軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第47話:トーグ村防衛戦 その3

モンスターを倒しながら一夜を明かし、朝が来た。

夜が明けたからか、あるいは近場にいたものは倒しきれたのか、死霊系モンスターの姿はない。他のモンスターは遠巻きに窺っているが、即死魔法が飛んでこないなら対処は容易だ。

俺もさすがに眠たいが、夜が来るまでに村の防備をより強化しなければならない。土の壁を高く、厚くしたり、村の内部にも手を加えたりしたかった。

家と家の間に壁を作って進路を限定し、外壁を突破されても村の中央広場にモンスターが到達するまでの時間を遅らせ、その間に仕留められるようにもしたい。

あとは天候が崩れた時に備えて、村の中で一番大きな建物である代官の屋敷やその周辺にも壁や障害物を作るなど手を加える。

村人と兵士全員を収容することはできないし、一ヶ所に集めて火事にでもなったら大惨事だから注意が必要だが、風雨に晒されることなく大人数を収容できるのは魅力的だ。あくまで一時的に収容するだけで、生活を送るには手狭すぎるが。

他にも村の四方に見張り台を建て、何かあれば報せるようにする。こちらも即席で作ることになるが高い位置から周囲を見回し、警戒を促せるようにしておくのは急務だ。

そんな考えのもと、昨晩寝かせておいた騎士達に指示を出して兵士や村人を監督させ、日中に作業をさせる。その間に俺は軽く食事をとり、濡らした手拭いで汗を拭って寝床に潜り込んだ。

すると疲れが溜まっていたのか、あっさりと眠りについて目が覚めたら夕方になっていた。

なお、俺と一緒に徹夜でモンスター狩りに勤しんだモリオンやゲラルドはまだ眠っている。さすがに疲れが溜まっていたらしい。

「おはよう……いや、時間的にこんにちは、こんばんはか? 何もなかったか?」

俺が起きるとすぐさま報告の兵士が姿を見せる。そのため軽く挨拶をして尋ねるが、報告に来た兵士の表情は明るい。

「はい。ご命令通りに作業を進めていましたが、何度かモンスターが襲ってきたぐらいで大きな問題はありませんでした」

「被害は?」

「兵士の軽傷者が四名です。死者と重傷者はいません。ポーションは限りがあるので通常の治療で済ませましたが、よろしかったでしょうか?」

兵士に頷きを返し、軽く伸びをする。少なくとも寝て起きたら大勢死んでいた、なんて事態は避けられたようだ。

「村の者達の様子は?」

「それなりに落ち着いています。昨晩、若様自ら打って出たのが効いたようですな。さすがに若様ほど熟睡できた肝の太い者はいなかったようですが」

それってこの状況でよく寝てたなっていう皮肉かな? いや、顔を見た感じ、素直に感心しての発言か。

「休める時に休むのも仕事だろ? 村の者達も昨晩よりは安心できるだろうが……」

こればっかりは夜になってモンスターがどれぐらい攻めてくるか次第だ。昨晩みたいに散発的に死霊系モンスターの声が聞こえてくるだけなら、こちらから打って出て仕留めて回るんだが。

「他に何か報告はあるか?」

「村の防衛に関しては特にありません。ただ、キドニア侯爵家の御令嬢が若様にお会いしたいと仰っていまして」

「……カリン殿が?」

一体何の用だろうか。用件はわからないが、立場上会わないわけにもいかない。

俺はカリンを呼んでくるよう兵士に伝えると、五分とかけずにカリンがやってくる。その間に最低限身だしなみを整えるが、それ以上気にする余裕はなかった。

「カリン殿、私に用と聞きましたが何かありましたか?」

さすがにエミリーを斬ったことへの恨み節じゃない……と思いたい。そんなことを言い出したらせっかく落ち着きを取り戻したクリフが何を思うか。

俺が内心で恐々としていると、カリンは俺の目をじっと見つめ、腰を折るようにして一礼する。

「昨日はお見苦しいところをお見せして恥ずかしく思っています。一晩かけて落ち着きました」

「……それは良かった」

本当かな、と疑わしく思ったが昨日より落ち着いたのはたしかなようだ。上手く隠しているだけかもしれないが、少なくとも表面上は冷静に見える。

「その件に関する謝罪と、助けていただいた感謝をお伝えせねばと……現状では言葉と態度でしか謝意を見せられないのは申し訳なく思っておりますが」

そう言って申し訳なさそうに眉を寄せるカリンだが、まあ、それは仕方ないだろう。

「今の状況ではどうしようもありますまい。カリン殿の謝意、たしかに受け取りました」

無い袖は振れないのだ。現状を乗り切ればキドニア侯爵家から然るべき報酬を提示されるかもしれないが、先のことを考えても死亡フラグになりそうだから今は気にしないでおく。

(そういえば、クリフの話だとカリンがいきなり領地に帰るって言い出したのが今回の原因だったか……その辺りも聞いておいた方が良さそうだな)

せっかくの機会だからと俺は気になっていたことを尋ねることにした。エミリーのことがあったとはいえ、クリフがあそこまで怒りを露わにするのだ。今回はダンジョンの異常成長というイレギュラーな事態と重なってしまったとはいえ、その辺りの理由は気になる。

「ところでカリン殿、今回は急に領地へ戻ろうとしたとのことですが、何か御用事でも?」

俺がそう尋ねると、カリンの表情が曇った。責められたと感じているのかもしれない。

「……それが、記憶が曖昧でして……帰らなければならない、と思ったのはたしかなのですが」

ふむ、と俺は首を傾げる。とぼけている様子はないが、エミリーが死んだショックが尾を引いているのか?

