作品タイトル不明
第136話:学園探索
王立ペオノール学園。
王都から北西方面に少しばかり離れた場所に造られたこの場所だが、敷地面積が広いし建物もたくさんあるしで非常に巨大な施設になっている。
今年度の新入生だけでも貴族科が五十四人、騎士科が百人を超え、技術科は二百人近い生徒が入学している。三学年で数えれば千人近い生徒が通っている計算だ。
そんな生徒に教える教師達に、生徒の生活を支える使用人やメイドさん達。彼ら、彼女らを含めればその数は倍以上に膨らむだろう。
余談だが、学園で働く使用人やメイドさんの中には技術科の卒業生も多く、教師の中にも卒業生がいたりする。継ぐ家も嫁ぐ先もないが成績優秀で、就職先に困っている生徒等が教師にスカウトされやすいようだ。
『花コン』のメインキャラの中にも将来教師になる者がいたりするし……留年する者もいたりするんだが。
さて、そんな学園だが、多岐に渡って教える関係上、学園内には様々な施設がある。勉強を教えるための各棟や訓練場、寮のような大きなものから、錬金術の授業に使用する素材を栽培している畑や温室、鍛冶や錬金術を行うための工房など、比較的小規模な施設も存在していた。
なお、錬金術の素材に関しては人の手で育てられるものはそこまで薬効が強くなく、低品質のポーション類に使える程度だったりする。それでも十分といえば十分だが、強い効果のアイテムを作るにはダンジョンで素材を集めるか、カリンの実家のように特定の場所に出現している産出地から入手する必要があった。
(ふむふむ……ゲーム画面で見たことがあるけど、こっちが錬金術の素材を育てる畑や温室か)
普段通りというべきか、放課後になって生徒会室に行って大名行列を解散させて一人になった後、特に何もすることがないことを確認した俺は単独で学園内の探索を行っていた。
ナズナやモリオンと一緒にいるのが嫌なわけではないが、俺だって人間だ。一人で行動したい時があるし、『花コン』関連のことを確認する時は特にそれが顕著である。
俺が行っているのは『花コン』でプレイヤーが選択できる移動先の確認だ。各キャラクターと交流する際、行きたい場所を選ぶとその行先に応じたキャラクターと会って交流できるシステムになっている。
それがこの現実世界でも同じなのか、確認しておこうと思ったのだ。
そこで最初に足を運んだのは技術棟にある錬金術の素材を育てる敷地である。『花コン』だとここには高確率でスグリがいるはずで、俺は目立たないよう気配を隠しながら移動する。
他にも居場所がわかりやすいのは生徒会室にアイリスとカトレア、学園長室にコーラル、図書館にメリアなど、その立場に合わせた場所を訪れると遭遇できる可能性が高いのだ。
もちろん常にその場所にいるわけではなく、時期だったり、個別イベントの進行具合だったり、好感度の高さだったりで出現場所が変わる。
他にも各棟の教室、寮や食堂、訓練場など、各キャラクターが出現する場所がわかれていた。
(周回プレイをして周回特典を入手しないと誰がどこにいるかわからないんだよな……)
周回プレイ時ならどこに誰がいるか表示させることもできるのだが、初回プレイだとどこにキャラクターがいるかはわかっても、誰がいるかまで表示されないのだ。
そのため今も『花コン』ならここにいる可能性が高い、という情報をもとに行動しているわけで。それがスグリなら錬金術という わ(・) か(・) り(・) や(・) す(・) い(・) 記(・) 号(・) があるため探しやすい。
これが他のキャラ――特に各棟の教室にいる場合、放課後だろうと俺がいると周囲の注目を浴びる可能性が高い。その点、錬金術関係の畑や温室なら興味があったから、で切り抜けられる。
(スグリと透輝を接触させるとルートが確定しやすいからな……)
スグリは『花コン』においてサブヒロインである。しかし生徒会入りする条件が他のキャラと比べて非常に緩く、主人公と交流する度に新しいアイテムをランダムで錬金できるようになる、というわかりやすいメリットもあって初回プレイでスグリルートに進むプレイヤーが割といた。
