軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第135話:授業

王立ペオノール学園は教育機関である。

俺が前世で知る学校と比べると色々と異なるが、教育機関であることに間違いはない。

貴族科だと勉強するためというより交流するために学園に通っている側面が強いが、授業はあるし定期テストもある。その辺りは前世の学校と変わらないのだ。

ただ、授業に関しては少々……いやさ、かなり違うと言わざるを得ない。他の科はまだしも、貴族科だけはかなり変則的な部分がある。

それもこれも、貴族科に通う者達は学園に通う前に実家で教育を受けているからだ。

ただし嫡男と次男以下、男女によって教育内容が異なり、なおかつ家々によって ど(・) こ(・) ま(・) で(・) 教(・) 育(・) を(・) 施(・) す(・) か(・) が変わるため、入学時点で学力に大きな差があることも珍しくはない。

さすがに文字の書き取りや四則演算で詰まる者はいないが、前世でたとえるなら中学一年生から高校三年生まで、あるいは大学生まで込みで一つの教室に詰め込んでいるようなものである。

ちなみに大学生レベルはモリオンやアレクといった『花コン』でも天才、秀才なキャラ、高校の上級生レベルは俺やアイリスといった上級貴族の嫡男や王族、高校の下級生レベルはカリンなどの上級貴族の生まれながら嫡男以外の者、あとは中学生一年生から三年生レベルが混在しているような感じだ。

授業に関しても国語数学理科社会と前世でもあったような教科に、ダンジョンやモンスターや錬金術や魔法といった『花コン』の世界ならではの教科がある。

それらの教科の中でも学習の進捗状況が異なるため、平均レベルに合わせて授業を行うのが基本になる。

そのため学園に入学し、授業に関する説明が終わると学力を確認するためのテストが行われていた。前世と同じく時間を区切ってのペーパーテストである。

そのテストの結果をもとに、これから先の授業計画が本格的に決まるわけなのだが。

テストは第一週に行われ、第二週の頭には結果が出ていたりする。

結果に関しては点数が悪かった場合、本人の名誉にもかかわるため上位十名だけが貼り出される形となっていた。

ただし、今回のテストで最下位が誰かは決まっている。それは当然ながらこの世界に関して勉強を始めたばかりの透輝だ。数学は解けるとしても、他の科目は前提となる知識がないのだから解きようがないのである。

透輝は『異世界にもテストがあるなんて……』と渋い顔をしていたが、『花コン』でもそうだったから我慢してくれ。

ちなみに俺は貴族科五十四人の中で四位という、上位でこそあるが微妙に喜び難い順位だった。実家が辺境伯家で中身も相応に歳を取っているのに、三位以上は無理だったわ。

一位はモリオン、二位は僅差でアレク、三位はアイリスと、当然っちゃ当然の面子が並んでいた。これじゃあ頑張っても三位が限界かもしれんね。モリオンとアレクには勝てんわ。

もちろんこれは入学時の学力を調べるためのテストであって、今後の定期テストでは学園で学んだことから出題される。そのため今回みたいに四位どころか十位に入ることすら難しいかもしれない。

そんな学園での勉強だが、『花コン』での情報によると騎士科や技術科はまた別の基準があるらしい。

騎士の子どもに生まれて教育を受けてきた者、受けていない者、商人や職人の子どもに生まれて特定の教育だけ受けた者等、貴族科以上にばらつきがあるため仕方がないことではあるが、最低でも中学生レベルから授業が行われる貴族科と比べ、小学生レベルから授業が行われることとなる。

さて、そんな貴族科の授業だが、入学して一ヶ月も経っていないということもあり、 と(・) あ(・) る(・) 授(・) 業(・) が行われている。教師が授業を行って生徒である俺達がそれを聞くのではなく、俺達生徒が教壇に立って授業を行うというものだ。

ただし、授業といっても学力差があるため本当の授業ではない。この貴族科には王国各地から貴族が集まっているため、自己紹介を兼ねて自分の出身地に関して説明を行うというものだ。

これも一種のオリエンテーションだろうが、知識では知っている他所の貴族の領地に関し、その土地を管理、運営する者から直接話が聞けるというのは貴族として中々に興味をひく授業である。普段は授業嫌いな透輝もこの授業は割と楽しそうに聞いているぐらいだしな。

