軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第64話:縁談 その1

『王国北部ダンジョン異常成長事件』の報告で王都に戻ってきた俺だが、国王陛下へ直接報告したし王城には報告書を提出してある。

そもそも王都側から派遣されたネフライト男爵を筆頭に、俺達への援軍やアルバの町とトーグ村の復興、怪我人の治療、はぐれモンスターの討伐などが現地で行われているが、軍役とは別件になるため報告が終われば俺がやるべきことも終わりになる。

それならトーグ村に戻って復興の指揮を執るべきでは、なんて思いもするがそれは俺の管轄外だ。むしろ勝手にやったら怒られる。

既に援軍のネフライト男爵達に現地のことを引き継いでいるし、トーグ村に残してきたマーカス達一同も傷病者の容態が落ち着き、移動できるようになったら王都に戻ってくる予定だ。

それまでは時間もあるし、マーカス達はネフライト男爵やトーグ村まで来てくれたジョージさんと協力し、復興の お(・) 手(・) 伝(・) い(・) をするぐらいで……うん、やっぱり俺が無理に戻る必要もないんだよな。

一応、何かあるとすれば先日国王陛下から言われたように勲章の授与があるぐらいで、それもマーカス達が王都へと帰還してくるのを待ち、王都の外で合流して俺が軍を率いて凱旋。パレードみたいに王都内を練り歩き、最後には勲章の授与式を行って完全に終了となる。

サンデューク辺境伯の名代として動こうにも、王都にはレオンさんが来ているため名代として動く理由も必要もない。そのレオンさんはといえば、今回の騒動で迷惑やら手間やらをかけた各地の貴族相手に色々と忙しく動き回っている。

事態が事態だけに責められる謂れはないし、軍役かつ王領に関することのため手土産を持たせた感謝と謝罪を伝える使者を方々に送り出しているようだ。それとは別に王都に来ている当主クラスの貴族には直接会っている。

俺も同行しなくて良いのかと思ったが、俺はあくまでレオンさんの名代として動いていた。そのためレオンさん本人が王都に来た以上、レオンさんが責任者として動くそうだ。

それらの事情から、俺は今の状況ではやることがない。別邸の庭で剣を振り回すか、あとはコハクやモモカへのお土産を買わないとなぁ、なんて考えているぐらいだ。

ポーションもスグリから買えたし、まだ会えていない『花コン』のキャラを探しに行くには理由が弱い。王立図書館に関しては利用を申請中だ。前世の市民図書館みたいに気が向いたからと立ち寄れる場所ではないのである。

そうして中途半端に暇な時間があったのが悪いのか、あるいは必然か。

「ミナト、お前宛てにキドニア侯爵から招待状が届いている」

少しばかり手が空いたとのことで、レオンさんにお茶に誘われて付き合っていたらそんなことを言われる。

先日の一件以降、少しギクシャクしていたし気まずかったものの、誘いを断るのもおかしいだろうと判断して一緒にいたのだ。

「招待状……ですか?」

「ああ。先日の件で次女と騎士、兵士達を助けただろう? その礼をしたいとのことだ」

ふむふむ、と俺は頷く。お礼をするために相手に足を運ばせるというのはどうなんだろうか、なんて思うものの、相手を持て成すことを考えると屋敷に呼ぶことはそうおかしなことではない。

これがスグリのように貴族ではなく民間人になると向こうから来るし、実際に来た。母を助けたお礼だからとポーションを持って祖母と来た。しかし貴族ともなるとそうもいかない。

相手側に感謝を伝える使者を出し、その上で屋敷に招いて饗応するという流れになるだろう。移動の際に使用する馬車も向こうが用意して、こちらは手ぶらで馬車に乗って向かうだけで良い。

たまたまタイミングが合ったのか、あるいは俺が落ち着く時を見計らって招待状を出したのか。俺よりも先にカリンやクリフが王都に戻っていたはずだし、狙ってのことかもな。

俺がそんなことを考えていると、レオンさんが真剣な表情になって俺をじっと見てくる。

「招待して礼を……という趣旨だが、キドニア侯爵にはお前が婚約者候補を探していること、その相手にカリン嬢をと考えていることを伝えてある」

「なるほど、そういうことですか」

お礼と併せてその辺りを詰めようってお誘いか。それなら断る理由も意味もない。いや、うん、最初から断るつもりはなかったけどさ。

「そこでだが……今回の件、お前に全てを一任する。受けるも断るも 交(・) 渉(・) す(・) る(・) も(・) 全て自由だ」

(……ん? 交渉する? あ、婚約者候補になったら錬金術の素材が交易しやすいって俺が言ったから、そのレートについてか?)