そしてスグリルートだとグッドエンドがないため、『魔王』を倒すことができずに詰むわけだが……。
スグリは他のキャラと比べるとステータスが全体的に低く、才能値も高くない。しかしアイテムを錬金し、使用するという点では他者の追随を許さないため、好んで使うプレイヤーも珍しくなかったのだ。使用するアイテムの効果量を増やすこともできるしね。
なお、そんなスグリより才能値が低いキャラクターがいるんだよね……ミナト=ラレーテ=サンデュークっていうんだけどさ……。
(アルバム埋めたり、周回プレイのポイント貯めたりするのには便利だったからな。でも透輝にスグリルートに入られると詰むわけで……一応、確認しておかないと)
もしも現時点でスグリが透輝と知り合っていて、なおかつ生徒会のメンバー入りする条件を満たしていたら。放課後に生徒会室に行って、スグリに出迎えられたら心臓が止まるかもしれん。
でもグランドエンドに必要ないといっても、個人的にはスグリの錬金術の腕は惜しい。回復系のポーションを作って欲しいし、他にも便利なアイテムを錬金できるようになるし。
ちなみにだが、スグリが生徒会入りする条件は主人公が一回会ってお互い自己紹介をした後、もう一回会うと生徒会にスカウトできる。
他のキャラクターは好感度を上げて、なおかつ三回は会わないと生徒会にスカウトできないんだけどな。メカクレチョロインヤンデレのメチョデレさんってプレイヤーに呼ばれるのも納得の加入条件の緩さだ。
そんなこんなで、技術棟の端にある一角へ到着。技術科の中でも錬金術師を志す生徒達によって綺麗に整備された畑や温室が並んでおり、放課後にもかかわらずそれなりに多くの生徒がいる。
(ふむふむ……さすがにスグリみたいにぶっとんだ才能の持ち主はいないんだろうけど、みんな真剣に手入れをしているな)
手慣れた様子で植物の世話をしているのは二年生や三年生だろう。逆に一年生は草むしりや虫取りなどの簡単なことをやっている。
(ゲームだと移動すればメインキャラが自動で見つかるけど、現実だとそんなわけないわなぁ……スグリは、と……)
土で汚れるからか、体操服に着替えて作業をしている生徒達を眺めることしばし。傍目から見たら怪しいよねコレ、なんて思っていたが、建物の陰に隠れるようにして気配を消しているおかげかこちらに気付く生徒はいない……あれ?
スグリがいた――と思ったら何故かこっちを見た。そして驚いたような顔をして、周囲を見回したあとパタパタとこちらへ駆けてくる。
「み、ミナト様っ。ど、どうしてこんなところに?」
「やあ、スグリ。邪魔をしたようですまない。学園の中を散策していて通りかかったんだ」
走ってきたからか、頬が少しばかり赤くなっているスグリに笑って声をかける。物陰にいたけど、堂々としていれば不審者と思われないよね? 多分。
「そ、そうなんですね……えっと、いつも一緒にいる人達は……」
「今日は一人だよ。たまにはこうして一人で出歩きたい時もあるからね」
そう言って俺はスグリを改めて見る。
普段は自信がなさそうに背中を丸めて最早猫背になっているが、体操服姿だと印象が大きく変わる。
『花コン』でも制服だとわかりにくいものの、イベントなんかでキャラビジュアルが体操服姿に変わると大人しい見た目に反して ス(・) タ(・) イ(・) ル(・) の(・) 良(・) さ(・) が際立つのだ。
(うーん……さすがは人気投票でヒロインのナズナよりも上位を取ったスグリだ……いやまあ、原作だとナズナは人気がなさすぎたか……)
やっぱり騎士っぽいキャラで『 忠偽(ちゅうぎ) 』をやっちゃうとな。今世のナズナはそんな素振りは全然見せないし、仮に『忠偽』をやられたら心底凹む自信があるけどさ。
「み、ミナト様? なんでそんな、遠い目を?」
「……いや、少し考え事をね。女性の前で失礼した。それでスグリ、最近はどうだい? 何か変わったことは?」
「え? か、変わったこと……ですか?」
スグリは不思議そうに首を傾げる。うん、急でごめんね? いきなり変わったことは、なんて聞かれても困るよね。
