軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第302話:謎

カリンとの心癒されるコミュニケーションを行った後。

今日はさすがに自主訓練を軽めにした俺は、寮の自室で寝る前に本の『召喚器』を発現していた。大規模ダンジョンの中ではしていなかったし、ダンジョンを破壊した後もサボっていた『召喚器』の確認である。

まあ、サボっていたというか、休むことに意識がいってしまい、思い出すことがなかっただけなんだが。

(さあて、何か変化はっと……ん?)

ページをめくっていくと、新たなページが出現していることに気付く。今までは八十一ページで止まっていたが、今回の『朽ちた玄帝のダンジョン』の攻略で何かしらの変化が起きたようだ。

(これは……コハクか。俺達が出発する前の光景だな……うーむ……)

八十二ページ目に表示されたのは、『朽ちた玄帝のダンジョン』を攻略する前、出発する際に俺達を見送るコハクの姿だった。

キュラスに乗る俺達――おそらくは俺をじっと見て、真剣な表情を浮かべている。

(心配してくれた……って表情じゃないな。いや、心配もあるんだろうけど、それ以外の感情も混ざっているというか……)

俺に対して何か思うところがあるのだろう。兄であり辺境伯家の嫡男でもある俺が、大規模ダンジョンという危険地帯に赴くのだ。弟としては何やってるんだこの人、みたいに思っても不思議じゃない。

(次は……アレクか。こっちも俺達が出発するタイミングの絵っぽいな……)

コハクと違い、アレクの表情は読みにくい。ピエロメイクをしているというのもあるが、元々表情を偽るのも上手いのがアレクだ。何を思っているのかはわからないが、キュラスに乗って出発する俺達を見送る姿が描かれている。

(うーん……もしかして、俺達に同行できないことを申し訳なく思っている……とか? でもアレクにも道化師って立場があるしな……)

『花コン』だとその辺りは無視されていたが、道化師が特定の誰かに肩入れしすぎるのは立場上 よ(・) ろ(・) し(・) く(・) な(・) い(・) のだ。そのため仕方がないと思えるが、アレク本人は申し訳なさを感じているのかもしれない。

(三ページ目……モリオンか。ん? 玄武と戦っている時……というか、とどめを刺した時の俺を見ているな)

追加された三ページ目。そこには、玄武の首を斬り落とす瞬間の俺を見つめるモリオンの姿が描かれていた。

(『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時もそうだったけど、ボスモンスターを倒すところを見てるんだよな……目が輝いているっていうか、キラキラしているっていうか……なんだろう? ボスモンスターを仕留める俺を見て、何を思っているんだろ?)

『花コン』と比べると関係が良好なモリオンだが、その内心がいまいちわからない人物でもある。俺のことを過大評価しているというか、等身大の俺を見てくれないというか……そんな感じだ。

俺が起こした行動の結果、『花コン』のメインキャラに大きな影響を与えた場面が俺の『召喚器』に描かれている、と推測しているが……モリオンは本当、何を考えているのかが読みにくい。下手するとアレク以上にだ。

(わからないなら棚上げだな。次だ、次……って、これは……)

まだ続きがあるだろうか、とページをめくってみると、そこには淡く輝くページが表示されていた。

ページに映っていたのは――カリンである。

(さっきのが……膝枕してじゃれていた時じゃない……その前? あの時、カリンにとって何か重大なことがあった?)

ページに描かれていたのは、ソファーに座って俺と話しているカリンの姿だった。俺としてはその後、カリンの膝を枕にしてじゃれ合っていた時の方が印象が強いんだが。

(今回の『朽ちた玄帝のダンジョン』を破壊した件……いや、それだけじゃないか。俺がやっていることは俺がやらなきゃ駄目なのか、なんて質問に答えたタイミングか?)

アレがカリンにとってどんな意味を持っていたのか、それはわからない。雰囲気から察するに、相応に重要だったのだろうとは思うのだが。

(カリンのページは……これで十枚目か。スグリと同じだな。やっぱり十枚表示されると光るのか? それとも何かしら思っていることが一定まで達したから光っているのか……意味が同じ可能性もあるな)

ううむ、と唸るような声を漏らす。

スグリはこう、なんと言えば良いのか。自分で言うのもなんだが、露骨かつ膨大な好意を感じる。こちらから確認すると照れすぎて爆発でも起こしそうだが、それは間違いがないだろう。

カリンも婚約者候補として、そしてカリン個人としても好意を感じる。ただ、スグリほどあからさまじゃないというか……でも膝を許してくれるぐらいだし、これはこれで露骨か?

平民と貴族という違いがそうさせるのか、あるいは性格の違いによるものか。兎にも角にも、スグリとカリンで同じ条件を満たしたのかがわからない。

(スグリは俺に膝枕をして、寝ている間にキス……をしたかはわからないけど、とにかくそれをきっかけに十ページ目が表示された。カリンは俺に質問をした時に十ページ目が表示されている……肉体的な接触ではない? 感情的な何かがトリガーか?)