こちらが得をしつつ、相手に損をさせ過ぎない塩梅で条件をまとめてこいってことだろうか。そんなことを考えつつ、一応は確認をしておこうと口を開く。

「重大かつ大役ですね。破談になったらどうするんですか?」

「どうするも何も、余程の失礼と不義理を仕出かさない限り破談になっても構わん。今のお前の風評ならいくらでも婚約者候補が見つかるからな。ここだけの話、キドニア侯爵以外からも複数の接触があって面倒なぐらいだよ」

だから気軽に行ってこい、とレオンさんが薄く微笑む。その笑顔が意味深というか、先日の馬車での件が尾を引いているのか胡散臭く思えてしまったのは俺の被害妄想だろうか? 破談になったら『花コン』の舞台が幕を上げた際、俺が持つ知識の多くが役に立たなくなってしまうんだが……。

(これは……気合いを入れて挑まないといけないな)

俺がカリンの婚約者候補になれなかった場合、 独自(オリジナル) の 攻略法(チャート) を構築しなければならなくなる。

だが、そんなものを作ったとしてもリアルの人間関係の構築に役立つとは思えない。そもそも俺がチャートを作っても穴だらけになりそうだし、それを回避するためにも極力俺が知る『花コン』から乖離しないようにしなければ。

自分の存在が既に乖離を引き起こしていることに気付きながらも、俺はそう思った。

そして翌日。

こちらの予定が空いていたのもあるが、返事を送るとすぐさま会談の日程が決まってしまい、礼服に着替えた俺は迎えに来た馬車に乗り込んでキドニア侯爵家の別邸へと向かうこととなった。

今回は一応公的な用事ということもあり、普段は従者としてついてくるゲラルドの代わりに別邸で働く執事を一人借り受けてきた。

今のゲラルドなら軍役に同行する従者としては文句がないが、礼服を着込んで 貴(・) 族(・) と(・) し(・) て(・) 振る舞う以上従者も専門の教育を受けた者が望ましい。仮にゲラルドではなくナズナが一緒だったのなら随行を任せることができたのだが――。

(ナズナ、元気かな……いつ戻ってきてくれるかな……)

馬車の小窓から外を見ながらそんなことを思う。こっちはレオンさん抜きで侯爵相手の会談に挑まなければならない、現状に対する軽い現実逃避だ。

そうやって外を見ていると、武装したクリフが護衛として馬車と併走するように馬を操る姿が見えた。ダンジョンでも一緒に戦った間柄だけど、今回の送迎の現場責任者兼護衛なのだ。

行きと帰り、その両方でキドニア侯爵が責任を持ち、こちらもその姿勢に応えて護衛は同行させていない。送迎に関しては完全に相手側へと委ねた形になる。この辺りは貴族としての見栄やら礼儀やらだ。護衛を連れて行くと信用していないのかと怒るやつである。

まあ、護衛なしといっても俺は防具こそ身に着けていないけど礼装として帯剣しているし、連れてきた執事さんも魔法が得意な人を選んで連れてきた。

王都内で戦闘が起きるとは思わないが、何かあっても自衛ぐらいはできるだろう。これでも一応、中規模相当のダンジョンのボスモンスターを倒した身だし、できると思いたい。

(それで油断したら意味がないし、普段通りに警戒して、と……しかし王都ってのは広いなぁ。第一層の中を移動しているだけなのに、キドニア侯爵家の別邸までが遠いわ)

王都の内部――第一層は貴族の邸宅が多く建てられているが、どのあたりに屋敷があるかは領地の方角で決まる。

サンデューク辺境伯家は東部貴族のため第一層の東側に別邸があり、北部貴族になるキドニア侯爵家の別邸は第一層の北側にある。それでいて爵位によって王城への近さが変わるため、相手の爵位と領地の方角さえわかれば大まかながらに屋敷の場所もわかるようになっていた。

遠いといっても第一層の東側から北側へ移動するだけで、これからの会談の重要度を思えば否が応でも緊張するし、実際の移動距離はそこまで遠くない。俺が勝手に遠く感じているだけだ。

そんなこんなでガタゴト馬車に揺られ、キドニア侯爵家の別邸に到着した。玄関前に馬車が止まり、俺が降り始めると玄関が開いてキドニア侯爵家の執事さんやメイドさんが整列しているのが見える。

その奥にはレオンさんより少しばかり年上に見える男性がいて……あれ?

(カリンは……いない? え? クリフも何も言ってなかったし、てっきりいるもんだと思ってたんだが……)

顔は動かさず、視線だけで素早くカリンの姿を探す。しかしやっぱり見当たらず、内心首を傾げつつもキドニア侯爵らしき男性へと挨拶の一礼をした。

「お初にお目にかかります、侯爵閣下。ミナト=ラレーテ=サンデュークでございます。本日はお招きいただきありがとうございます」

「よくぞ来てくれたね。王国東部の若き俊英に会えて光栄だよ」

フレンドリーに微笑み、俺をヨイショしてから自己紹介をするキドニア侯爵。国王陛下やアレクも俺のことを似たような感じで呼んでいたけど、俊英って学問とか才能とかが人より秀でているって意味だったよな……『花コン』での 俺(ミナト) の才能値を見ても同じことを言えるかな?