「……あっ、えっと、ですね? その、み、ミナト様からいただいたミストポーションをもとに、自分でもミストポーションが作れそうだなって……ま、まだ完成は、してないんですけど……」
「へぇ……そりゃすごい。さすがだな、スグリ。錬金術の初歩の初歩すら上手くいかない俺からすると、想像もできない成長ぶりじゃないか」
たしかに作れるようになることを期待して渡したけど、本当に作れそうですって返事がかえってくるとその才能に驚かされるな。いや、才能だけじゃなく、努力もしているんだろうけどさ。
「あっ――え、えっと……ありがとう、ございます……」
スグリははにかむようにして、嬉しそうに微笑む。うん、何時の世も若人の成長は眩しいもんだわ……って、老人ぶるほど歳は取ってないか。
「ああ、そうだ。スグリはトウキ=テンカワという貴族科の生徒を知っているかい?」
俺は話の流れに乗って透輝に関して尋ねる。これで透輝のことをきちんと認識していれば接触済み、『透輝さん』と名前呼びしていたら既に友好度が上がっている証だ。
「その名前は……ミナト様と、決闘をしたっていう?」
「……うん、そうなんだがね。決闘をした間柄だが友人でもあるから、彼がどれぐらい知られているか気になったんだ」
なんだろう、接触していないどころか、俺と決闘をしたか聞く時にスグリの声色に嫌悪感というか、あまりよろしくない感情が混ざったような……。
「そ、そうなんですね……わたし、少ししかお友達がいませんけど、技術科でも噂になっているのは聞いたことが……み、ミナト様が、決闘で負けたって……本当……なんですか?」
そう言って、前髪で隠れた瞳を俺に向けてくるスグリ。その声にはさっきと同じく、重いものが感じられる。
「負けたというのは事実だね。だけどまあ、条件を絞ってわざと負けたというのが本当のところかな」
「わ、わざと、ですか?」
「ああ。スグリなら誰かに言うこともないだろうから答えるけど、相手はアイリス殿下が召喚した人間だからね。殿下のために そ(・) の(・) 価(・) 値(・) を高めつつ、俺も条件を絞ることで負けても仕方がない方向にもっていこうと思ったんだ」
だからスグリが気にすることなんてないんだよ? 俺の思惑通りなんだよ? なんて意図を込めて話す。本当は『花コン』でのイベント通り、透輝の覚醒を促すためだったんだけどね。理由付けをするならそんなところだ。
「そういうわけで、友人である透輝について悪い噂が流れていないかのチェックも兼ねて歩き回っている……そんな感じさ」
「そ、そうだったんですね……わぁ……け、喧嘩した相手でも、そうやって思い遣れるのって、その、す、すごい、と思います」
「ははっ、ありがとう。そう言われると少しばかり照れてしまうよ」
それが本心の全てってわけじゃないから、褒められると逆に申し訳ないな。実際には透輝とスグリが接触しているかを確認しに来ただけなんだし。
(あとはエリカもサブヒロインだからそっちも確認して……あの子、出現位置がランダムなんだよな。上手く会えればいいんだが……)
そう考えた俺は、そろそろ周囲から視線が向けられ始めていることに気付いて会話を切り上げることにした。
「おっと、植物の世話をしているのに邪魔をしてしまったね。協力に感謝するよ」
そして少しだけ大きな声でそう告げる。これでスグリが何か聞かれるとしても、透輝のことを気にして話を聞きに来たと答えられるだろう。
俺はスグリに背を向けると、それまでと違って気配を隠すことなく歩いていく。
(スグリのあの感じだと、生徒会のメンバーに誘うなら透輝よりも俺の方から誘った方が良さそうだな……スグリルートには入らなそうな雰囲気があるけど、透輝と会わせた場合、錬金術のレシピを新しく思いつくかは試しておきたいが……)
もしもそれでエリクサーでも作れるようになったら滅茶苦茶助かるしな。素材が足りないから作れないだろうけど、俺の場合勲章の年金があるから王都で素材を集めてもいいし。
そんなことを思いながら学園内を散策するようにして歩いていくが、エリカに関しては巡り合わせが悪かったのか、この日は見つけることができなかった。