軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第196話:文化祭に向けて その2

徐々に文化祭の開催日が近付き、準備に割り振られる授業の時間が増え、放課後になっても文化祭に向けた作業に勤しむ生徒が増え始めた頃。

同時に秋の深まりも感じられ、日中はともかく朝晩は肌寒くなりつつあった――が、俺がやることはいつもと変わらない。

放課後になったら透輝を鍛え、それが終わったら自主訓練に精を出す日々である。文化祭? テキトーに絵を描いて終わりだ。もちろんサンデューク辺境伯家の人間として立場に恥じない、それなりに 見(・) ら(・) れ(・) る(・) 出来に仕上げたが、審美眼に優れた者が見れば鼻で笑うだろう。

そんなわけで今日も今日とて透輝を鍛えて軽く休憩を取ってから自主訓練に励んでいたのだが、俺の自主訓練はその日によって色々と状況が変わる。

一人で剣を振り続けることもあれば、もうちょっと剣を振りたいということで透輝が顔を出すこともあり、ナズナと打ち合いをしたり、モリオンと模擬戦をしたり、ナズナとモリオンを同時に相手にしてみたり、カトレアが顔を出して斬りかかってきたり、それなりにバリエーションが豊富である。

そんなバリエーション豊富な自主訓練だが、最近新しい顔が加わっていた。

「よーし! いっくよー!」

元気に叫び、二メートル近い旗を振るうのはエリカである。武闘祭で戦ってからというもの、『召喚器』の扱いに慣れるべく時折自主訓練に顔を出すようになったのだ。

エリカが扱う『天震嵐幡』は上級に分類される『召喚器』で、その効果範囲と威力は『花コン』に登場する『召喚器』の中でも上位に位置する。ただしその分 じ(・) ゃ(・) じ(・) ゃ(・) 馬(・) で、制御が甘いと味方ごと薙ぎ払ってしまう。

「そーれっ!」

その証拠に、というべきか。エリカの訓練のため、エリカを囲うようにして配置した普通の旗が全部バタバタと音を立てて揺れてしまっている。

武闘祭の時は一対一で戦うことから審判以外は周囲を気にする必要もなかったが、味方がいる状態だと使いにくいことこの上ない。先日のダンジョン調査の際も、上手く扱える時と味方を巻き込む時にわかれ、味方を巻き込む際は俺が『一の払い』で両断して被害を抑えていた。

今のところ『天震嵐幡』を上手く扱える確率は六割といったところか。『花コン』だと最初の成功率は五割だったから、扱いが一段階上手くなったといえるのだが。

「収束が甘いな。左側に風が漏れてるぞ?」

飛んできた風の刃を両断しつつ、俺は評価を下す。

成功と失敗の二つに分類できるが、成功は成功でも完全に制御できる時、味方に被害は及ばないが多少なり風が漏れる時、変な方向に風が流れる時など、いくつかのパターンがある。

逆に失敗は失敗でも自分の周囲全てを薙ぎ払う時もあれば、特定の方向に向かって暴風を誤射する時、狙った場所に攻撃できずに逸れてしまう時など、こちらもいくつかのパターンがあった。

武闘祭の時みたいに動かない 相手(おれ) に向かって全力で、最低限の制御だけで能力を開放するのは案外簡単らしい。周囲に審判以外誰もいなかったし、『天震嵐幡』から溢れ出る力に 方(・) 向(・) 性(・) を与えるだけで済むから制御も楽なようだ。

だが、威力を抑えたり、味方の被害を抑えようと力をセーブすると一気に難易度が上がるらしい。勝手にフルスロットルになって大暴れしそうな『召喚器』を抑え込むのだが、その制御が難しいようだ。

上手く抑え込めることもあれば、エリカの制御から抜け出して暴発することもある。使い手であるエリカを傷つけることはないものの、周囲に向かって風を撒き散らし、傷つけてしまう。

「うーん……えっとね、この子を使おうとするとこう、ぐわーってなるから、ぎゅーってするんだけど、ぐぐぐーってなってばーって漏れると失敗する……感じ?」

「言いたいことはわかるが……そこまで力がある『召喚器』を使ったことがないからな。想像しかできないよ」

『瞬伐悠剣』は名前がわかり、能力を使えるようになってもその扱いに困ることはなかった。今より幼い頃、体が出来上がっていなくて足の骨が砕けたことがあったが、それも体が成長した今では解決している。

本の『召喚器』に関しては……うん、名前もわからないし、沈黙したままだし、じゃじゃ馬どころか生きてるの? って感じで大人しい。もう少し自己主張してもいいんだよ?

