の仲を繋いできた。
それが原因で一度攫われたこともあったが、その成果もあって人間と魔族はこうして二種族が混ざったツアーへと相手が異種族であるなど何も気にせずに参加し、街を歩けば魔族と人間が酒を交わす場面も普通に見られるようになった。
それもこれも、鏡がきっかけを作ってくれたおかげだ。だが、その肝心な鏡はここにはいない。
三年間、来る日も来る日もアリスは鏡が戻るのを待ち続けた。
『鏡さんまだかなー? 明日帰ってくるかな?』
最初の一年は、毎日のように来る日も来る日もそう言葉にしたのをアリスは覚えている。