軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第192話:ダンジョン調査 その4

昨日宿泊した村――ファルクという村は小さく、人口は三百人程度である。

王都から派遣された代官が治める村で、王領に数えきれないほど存在する農村の一つであり、かつて『王国北部ダンジョン異常成長事件』の際に防衛したトーグ村と比べても一回り小さい。

人口が少ないということは当然ながら駐屯する兵士の数も少なく、村の防衛設備も貧弱だ。トーグ村と同様に木の柵程度しかない。

そして あ(・) の(・) 時(・) と違って軍役として連れてきた軍隊は存在せず、土魔法を使って突貫作業で土の壁を築き、村を囲うなんてことは不可能だ。村に凄腕の魔法使いがいて、瞬く間に土の壁を作ってくれた、なんてことも当然ながらなかった。

(さあて、コイツは困ったことになった)

やっぱりモリオンを連れてくれば良かった、なんてことを思いながら小さく苦笑する。村に引き返し、村に存在する戦力を確認した俺はどうしたものか、と頭を抱えてしまった。

(村の守備兵が二十人に、それなりに動ける若い衆が五十人ちょい……滞在していた冒険者が三人、と)

大規模な野盗団が襲ってきたら厳しい程度の数しか兵がいない。一応、兵士の中には魔法が得意な者が四名ほどいたため、防衛戦に徹すれば野盗団程度は撃退できるんだろうが。

(今回は軍役じゃないし、通りすがっただけなんだよな。こっちの言うことをどこまで聞いてもらえるか)

『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時はサンデューク辺境伯の名代という公的な立場があったし、軍役として百人を優に超える軍隊を率いていた。

しかし、今の俺はただの学生である。一応それなりに武名があるし、ネフライト男爵からの依頼でダンジョンを調査して回っていたから門前払いはされないとは思うが。

どこの村でも似たような造りになるのか、ファルクの村には中心部に広場があり、そこに村人の多くが集まっていた。その中には代官と思しき男性の姿があったため、俺はそちらへと声をかける。

「失礼。私はサンデューク辺境伯家の嫡男、ミナト=ラレーテ=サンデュークです。話を」

「ミナト=ラレーテ=サンデューク!? あの『王国東部の若き英雄』!? なんと! これは僥倖だ!」

代官に話しかけたら遮るようにして思った以上の反応が返ってきた。でも待ってほしい、そんなに名前が広まってるの? ここ、王国東部じゃなくて西部だよ?

「ええ、まあ、はい。そのミナト=ラレーテ=サンデュークです。王国騎士団の副団長、ネフライト男爵閣下の依頼で各地のダンジョンの調査をしていたのですが、この異常事態に巻き込まれまして……よければ助力を、と思いましてね」

それでも好都合だ、なんて考えつつネフライト男爵からの依頼書を見せながら提案する。村を統治する代官としてはこういう異常事態に遭遇すると村人の保護を第一にするだろうし、名前が知られた戦力が手を貸すのは大助かりのはずだ。

「おお……さすがは武名名高きサンデューク辺境伯家の御嫡男だ。是非ともお力を貸していただきたい」

「もちろんです。無辜の民を守るのは貴族の務め。お任せください。ただ一応、今の私は学園の生徒でしかないので、代官殿からの要請を受けて力を貸す、という形にしていただきたく」

「それは……はい、もちろんです。責任の所在は代官である私の方にあります」

そんなことを話しつつ、早速実務に取り掛かる。村の周囲の警戒はナズナに頼んでいるが、時間はなるべくかけない方が良いのだ。

「早速ですが、代官殿には村の防衛を任せ、私の方でダンジョンを破壊しようと思うのですが……いかがですか?」

ダンジョンに漂う威圧感から考えるに、ダンジョンの規模は小規模だ。馬は怯えて使えないとしても、自分の足で駆ければ端から端まで三十分とかからないと思う。

ボスモンスターの討伐か 基点(コア) の破壊かはわからないが、ダンジョンを破壊するまでにそこまで時間はかからないだろう。ただし、その間に村へモンスターが襲い掛かってくるだろうし、そちらは対処してもらう必要がある。

(まあ、全員で向かう必要もない。死霊系モンスターが相手で闇属性の魔法を撃ってきたとしてもナズナなら防げるし、ここで指揮を執らせるか。あとは複数が相手だと困るからエリカを置いて……スグリもついてこれないだろうから置いていこう)