そんなわけでエリカの『天震嵐幡』に関しては想像しかできず、具体的なアドバイスができない。

たとえるなら活きが良い巨大なマグロの尻尾を掴み、バッタンバッタン暴れるのを押さえ込みながら尻尾の先で字を書くようなものだろうか。そう考えると六割方制御ができているエリカがすごいな。

「ま、使ってみて慣れていくしかないだろう。俺の訓練にもなるし、練習したいと思ったらいつでもくるといい」

「うんっ! えへへ……ありがとね、ミナトくんっ!」

そう言って心底嬉しそうに、輝かんばかりの笑顔を浮かべるエリカ。

言葉にした通り、俺としても『一の払い』の練習になるから助かる。全力で能力を使ってもらったら『閃刃』の練習にもなるしな。

特に『閃刃』は試し斬りをするための鎧も 無料(タダ) じゃないし、 案山子(かかし) を準備するのも面倒だ。その点、エリカが放つ『天震嵐幡』の全力なら『閃刃』に失敗するとこちらが痛手を負うし、気を抜かずに集中して練習できる。

「でもね、これでも前よりはこの子がいうことを聞いてくれるようになったんだー! 前はね? ぐわー、ぐわわわって感じで危なかったの。今はぐわーって大人しい感じなんだよ」

「擬音だけ聞いていると大人しい感じはしないなぁ……それだけエリカが扱いに慣れたってことなのか、『召喚器』に認められたってことなのか」

エリカの話に苦笑をしながらそう言って、ふと思う。

(俺の『召喚器』が『召喚』こそ早かったもののそれ以降はうんともすんとも言わないのって、俺が『召喚器』に認められていないってことなのかね?)

能力の制御云々以前の話で、勝手に『花コン』のメインキャラクター達に関するページを増やし、俺の身体能力を上昇させるだけでそれ以外のことは全くの不明だ。ただし、認められるにはどうすれば良いのか、という問題があるわけで。

「ミナトくん? どうしたの?」

俺が考え込んだことを疑問に思ったのか、エリカがそんなことを尋ねてくる。

「いや、エリカと話していたら色々と気付かされることがあってね。助かったよ」

「よくわかんないけど、そうなんだっ! よかったねっ!」

そう言って笑顔で喜んでくれるエリカに、俺もまた笑顔で頷きを返すのだった。

そしてその日の夜のことである。

自主訓練を終えて寮に帰った俺はシャワーを浴び、いつもの日課として本の『召喚器』を発現し、内容に変化がないかを確認していく。

(新しいページはない……既存のページも変化はない……)

一ページ目から現状最も新しい六十九ページまで目を通すが、何も変化はなかった。さすがに間違い探しみたいに少しずつ変化している、なんてことはないだろう。もしそんなことがあったら何をしたいんだ、と床に叩きつけること請け合いだ。

「付き合いも長いんだしさ、そろそろ名前ぐらい教えてくれてもいいと思うんだけど……どう?」

まずは相互理解を深めよう、なんて思いながら名前を尋ねる。しかし本の『召喚器』が反応を返すことはなく、俺の声が空しく部屋の中に響いて消えた。

「もしかして発現したばっかりの時、芋を焼こうと思って火にくべたことを怒ってるとか? ごめん。あの時は気が動転してたんだよ。君も知ってるだろ? 俺が発現する『召喚器』って本来は剣のはずなんだよ。それなのに本が出てくるなんて思いもしなかったからさ」

謝罪するように頭を下げる。生まれた直後に焚火に放り込まれたらそりゃ怒るよね、と思ったのだ。だが、本からの反応はない。

「あ、もしかしてデュラハンに斬られそうになった時、盾にしたことを怒ってる? あの時はああする以外に助かる方法が思いつかなかったんだよ……未熟でごめん」

今ならボスモンスターと化したデュラハンが相手でも一対一で真っ向から戦っても勝てると思うけど、あの時は今と比べても遥かに未熟だった。そのため使えるものは使うしかなかったのだ。

「でもすごいよな。ボスモンスターになったデュラハンの剣を受け止められるなんて、どんな材質でできてるんだ? ダイヤモンド? あ、ダイヤモンドは衝撃に弱いし火にくべたら燃えるか」

ははは、と一人でボケて一人でツッコミを入れる。当然のように本からの反応はない。ツッコミを入れてくれてもいいんだよ?

