軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第83話:帰郷

王都で知り合った人々へ一時の別れを告げ、領軍の準備も整えば王都を出発することとなる。

「ミナト、本当にいいのか? もう一人ぐらいなら運べるし、兵達はウィリアムに預ければ問題もないんだが……」

で、いざ出発という段階になって、レオンさんから心配そうに尋ねられてしまった。

それは、俺の領地への帰還の手段に関してである。

レオンさんが王都にいるのは『王国北部ダンジョン異常成長事件』の発生により、緊急事態ということで竜騎士に運んでもらったからだ。

さすがに帰りは徒歩で帰れ、なんてことを言われるはずもなく、再び竜騎士が領地まで送ってくれる手筈になっている。それに同行してはどうか、とレオンさんが提案してきたのだ。

「たしかに竜騎士に任せれば早いですが、『魔王の影』に狙われて撃ち落されでもしたらと思うと……ウィリアムやモリオンが一緒なら撃退できると思いますし、陸路で帰りますよ」

だが、俺はその提案を断る。たしかにドラゴンに乗って運んでもらえば領地まで一日とかからずに移動できるが、リンネに狙われたらと思うと選び難い選択肢だった。

「父上にはランドウ先生への連絡をお願いしたく……先生の都合もあるでしょうけど、領地に着くまでの時間があれば丁度良いと思いますし」

今頃東の大規模ダンジョンで大暴れしているだろうし、ランドウ先生に連絡を取るための段取りなどを考えると歩いて帰っても大差ないだろう。

それに、レオンさんが来たから引き継いだものの軍役の元々の代表者は俺だ。帰るまでが遠足というわけではないが、初めての軍役ぐらいは終わりまで完遂したかった。

長旅は体力をつけるのにも丁度良いし、空いた時間に『瞬伐悠剣』の扱いに慣れておきたい。もしかすると野盗を見つけて実戦で試す機会もあるかもしれないし。

そんなわけで徒歩での帰還を選択したわけである。

「寂しくなるな……次に会えるのはお前が学園に入学する頃になるか」

「ミナトちゃん? もしも王都に来たくなったらいつでも来ていいんですからね?」

ジョージさんやアイヴィさんからも別れを惜しむ言葉をいただく。あとは世話になった別邸の執事やメイドさん達にも声をかければ出発だ。

「お世話になりました。また会いに来ますし、領地に戻れば手紙も出します」

そんな言葉をジョージさんとアイヴィさんにかけ、まずはウィリアムや騎士達、兵士達と合流するべく別邸を後にするのだった。

「み、ミナト様っ!」

そして、第三層に向かって移動していたら城門の近くにスグリが立っていた。サンデューク辺境伯家の領地に向かうには王都の東側の門を使うため、それを見越して待っていたらしい。

その手にはポーションっぽい物体を入れた小さなカゴを持っているが……え、うちの軍が今日出発するって公表してたけど、何時から待ってたの?

「お、お忙しいと思ってここで……こ、これをっ!」

従者としてついてきていたゲラルドがどうするんですか? という顔をして俺を見てきたため、とりあえず馬を降りてゲラルドに手綱を託す。

『召喚器』のページ数が断トツで多いから敢えて会わなかったけど、向こうから会いに来るとは思わなかった。

『花コン』でもそんなアグレッシブさはなかったじゃないの……いや、好感度がかなり高い状態だと主人公に対してこんな感じだったか? あれ? ということは好感度が個別ルートに入るレベルで高くなってる?

「やあ、スグリ。色々と立て込んでいて顔を出せなくてすまない」

軽く混乱するが、無視して進むわけにもいかない。そのため軽く挨拶をすると、駆け寄ってきたスグリが手に持っていた小さなカゴを差し出してくる。

「お、王都で危ない人? と戦ったって聞きました……その、少しですけど、これっ!」

低品質のものですが、と言って差し出してきたのは回復用のポーションが三つだ。それも俺が持ち運びしやすいよう、腰帯に差せる形状の瓶をわざわざ使ってある。

「……ありがたいが、ポーションは王都でも品薄だろう? いや、本当に助かるけどな?」

リンネ相手に中品質のポーションを一本使ってしまったし、残りは一本しかなかった。そのため助かるは助かるんだが。

「つ、拙い出来ですが……ああいえっ! い、一生懸命作りました! でも、前みたいに中品質のポーションはできなくて……そ、それでも一生懸命作りましたからっ!」

そう言って必死な様子でポーションを差し出してくるスグリに、俺は苦笑を浮かべる。そして懐に手を入れて財布を取り出すと、代金として金貨を取り出してスグリに手渡した。

「えっ!? お、多いです! 多いですよミナト様っ! そ、それにその、わたしは差し上げるつもりで……」

「いやいや、今の王都でなら希少価値があるし、タダでもらうわけにはいかないよ。多少額が大きいのは君への投資を兼ねて、だ」

まあ、代金に見合う丁度良い金額が手元になかったっていうのもあるんだけどね? まさかこの状況でお釣りをもらうわけにもいかないし……それにスグリに錬金術の腕を磨いてもらうと助かるっていうのも本音だ。

