軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第184話:文化祭とは

王立ペオノール学園において、武闘祭は現代でいうところの運動会に該当する。

そして文化祭に関してはそのままの名称で文化祭に該当する。ただし現代日本と比べれば色々と異なり、学生が錬金術で作ったアイテムを展示したり、販売したり、ダンジョンから取ってきた素材を販売したりする。

もちろん文化祭の名に相応しく、学生が描いた絵や作った芸術品が展示されたり、論文が展示されたり、演劇が催されたり、飲食物の出店を開いたりもする。

武闘祭と同様に王都の民や貴族を招いてのお祭りであり、優秀な錬金術師にとっては腕をアピールする絶好の場でもあった。

また、錬金術師に限らず芸術関連に長けている者は自らの作品を発表する場でもあり、目が利く商人や貴族が未来の大芸術家の卵を探すべく、目を光らせることもあった。

ここで見込みがあると思われれば 後援者(パトロン) として面倒を見てもらうことも夢ではない。ただまあ、錬金術師はともかく、芸術家を志して王立ペオノール学園に入学する者は滅多にいないのだが。

そういう芸術家志望なら現役の芸術家に弟子入りしているか、若くして才能を発揮して既に貴族なり商会なりに囲われているかの二択だ。それでも学園で生活をする内に才能が開花し、文化祭で誰かしらの目に留まることもあるらしいが。

その基準というわけではないが、文化祭で最優秀の成績を修めると武闘祭と同様に『百花勲章』が贈られる。そして三年連続で最優秀の成績ならこれまた武闘祭と同じで『白銅百花勲章』が授与されるが……まあ、さすがにこれを達成した者はこれまでの学園の長い歴史でもゼロだ。武闘祭の学年不問条件不問部門で三年連続で優勝するよりも難易度が高いだろう。

そして俺はといえば、文化祭に関して参加をどうするか検討中だった。

貴族の家に生まれた者として芸術に触れることは教育の一環であり、審美眼を磨き、自らの手で絵を描くこともある。ただし俺の場合は芸術に関しても才能が乏しかったのか、模写はそれなりでも自ら作品を生み出すことが苦手だった。

そのため何かをするとしても有名な絵画を模写したものを提出するか、風景画でも描くぐらいだろう。錬金術? 材料を採ってくるのならまだしも、何かを錬金するのは無理だ。

一応、本格的に参加せずとも何かしらの作品を一つでも良いから提出することを推奨されているため、俺の立場上避けては通れない。

そんなわけでどうしたもんかなー、と検討しているわけである。結局、検討するだけで終わりそうだが。最終的に絵の一つでも描いて終わりそうだ。

それ以外にやることがないから派閥の生徒の手伝いでもしようか、なんて考えても俺は派閥のトップである。俺にやらせるなんてとんでもない、と固辞されてしまうため、他に何かやるなら自分一人か少数でできるものを探すことしかできなかった。

文化祭は武闘祭から約一ヶ月後。十一月第一週の土曜日に行われる。前世の学校のように授業の時間や放課後を使って文化祭の準備を進めていくことになるが、全体的な時間で考えるとそれほど多くはないと見るべきだろう。

(『花コン』でなら主人公が各キャラクターと交流を深めるイベントなんだけどな……あとは錬金術でアイテムを作って品評会に参加するイベントがあったっけ)

『花コン』では誘った相手と文化祭を巡って好感度を上げたり、作ったアイテムの出来栄え、アイテムの作成難易度から順位を決める品評会に参加したりもできる。

文化祭巡りと品評会は 別(・) 口(・) で、誘った相手に合わせて専用のイベントスチルが表示されたもんだが……いやはや、思い出してみると懐かしいもんだ。

しかしながら『花コン』と現実は違うわけで、 主人公(とうき) は錬金術に関して学んでいないから品評会には出られないし、誰かを誘って文化祭を見て回ろうにも当然ながら断られることもあるだろう。

主人公としての才能を信じるなら、今からの一ヶ月で錬金術を学べば低品質の回復ポーションぐらいは作れるようになるかもしれないが……その場合、剣と魔法だけでなく錬金術まで練習することになるからさすがに無理だろう。

いや、詰め込めばいけるかな? 透輝は追い込めば追い込むほど輝くところがあるし、無茶ぶりしても案外どうにかするかもしれない。

それもこれも透輝に多彩かつ優秀な才能があるからだ。逆に俺は武闘祭ならともかく、文化祭だとできることがほとんどない。

それでも芸術なり、苦手だが錬金術なり、何か手を出すべきなんだろうが――。

「と、いうわけで……錬金術なら君以外に頼る相手もいないから顔を出したんだが、いきなりで迷惑だったかな?」

そんなわけで俺は、放課後になると生徒会用の錬金工房に足を運んでスグリと顔を合わせていた。スグリは相変わらず俯いて前髪で目を隠しているから、顔を合わせているって表現で合ってるかはわからないけどね?

