軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第218話:娘 その3

『飛竜の塒』跡地に向かい、『瞬伐悠剣』を回収して兵舎に戻ってきたら時刻は夕暮れとなった。リリィが言った通りバリスシアは既に去ったようで影も形もなく、『瞬伐悠剣』も無事に回収することができて良かったと言える。

それでも状況が状況だけに事態の説明役として兵舎にいた兵士を連れ、夜通し街道を移動して王都へと向かう。

『魔王の影』が『飛竜の塒』を破壊したと証言してもらわないと、今回の依頼で訪れていた俺達が疑われかねないのだ。

『飛竜の塒』を破壊されてしまったが、ドラゴンの卵は回収することができた。そのため依頼自体は達成したと言えるのだが、これから先、これまでのようにドラゴンの卵を入手できないとなると竜騎士の価値は高まるだろう。透輝が竜騎士になれればその価値も自然と高騰するはずだ。

俺はとりあえず透輝に卵を常に携帯しておくよう伝え、リュックサックに卵を入れて背負わせる。光属性である透輝の魔力を吸ってきちんと光竜になってもらわないと困るからだ。

そうやって『花コン』での動きや透輝のことを考えつつも、俺の脳裏に浮かんでいたのはリリィのことである。

時間が経って冷静さを取り戻すと、色々と気になることが思い浮かぶ。

メリアが母親ってどういうこと? 俺、本当にメリアと結婚するの? カリンはどこに行った? 未来で何があるんだ? というか婚約者候補って関係はどうするの? 等々。リリィに聞かないとわからないが気になって仕方がない。

それでも今はバリスシアの件を報告することを優先し、疲れた体に鞭打って夜通し街道を進んでいく。緊急事態ということで、兵舎にいた馬を複数頭徴発して乗り潰す勢いで走らせていく。

そのおかげで、というべきか。普通に進めば二日弱かかる道程を翌日の昼前には走破し、王都に到着したらそのまま王城へと向かう。

そして『魔王の影』に関して知っている、それなりに 上(・) の(・) 方(・) の担当者を呼び出したら『飛竜の塒』が破壊されたこと、それを成したのが『魔王の影』のバリスシアであることを伝える。

するとすぐさま確認のための竜騎士が派遣され、一時間としない内に戻ってきて今回の件が真実だと知れ渡った。そして少しの待ち時間の後、国王陛下の元へと通されることとなる。

通されたのは三階の応接室だが、国王陛下と直に対面すると思っていなかったのか硬直する兵士を急かしつつ、今回の一件に関してリリィについて省いた情報を報告する。

「まさか『魔王の影』と遭遇するとは……よく生きて帰ったな」

「さすがに死ぬかと思いましたよ」

国王陛下の言葉に苦笑して答える。リリィが助けてくれなかったら死んでいたし、生きて帰れたことを誇るつもりはない。

「どうであった? 『魔王の影』とは、それほどまでに手強かったか?」

「今の私では一対一では勝てません。ネフライト男爵なら一対一でも勝てるかもしれませんが……」

アレに勝てると俺が断言できるのはランドウ先生ぐらいだ。ランドウ先生なら今回のように大量の雑魚モンスターや火竜を呼び出されたとしても、正面から突破できるだろう。

(ランドウ先生を呼んでもらう件、本気でやってもらわないとまずいな……今のままじゃあどうしようもないぞ)

割と善戦できたと言えるかもしれないが、バリスシアがこちらを観察せずに殺す気だったらリリィの助けも間に合わなかったかもしれない。多少は強くなったつもりだったが、現状だと俺では勝ち目がほとんどないと言わざるを得なかった。

そんな存在が、バリスシア含めて四体もいるのだ。一体ずつ現れるのならどうにかできるかもしれないが、相手が単独行動ばかりするという保証もない。複数同時に現れた場合、さすがのランドウ先生でも勝ち切れるかどうか。

そういったわけで、起きたことや感じたことを報告し、『飛竜の塒』を破壊されたことに関してはどうしようもない不可抗力ということで片付いた。その件に関して責任を問われても困るし、破壊したのはバリスシアだ。

バリスシアの外見や戦闘方法に関しては王城の上層部からオレア教へ共有してもらう。まあ、俺も後々オリヴィアに呼び出されるだろうから、その時に再度情報共有するつもりだ。オリヴィアのことだからバリスシアとも遭遇したことがあるだろうけど。