何度も実戦を経験した身としては、回復手段のあるなしは大きすぎる。低品質だろうと回復ポーションがあるのは本当に大きいんだ。

それでも、と渋るスグリに対し、俺はゲラルドに預けた手綱を受け取って再び馬へと乗る。

「次に会う時を楽しみにしているよ、スグリ。錬金術師としての君の成長、その時に見せてくれ」

俺がそう言うとスグリは何かを言おうとして、思い留まったように頭を振る。そして最後には小さく、それでもしっかりと頷いた。

「わ、わかりましたっ! がんばりますっ!」

普段と比べれば大きな声で返事をしてくれる。俺はそれに軽く手を上げて応えると、第二層と第三層を隔てる城壁へと向かう。

(さて……セーフ、だよな?)

そしてこっそりと本の『召喚器』を発現して確認するが、ページが増えていなくて安堵する俺だった。

思わぬスグリとのやり取りがあったが、第三層にてサンデューク辺境伯家の者達が利用している兵舎に着くと自然と空気が引き締まった。

既に出発の準備を終えた騎士や兵士達が整列しており、俺の到着を待っていたからだ。

「準備は?」

「万全です。何か起きても問題がないよう、物資もやや多めに準備してあります」

そう言って物資の目録を差し出してくるウィリアム。騎士団長として色々と任せていたが、一応は総責任者として手早く目録と物資を確認していく。部下の仕事を疑っているわけではないため、最低限の確認を済ませればオッケーだ。

「よし……それでは出発する!」

確認を終えたら号令を出し、王都を出発だ。

王都を出れば道が広くなるため、往路と同じように同行を希望する商人や旅人を含めて陣形を再編成。彼らを守る形で陣形を組む。

往路では同行する商人や旅人に関して良い顔をしなかったモリオンも、実戦を経て意識が変わったのだろう。何も文句を言うことなく陣形を組み直すのを見ている。

(にしても事前に公表していたとはいえ、ちょっと多いな……これも名声を稼いだ結果かねぇ……)

商人や旅人を同行させて安全を守るのも、街道を進む貴族の義務みたいなものだ。しかし同行する側の商人や旅人からすると部隊の規模や指揮官によって安全度が大きく変わるため、場合によっては同行を希望する者が全然集まらないこともあるらしい。

その点、元々精強として知られるサンデューク辺境伯家の軍で、指揮官の俺が『王国北部ダンジョン異常成長事件』等で名前を売った影響がここでも出ていた。王国東部に向かう用事がある者は多少無理してでも俺達の出立に合わせ、同行を希望してきたのだ。

「部隊前方の指揮は俺、真ん中はウィリアム、後方の指揮はマーカスに任せる。何かあれば即座に報告しろ。いいな?」

そのため俺は部隊を三つに分け、それぞれの部隊で指揮官を決める。俺が前方の指揮を執るのは、もしもまたリンネが襲ってきたとしても民に被害を出さないようにするためだ。モリオンが同行しているため仮にリンネが襲ってきても即座にやられることはないと思われた。

(うーん……でも地味にプレッシャーが……)

自分で判断したことだが、事あるごとに後方から視線が飛んでくるのを感じる。そういうところでも本当に名前が売れてしまったんだなぁ、なんて思う。

やっぱりレオンさんと一緒に帰れば良かったか、とも思うが、今の内にこの手のプレッシャーにも慣れておかなければ、と気合いを入れる。

そうしてサンデューク辺境伯家の領地に向かっての移動を開始する。往路は二十日程度。復路も同程度の日数を目安に進んでいく……が、思った以上に平和だった。

多少天気が崩れることはあるものの、何日も足止めを食うような悪天候には遭遇せず。『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時のように突然ダンジョンが発生、あるいは異常成長して巻き込まれるようなこともなく。

危惧していたリンネの襲撃もなく、三百人近い軍勢相手では野盗の類も寄ってこなかったため、ひたすら予定通りに街道を進んでいくだけの日々が過ぎていった。

もちろん合間合間で時間を見つけては剣を振ったり、『瞬伐悠剣』を使ってみたり、ウィリアムに挑んでみたりと鍛錬を続けている。

ちなみにウィリアムにはさすがに勝てなかった。あくまで模擬戦だけど、『瞬伐悠剣』を使ってみてもウィリアムに『召喚器』を使わせることもできなかった。

昔、ウィリアムにサンデューク辺境伯家の騎士団を率いるのだからパエオニア王国でも有数の将で、相応に腕の立つ武人だとヨイショしたことがあるが、的を外していなかったらしい。強いとは思っていたけど、勝つためにはまだまだ成長しなければと思う次第だ。

