軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第96話:思った以上に その2

ナズナの気持ちを確認しなければ、と思ったが、正直なところ 答(・) え(・) の候補は多くない。

一つは年齢的に実感として乳母を選択肢に入れることができない。将来のことがぼやけていて上手く想像できないのは、多くの子どもが経験することだろう。

一つは俺が知らないだけで乳母……アンヌさんのような立場を嫌だと思っている。仲が良いし尊敬もしているが、アンヌさんの仕事自体は好きじゃないとナズナが思っているパターン。これだとどうしようもないが、同時に、可能性は低いと思っている。

最後の一つはシンプルに、自分でも考えるのが気恥ずかしいというか反応に困るが、俺に惚れている可能性。乳母になるってことは俺以外に嫁ぐ必要があるわけで、それを避けているんじゃないか、という可能性だ。

この三つだろうと思うが、まあ、一番可能性が高いのは三つ目かな、って。

これで違えば自意識過剰の勘違い野郎として恥ずかしさのあまり腹を切る所存だが、これまでのナズナとの付き合い、ナズナの反応からそう推察するしかない。

……本当にごく僅かな可能性だと思うが、俺達が成長してもずっと今の関係のままでいられるとナズナが思っている可能性も無きにしも非ずだが。さすがにそれはないだろう、とも思う。

三歳の頃からずっと一緒にいて、一緒に学んで、一緒に育ってきたからこそ、今後もそれが続くと思っている可能性が……まあ、ナズナは聡いところがある子だ。それはないだろう。

そして、 そ(・) ん(・) な(・) ナ(・) ズ(・) ナ(・) を家臣としてどう扱うか、どう方向性を矯正するか。その辺りをレオンさんとウィリアムは見ているんじゃないか、と俺は考えていた。

やっぱり難易度が高いというか、十二歳……もう十三歳になるが、そんな子どもにやらせることじゃないと思うんだ……。

父さんや家臣の期待が重くて潰されそう、なんて考える俺だったが、ふと、思い出すことがあった。

それは以前、『王国北部ダンジョン異常成長事件』の後に本の『召喚器』がページを一気に増やした時のことである。その中にはナズナのページもあり、何かに驚いた様子が描かれていた。

俺やウィリアム、ゲラルドがダンジョンの異常成長に巻き込まれたことに対して驚いていたのかと思ったが、今となっては 違(・) う(・) 理(・) 由(・) が見えてくる。

(多分だけど、俺がカリンの婚約者候補になったのを知ったんじゃねえかな……それがショックだった? それでも俺と一緒にいられるとすれば乳母か従者か……いや、従者だな。乳母は俺と一緒にいるんじゃない。俺の子どもと一緒にいて、育てるんだし……)

もし、本当にそうも想われているのだとしたら。俺の勘違いでないとすれば。

(……この状況で『俊足の指輪』を渡すのはまずいのでは?)

そんな 当(・) た(・) り(・) 前(・) の(・) こ(・) と(・) に気付き、ズキン、と頭が痛む。まるで浮かんだ違和感を咎めるようなその痛みに、思わず顔をしかめてしまった。

「あ、あの、若様? 何か御不快にさせました……か?」

俺の表情に気付いてしまったのだろう。ナズナが不安そうに尋ねてきたため、俺は慌てて表情を取り繕う。

「いや、急に頭痛がしてな……それで、ナズナはウィリアムみたいに武官としての役割を持ちつつ、従者として傍にいる道を選んだと?」

とりあえず、以前ナズナが言っていたことを引き合いに出して尋ねてみる。直球で尋ねた方が早いんだろうけど、何事もまずは確認からだ。

(さっきの頭痛と違和感……またリンネに何かやられた? いや、今回はランドウ先生が一緒だし、接近を許していないはず……接近しなくても何か仕掛けることができるのか?)

そして同時に、そんなことを考える。

自分に惚れている――かもしれない、の段階だが、そんな相手に装備アイテムとはいえ指輪を贈ればどう思われるか。

自分で地雷を埋めてから全力で踏みつけるような所業だろう。カリンと婚約者候補の関係になった俺がやるのは性質が悪い。いくら装備アイテムとはいえ、家臣へのプレゼントとして贈るにはおかしい代物だ。

(……問題は、俺がそれを選ぼうとした……確証はないけど、リンネがやらせようとした? その意味、か)

『魔王の影』の目的から考えると……修羅場を形成して負の感情を発生させようとしている? 俺個人を狙って? もっといくらでも手段があるだろうし、さすがにあり得ないか。

俺がナズナに『俊足の指輪』を贈ると何かが起きる? ……いや、何が起きるんだよ。学園に行ったあたりで修羅場が発生する可能性は否定できないけどさ。男女間の関係のいざこざで発生する負の感情は量も多そうだし、質もすごそうだけど……さすがにないよな?