そんなことを考えつつ、俺は自身の『召喚器』へと視線を落とした。

「そこのところ、どうなんだ?」

とりあえず質問してみるが、返ってくる答えはなく。俺はそのまま無言で『召喚器』を見詰めるが、こちらにわかるような反応は何もない。

「……はぁ」

ため息を吐き、ひとまず『召喚器』に手刀を叩き込むと、諦めたように『召喚器』を消すのだった。

翌日。

俺はまだ確認するべきことがある、とカリンに声をかけ、人気のないところへと連れ出した。

「み、ミナト様? こんなところへ連れ出して何を……?」

あまり人がこないような、校舎の片隅。そこに連れ出されたカリンは疑問を浮かべて首を傾げている。そこに不安の色がないのは、俺が 妙(・) な(・) 真(・) 似(・) をすることはないと信じているからか。

「いきなりすまないな。少し確認したいことがあって……君の『召喚器』を出してくれないか?」

「は、はあ……」

俺の言葉に傾げた首の角度を深めつつ、カリンは言う通りにしてくれる。数秒とかけずに鉄扇の『召喚器』、『 尖片万火(せんぺんばんか) 』を発現してくれた。

「出しましたが……わたしの『召喚器』が何か?」

「ありがとう。それで、だ……疚しいところも変な意図もないと誓う。君の『召喚器』を俺に貸してくれないか?」

『召喚器』は魂の具現とも呼ばれ、大切に扱うべきものだ。そのため実行の可不可は置いておくとして、貸してくれなんて言うべきものじゃない。

現にカリンも驚いたような、予想外のことを頼まれたような顔をしている。

「わたしの『召喚器』を、ですか?」

「ああ。俺の『召喚器』の能力の検証に必要なんだ。拒否感があるのはわかるが、可能ならお願いしたい」

俺が持つ『瞬伐悠剣』のように、元々は他人の『召喚器』だった、なんてパターンなら他者に貸すのもそこまで抵抗はないのかもしれない。だが、本人が発現した『召喚器』となるとどうしても抵抗は大きくなる。

そう、思ったのだが。

「 ミ(・) ナ(・) ト(・) 様(・) に(・) な(・) ら(・) お貸ししますが……これでよろしいのですか?」

そう言って閉じた鉄扇を差し出してくるカリン。その表情に嫌悪感などはなく、純粋に不思議がっているようにしか見えなかった。

「……ありがとう。それじゃあ遠慮なく」

遠慮なく、と言いつつも壊れ物に触れるような、優しい手付きでカリンの『召喚器』を受け取る。

受け取った『召喚器』は――消えない。俺の手の中にある。

(やっぱり……か……)

予想した通りの結果になり、俺は一つ頷く。そして手の中にある鉄扇を弄り、音を立てながら大きく開いてみる。

「……ミナト様? わたしの知識が浅いのでしょうが、『召喚器』とは他人に渡せるものでしたか?」

そんな俺の行動を見たカリンが不思議そうにしながら尋ねてくる。何かおかしなことが起きていると、薄々察した様子だ。

「その認識で間違ってないよ。普通は渡せない……んだけど、これが俺が確認したかったことというか」

「ミナト様の『召喚器』の能力が、他者の『召喚器』を使うこと……ということですか?」

「確証はないがね」

そう言って俺は開いた鉄扇を閉じる。スグリの『禁忌弱薬』は投げるだけで使えたが、『尖片万火』はどうやって使うんだろう? 魔法を使う感じ?

(やっぱり、『召喚器』に光るページが表示された相手なら、その『召喚器』を使うことができる……これは強力な能力だぞ! ……いや、強力……か?)

一瞬喜びの感情が溢れたが、すぐに冷静になる。俺は手の中の鉄扇をまじまじと見つめ、思考を巡らせる。

(スグリの『禁忌弱薬』なら投げれば使えた……でも一回きりだし、玄武には通じなかった。カリンの『尖片万火』は使えれば強力な攻撃手段だけど、使い方がわからない……それに、借りたとしても片手が塞がる。俺の場合、能力を発動するよりも剣で斬った方が早いし強いよな?)

大量の敵を一気に焼き払う機会があれば役に立つだろうか。ただ、その場合も端から斬れば良いだけで、『尖片万火』で焼き払う必要はない。

「…………」

俺は思わず無言になってしまった。そして本の『召喚器』に表示されている『花コン』のメインキャラ達の顔を、彼ら、彼女らが使う『召喚器』を思い浮かべていく。

(仮に……仮に『召喚器』が使えるようになったとして、だ。 俺(・) が(・) 使(・) い(・) こ(・) な(・) せ(・) る(・) 『召喚器』はどれだけある? ランドウ先生の『 万夫伏刀(ばんぷふとう) 』なら刀だし、それぐらいか?)

あとはナズナの盾の『召喚器』、それとジェイドの手甲型『召喚器』である『 拳狼堅護(けんろうけんご) 』ぐらいか。剣術と併用するにはそれぐらいで、能力の発動までしようと思えば使える『召喚器』はほとんどないと見るべきか。

「あの、ミナト様? 何といいますか……ひどく落ち込んだような顔をしていますが、わたしの『召喚器』が何か?」

「……いや、カリンの『召喚器』じゃなくて、俺自身の問題でね」

たとえば、エリカの『召喚器』である『天震嵐幡』が使えるようになったとして、だ。巨大な旗は振り回せば武器になるが、スギイシ流の技は使えない。他の『召喚器』も似たような感じだ。

(スグリの『禁忌弱薬』みたいな『召喚器』ならまだしも、他は……アレクの『 三面碌秘(さんめんろっぴ) 』なら使えるか? 俺の『召喚器』が何がしたいのか、余計わからなくなったな……)

剣から手を離す形になる『召喚器』だと戦い方が根本的に合わず、魔法系の『召喚器』は使い方自体がわからない。俺に魔法のセンスはないのだ。

カリンの『召喚器』の能力だけを借り、剣から炎を出せるのなら使い道もあるが、そんな兆候はない。

「えーっと……わ、わたしに何か、できることはありますか?」

俺の様子を見たカリンは、気を遣うようにそんなことを言ってくれる。それを聞いた俺は肩を落とし、ため息を吐いた。

「あとでまた、膝でも貸してくれ……」

「は、はい……はいっ!?」

驚いたようにカリンが目を見開くが、俺としてはもう、自分の『召喚器』が何をさせたいのか、まったくわからなかった。