「俺の身体能力を強化してくれてるし、援護系の能力なんだよな? いつも助かってるよ。ただほら、『花コン』のメインキャラ達に影響を与えたらページが増えると思うんだけど、もうちょっとこう、説明書きをね? 少しでもいいからきちんと書いてくれるとね? 助かるんだけど」

そう言いつつ本をパタパタと開閉するが説明書きが表示されることはなかった。既存のページに何かしらの変化が起こる様子もない。

「昔と比べるとさ、俺も少しは強くなったと思うんだよ。だからちょっとは認めてくれると嬉しいんだけど……もしかして強さより賢さを重視するタイプ? 魔法や錬金術を鍛えないと駄目とか? でも勘弁してくれよ。魔法はまだしも、錬金術は本当に苦手なんだって」

話しかけながら意味もなく本の表紙を指で軽く叩いてみる。ノックするように、トントン、と音を立てて。

「六十九ページまで増えたけど、上限はいくつなんだい? やっぱり百? それ以上? その辺りもさ、教えてくれると助かるよ。いや、精神的に気が楽になるってだけだけどね?」

そうやって色々と話しかけるが、答えが返ってくることはなく。

「あー……ああ、うん、なんだ……」

話しかけるネタさえ尽きてしまった俺は、どうしたものかと頭を悩ませる。これまでも何度か話しかけてきたが、一度も反応があった試しがない。これでは一人で虚空に向かって話しかけているヤバい奴と変わらないじゃないか。まあ、今回は話しかけている相手がいるんだけども。

(話しかけても駄目ってことは、別の何かがトリガーになっているんだろうけど……色々試したけど駄目だったんだよな)

それこそ『召喚器』を発現したばかりの頃に強度を確認したり様々な物で文字を書こうとしたり燃やそうとしたわけだが、全てにおいて反応がなかった。本を持った状態で魔法を撃ってみたり様々なことをしてみたりもしたが何もなかったのである。

思い立ったが吉日と改めて色々と話しかけてみたが、今日もまた、何も収穫がなかった。そのため俺は『瞬伐悠剣』を鞘から引き抜くと、手拭い等の手入れ道具を取り出す。

「……気分転換に手入れをするかぁ」

俺の味方は君だけだよ、相棒。

さて、翌日のことである。

『瞬伐悠剣』の手入れをして、『瞬伐悠剣』にばかり構っているからと拗ねてみてくれないかな、と思ったが本の『召喚器』からは何の反応もなく。

一晩経っても何も起きなかったため、普段通り登校の準備をして出発する。そしていつも通り大名行列を形成して教室に行くと、カリンが不思議そうな顔をして近付いてきた。

「おはようございます、ミナト様。何やら朝からお疲れの様子ですが……」

「おはよう、カリン。いやぁ、どうにもならない現実に打ちのめされただけさ」

「はぁ……何かお悩みでも?」

俺の反応に首を傾げるカリン。そりゃあ朝一でこんなことを言われたらそうなるよね。

「どうにかしたいけど、そのためのとっかかりすら見つからなくてね。ま、気長にやるさ……っと、そうだ」

俺は話しかけてきてくれたカリンの顔を見て、一つ思い出す。舞踏会もそうだったが、婚約者候補同士なら文化祭も一緒に回ろうと誘うべきだな、なんて。

「カリンは文化祭で何か予定はあるかい? もしなければ俺と一緒に」

「何も予定はないです。あっても空けます」

「そ、そうか? それじゃあ一緒に文化祭を見て回ろうか」

少し食い気味に頷かれたため、俺の方が驚きながら提案する。断られたらそれはそれで、と思ったんだが。

「――はいっ!」

俺の言葉に笑顔で頷くカリンを見て、この様子なら頑張ってエスコートしなければならないだろう、なんて思うのだった。