そうなると、リンネの狙いがわからない。いや、もしかするとリンネはまったく関係なくて、ナズナとの関係を幼馴染みだとしか思っていなかったのに、その他諸々が絡んできてストレスに感じて頭痛がしただけかもしれないけどさ。

「わたしは……色々とありましたけど、それでも最後に思ったのが若様の傍に……いえ、若様を守りたいと思いました。たとえ若様の方が強くて、すごくても。それでも若様の心と体を守りたいと……そう、思ったんです」

その 色(・) 々(・) で何があったのか。それを聞きたかったが、ナズナの表情を見れば答えてくれないだろうな、と思えた。

「そう、か……俺を守ってくれるのか……」

「え、と……はい……」

思わず呟けば、ナズナはどことなく恥ずかしそうに答える。主君を守る騎士や兵士として考えればおかしな発言ではないが、ナズナの表情を見ていると忠誠心以外の感情も透けて見えるわけで。

「俺を守るなら……そうだな、防御に向いている物。たとえば盾を使ってみるとかどうだ?」

ここでちょっと話題を逸らすように提案してみる。『花コン』においてナズナに向いている戦闘スタイルは剣と盾を装備させてタンク役にすることだ。ナズナは物理防御力が高めに設定されているからタンク役に向いてるんだよな。

ただまあ、前世で考えれば中学生になるかならないか、といった年齢の少女をタンク役にするのはさすがにちょっと、と思う部分もある。そもそもその年頃の少女に剣と盾を持たせてまともに使えるのか、という問題もある。

それでもスギイシ流ではないが、ナズナも今まで剣を振ってきた身だ。剣を盾に変えれば今のままでも十分扱うことができるだろう。剣も一緒に使うのはこれからの課題にすれば良い。

俺と違って援護魔法を扱えるぐらいは魔法の才能があるんだし、魔法で身体能力を強化してから剣と盾の二刀流、みたいな感じで戦うこともできるはずだ。もちろん、それを実現するためには相当な鍛錬が必要になるだろうが。

「盾、ですか……盾……」

俺の剣であり盾になる、と言ったものの、実際に盾を扱うことまでは考えていなかったのか。ナズナは繰り返すように呟き、何かに納得するように頷く。

「そう、ですね……わたしとしては槍もいいかな、と思っていたんですけど……なんというか、しっくりとくるような……」

「……槍か」

ナズナの呟きに対し、俺は反応に困ってしまう。

たしかに槍も良いだろう。なにせ『花コン』でナズナが使っていた『召喚器』が槍だからだ。ただしナズナの『召喚器』はそこまで便利なものではなく、使うとしても『顕現』まで至らなければ使い道がないというか……。

『花コン』におけるナズナの『召喚器』は、その名も『 躇突盲振(ちょとつもうしん) 』だ。そしてその名前の響きに反し、必殺技の効果は相手の盲目化である。

この盲目化というのが微妙なところで、効果は命中率を半減させることだ。一応、『魔王』にも通用するため使える能力ではあるが、『魔王』は必ず命中する技を持っているため通常攻撃にしか効果がなかったりする。

その点、 男性攻略(ヒーロー) キャラのタンク役は『召喚器』の位階を『顕現』まで至らせて必殺技を使うと、どんな攻撃でも必ず防ぎきる盾となる。

正確にいうとどんな攻撃でもHPが1残って死なないだけだが、敵側の必殺技だろうと最上級魔法だろうと一度だけだが必ず防いでくれるのだ。

そんなわけで、ナズナの場合は『召喚器』を発現して鍛えるよりも普通に技術を磨く方が強くなりそうだ。『召喚器』が槍なのは父親であるウィリアムの血だろうな、とは思うし、多分ゲラルドも『召喚器』を発現するなら槍だろう。

「一応聞くけど、ナズナは『召喚器』はまだ使えなかったよな?」

「ええ。若様のようにはいかず、まだ手応えも掴めていません」

そう言って悔しそうに拳を握り締めるナズナの姿に、ここから本当に『俊足の指輪』を渡して良いものかと悩む。こうして途中で気付けたが、仮にリンネが干渉してきたのだとしてナズナに指輪を贈らせて何がしたいんだろうか。

(実は近くにいるんじゃないだろうな……)

方法はわからないが、ランドウ先生の目すら掻い潜って近くに潜伏しているんじゃないだろうな。いや、さすがにそれは無理か? でも王都では透けるようにして消えたから、何かしらの方法で気配を消すか、姿自体を消せる可能性もある。

(疑い出したらキリがないのが厄介だな。さすがに近くにはいないだろうけどさ)

ランドウ先生と比べれば遥かに劣るだろうが、俺が気配を探っても引っかかるものはない。そのため自分の感覚がおかしいだけなのか、リンネから何かしらの干渉を受けたのか、ナズナに『俊足の指輪』を贈ろうという考えを実行して良いものか。

(……仮にリンネの干渉があったとして、指輪を贈ったら何が起きるっていうんだ? 王都で戦いはしたけど俺には割と親しげというか、好意的だったというか……本当にオウカ姫だったとして、俺に何かさせようとしている可能性もある?)

