軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

向き合うこと、それが始まり-6

魔族を倒さなければいけないというそのおかしな仕組みを壊すために、人間を殺して話し合いをする、それはどっからどう聞いても、脅迫にしか聞こえない。

そして、こんなくだらない仕組みのために誰かが命を落とす必要性はない。そう考えての鏡の選択だった。

それがわかり、魔王は思わず微笑を浮かべる。

「ふ……やはり不殺を試みるか。ならば村人、お前に少し助力してやろう。不殺の真髄とは、逆らう気力も湧きあがらない程の……圧倒的な力の差を見せつけることだ」

すると、魔王は頭に巻きつけられた魔力を抑える布を王都の中心部であることも関わらずに取り外した。

「お……おい! 魔力がダダ漏れだぞ」

「気にする必要もなかろう? 外そうが外すまいが我等は敵として扱われる。それに……魔族と人間が手を組んで王城へと乗り込んできたという噂がたった方が、都合が良かろう?」

そう言うと魔王は、いつの間にか騒ぎを聞きつけて集まってきていた数十人にも及ぶ兵士達の方へと向き合う。

そして付け足して、「魔族は倒すべき存在であるという仕組みを、これから壊すのだからな」とつぶやく。

それを聞いて、鏡は思わず顔をにやつかせて同じく兵士達に向き合った。

「な……ま、魔族!?」

「待て……なんだ? なんだよこの馬鹿げた魔力。あいつ……ただの魔族じゃないぞ?」

「そ、その隣にいる村人っぽい奴もだ! さっき……あいつが瞬時に他の兵士達をやったのを俺は見たぞ!」

「魔族と手を組んでる人間……こいつら、噂になってるクルル様を騙していた連中じゃ!?」

「じゃああの村人は……サルマリアで1万の軍勢と戦ったっていうあの……!?」

時間が経つと共に次々に兵士達が集まり、王城へと続く大通りには既に多くの兵士達で埋め尽くされていた。

だが、その圧倒的な数をもってしても、たった数人相手に誰も攻撃を仕掛けようとはしなかった。いや、仕掛けられなかった。

そして、いつまで経ってもこちらに攻撃を仕掛けない兵士達を見て、「そういうことか」と、魔王が言っていたことを理解する。

兵士達は、目の前に立ち塞がる存在があまりにも恐ろしすぎるが故に、身体の全細胞から危険信号を放ち、今すぐこの場から逃げ去れと脳内で叫び散らしていた。

戦えば、絶対に殺されると思えるほどの圧倒的な魔力を目の前の魔族は放っている。近付けば瞬時に殺すとでもいうような威圧感と殺気を、目の前の人間は放っている。

そう、今この場には、史上最強の魔王と、史上最強の人間が二人揃っている。

そんな相手を前に、命を無駄にするような真似ができるわけがなかった。

味方であるはずのメノウ、タカコ、ティナ、デビッドですら、近くに立っているだけでその気当たりに飲まれそうになるほどである。

ただ一人、ずっとこの光景を夢に見ていたアリスだけが、「二人とも……頑張って」と小さくつぶやいた。

「向こうから来ないからいつまで経っても進めないな……俺も相手の背後に立てないとスタンバトンで気絶させられないから、この状況が続くのはまずいぜ?」

すると、鏡はそう言いながらスタンバトンをひらひらと揺り動かす。すると魔王は「お前がそんな調子でどうする……」と溜息を吐きながら、手元に魔力を込めて、緑色に輝く風の渦を発生させる。

「なんだそれ?」

「絶対的な威力を持ちながら、殺生能力の低い魔法もあるということだ。仮にも王都を守る兵士だ……死にはしないだろう。さあ準備はいいか? ……開幕だ!」

そう宣言した直後、魔王は前方に向かってその魔法を撃ち放つ。

その瞬間、思わず顔を伏せてしまうような突風が鏡達を襲い、思わず身を屈めてしまう。

対する目の前にいた兵士達は、押し飛ばされる程に重圧ある風に襲われ、次々にその身を宙へと舞わせていた。

「いまだ! 走れ!」

そして、魔王から放たれたそのその掛け声を合図に、一同は一斉に王城へと向かって駆け出す。

それとほぼ同時に、魔王が放った魔法を耐え凌いだ兵士達が一斉に鏡達に襲い掛かった。

「デビッドはアリスを頼む! タカコちゃんはティナを援護してやってくれ!」

鏡はそう叫ぶと、進路を遮ろうとする兵士達を目にも止まらぬ速さでスタンバトンを首筋に次々へと当てていき、気絶させては前へと突き進んでいく。

「とても頑丈そうな鎧ね……でも、私の前では意味がないわよ!」

横から囲もうと近付く兵士は、主にタカコとデビッドが応対し、培ってきた体術を駆使して気絶させていく。横目にその光景を鏡は目の当たりにしたが、どれだけ重圧な鎧を着用していても、関係なしに破壊して気絶させてくるタカコは向こうからすれば絶対に恐ろしいのだろうなと同情した。

背後から迫りくる兵士達はメノウが対応し、魔王程ではないが風を操る魔法を使って近付けないように吹き飛ばしていく。

「もらったぁあああ! ……っぁ?」

そして、更にそこから漏れて攻撃を受けないように魔王が全体を見渡し、風を操る魔法で兵士を吹き飛ばし、今、アリスが襲われかけたようにギリギリの時は電撃を放つ魔法を使って援護を行った。

「大丈夫かアリス?」

「うん、大丈夫。ありがとうお父さん! ……あ、メノウ危ない!」

完璧な布陣に見えるが、それでも膨大な量の兵士達の前に全ての攻撃を防ぎきれるわけではなく、魔法のような遠距離攻撃はもろにくらってしまう時があり、一同は着実にダメージを蓄積させていく。

「メノウさん、傷を癒します! 走りながら!」

だがその傷を、ティナが癒してくれるため、一同は傷つくことを恐れずに先へ先へと進み続ける。

それを繰り返していくうちに、次第に襲い掛かろうとする兵士達はその数を減らしていった。それ程までに力の差がありすぎたからだ。

どこから攻めようが、どれだけダメージを与えようがお構いなし。近付けばもれなく気絶させられ、止まることがない。

「ひ、ひるむな!」

「絶対にここから先は行かせん……我が誇りにかけて!」

しかしそれでも、王のためにと戦う意志を曲げない者はいた。それらが接近する度に苦戦を強いられてしまう。

向こうは殺すつもりなのに対し、こちらは不殺、それは大きなハンデでもあったからだ。

「ティナ! 生きてるか!?」

「まだ大丈夫です! 鏡さんこそ、へばってませんか?」

「大丈夫だ! でも……このままだとまずい、魔王! もっとあの爆風を起こす魔法を連発できないのか?」

「連発は無理だ、魔力を込める手間が必要だからな。力加減も難しい」

それを聞いて、鏡は思わず表情を歪める。

このままではジリ貧だった。王様の元に辿り着く前に、こちらが疲弊してしまう。せめて魔王が全快の状態であればと考えるが、ないものにすがっても仕方がないと諦める。

だが希望も見えていた。王城まで、あと半分と言える距離にまで近づけていたからである。

「よし……ここからならぎりぎり届くかもしれない。作戦Bで行くぞ!」

「……なんだそれは?」

「説明している暇はない! 魔王! お前が向こう側に先に行って皆を受け止めてくれ!」

「……なるほど」

『受け止めてくれ』という言葉で、魔王は鏡が一体何をしようとしているのか悟る。すると、鏡は魔王の身体をガッチリと固定して掴み――、

「そぉい!」

全力で、王城に向けて投げ飛ばした。