そうやって諸々の報告を片づけたら、ようやく学園へと帰ることができた。既に時刻は夕方を過ぎて夜になっており、俺は疲れた体を引きずって寮の自室へと帰り着く。

「おかえりなさい、お父さん。えへへ……こうやっておかえりって言うの、すごく久しぶりだね?」

そして、自室に入って扉を閉めたら、さも当然と言わんばかりの様子でリリィが出迎えてくれた。おかしいな……一応、鍵がかかっていたはずなんだが……。

「あー……ただいま、リリィ」

とりあえず返事をすると、リリィは輝かんばかりの笑顔を浮かべる。本当に、心の底から嬉しさが伝わってくる笑顔だった。

「晩御飯、まだだよね? 準備しておいたから食べてよ」

そう言われて視線を向けると、王都で買ってきたのか机の上にサンドイッチや飲み物が置いてある。どうやら我が娘は気配りもしっかりとしているようだ。

「あ、ちゃんと手洗いうがいもしっかりね? えへへ、これもお父さんに習ったよね?」

「……そっか。うん、そうだな。手洗いもうがいも大事だな」

たしかに俺なら自分の子どもに教えていそうなことを言われ、納得と共に手洗いとうがいを済ませる。こういう時は備え付けの水道があると楽だった。

そうしてとりあえず椅子に座ると、机を挟んでリリィも腰を下ろす。そしてニコニコと、嬉しそうな顔で俺を見てくる。

「お父さん」

「……ん? なんだ?」

「何でもなーい。えへへ……」

裏表がない、本当に嬉しそうな顔だ。もしもこれが演技だったら今後一切自分の目を信じ切れなくなるだろう、なんて思えるほどである。

とりあえずリリィが買ってきてくれたサンドイッチを食べていく。腹が減っては頭も回らないしな。そんな俺の食事風景でさえ見るのが楽しいのか、リリィがじっと見つめてくるが。

(うーん……こうして落ち着いてみると、外見はメリアにそっくりだけど性格はだいぶ違う感じがするな。甘えん坊というか、なんというか……)

聞きたいことを脳内でピックアップしつつ、食事を終える。そして一息吐くと、リリィをじっと見つめ返す。

「色々と聞きたいことがあるんだが……最初にこれを聞いておこう。俺は……『魔王』をどうにかできた……のか? 世界を、救えたのか?」

僅かに声が震えたが、それも仕方がないだろう。

もし……もしも、本当に『魔王』をどうにかできるというのなら。本当に『消滅』させることができて、平和な世界がやってくるのなら。

あるいは、長期間の『封印』でも良い。ベストではないがベターな結末だ。『花コン』のエンディングを基準とした場合、数百年は無理でも数十年、ルートによっては百年近く『封印』できるはずだ。それだけの時間が稼げれば次の発生に備えられるだろう。

だが、ここにリリィがいるという事実が、俺の中での期待を殺してしまう。何もなければリリィが過去に来ることなどないだろうから。

そんな俺の問いかけに対し、リリィも真剣な表情になる。

「最初に世界のことを気にするなんて、お父さんらしいね? でも、ごめんなさい。先に伝えておくことがあるの」

「……それは?」

こちらの質問に答えないことを怒るつもりはない。リリィはリリィなりに、考えて話していると察せられたからだ。

「うーんと、ね? まずね、その……現時点で、わたしが知っている情報からだいぶ変わっているの。だから、『魔王』関係のことはあくまで参考として聞いてほしいなって」

「もしかして……俺を助けたことで未来が変わったから、か? それなら……いや」

『魔王』をどうにかできる未来があったというのなら、何故俺を助けたのか。そんなことを言おうとしたが、口を閉ざす。

危険を冒してまで俺を助けたリリィに対し、 そ(・) れ(・) は言えないだろう。

「ううん、違うの。先にさっきのお父さんの質問に答えるけど、『魔王』は『封印』したんだけど、あんまり長くは『封印』できなかったみたいで……お父さんが言うには二十年から三十年ぐらい……かな? それぐらいの『封印』なの」

「それは……」

なんとも中途半端な『封印』だ。いや、数十年という『花コン』の表現から考えると、二十年から三十年というのもおかしな話ではないか?