サンデューク辺境伯家と比べて王都に近いとはいえ、キドニア侯爵家の領地まで五日はかかる。急な出発となると不満の一つも出るだろうし、普通はしっかりと予定を組むはずだ。

(うちの軍が通った後なら安全だろうし、それに合わせて出発した……いや、それなら最初から同行すればいいだけだしな。タイミング的に夜営をしてでも追ってきた形になってるし)

俺達がこの村に一泊して翌朝出発し、その直後にカリン達が到着。そこから補給だけ済ませて出発してダンジョンの異常成長に巻き込まれたとなると、色々と作為的なものを感じる。

(でも『魔王の影』が関与したとしてもやることが中途半端なんだよな。死霊系モンスターは厄介だけど対処法があったし、防備を整えれば救援が来るまで籠城するのも難しくない)

城じゃなくて村だけど、と内心で呟き、俺はカリンをじっと見つめる。

「……あの、ミナト様? わたしに何か?」

俺の視線に戸惑ったような反応を見せるカリン。そこに演技らしさはなく、本心から戸惑っているように感じた。貴族の令嬢として演技はお手の物だろうが、こっちも幼い頃から教育を受けた身である。同年代の演技なら違和感ぐらいは見抜ける……と思いたい。

(演技じゃない、か。となるとカリンはシロか? 偶然強行軍でもいいから領地に帰りたくなって、偶然ダンジョンの異常成長に巻き込まれて、偶然こうなった……いや、ねえわ)

偶然が連続し過ぎてさすがに無理があるだろう。そうなると他者による何かしらの干渉があったと考えるべきだが、今回の件の規模から『魔王の影』が手を出してきたとするには杜撰が過ぎる。あるいは現状が序の口で、これからもっとまずい事態になるのかもしれないが。

(駄目だ、わからん。情報が少なすぎて判断できんぞ。『魔王の影』もオレア教が相手ならともかく、なんでカリンに……やっぱりただの偶然か?)

いくら考えても答えは出ない。そのためこれ以上考えても無駄だと判断した俺は思考を打ち切ると、誤魔化すように微笑む。

「いえ、カリン殿はそれだけ大きなショックを受けたのでしょう。一晩で完全に元通りとはいきますまい。状況が状況だけにゆっくり穏やかに、とはいきませんがしっかりとお休みください」

『花コン』のカリンだったら協力してもらうけど、今のカリンには戦闘能力も指揮能力もなさそうだし、防衛戦に駆り出すわけにはいかない。そのため休ませるしかないだろう。

(惜しいけどな……この子も魔法特化だし。いや、火力特化っていうべきか)

『花コン』のカリンはモリオンと同じく魔法使いだが、使う魔法は火属性のみ。『召喚器』も火属性の魔法特化という非常に尖った性能のキャラだ。

今のカリンも戦えるかもしれないが、現状だと大火力は必要じゃない。村の建物や周囲の木々が燃えたらまずいし、モリオンみたいに必要な魔法を必要な威力で使える器用さが欲しい。

それに、『花コン』が詰むから安全な場所で大人しくしていてほしいっていうのが本音だ。モリオンは手を借りないと戦力的にまずいけど、カリンはそうじゃない。

だから休むことを勧めつつ、大人しくしておくよう促した――んだけど。

「ミナト様……わたしにも、何かできることはないでしょうか?」

真剣な顔と声色でそんなことを聞かれてしまった。

「……何か、とは?」

そのあまりの真剣さに、まずは話を聞くべきだろうと続きを促す。

「キドニア侯爵家の者として、民の上に立つ者として……クリフが、我が家の騎士が仕える者として。そしてなにより、エミリーが身を盾にしてでも守ってくれた者として。できること、なすべきことが何なのか……御教授くださいませ」

そう言って頭を下げるカリン。クリフの態度とエミリーの挺身がそうさせているようだが、『花コン』で知るカリンがどうとか、そういうのを抜きにすれば。

(十二歳の女の子がいう言葉か? 従者(エミリー) が死んでまだ一日しか経ってないんだぞ? 見栄を張っているのかもしれないけど、これはなんとも……)

大した芯の強さだ、と感嘆する。不安も不満も全て飲み込み、貴種として成すべきことを教えてほしいと。ゾンビ化したとはいえエミリーを斬った俺に頼むその精神と姿勢が、少しばかり眩しく見える。

