軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第186話:王城からの依頼 その1

ここ数ヶ月、毎日のように透輝を鍛えていた俺だが、放課後に第一訓練場に直行して剣を振り回しているわけではない。

放課後になると最初に生徒会室へ足を運び、何かやるべきことがないかを確認した上で透輝の訓練を行っている。しかしながら役職付きでもないし、俺の立場はヒラの生徒会メンバーだ。どちらかというとアイリスに今日も透輝を借りますよ、と挨拶しているだけである。

「生徒会に依頼? それも王城から?」

そんなわけで今日も今日とて放課後になると生徒会に顔を出したわけだが、アイリスから驚くような依頼を告げられた。学園の生徒ではなく、オレア教でもなく、王都の王城から依頼が回ってきたのだ。

「はい。依頼主はネフライト男爵です。なんでもここ最近、王都近郊に発生するダンジョンの数が増えているらしく、それに伴っていくつかの既存のダンジョンの調査をお願いしたい、とのことで」

生徒会長の席に座ったアイリスがそう言って一枚の紙を差し出してくる。そこに記載されていたのは今しがたアイリスが語った依頼内容の詳細だ。

既存のダンジョンの調査とはいうが、出現するモンスターやダンジョン内に生える薬草類に変化がないかを確認してほしいらしい。

俺が以前遭遇した『王国北部ダンジョン異常成長事件』のように、ダンジョンに何かしらの変化が起きた時に備えてのことだろう。調査をして前兆を見つけることができれば御の字ってところか。

王国騎士団の面々は新規に発生したダンジョンの調査や破壊に手を取られているらしく、既存のダンジョンに関しては手が回らないようだ。

王国騎士団は王領の治安維持なども担当しているし、ダンジョンが雨後の筍みたいにポコポコ生えたら処理能力が追い付かなくなることもあり得る。

(色街からの報告にもあったが、そんなにダンジョンが増えているのか……というか、王都にも冒険者がいるんだしそっちに任せれば……いや、平和な王都だと冒険者の質が悪いか。何かあった時に危ないって判断かな?)

その割に学生に依頼を出すのもどうかと思うが、俺は国から勲章を授与されて年金をいただく身である。この程度の雑事なら別に受けても構わないのだが。

(野外実習の時みたいにリンネが襲ってくる可能性もあるが……まあ、同行するメンバーによっては撃退も簡単にできると思うけどさ)

ナズナやモリオン、アレクに協力してもらえばリンネもどうにかできるだろう。ダンジョンが異常成長したとしても突破は容易だ。だいぶ仕上がってきているし、透輝も戦力として連れて行ってもいいかもしれない。

(『穏やかな風吹く森林』よりは難易度が高いし、透輝に実戦経験を積ませるのにピッタリだな。あ、でもダンジョン内に生える薬草類の調査も必要なら錬金術師を連れて行かないと厳しいか? そうなると……スグリに頼むか)

透輝と会わせるのが不安だったが、さすがに大丈夫だろう。傍目から見た感じだと透輝はアイリスとの仲を深めているし、スグリと会った結果、いきなり舵を切ってスグリルートに直行するようなことはないはずだ。

(しかし、オレア教経由じゃなくて王城から直接依頼が来るってのは……たしかに戦力的には妥当というか、過剰なぐらいなんだが。何かあったのかね?)

王国騎士団の手が割けないとしても、王都に詰めている兵士達もいる。そこから人員を選出して向かわせれば調査ぐらいはできるはずだが。

「学園からは 課(・) 外(・) 授(・) 業(・) として通常の授業に関しては出席扱いにする、とのことですが」

「今は文化祭に向けて授業も縮小気味ですからね。そういうことなら受けるのもやぶさかではないですが……」

ネフライト男爵がわざわざ生徒会宛てに依頼を持ち込んだ理由が見えない。まあ、生徒会には俺やカトレアが在籍しているし、正規の兵隊を動かすよりも安価で、なおかつその辺の兵士より強いから確実に調査内容を持ち帰ることができる、なんて考えかもしれないが。

(ん? 調査対象の中には錬金術の素材が取れやすいダンジョンも含まれているのか……この手のダンジョンは国にとっても優先的に調査をするはずだが……)

はて、金のなる木とまでは言わないが、それなりに お(・) い(・) し(・) い(・) ダンジョンも調査対象に含まれているようだ。

問題が起きると錬金術の素材の入手にも関係するし、ひいては市場に出回る素材やアイテムの量が減少することにもつながりかねない。そうなると価格の上昇を招いたり、そもそもモノが出回らないなんて事態が起きたりするんだが。

(そんなダンジョンまで調査の手が回らないってことは……もしかして、俺が思っている以上にダンジョンの発生数がやばいのか?)