(褒められても素直に喜べないのは中身が中身だからか……というかサンデューク辺境伯家じゃなくて王国東部ってくくりになってるし……)

王国東部の貴族を代表しているようで気恥ずかしいし、胃が痛い。それでも表面上は友好的に見える笑顔を浮かべつつ、キドニア侯爵自らに先導されながら屋敷の中を歩いていく。

王国東部のサンデューク辺境伯家と王国北部のキドニア侯爵家では領地の気候風土が異なるからか、屋敷内に飾られている家具や芸術品も趣が異なる。

それを何とはなしに眺めながら案内されたのは応接室で、高級そうな椅子やテーブルが俺を出迎えた。そして剣を鞘ごと剣帯から抜き取り、執事に預けてから勧められるがままに椅子に座る。

一応短剣も腰裏に身に着けているが、これでほぼ丸腰だ。まあ、キドニア侯爵が俺を害する理由も意味もないだろうから、無駄な警戒なんだけど。

応接室にいるのは俺とキドニア侯爵、それとクリフに給仕を担当するメイドさんが二人。なんでクリフが同席しているのかは疑問だが、知らない顔じゃない。むしろ一緒にダンジョンで戦った戦友だし、気にせずキドニア侯爵の出方を待つ。

(ここにもカリンがいないし、後で呼ぶのかな?)

婚約者候補に関する話は通してあるってレオンさんも言っていたし、当の本人であるカリン不在で話が進むことはないだろう……いや、本当にそうか?

(貴族だと親同士で婚約者候補を決めるのも珍しくないし、同席は必要ないって判断された? いやでも、サンデューク辺境伯家側は俺が出席しているんだし、この前の件のお礼がどうこうって話も絡むならカリンの同席は必須だよな?)

キドニア侯爵の意図が読めない。俺の方からカリンのことを話題に出して良いのか迷うしどうしたものか、なんて考えていたらキドニア侯爵が口を開く。

「さて……まずはこうして顔を合わせたのだ。最初に感謝をさせてほしい、ミナト殿」

そう言って僅かに――それでいてはっきりとわかるぐらいに、キドニア侯爵が頭を下げる。

「王国法では救助する義務はないというのに、当家の騎士と兵士、そして娘を助け、ダンジョンを破壊するまで守り抜いてくれた……侯爵として、一人の父親として礼を言わせてくれ。ありがとう」

腹芸を仕掛けるでもなく、真っすぐに感謝を伝えてくるキドニア侯爵に俺は良い意味で意表を突かれた気分だった。レオンさんやウィリアムを見ているとわかるけど、『花コン』世界の貴族は当主にもなると人格が出来過ぎていて反応に困ってしまう。

「閣下のお気持ち、たしかに受け止めました。しかしながらこちらも軍役の途中でしたし、カリン殿とは王都でお会いした縁もありましたので……」

やんわりと受け止めてみる。するとキドニア侯爵は顔を上げ、苦笑するようにして表情を崩した。

「サンデューク辺境伯殿から聞いたが、カリンを婚約者候補にしたいという話だったな。それも含めての 縁(・) かね?」

「ははは、あの時はそこまで考える余裕はありませんでしたよ」

チクリと刺されたため笑ってかわす。実際、婚約者候補がどうっていうよりもダンジョンに取り残されたのがカリンなのか、そしてカリンだとすれば無事なのか。比重としてはそっちが大きかった気がする。

「そうか……だが、仮に打算があったとしても君は異常成長したダンジョンで自ら赴き、娘やクリフ達を救ってくれた。その事実は変わらないし変えようがない。集めた情報によると領地でも神童と名高いそうじゃないか」

名高いのか? 地元(りょうち) にいた時は聞いた覚えがなかったし、モリオンから言われたのが初耳……じゃない気もするけど、初陣で目立つ武勲を挙げたのは事実だ。

そのためキドニア侯爵からの評価に関しても曖昧に頷く。貴族としては名前が売れていることを喜ぶべきところだが、俺としては積極的に喧伝するつもりはない。さすがにそろそろ俺のメッキも剥がれていきそうだからだ。

いや、俺が知らないだけで背中あたりの自分で見れない部分はぽろぽろとメッキが剥がれているかもしれないけどね?

そんな俺の内心を知ってか知らずか、キドニア侯爵は微笑みながら俺をじっと見つめてくる。

「そこで……どうだろうか? 婚約者候補に関してだが、私にはカリン以外にも娘がいてね。君よりも四つ年上になるが、領地や学園でも評判の器量 好(よ) しで頭も性格も良い子なんだ。私としてはそちらとの縁談を進めたいのだが」

そんなことを言い出したキドニア侯爵を前に、俺は思った。

――俺、婚約者候補にしたいのはカリンだって言いましたよね?