軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第197話:文化祭 その1

王立ペオノール学園の文化祭。

それは武闘祭と同様に王都の民や貴族など、外部の人間を招いてのイベントである。

開催期間は一日で、王都の民にとっては普段見ることができない学園の様々な場所が開放される日で、貴族にとってはかつての学び舎を再訪して思い出に浸ることができる日でもあった。

武闘祭では優秀な人材を見定める側面もあったが、文化祭では卒業生が思い出を振り返る目的で訪れることも多い。もちろん、芸術に長けた者を見つけて 後援者(パトロン) になったり、錬金術に長けた者を見つけて自分の家で雇おうとしたりと、実務も忘れないが。

前世の学生が行う文化祭といえば展示などが主だが、他にも屋台や物販、演劇などの出し物が行われることだろう。だが、この学園における文化祭では演劇はまだしも、屋台などはない。いや、屋台自体はあるものの、生徒ではなく王都の商人が駆け付けて店を開いているのだ。

飲食物に小物にアクセサリーに土産物。飲食物はともかく、それ以外は学園で買わなくても王都で買えばいいだろうと思えるが、お祭りなら財布の紐も緩むだろうってことで屋台を出す商人がそれなりにいるのである。

学園の中心を十の字の形で走る煉瓦道に縁日みたいな形で屋台が並び、来訪した客や学園の生徒達に威勢の良い声をかけていた。他にも訓練場に出店が立ち並び、文化祭が始まるのに合わせて準備を進めている。

『花コン』において文化祭は武闘祭と比べると規模が小さいイベントだが、錬金術で作成したアイテムを提出してその作成難易度や出来栄えで順位が決まったり、好感度を上げたいキャラクターを誘って文化祭を一緒に楽しんだりと、それなりにできることもあった。

特に好感度を上げたいキャラクターを誘って文化祭をまわる場合、専用のイベントスチルが表示されるためセーブとロードをしたり、単純に周回プレイでイベントスチルを集めたりと、収集要素があったのを覚えている。

まあ、文化祭に誘うにはそれなりに好感度を稼いで最低でも友人以上の関係性にないと無理なんだが……その辺りは現実と一緒だ。仲が良くない相手とお祭りに行く人はいないだろう。

それは現実となったこの世界でも同様で、俺みたいに錬金術が駄目で芸術関係も微妙な生徒は 楽(・) し(・) む(・) 側(・) にまわり、友人や恋人、婚約者候補を誘って学園内を見て回る。そういう風潮があるからこそ、俺もカリンを誘ったのだ。

これでカリンを誘わなかった場合、周囲から何と思われることか……まあ、そんな打算を抜きにしてもカリンのことは嫌いじゃないし、『魔王』を『消滅』させることができた場合に俺が生きていたら結婚する相手である。今の内に思い出の一つも作っておくべきだろう。

余談だが『花コン』では主人公の選択肢にカリンが含まれているから当然だが、ミナトが誘ってもカリンは拒否する。というか基本的にカリンはミナトがやることは全否定するし拒否する。肯定する時は何かしら罠に嵌める時ぐらいだ。

それがこの世界では婚約者候補という関係を拒否しないし、むしろ積極的に感じることが多々あるほどである。

昔の俺ならそう演じることで裏で謀殺の機会をうかがっているんじゃないか、なんて考えたかもしれないが今ではそんな疑いは微塵もない。というか普通に失礼だろう。婚約者候補として、あるいはカリン個人として、俺からの誘いを受けてくれたのだから。

(透輝にもその辺りは言い含めておいたし、大丈夫なはず……)

透輝には文化祭は親しい人と一緒に見て回るんだぞ、と伝えてある。ついでにアイリスが生徒会長として開催の宣言をした後は手が空いているぞ、とも伝えておいた。アイリスも透輝に構ってほしそうだったし、これでより仲が深まることだろう。

あとは出店でアクセサリーや小物が買えるから、アイリスに買ってあげると喜ぶかもよ、なんて話も伝えてある。それで更にアイリスとの仲が深まるはずだ。

アイリスは王女として幼い頃から審美眼が磨かれているだろうし、透輝相手に得意げになって生徒が描いた絵などを解説するかもしれない。透輝も色々なものに興味が向く性格だから、それを楽しく聞くんじゃないだろうか。

そう考えるとさすがは『花コン』の主人公とメインヒロイン。相性がバッチリである。あくまで俺の想像上の話だが、大きく的を外すことはないと思う。

そんなこんなで文化祭の開始に向け、普段通り大名行列を形成して学術棟へと向かう。四階の大ホールに全生徒が集合し、開会式を行ってから文化祭が始まるのだ。

デートのように待ち合わせて繰り出すわけではないため少々風情がないが、文化祭は学園行事の一つ。その辺りは仕方がないと割り切るしかないだろう。

大ホールに集まると周囲には浮ついた空気が漂っており、恋人同士か婚約者候補同士か、あるいは仲の良い友人同士で固まってワイワイと騒いでいる。貴族科の面々も今日ばかりは既に羽目が外れそうになっており、年齢相応にはしゃいでいる姿を見ることができた。

「……浮ついていますね」

そんな周囲の空気とは裏腹に、どこか不機嫌そうなのはナズナである。腕組みをして鼻でも鳴らしそうな様子を見て、俺は思わず苦笑しそうになった。

「まあ、そう言うな。お祭りごとは浮かれる者も多くなるものさ」

「それでは、浮かれて良からぬことを仕出かす者が出ても大丈夫なよう、文化祭の間は常に若様の傍に控えて護衛いたしましょうか?」

「ははは、こっちのことは気にするな。ナズナも遊んでくるといい」

カリンとの文化祭デートだというのに、そのすぐ傍にナズナがいてはカリンも何事かと思うだろう。別の女性が同伴してデートなんてさすがに俺の正気が疑われてしまう。もちろん俺の立場上、護衛に就くというナズナの発言もおかしなものではないのだが。