まさか、と依頼が回ってきた理由に見当をつける。予定だと『魔王』が発生するまであと二年半ほどあるが、今の時点でそこまで影響があるのか。

(『花コン』でもダンジョンの調査や破壊に関する依頼が生徒会宛てに送られてきたけど、ゲームの都合だと思っていた。でも、 そ(・) う(・) せ(・) ざ(・) る(・) を(・) 得(・) な(・) い(・) ぐらい手が足りないのか?)

『花コン』で生徒会に来るダンジョン関係の依頼だと、どこどこのダンジョンで特定のモンスターを何匹倒せだとか、アイテムをいくつ手に入れろだとか、ダンジョンを破壊しろだとか、ダンジョンの規模と難易度によって依頼が分類されていた。

それらもゲームだからなぁ、と片付けていたが、現実で同じことが起こってしまうと見方が変わる。

(直接戦ったことはないけど、顔を合わせているからネフライト男爵も俺の実力がどの程度かは知っている……達成できると判断したものを回しているんだろうけど、学生相手に頼らざるを得ない状況……学生といっても貴族だから、その辺を加味すると……)

この世界におけるダンジョンだが、お行儀良く人目に付きやすい場所だけに出現するわけではない。普段人が通らないような場所にも当然のように出現するし、見つからなければそのまま成長して中規模になり、その結果見つかることとなる。

当然ながら人間側もそんなダンジョンを見つけようと兵士や冒険者を巡回させるが、人の足で稼げる距離には限度があるし、目で見るだけでは見つからないダンジョンもある。

平地に生まれて一定の範囲に木々が生い茂っている、なんてわかりやすい見た目のダンジョンばかりではないのだ。木々が生い茂る山の中にダンジョンが発生し、成長するまでまったくわからなかった、なんてこともよくあることである。

ダンジョンの捜索、見つけたダンジョンに潜っての情報収集、可能なら破壊。それらを王国騎士団や各地の貴族が行っているわけだ。しかも既存のダンジョンの管理や破壊と並行して、である。

人手が足りるか? 当然ながら足りない。だからこそオレア教も手を貸し、あちらこちらのダンジョンを潰して回っている。

王族、貴族、オレア教。それらが協力し合い、仮初の安寧を保っているってわけだ。

「ミナト様?」

「ああ、申し訳ないはとこ殿。少し考え事をしていました」

そこに、国王陛下と血縁がある上に実戦経験もある使える戦力がいて、手も空いている。しかもその周囲には腕が立つ生徒が複数いるのだ。重要度が低い仕事なら依頼として回しもするだろう。

報酬は金と現地で入手したアイテムの譲渡。調査ついでに王領で管理するダンジョンで 小(・) 遣(・) い(・) 稼(・) ぎ(・) をしてもいいよ、という提案だ。普段は商人から買い付けるしかない素材をタダで入手できると思えば悪くない報酬だろう。

「今回の場合は調査ばかりですし、ダンジョンに長期間潜るわけでもありません。私としては危険度も低いと見ています。こちらの希望する人員を連れて行けるのなら比較的安全でしょう」

「それは構いませんが……あまり大勢連れていかれると、文化祭にも影響が……」

「いえ、文化祭に影響が出るような大人数は連れて行きませんよ。戦力としてナズナにモリオン、補助にアレク。あとは現地での調査にスグリを連れていければ完璧でしょう。それと、透輝を連れて行って実戦経験を積ませたいですね」

俺も込みで総勢六人だ。これぐらいなら文化祭に影響も出ないだろう。戦力としてならカトレアも連れて行きたいけど、学園に残るアイリスの補佐があるしな。あとはゲラルドも頼りになるが、決闘委員会があるから連れてはいけない。

「殿下にも同行していただいて回復役をお願いしたいですが……無理ですよね?」

一応そんな確認をしてみると、アイリスは苦笑を浮かべる。

「できるかできないかで言えばできる、とお答えしたいところです。しかしながらこの身は王族で、生徒会長ですからね……ところで、透輝さんだけ他の方々とは違う理由で同行を希望されるんですね?」