頭の中で戦力の割り振りを計算し、すぐさま提案を行う。

「防衛に関しては私の従者が防御に特化した力を持っており、死霊系モンスターが相手でも問題なく戦えます。それと範囲攻撃に特化した『召喚器』の使い手がいますので、そちらも置いていきます。錬金術師が同行しているのでポーションを作れば怪我人の治療もできるでしょう。いかがですか?」

「え……い、いえ、それはありがたいのですが……」

そんなに都合良く戦力が集まっているのか、とでも言わんばかりに目を丸くする代官の男性。うん、疑問も当然だけど、『花コン』のメインキャラ達だからね。少数でも戦況を覆せるぐらいには腕が立ちますとも。

「ボスモンスターか基点かはわかりませんが、そちらは我々が対処します。運が良ければ一時間とかからず、運が悪くとも三時間はかからないでしょう」

そう言いつつ、俺は周囲を見回して村の一角を指さす。建物が多く、通路が狭い場所に目をつける。

「ただ、最悪の事態に備えて代官殿は土魔法でも人力でもいいので建物同士の間に壁を作り、モンスターが通れないようにして安全地帯を作ってください。即席でも壁があれば死霊系モンスターの魔法を防げますから。詰め込む形になりますが、短期間なら住民達も我慢してくれるでしょう」

不便を強いるが短期間だし、死ぬよりはマシだろう。これで三時間で勝負がつかなければ日を跨ぐことを覚悟する必要があるため、一応の備えとしての提案である。小さい村だから代官の屋敷も小さめで、全ての住民を収容できるスペースがないのだ。

本当は密集させると闇属性魔法の餌食になりかねないから嫌なんだが、小規模ダンジョンなら『暗殺唱』や『致死暗澹』を使うモンスターは出ないはずだ。出るとすればボスモンスターぐらいで、そちらは俺と透輝が対処する。

あと、闇属性以外でも範囲攻撃の魔法を撃たれると危険だが、小規模ダンジョンに出現する雑魚モンスターは下級魔法しか使わない。それでも『火球』などを撃ち込まれると大惨事になるため、警戒の人員は必須だ。

「な、なるほど……それではその形で……って、あの、ボスモンスターが相手だったとして、サンデューク殿が直接ボスモンスターを叩きに行くのですか? 兵士は?」

「必要ありません。もしボスモンスターや基点が見つからなければ捜索の人手が必要になるかもしれませんが……ボスモンスターならダンジョン内の空気で大体の場所がわかりますからね。兵士は も(・) し(・) も(・) の(・) 時(・) にお借りしますよ」

「は、はあ……」

半信半疑といった様子だが、それでも代官は頷いてくれる。そんな代官の表情を見た俺は、安心させるように意識して微笑んだ。

「ご安心ください。これでも大規模ダンジョンで修行してきた身です。この程度のダンジョンならすぐに破壊してみせますとも」

そう言うと、代官の男性は何故か引きつったような顔で頷きを返すのだった。

「うへー……なんかホラーチックというか、おどろおどろしい? って言うんだっけ? ダンジョンってこんな風にもなるんだな……」

ナズナ達に指示をして、透輝を連れてダンジョンを駆けていくとそんなことを透輝が呟く。

時刻は朝。太陽が昇ってこれから日差しも強くなる時間帯なのだが、どうにも薄暗いというか、ダンジョン内が灰色に霧がかったように見通しが悪くなってきたのだ。透輝が言うようにどこかホラーチックである。霧の向こうから化け物が襲ってきそうだ。

「透輝、これまでの お(・) 勉(・) 強(・) のおさらいだ。死霊系モンスターの特徴と注意点は?」

周囲を索敵しつつ、小走りに移動しながらそんな話を振る。

「えーっと、闇属性の魔法を使ってくるモンスターが多いのと、モンスターによっては物理攻撃が通じない」

「正解だ。闇属性の魔法の特徴は?」

「等級によるけど当たると即死する可能性がある」

「よし、それも正解だ」

うんうん、きちんと覚えているな。知っているのと知らないのとでは生死をわける情報だし、当然といえば当然なのかもしれないけどさ。

「その情報をもとに説明するとだな、このダンジョンはおそらく小規模だ。そうなると雑魚として出てくるのはゾンビやレイス……つまり闇属性の魔法を使うとしても下級の『黒弾』になる」

「ふむふむ……」

「ボスモンスターになると中級魔法の『暗殺唱』、下手すると上級魔法の『致死暗澹』を使ってくるだろうが、多分上級魔法はないな。そうなるとダンジョンの規模に合わない強さになる」

「なるほど……えーっと、ししょー? 嫌な予感がするんですが、なんでそんな情報を事前に話すんでしょう……」

困惑というか、警戒するように透輝が尋ねてくる。なんでこれらの情報を話すのか? もう、わかってるだろ?