ちなみに透輝相手の訓練はモリオンに任せてある。たった一日で魔法の発動までこぎつけた透輝の才能を見たモリオンがやる気を出したため、今頃ビシバシとしごかれているだろう。ビシバシって死語か。

「い、いえ、迷惑だなんでそんな……み、ミナト様はお忙しいでしょうし、その、こうして来ていただけるだけで嬉しい、というか……」

「いやいや、君を生徒会に誘ったのは俺なのに、あまり顔を見に来られず申し訳ない。武闘祭も終わったし、これで少しは手が空くといいんだが」

そう言って笑いかけるが、なんだかんだで週に一回は足を運んでスグリと会っていたりする。素材を仕入れては低品質の回復ポーションを作ってもらったり、滅多に素材が揃わないが中品質の回復ポーションを作ってもらったりと、世話になっているのだ。

生徒会長であるアイリスのスグリに対する評価も上々で、生徒会で使用、貯蓄する分のポーションの作成を頻繁に頼んでいるらしい。スグリとしても腕を磨く機会になるため前向きなようだ。

余談だが俺が作ってもらったポーションを何に使ったかというと、透輝の訓練である。五ヶ月間徹底的に鍛えたが、その過程で怪我をすることが多々あったためその治療に使ったのだ。

そしてポーションの注文に来る度に錬金工房の中が洗練されているというか、おそらくはスグリにとって使い勝手が良い形で整えられている。

錬金術に使う機材が増えていたり、見たことがない素材が吊るしてあったり、錬金途中の液体がビーカーやフラスコに入れて保管されていたりと、知識はあっても実践はボロボロな俺にとって理解が及ばないものが転がっているのだ。

そのためちょっとしたビックリ箱というか、訪れる度に何が出てくるか楽しみだったりする。元々備え付けてあったソファーや机、錬金用の釜なんかはさすがにそのままだけど、小物が増えているのだ。

いやぁ、透輝の天才ぶりも見ていてすごいけど、スグリは錬金術の天才だからな。こっちも見ていて飽きないわ。

「あ、ぶ、武闘祭、えっと、わたしも見てました。優勝、おめでとうございます」

「ありがとう。これでも国王陛下から勲章を頂いている身だからね。無様を晒さずに済んで良かったよ」

ただでさえ色んなあだ名をつけられているし、実家は武闘派の辺境伯家。決勝の相手も身内だから決勝に進んだ時点で最低限の面目は立ったが、これで負けていたら嬉々として俺の評判を下げようとする者が学園内に出てくるだろう。

入学早々に行った決闘三昧で周囲もだいぶ 落(・) ち(・) 着(・) い(・) た(・) が、時間が経てば良からぬことを仕出かす者が出てくるものである。その辺りもうちの派閥だとモリオン等が動き回って対処しているが、攻撃される材料は少ないに越したことはなかった。

その点で言えばこうしてスグリと会っていることも攻撃材料になりかねないが、生徒会に誘った手前、顔を見に来ない方が失礼に当たる。こっちから誘っておいて迷惑に思うほど礼儀知らずのつもりはなかった。

あまり騒ぐようなら侮辱と見做して決闘を仕掛ける口実にしようと思っている……なんてことはない。本当だ。本当だよ?

「ぶ、無様なんて……その、えっと……す、すごく、かっこよかった……です、よ?」

「ははは、ありがとう。 女性(レディ) に褒めていただけるとは光栄の至りだ」

こうして雑談を交わせるぐらいにはスグリも心を開いてくれている。俺が来たら紅茶を淹れてくれるし、クッキーなどのちょっとしたお菓子も用意してくれているから居心地が良いのはたしかだ。

ただしそこまで長居はしないし、軽く雑談してお茶を一杯飲んだら退室する。そんな関係である。

まあ、今日の場合はスグリが文化祭をどうするのか、参考までに聞きたかったため足を運んだのだが。

「話を戻すがスグリ、君は文化祭はどうするつもりだい? やっぱり錬金術で何か作るのかな?」

文化祭で最優秀の成績を修める者がいるとすれば、目の前のスグリ以外には思いつかない。それも一回だけではなく、三年連続で最優秀に選ばれて文化祭で初めてとなる『白銅百花勲章』の受章者になってもおかしくないほどだ。

そう思って話を振った――のだが。

「……わたしは、その……」

スグリはどこか気まずそうに視線を逸らす。ただでさえ猫背だというのに、更に体を丸めるようにして俯いてしまう。

「何か、気になることでも?」

そんなスグリの反応から、何かがあると察して尋ねる。するとスグリは慌てた様子で顔を上げ、首を横に振った。

「い、いえっ、なんでもないです……ミナト様のお手を煩わせるようなことは、何も、ないんです」

「スグリ……」

それは 何(・) か(・) あ(・) る(・) って言ってるようなものだぞ? 以前、同級生に何やら詰められていたし、それが続いているだろうか?

(うーん……その辺りの事情に首を突っ込み過ぎるのも……でも俺が原因なら何もしないっていうのも薄情だしな……)

その内心を見透かすようにスグリの顔をじっと見る。するとスグリは頬を赤らめ、視線を右に左にと彷徨わせて最後には再び俯いてしまう。

(……折を見て派閥の子やエリカ、あとはルチルに話を聞いてみるか)

所属している科が異なるため、技術科の面々に関してはどうしても対応が一手遅れる。それでもできることはやろうと決意し、この場は引き下がるのだった。