「ええ。あいつに剣を教えている身としては、こういう機会は逃したくないんですよ。透輝と離れ離れになる殿下には申し訳なく思っていますが……」

「そ、そんなことは申し訳なく思わなくても大丈夫ですっ」

俺が言葉通り申し訳なさそうな顔をすると、アイリスは頬を薄っすらと朱色に染めながら言う。本当? 残念って思ってるでしょう? 透輝と仲が深まっているようで何よりだわ。

「本当ですか? 場合によっては一週間から二週間ほど留守にすると思うんですが……傍に透輝がいなくても何も思いませんか?」

「その言い方は卑怯ですっ。何も思わないと答えるのは薄情じゃないですかっ!」

からかうように尋ねると、アイリスは律儀に反応を返してくれる。いやぁ、良い反応ですわ。

「ミナト君? 殿下の反応が可愛らしいのは同意するけど、ほどほどにしないと駄目よ?」

「それもそうですね。申し訳ない、はとこ殿。少し調子に乗りました」

俺がそう言って謝ると、アイリスは不承不承といった様子ながらも頷いてくれる。その姿は王女ではなく年頃の少女のようで、少しでも素の性格をさらけ出すことができているのなら何よりだ。

(透輝との仲を深めるのも重要だけど、アイリスはなんだかんだで 溜(・) め(・) 込(・) む(・) タイプだからな。上手くバランスを取っていかないと……)

どんどん成長して周囲に認められていく透輝を見て、嫉妬にも焦りにも似た感情を抱くのがアイリスである。今のところそれらしい感情は見られないが、注意しておくに越したことはないだろう。

ただし、そういった感情面でのぶつかり合いも仲を深めることにつながるため、 ほ(・) ど(・) よ(・) く(・) 喧(・) 嘩(・) し(・) て(・) ほ(・) し(・) い(・) と願うのはさすがに性格が悪いか。

少しでも透輝とアイリスの仲が深まるように祈りながら、俺は苦笑を浮かべるのだった。

さて、そんなわけでネフライト男爵からの依頼を解決すべく、俺は人手を集め始める。

透輝はアイリスの許可をもらったから、あとは本人に話をするだけだ。

他に協力をお願いしたいナズナ、モリオン、アレク、スグリも、日頃の交友関係から考えると大丈夫だろう――と、思っていたのだが。

「申し訳ございません。ミナト様だけでなくナズナ殿まで離れるとなると、派閥をまとめるのに支障が出るでしょう。文化祭も近いので他の派閥との折衝もありますし、私は学園に残ろうと思います」

モリオンからなんとも真っ当な理由で同行を拒まれてしまった。短い期間ならともかく、一週間から二週間ほど空ける可能性があるし、モリオンの判断は妥当だろう。むしろ派閥の頭である俺が先んじて考えないといけないことだ。

「んー……アタシとしてもミナト君に協力したいけれど、立場上難しいのよねぇ。文化祭が近付くにつれて生徒同士のイザコザが増えているから仲裁が必要になるし、二、三日ならともかく一週間以上学園を空けるっていうのは厳しいわぁ」

そして、アレクにも断られてしまった。相変わらずの道化師メイクながら申し訳なさそうにしており、俺としても無理強いはできない。

(うわぁ、マジか……アレクの援護魔法も惜しいけど、何かあった時に備えて広範囲を薙ぎ払えるモリオンにはついてきてほしかったんだが……)

このままじゃあ 剣士(おれ) 、 剣士(とうき) 、 盾役兼剣士(ナズナ) 、 錬金術師(スグリ) っていうバランスの悪いパーティになってしまう。

遠距離攻撃できるのが俺だけ……いや、透輝が魔法の練習中か。『火球』ぐらいなら使えるようになっているが……広範囲に攻撃できるメンバーがいないという点に変わりはない。スグリも攻撃用のアイテムは作ってないだろうしな。

それでもまあ、少数のモンスターと戦うだけなら問題はない。範囲攻撃できる生徒が欲しかったのは本当だが……なんて、考えた時のことだった。

「ねーねーミナト君っ! あたしの練習に付き合ってほしいなーって……え? なに? どしたの?」

第一訓練場に姿を見せたエリカを見て、俺は思った。

魔法使いじゃないけど、協力してもらえたら心強い子が来たぞ、と。