そして今日、その 教(・) 師(・) 役(・) をやるのが俺の番になり、俺は教壇に立って生徒達と向き合っていた。

「改めまして、ミナト=ラレーテ=サンデュークだ。今日はせっかくの機会ということで、当家が領有する王国東部の辺境伯領について色々と話をしたいと思う」

そんな開始の挨拶を行い、俺はアイリスと並んで座る透輝へと視線を向けた。

「せっかくだ。 何(・) も(・) 知(・) ら(・) な(・) い(・) 透輝に授業の補助をしてもらうとしよう」

「えっ? 俺?」

「ああ、君だ。透輝、辺境伯領と聞いてどんな場所を想像する?」

良い機会だし、透輝に色々と教え込んでいくとしよう。そう思って話を振ると、透輝は腕組みをして必死に考え込む。

「辺境伯領……辺境……辺境? その……田舎?」

「はっはっは。よく間違われるが、その間違い方をすると決闘を挑まれかねないから注意しような?」

うん、期待通りの返答だ。そのため俺も笑って流すが、他に辺境伯の領主一族がいたら本当に決闘を挑まれているところだぞ? ほら、アイリスがぎょっとした顔になってるし。

「辺境とはいうが、実際にはこのパエオニア王国にとって他国に対する 玄(・) 関(・) 口(・) のようなものなんだ。人の往来が多いし、俺が生まれ育ったラレーテでは三万を超える住民が住んでいる」

俺がそう言うと、『三万か……』とか『多いな』なんて呟きが聞こえてきた。王都は例外だが、三万人を超える住民を抱えている都市っていうのはパエオニア王国でも少ないしな。

反対に、透輝はいまいち理解できていないのか首を傾げている。そりゃ君は人口が一億人を超える国の出身だもんな。

「しかし、だ。他国に接するということは、有事の際に真っ先に矢面に立つ役割もある。我がサンデューク辺境伯家は有事の際、近隣の貴族とその軍をまとめ、対応に当たるのが仕事の家と思えば大きな間違いはないだろう」

そう言いつつ、俺はサンデューク辺境伯家に関して教えても問題ない情報を黒板に簡単に書いていく。黒板もチョークもオレア教のおかげで普及しているが、前世で見たものと大差ない代物だ。

「さて透輝、俺が今言った有事の際とは何を指すと思う?」

「ええ? いや、有事なんだから他国との戦争……だろ?」

「半分正解だ」

「半分っ!? え? どういうことだ?」

うーん、なんて良いリアクションをするんだ……講義するのも案外面白いかもしれん。

「バリー、残り半分は?」

「東の大規模ダンジョンに対する調査、間引きを含めた全ての軍事行動です」

「ありがとう。その通りだ」

俺が指名して答えたのはバリーである。初陣の時、野盗を誘導するのに協力してくれた男爵家こそがバリーの実家で、有事の際はサンデューク辺境伯家の指揮下に入ることになるためこの辺りのことは詳しい。

「他の領地貴族の場合は特産物や名所などについて語れるが、我がサンデューク辺境伯家を語る場合、この辺りのことは外せないからな。透輝はこの辺りの知識がないだろうが、我々貴族の中では常識に近い情報でもある……が」

サンデューク辺境伯家の領地に関して、大雑把に黒板に描いた地図をチョークでコツコツと突く。

「せっかくの機会だ。この大規模ダンジョンに実際に潜った話をするとしようか」

俺がそう言うと、教室全体がざわっと騒がしくなる。反応が薄いのは大規模ダンジョンに関してほとんど知らないであろう透輝や、俺と一緒に潜ったナズナ、あとはアレクぐらいだ。モリオン? なんか眼鏡が光ってるよ。

「まずは前提知識のすり合わせだが……透輝、大規模ダンジョンがどれぐらいの広さか知っているかい?」

「大規模っていうぐらいだから……あ、アイリス? どれぐらいの広さなんだ? 東京ドーム何個分ぐらい?」

途中から小声になってアイリスに尋ねているけど、しっかりと聞こえているからな? あと透輝、東京ドームじゃ俺以外伝わらないし、具体的な東京ドームの面積知ってるのか? 俺は知らんぞ。