(でも、一応は『魔王』に勝てる……『封印』はできるわけだ……つまり、もっと頑張れば更に長期間の『封印』も可能だし、『消滅』も狙えるな)

もちろん、逆に失敗して短期間の『封印』すらできない可能性もある。しかしながらリリィという、『魔王』の『封印』に成功したという証拠が目の前にいることがなんとも喜ばしかった。

「わたしもお父さんやお母さんから当時の話を聞いただけだから、細かい部分は知らないことが多くて……でもお父さんがお母さんから力を借りて、透輝さんやランドウ先生と一緒に『魔王』を『封印』に追い込んだって聞いてる」

「俺が……メリアの力を借りる? それって……っ、まさか!?」

脳裏に過ぎる、『花コン』の百あるエンディングの中のいくつか。

それは『魔王』を倒したのに特定のキャラ以外から忘れ去られて、その特定のキャラと共依存し合って生きていく特殊なノーマルエンド、あるいは特殊なバッドエンド。

特殊バッドエンドは主人公の性別によって変わるが、男の場合は『独りの旅路』エンド、女の場合は『独りの終わり』エンドだ。

特殊ノーマルエンドは男の場合は『二人の旅路』エンド、女の場合は『あなたしかいない』エンドとなる。

このエンディングの対象になるのは、隠しキャラであるメリアだ。隠しキャラという立場、そしてオレア教の秘密兵器という立場から、メリアは特殊バッドエンドや特殊ノーマルエンド、特殊グッドエンド等、通常以外のエンディングが多めに設定されているのである。

そして、これらのエンディングに到達するにはメリアの好感度を上げ、他のヒロインやヒーローの好感度が一定以下。なおかつ、 『(・) 宝(・) 玉(・) 』(・) を(・) 消(・) 耗(・) し(・) て(・) い(・) る(・) 必要がある。

(俺がバリスシアに殺されて、透輝が『宝玉』を使って蘇生……その時点でグランドエンドも個別ルートのグッドエンドも潰れる……それを補うために俺がメリアと『契約』して力を借りて、『魔王』と戦った……その結果が『封印』か)

『契約』――それはメリアルートにのみ登場する能力で、本来は自分自身ごと『魔王』を滅ぼそうとするメリアの力を 援護(バフ) に転用する方法だ。

これによってメリアが死なずに済むが、ルートによっては死ぬよりも酷い目に遭う。それが特殊バッドエンドや特殊ノーマルエンドで、メリアと主人公はその存在を消滅させ、誰にも認識されずに生きていくことになるのだ。

話しかけても誰も反応せず、向こうから話しかけられることもない。一応物理的な干渉はできるようだが、文字などを書いてのコミュニケーションすら不可能という、透明人間みたいになってしまう。

バッドエンドの場合一人で、ノーマルエンドの場合はメリアと二人きりで生きていくことになる。そしてエンディング名から察せられるだろうが、バットエンドになると男性主人公の場合は一人で生きていき、女性主人公の場合はすぐに耐えられなくなって自殺する。

つまり、俺がメリアと結ばれて娘までいるということは、 そ(・) う(・) い(・) う(・) こ(・) と(・) なのだろう。

(特殊ノーマルエンドを迎えたのか……メリアと『契約』できるのは主人公だけのはずなんだが……)

『花コン』だと他の人間ではメリアと『契約』できない、なんて話が出ていた。光属性の適性がないと無理だって話だったはずだ。そのため何故俺がメリアと『契約』できているのか謎だが……まあ、今は横に置いておくか。

「それでね? わたしが知っているお父さんの過去と、今の時点で大きな違いがあってね? そ(・) こ(・) か(・) ら(・) の(・) 流(・) れ(・) が別物というか……だからわたしの話はあくまで参考として聞いてほしいの」

「大きな違い、か……なんだろ? 予想もつかないが……」

起こり得る大きな違いがあるとすれば、『花コン』の主人公の性別が違ったとか……でも透輝の力も借りたって言ってるから違うか。

「この世界だと『王国北部ダンジョン異常成長事件』って言うんだよね? あの時にお父さんが戦ったボスモンスターがね、デュラハンじゃないの。わたしが知る世界では、お父さんは火竜と戦うことになるの」

あ、そこから違うんだ……なんて、呑気に考えて。

上級モンスターである火竜がボス化したというとんでもない危険さに思い至って、俺は頬を引きつらせるのだった。