それと同時に、危うくも思った。俺みたいに 中(・) 身(・) がそれなりに歳を取っているわけではなく、カリンは正真正銘の十二歳の子どもなのだ。いくら貴族の家に生まれて相応の教育を受けてきたとはいえ、今みたいな異常事態での振る舞い方は学んでいないだろう。

モリオンもカリンと同じく十二歳だが……まあ、元々神童って呼ばれていた才児だ。開き直ったのか心境の変化があったのか、今もスヤスヤと眠っているぐらいには図太い。だからモリオンとはわけて考え、後方で大人しくしていてもらいたいんだが。

「指揮官として学んだことは?」

「ありません」

「兵士として剣や槍、弓の扱いに関して学んだことは?」

「基礎も固まっていません」

「魔法の扱いに関しては?」

「火属性の魔法なら得意です」

確認のために尋ねるが、返ってきたのはこの世界の貴族の令嬢らしいものだった。武器を使ってどうこうっていうのは珍しいが、魔法に関してはそうでもない。王立学園のこともあるし、魔法の才能があるのなら磨くのは当然とも言える。

もっとも、火属性の魔法が得意だと言われても戦いに参加させるわけにはいかないが。

「それでは後方支援をお願いしましょう」

「後方支援、ですか?」

「ええ。この村の民を落ち着かせたり、怪我人の治療や炊き出しを手伝ったり、できることはいくらでもあります。もしもモンスターの侵入を許したとしても、『火球』で牽制して時間を稼ぐだけでも助かる命があるでしょう」

集めた民の周囲には兵士を置いているから、実際にカリンが戦うことはないだろう。それでも今のカリンには で(・) き(・) る(・) こ(・) と(・) が(・) あ(・) る(・) と提示する方が色々と落ち着くと思った。

そこまで話した俺はじっと見てくるカリンに苦笑を向ける。こうして改めて見てみても『花コン』のカリンといまいち結び付かない。外見は『花コン』のカリンを十二歳にしたと言われれば納得できるが、その表情や振る舞いはただの貴族の令嬢で、俺から見ればただの子どもだ。

「ま、あんまり固く考えることはないさ。自分にできること、やるべきことをやれば自ずと結果もついてくる。モンスターは俺達が通さないから、後ろのことは任せるよ」

だから、カリンの態度があまりにも凝り固まっているのを見た俺は口調を崩していた。コハクやモモカと接するように、教え諭すように。

そんな俺の言葉に、カリンは不思議なものを見たように目を瞬かせる。そして視線を二度、三度と彷徨わせたかと思うと、ぎこちなく頷いた。

「わかりました……わたしにできることを、精一杯やります」

「ああ。頑張ってくれ」

とりあえずは大丈夫そうだ。そう俺が判断していると、カリンは礼を述べてから踵を返す。その足取りは多少なりとも力強く、迷いが減ったように思えた。

「……カリン殿は本当に落ち着いたようですね」

そして、カリンの気配が遠ざかるなりそんなことを言いながらモリオンが体を起こした。どうやら途中から起きていたらしい。

「モリオン……盗み聞きはよくないぞ?」

「失礼いたしました。途中から起きていたのですが、話の腰を折るのもどうかと思いまして」

そう言って、それまでカリンがいた場所へ視線を向けるモリオン。その表情は……なんだろうか? 同情するような、憐れむような、いまいち感情が読めないものだった。

「カリン殿がどうかしたのか?」

「いえ。彼女は次女で私は次男と似た立場ですが、色々違いがあるのだと思っただけです」

「ん? そりゃそうだろ。モリオンはモリオン、カリン殿はカリン殿だ。違いがあるのは当然だよ……というか、ゲラルドはまだ寝てるのか」

思春期らしいことを、と思ったけどモリオンは年齢的に思春期だった。そのため軽く肯定し、ゲラルドの様子を確認するが熟睡したままだ。昨日は命懸けの初陣を乗り越えて様子がおかしくなっていたが、ゲラルドも案外図太いのかもしれない。

「モリオンはゲラルドを起こしてくれ。俺はマーカス達の様子を見てくる」

「承りました。起きない場合は顔に水でもかけてやりましょう」

「ははっ、モリオンもそんな冗談を言うんだな。頼んだぞ」

兵士から報告を受けたが、マーカス達とも話をして今夜に備えたい。そう思って小屋を後にした俺は、数十秒ほど経ってから聞こえてきた悲鳴のようなゲラルドの声に噴き出す。

(本当にやったのか……いやぁ、モリオンも一皮剥けてみれば案外愉快な奴なのかね)

やっぱり『花コン』を基準にし過ぎるとまずいな、と自分を戒める。

何はともあれ、再び夜を乗り越えなければならない。明日が来ればトーグの村の防備を更に整えることができるのだ。そうすれば防衛がより楽になるだろう。

油断や楽観視をするわけではないが、マイナス方向に考えても仕方がない。俺は自分自身を鼓舞するようにそんなことを考え、マーカス達の元へと足を運ぶのだった。

この時の俺は、本当の意味で理解できていなかった。

ダンジョンという場所がどんな場所で、どれだけ危険かを。