「フフフ、これは質問が意地悪だったな。答えは わ(・) か(・) っ(・) て(・) い(・) な(・) い(・) だ」

「え? そうなのか?」

「ああ。あまりにも広すぎて測りようがないんだ。複数の国にまたがって存在しているしな。泊まり込みでダンジョンに潜ったけど、それでもまだ外部の浅い場所までしか行けなかった。ダンジョンの一番奥、中心部までは何日かかるのやら」

ゲームで攻略するのならまだしも、現実で大規模ダンジョンを攻略するのは至難の業だ。

徒歩で攻略するならしっかりと育てて強くなった 主人公(とうき) とランドウ先生、メリアと……あとはサポートでアレクを連れて少数で挑むぐらいしか攻略方法が思いつかない。大人数になるとモンスターに気付かれやすくなるしな。

あとは主人公がドラゴンの卵をダンジョンで拾って孵化させるイベントを起こし、光属性に育ったドラゴンで突入するぐらいか。現実だと実現できるかどうかが肝だな。

モンスターに迎撃されるだろうから、単純にドラゴンで突っ込むだけだと途中で撃ち落されそうだけど……その辺りは工夫次第でどうにかできるか。

「さて、そんなわけでとんでもなく広い大規模ダンジョンだが、そこにどんなモンスターがいるか……諸君らも知っているだろう。東の大規模ダンジョンでは主に獣系モンスターが出現し、少数だがドラゴンも出る」

俺は透輝だけでなく、クラスメート達にも視線を向けて話をしていく。ついでに黒板に獣系、ドラゴン系と書いておこう。

「実際に潜った感触としては、入ってすぐの浅い場所なら獣系の中級モンスターがほとんどだった。だが、運が悪いと浅い場所でも上級モンスターに遭遇するから危険地帯という名前に偽りなし、といった感じだったな」

俺が実際に遭遇したモンスターの名前も黒板に書いていく。

「他国の軍が侵入し、大規模ダンジョンを通ってパエオニア王国に攻め込んでくる可能性はあると思いますか?」

生徒の一人が手を挙げて質問してきたため、俺は僅かに思考を巡らせる。

「そうだな……可能性としてはゼロじゃないが、実際にあり得るかといえば無理だろう。少人数で抜けるのならまだしも、軍隊が大規模ダンジョンを通ろうと思えば必ずモンスターに捕捉される」

中級モンスターだろうと上級モンスターだろうと対処できる、手練れ揃いの軍隊ならまだ可能性はあるが……そんな強者ばかり集めるのはさすがに不可能だ。仮に集めることができたとしても、大規模ダンジョンで戦力を損耗しながら通るぐらいなら素直に遠回りした方が良い。

「この教室にいる者達の多くは、自分の領地にダンジョンがあるだろう。ダンジョンに入ったことがある者は?」

俺がそう問いかけると、ナズナやモリオン以外にも手を挙げる者がいるが……案外少ない。アレクも手を挙げてるけどいつの間に……それ以外だと三人ぐらいか。

「基礎知識のおさらいだが、ダンジョンはその規模によって小規模、中規模、大規模とわかれている。そしてダンジョンの規模によって出現するモンスターの強さも大きく変わるが、それ以上に影響があるのはダンジョン内の空気だろう」

「空気? 酸素が薄いとか?」

「ははっ、それはそれで良い着眼点だな、透輝。酸素が薄いわけじゃないが、慣れていないと酸素が薄く感じるほどのプレッシャーが常に襲ってくるんだ」

俺、異常成長した中規模ダンジョンと東の大規模ダンジョンには入ったことがあるけど、小規模ダンジョンにはまだ行ってないんだよな。大規模ダンジョンに慣れてるから小規模ダンジョンだと影響はないかな?