「相手によるが、せっかくの機会だから透輝にボスモンスターを倒してもらおうと思ってな」

「はいやっぱり! そうだと思った! 絶対前振りだと思ったよ!」

うんうん、俺のことをよくわかっているようで嬉しいよ。正式に弟子って認めたわけじゃないけど、こういう時は『さすが我が弟子』って言った方がいいのかな?

「物理攻撃が効かない相手だったら俺勝てないじゃん! 『火球』だけで相手しろっていうのか!?」

「うん」

「うん!? 嘘だろ!?」

ははは、あまり大声で騒ぐんじゃないよ透輝。モンスターが寄ってくるからな?

「透輝、君なら こ(・) れ(・) ま(・) で(・) 学(・) ん(・) だ(・) こ(・) と(・) を全て使えば物理攻撃が効かない相手でも勝てるだろう。それは俺が保証する」

具体的にはメリアに見せてもらった『光弾』とかな。土壇場の窮地に追い込めば覚醒してくれそうだし、なんなら俺が何度も見せている『一の払い』すら見て覚えていそうだ。

「えぇ……そう言われたら弟子として退けねえんだけど……ミナト? 俺はまだいいとして、女の子には優しくしてやれよ? お前エスかエムかでいったら絶対エスだから。しかもドがつくエスだから」

「どういうことだよ……」

こんなに丁寧にお膳立てしているのにそんなことを言われるなんて……ボスモンスターの前に放り出して説明したわけじゃないんだが。ランドウ先生なら問答無用でボスモンスターと戦わせて、戦っている最中か倒した後に意図を説明するぞ?

「こわっ、ミナトの師匠って怖いな。いや、そんな師匠の弟子だから今みたいになったのか? それなら納得だけど」

来年度になって学園にランドウ先生が赴任したら、そんな怖い人に鍛えてもらうんだからな? 未来のことだから今は言えないけどさ。楽しみにしてろよ。

「いやいや、慣れれば怖くないって」

「つまり、慣れないと怖いってことか……」

そんな会話をしつつも、油断は微塵もしない。視界が悪いが意識を集中して感覚を研ぎ澄まし、ダンジョンの中でも威圧感が強い方向を探す。

これが大規模ダンジョンの中なら広すぎるし、強いモンスターが大量に徘徊しているから意味がないが、小規模ダンジョンならボスモンスターの気配も感じ取れるはずだ。

「……ん。あっちだな」

大まかながら方向にアタリを付け、そちらへと駆けていく。透輝はボスモンスターと戦わされることに対しては思うところがありそうだが、俺が先導することに対しては何も疑問に思っていないようだった。

そうして駆けることしばし。地形が変わったわけではなく、元々生えていた木々を避けるようにして進んだ先、木が少なくて空き地みたいになっている場所に ソ(・) レ(・) はいた。

黒いボロボロのローブを羽織った、骸骨の異形――リッチである。

「ビンゴだ。しかも運が良いな、透輝。リッチなら物理攻撃が効くぞ。まあ、運が悪いとも言えるけど」

「……その心は?」

「リッチは魔法が得意だから、ボスモンスターなら上級魔法を使ってくるかもしれん」

小規模ダンジョンのボスとしてなら妥当な相手だ。強化されたとしても中級の中でも強い程度。元々は中級の中でも弱い方だし、そこまで大差はないだろう。ただ、『暗殺唱』ではなく『致死暗澹』を使ってくる可能性があるか。

「予定に変更はない。上級魔法を使ってくるなら相殺するが、それ以外は極力手を出さないからな。魔法を使いつつ戦うには丁度良い相手だ。倒してこい」

「本当に厳しいな、ししょー……でもまあ、ししょーがやれるっていうのならやってみるさ」

そう言いつつ、『鋭業廻器』を発現する透輝。思ったよりも乗り気なようで何よりだ。

こうして、 主人公(とうき) による初めてのボスモンスター退治が始まったのだった。