実は俺と同じで『花コン』に関する知識を持っている……いや、ねえわ。それなら 俺(ミナト) に干渉せず、主人公に干渉するだろ。あるいは『魔王』対策でランドウ先生かメリアだわ。

俺がミナトらしくない行動を取っているから干渉するにしても、今みたいな干渉の仕方はおかしい……はず。断言できないのは俺の頭じゃ確信を持てないからだ。

(リンネじゃなくてオウカ姫が何かさせようとしているのなら、敢えて乗ってみるのもアリか?)

少なくとも今回は使わない装備アイテムを譲るだけ、という名目もある。そう考えた俺はしばらく悩んだが、当初の予定通りに話を進めることにした。

「そうか……そんなナズナにプレゼントというか、渡したいものがあるんだ。俺もランドウ先生も使わないから、使うなら使ってほしんだけど……」

それでも気持ちの問題か、躊躇するような物言いになってしまう。というか装備アイテムとはいえ異性に指輪を贈るのは前世込みで初めてだ。ネックレスとかイヤリングならまだしもさ。

そんなことを思いながら『俊足の指輪』を取り出し、ナズナへと差し出す。するとナズナは目を丸くして指輪を見て、俺の顔を見て、再び指輪を見て、最後にもう一度俺の顔を見た。

「――――え?」

呆然としたような、ナズナの声。目を見開いて瞬き一つせずに俺をじっと見つめてくる。

「……俺はほら、『召喚器』が身体能力を強化してくれるからか、指につけても効果がないんだよ。かといってせっかく手に入れたものを売るのももったいないかなって」

なんというか、言い訳をしているような気分になるな……理由をつけてナズナに指輪を渡すことを正当化しているというか、気持ちを隠そうとしているというか。

それでも『俊足の指輪』を差し出し続けると、ナズナがおずおずと手を伸ばしてくる。しかし指輪に触れる前に動きを止めたかと思うと、何やら上目遣いに俺を見上げてきた。

「そ、その、若様? ひとつだけ、わがままを言っても……いいですか?」

「……なんだ?」

この状況でわがままって何だろうか、なんて思っていたら、ナズナははにかむように表情を崩しながら言った。

「若様の手で、指輪をはめてほしい……な、なん、て……」

「…………」

その わ(・) が(・) ま(・) ま(・) を聞いた俺は、思わず動きを止めていた。

これはもう、やっぱりアレか? 男女的なアレコレを俺に向けてるのか? ナズナが演技をして俺を騙そうとしていなければ……いや、何の意味があって騙すんだよ。つまり、ああ、なんだ。

(主君として、幼馴染みとして……そんな関係は横に置いて、やっぱり異性として好かれてる?)

ここまで嬉しそうに、恥ずかしそうに喜んでおきながら、実は何とも思っていなかった、なんてことはさすがにないと思う。思うんだが。

(俺には応えようがないし……口に出さなければ確定じゃないが……)

ナズナもきっと、それを理解しているのだろう。

惚れた腫れたで好いた相手だとしても、俺とナズナは主君と家臣で。純粋に好きだと言うには幼い頃から距離が近くて。俺に至ってはカリンという婚約者候補がいて――。

(……酷い、話だ。やっぱり、俺が婚約者候補を決めたから、か……)

もしや、とは思っていたが。ナズナが髪を切り、不要となったリボンをそれでも捨てずに鞘に結んでいる理由。それを感じ取り、俺は密かに歯を噛み締める。

「……若様?」

「ん? ああ……すまないな。手を借りる」

ナズナの言葉に平静を保ち、左手でナズナの右手に指を絡める。そして指のサイズを簡単に確認し、僅かに迷った。

「……この指輪は小さめだし、小指に通しておくな?」

薬指でも大丈夫だと思ったが、指輪の大きさを言い訳にして小指へと通す。さすがに右手とはいえ薬指に通すのははばかられたのだ。

(それなら指輪を渡すなって話だよな……あー、駄目だ。後になってやっちまったって思ってるな……)

俺はそう思い。

「ありがとうございます! この指輪に懸けて、若様を守り抜いてみせますっ!」

――それでも、嬉しそうに微笑むナズナを見て。後悔するのは失礼だなと自分に言い聞かせるのだった。

明けて翌日の朝。

ナズナとの件もあっていまいち眠れなかったが、それでも時間は経つし嫌でも朝はやってくる。今日もまた修行だ、モンスター相手に実戦だ、なんて思いながら部屋から出て――ん?

「ナズナ? どうした?」

扉を開けると、そこには朝からしっかりとメイド服を身に纏ったものの、焦った様子のナズナが立っていた。しかも昨日の話を早速実践するつもりなのか、五角形を逆さまにしたような形の盾を両手で持っている。

「わ、若様!? どうしましょう!? あ、朝起きたらこの盾の『召喚器』が『召喚』できちゃいました!」

「…………」

ナズナの発言を聞いた俺は無言になる。そしてナズナが持っている盾をじっと見て、思った。

――これ、『俊足の指輪』を渡した効果じゃないだろうな、と。