軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

向き合うこと、それが始まり-13

「な、何を言ってるの?」

「まさか我が愚息が、王の意志に逆らうような真似をするとは思っていませんでしたからね……王にお願いして洗脳させてもよかったのですが、より良い方法がございましたので」

「それで……あれか?」

「ええ……でも仕方がないのです。あの子を崇拝して魔族との仲を保とうとする愚かな者たちが大勢いましたから。てっとり早く魔族を利用して殺させるのが、一番効率が良かったのです」

その言葉を聞いて、パルナの脳内でその時の光景がフラッシュバックする。

そんなことがあるはずはなかった。あの時、自分の師匠を殺したのは間違いなく交流を図っていた魔族であり、とても利用されたような様子は見当たらなかったから。

「ね、ねえ……何を言ってるの?」

それが嘘であることを懇願するように、パルナは声を震わせながらそう言った。

「お前は……残酷だな」

「全ては王のためです。あの子の下で働く者達は優秀な存在が多かったですから……魔族に恨みを持つように仕向けて、あなた様の駒としたのです。ここにいるパルナも、それによって手に入った優秀な価値ある存在の一人なのですよ?」

そしてミリタリアはそうつぶやくと、優し気な表情を崩して醜悪な笑みを浮かべた。

「嘘……嘘よ。じゃあ何? あの人を……師匠を殺すように仕向けたのは魔族の意志じゃなく、あんただったって言うの?」

「そう……なってしまいますね。もっとも、その運命を辿ってしまった我が愚息の責任でもありますが」

「あなた……一体何をしたの?」

「交流を図ろうとした魔族の集落に赴いて、魔族を一人殺したのですよ。我が愚息の関係者であるとわかるように、愚息が作った組織の服を纏わせてね。たったそれだけです。そして、それだけで崩れる関係なのですよ……魔族と人間はね」

それを聞いて、パルナの中にある一つの言葉を思い出す。

『絶対に危害を加えない! 信じてほしい!』

師匠は、そう言い続けていた。だが、ミリタリアの話が本当であるならば、その約束は守られていなかったことになる。むしろ、魔族からすれば最初に裏切ったのは自分達。

「嘘よ……嘘。そんなの……だって! あなたの息子でしょ!」

「全ては王のためですよ。何故私がただの人間でありながらこの世界の仕組みを知っていると思います? それ程までに、私が王に忠誠を誓っているからです。そう……王こそが私の全て! 王の願い、王の苦しみを理解しているからこそ自分の子であっても危険な存在であれば殺せる。それ程までに、王のお考えは絶対であり、我々には遠く及ばないのです!」

「どうして……そんなこと今私に話したの? 黙っていれば……」

「あなたに再度洗脳を施すよう、私が王にお願いしたからですよ? あなたの復讐はこれで完了しました。それにこの世界の仕組みまで知ってしまった……もう魔王討伐の道を歩まないかもしれないでしょう? それでは困るのですよ。あなたには……今後も戦ってもらわないと」

全ての真相を知って、パルナは絶望した表情で身体を震わせた。結局自分も、鏡の言っていた世界の仕組みに踊らされていただけだったことを知って。

「ミ……ミリタリアぁぁああああああああ!」

そして、全ての元凶である存在に一矢報いようと、パルナは自分の体内に残る全ての魔力を手元に集中させ。全力で爆破魔法をミリタリアへと向けて放った。

「…………おや? おやおや……?」

だが、その爆破魔法はミリタリアに届くことなく、瞬時に現れた何かによって遮られ、その場で大きな爆発を巻き起こした。

「あ、あんた……!」

暫くして、爆破魔法によって生じた煙が晴れると、そこには王の一撃によって倒れたはずの鏡が立っていた。体力を大きく消耗しているせいか、今にも倒れそうな程に顔色が悪かったが、背中に負っていたはずの傷はアリスの回復魔法により完全に塞がっていた。

「おやおや……生きていたことにも驚きですが、そんな今にも倒れそうな顔色で私を庇ってくれたことにも驚きです。どういうつもりですか?」

「こんな奴を殺して、パルナが罪を犯す必要なんてない」

「ふふ……面白いことを言いますね。パルナの攻撃で死ぬ私とでも? ……しかしその様子だと全部聞いていたようですが……何故もっと早くに行動しなかったのです?」

ミリタリアのその言葉に鏡は、「動けなかったのさ」と答え返し、気を失わせて倒れるアリスの元へと向かう。

「正直呼吸も出来ない程だったし死ぬ寸前だった。……あと一発、小さな爆破魔法でも喰らえば死ぬくらいにな。でもアリスが……諦めずに俺の傷を癒してくれたんだ。こんな小さな身体であれだけのダメージを請け負ってまでな」

「ありがとな……よく頑張った」

そして、鏡は横たわるアリスを抱きかかえ、ゆっくりとパルナの傍へと運ぶと――、

「今度こそ、守ってやってくれ……頼むよ」

そう言って、真っすぐに見つめるようにして、鏡はパルナに向けてそう言った。

「あんた……私が憎くないの? アリスをこんな風にしたのは私なのよ?」

「確かにお前がやったことは最低だ。最低だし簡単には許されねえよ」

「だったら……! 私を殴りなさいよ! 私は敵でしょう? ねえ? ほらどうしたの? 私が魔族を憎んだように……あんたも私が憎いんでしょう!?」

するとパルナは、自分に言い訳するようにそう叫び始めた。

だがパルナは、自分の過ちをとっくに認めていた。だからせめて、アリスに与えた苦しみと同じくらいの痛みを自分が請け負うことで許されようとしていた。

「どすこい」

「っ!?」

しかし鏡は、パルナに軽くチョップをするだけで他には何もせず、アリスをパルナの胸元に強引に押し付けて抱きかかえさせた。

対するパルナは、あまりにも突然のチョップに困惑した表情を浮かべながら、されるがままにアリスを受け取る。

「くだらねえよ。そういうの」

「く、くだらないって何よ! 私が一体……一体どんな思いで!」

「わかるよ。すっげえ悩んだんだろ? 悩んで悩んで行きついた答えの元の行動だったんだろ?」

「そうよ! だったら何がくだらないって言うのよ!」

「理解してくれた相手に復讐するのが、くだらねえって言ってんだよ」

そして鏡がそう言い放つと、パルナは面喰らった表情を見せた。

「過ちに気付いたんだろ? アリスは倒すべき相手じゃないってわかったんだろ? ならこれからの行動でその過ちを償えばいい。そして俺はそれを見届けるだけでいいんだ」

そう言われ、パルナは気絶したアリスの顔を見つめた。人間と何ら変わりない、まだ幼い少女の寝顔がそこにあった。そしてそれを、自分が傷つけてしまったという事実に再度罪悪感を抱き、パルナは瞳を潤ませた。『酷いことをしてしまった』その感覚が、確かに自分の中に芽生えていたから。

「大事なのは過去じゃなくて、これからの未来だ」

そして鏡はそう吐き捨てると、ミリタリアのいる方へと身体を振り向かせる。

パルナは何も言わずに鏡の背中を見送ると、まるで存在を確かめるようにアリスをぎゅっと抱きしめ。自分のせいで傷つけてしまった背中を回復魔法で癒し始めた。