「そんなわけで、ダンジョンに入ったらまずは空気に慣れることを優先するといい。もちろんすぐさまモンスターが襲ってくる可能性もあるから、周囲の警戒は怠れないけどな」

「ミナトせんせー、質問でーす」

「はいどうぞ、透輝君」

透輝が挙手して声を上げたため、俺もそれに乗る。

「俺、こっちの世界に召喚されたから知らないんだけど、モンスターってどんな感じなんだ? 倒したらお金とかアイテムを落とすタイプ? もしくは宝箱を落とすとか? 経験値でレベルアップしたりする?」

「お金を落とすモンスターに会ったことはないなぁ……アイテムというか、モンスターから素材を剥ぎ取ることはする。それと宝箱はモンスターが落とすんじゃなくて、ダンジョンに勝手に配置されるな。あと、レベルアップが何かはわからないが、モンスターと戦うことで実戦経験を得ることができる」

レベルアップみたいにわかりやすく強くなれたら良かったんだけどね……あとはステータスを調べられたり……オリヴィアに頼んで『巧視魂動』で見てもらうぐらいしか方法がないっぽいんだよな。

「せんせー、宝箱は罠があったり、開けたらモンスターだったりしますか?」

「罠はないが、低確率でミミックというモンスターが出てくる可能性はある。このミミックが厄介でな……周囲の人間が二割ほどの確率で即死する魔法を撃ってくるんだ」

「えっ!? そ、即死って……本当に即死?」

透輝が驚いたように尋ねてくる。それと同時に視界の端でカリンの表情が僅かに陰ったのが見えた。カリンは自分の家の兵士や傍付きのエミリーが『暗殺唱』で即死しているからな……あとで声をかけておこう。

「ん……闇属性の魔法でな。厄介なことに、直撃すると下級の魔法だろうと確率で即死する効果があるんだ。ここでいう即死は文字通り、即、死ぬ。一応、遮蔽物に隠れたり盾で防いだりすれば即死は避けられるが……」

今回は透輝への講義でもある。なんかチュートリアルでの説明キャラみたいなことしてるなぁ、なんて思いながら俺は自分の経験をもとに話していく。

「透輝を除き、このクラスの諸君らは『王国北部ダンジョン異常成長事件』について知っているだろう。あの時は獣系、鳥系、亜人系、軟体系、死霊系のモンスターが下級から中級まで出てきた。その中でも厄介だったのが死霊系モンスターでな……こいつらが闇属性魔法の使い手だ」

サンデューク辺境伯家の話からはズレているけど、クラスメート達の反応は悪くない……というか、実に良い。教師を見てみるが止める様子はないし……むしろ教師も興味深そうに聞いている。それでいいの?

「そしてダンジョンのボスが中級モンスターのデュラハンだったんだが、ボスということでコイツが滅茶苦茶強くてな……上級モンスター並の強さで、魔法も上級の闇属性魔法『致死暗澹』を撃ってきた。で、そのせいで防衛していた村の北部が一気に削られてな」

三分の一の確率で即死するのに、物理的にもダメージがある範囲攻撃とかやめてほしかったわ……今なら回復ポーションなしでも勝負になると思うけど、できれば戦いたくない手合いである。

「さっき話した通り、ダンジョン内の空気は重いし、守るべき民が何百人といたし、モンスターは四六時中襲ってくるし……それなのに俺が防衛を担当した村はろくな防衛設備がなくてな。兵士を駆り出して土の壁で周りを囲んだが、それも日が経つにつれて突破されていったんだ」

せっかくだからと黒板にトーグ村の見取り図を簡単に描き、『王国北部ダンジョン異常成長事件』について話していく。

「何故かボスモンスターが襲ってきて、それを倒したからどうにかなったが……あと一日、全てが遅かったら村人や配下の兵士から多くの死者が出ていただろう。そんな戦いだった」

『王国北部ダンジョン異常成長事件』に関してそう締め括ると、話をうちの領地へと戻すことにする。領地というか、大規模ダンジョンについてだが。

「で、だ。中規模ダンジョンの時点でそんなに危険だったわけだが、大規模ダンジョンになるとこれが更に危険になる。そんな大規模ダンジョンに接し、日頃からモンスターを間引き、ダンジョンから溢れたモンスターに備えて訓練している騎士団を抱えている当家は、その武力が特色の家と言えるだろう」

途中で脱線したけど、最後にはサンデューク辺境伯家に関しての話に戻す。そして手に持っていたチョークを置き、透輝へと笑いかける。

「そんなわけで、辺境伯家というのは田舎の武闘派集団ってわけだ」

「……や、やっぱり怒ってる? ごめんな? 謝ります、うん」

そう言って笑いを取って、俺なりの授業を締めくくるのだった。