そうやって旅をして、往路と同じようにモリオンの実家であるユナカイト子爵家の領地に辿り着き、竜騎士によって先に帰還していたユナカイト子爵へ挨拶をして。一泊させてもらったらサンデューク辺境伯家の領地目指して再び出発となる。

「ミナト様のご実家までこの町から十日といったところですか。いや、私は領地よりも東側に行く機会がなかったので新鮮ですね」

「ちょっと待とうか、モリオン」

そしてさも当然、と言わんばかりに同行しようとしていたモリオンを止めた。するとモリオンは残念そうな顔をして肩を竦める。

「バレましたか。何食わぬ顔をしながらついていけば大丈夫かと思ったのですが……さすがミナト様ですね」

「本気かモリオン。ゲラルドでさえ『コイツ何をしてるんだ』って顔をしてたぞ」

「ゲラルドでさえってどういう意味ですか若様」

「そのままの意味だよ」

今では頼りにしているけど、『王国北部ダンジョン異常成長事件』でも最初の頃は 舌禍(ぜっか) でやらかしたのを忘れてないからな?

「さすがに冗談ですよ。できるなら本当についていってミナト様の従者としてお仕えしたいのですが、寄り子の次男が従者として大きな顔をしていれば反発も大きいでしょう?」

「まあ、反発がゼロとは言えないな」

「そうでしょうとも。そのため腕を磨き直し、ミナト様のように大きな評判を得て、なおかつ学園での三年間で従者として必要不可欠な人材となり、ミナト様の家臣としてどこに出しても恥ずかしくないようになってからお仕えできればと」

そう言って笑うモリオンだが、どうしよう……なんでここまで重いというか、主君として熱望されているんだろうか……ま、まあ、モリオンが更に腕を磨くという点に関しては反対する意味もない。

リンネという『花コン』には存在しないイレギュラーな存在もいるのだ。強くなってくれればこれまで以上に頼れるというものである。

「そういうわけでミナト様、王立学園へ共に通える日を楽しみにしております。ゲラルド、君も壮健で。あと、先に学園に行くんだからミナト様の露払いとして東部貴族をしっかりとまとめておいてくれよ?」

「俺、お前と違って陪臣の子なんだぞ? いくら実戦経験があるからって無理があるって……まあ、できる限り頑張るけどよ」

モリオンは俺に対して一礼したかと思うと、ゲラルドには気安く話しかけている。それに対するゲラルドの態度も気安い。二人が初めて会った時のことを思えば雲泥の差だ。最初は犬猿の仲かと思えるぐらいいがみ合っていたんだけどな。

(これも実戦で培った仲ってことかね……いや、良いことだ)

うんうん、と頷く。俺に対するモリオンの態度は不安を抱く部分があるが、ゲラルドに対しては多少年齢差があるが友人、戦友として適切なものだと思えたからだ。

こうして、王都へ行くにあたって最初に出会った『花コン』のメインキャラであるモリオンとも別れることとなった。一時の別れではあるが、そこはかとなく寂しさを感じるのはそれだけ濃い付き合いだったからか。

そうして再び領地を目指して移動を開始し、予定通りの日数で到着。離れていたのは予定よりも短くて三ヶ月を超える程度だったが、久しぶりの帰郷だ。

「――お久しぶりです、若様」

サンデューク辺境伯家の本拠地であるラレーテの町。その中でも俺の生家であるサンデューク辺境伯家の屋敷に辿り着くと、そこには懐かしい顔が 懐(・) か(・) し(・) く(・) な(・) い(・) 姿(・) で待っていた。

「……ナズナ?」

屋敷で俺を出迎えたのは、ナズナである。幼少の頃から見慣れた緑色の髪を肩口のあたりでバッサリと切り、従者としてメイド服を着ていたはずが騎士のような甲冑を身に纏い、剣帯に剣を差して身に着けている。

以前は伸ばしていた髪に結ばれていたはずの純白のリボンも剣の鞘に結ばれ、その姿は『花コン』での立ち絵を連想させるもので。

(……え? なんで? いや、本当に……なんで?)

『花コン』のプレイヤーに『リボン式好感度発見器』と呼ばれ、リボンを鞘から解けば 俺(ミナト) を裏切る姿になったナズナが俺を待っていた。