「あらぁ、ナズナちゃん? そんな野暮な真似はしちゃダメよ? せっかくのお祭りだもの。ミナト君の言う通り、楽しまなきゃ損だわ」

俺とナズナの会話が聞こえたのか、アレクが助け舟を出してくれる。でも文化祭にもかかわらず普段通りの道化師メイクっていうのは大丈夫なんだろうか? まあ、アレクなら大丈夫だろうけど。

「…………」

そんなアレクの発言に何も返さず、複雑そうな様子で黙り込むナズナ。色々と思うところがあるのはわかるが、さすがにそろそろ慣れてほしいところである。

「アレクは絵を描いたり彫刻で何か作ったりしていたな。あとで見に行かせてもらうよ」

俺は話題を逸らすべくアレクへと話を振った。するとアレクは小さく苦笑してから頷く。いつも迷惑を掛けてすまんね。

「そういうミナト君は絵を一枚だけだったわねぇ。あまり好きじゃないのかしら?」

「小さい頃から習ってはいるが、どうにも肌に合わなくてな。剣を振り回している方が好きだよ」

「ふふっ、貴方らしいわね」

そう言ってアレクが微笑む。いやもう本当にね、ミナトの体は色々な分野で才能がないからね。ランドウ先生に凡才だって言われた剣術が一番適性があるんじゃないか、なんて思えるぐらいだからね。

辺境伯家という恵まれた環境で、なおかつ十年以上の時間をかけてある程度の水準までは身につけることができても、才能を必要とするラインから上にはいけないのだ。

そういう意味では眼前で笑うアレクは芸術関係においても多才で、絵画や彫刻、音楽や陶芸など、様々な分野で才能を見せる。逆に何ならできないんだろうな……。

『花コン』で文化祭に 向(・) い(・) て(・) い(・) る(・) メインキャラはあまり多くなく、芸術全般に強いアレク、論文等に強いモリオン、錬金術に関してトップクラスの才能を持つスグリ、あとはアレクと同様に多才なカトレアぐらいだ。

他のキャラも下手なわけじゃないが、武闘祭と比べると適性があるキャラは少ない。こうして俺みたいに見て回って楽しむ側になる方が多数だ。

「……ミナト様」

そうやってアレク達と言葉を交わしていると、カリンが近付いてくる。普段通り制服姿だが、カリンを見た俺はおや? と片眉を上げた。

長くて綺麗な真紅の髪が、普段よりも更に手入れがされている。輝かんばかりに艶があり、カリンの顔立ちも薄っすらと化粧が施されているのだ。それでいて頬が桜色に色付き、どことなく緊張した様子で俺の前に立っている。

制服には埃一つついておらず、スカートも折り目正しくしわ一つない。まるで卸したてのようだ。

「やあ、カリン。普段も綺麗だが、今日は一段と綺麗だね。特にその真紅の髪の美しさときたら目がくらみそうだよ」

他の生徒と服装は一緒だが、 そ(・) れ(・) 以(・) 外(・) の(・) 部(・) 分(・) で飾るカリンに俺は無意識の内に褒め言葉を告げていた。着飾った女性がいれば褒めるのが乳母たるアンヌさんの教えである。

だからナズナ? 君の母上に教わったことだから、無言で不機嫌そうなオーラは出さないでくれ。

「そ、そうですか? 嬉しいです……」

月並みな褒め言葉だったが、カリンとしてはそれで十分だったらしい。言葉通り嬉しそうにはにかみつつも、褒め言葉が恥ずかしかったのか首筋から顔にかけて薄っすら赤らむその姿は可愛らしかった。

(なんか、滅茶苦茶気合い入れて準備してるな……こりゃエスコートを頑張らないと……)

王都でデートをするのならまだしも、文化祭のエスコートなんてどうすれば良いのかわからないが。それでも退屈させないよう頑張らないといけないだろう。

一緒にいるだけでも十分だってカリンなら言ってくれるかもしれないけど、それは甘えというか、こっちも楽しませたいというか。まあ、初めての文化祭だし、展示物や出店を見て回るだけでも楽しめるか。

『花コン』では一緒に文化祭を見て回るだけでも好感度が上がるが、出店でプレゼントを購入することもできる。

通常だとキャラによって嫌いなものや好きなものがそれぞれ設定されているのだが、文化祭の場合は同行しているキャラの好きなものしか出店に並ばないという、一種のボーナスステージになってもいた。

これが現実になると自分で選ばなければならないし、『花コン』とはキャラの性格や好き嫌いが変わっている可能性があるから、相手の反応を見ながら選ぶ必要があるだろう。もちろん、何も買わないという選択肢もあるが。

(この間のダンジョンの調査で稼いだ金を透輝にも渡しているし、向こうは大丈夫なはず……問題はこっちか)

格好だけで想像以上に気合いを入れて準備をしてきたことがうかがえるカリンを前に、俺は実戦を前にしたように密かに緊張する。

カリンのことだからよっぽど下手な真似をしない限り大丈夫だとは思うものの、表面上は楽しんだように見せて裏でつまらなかった、とため息でも吐かれたらさすがに俺も落ち込む。かといって楽しませることを意識しすぎるのもまずいだろう。

女性のエスコートは貴族の嗜みの内だが、社交界ならまだしも学園での文化祭のエスコートに関してはさすがに習っていないのだ。

(……ま、なるようにしかならんか)

壇上に登って文化祭の開会を宣言するアイリスを見ながら、そんなことを思うのだった。