軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第129話:攻略開始 その1

王立ペオノール学園に入学し、新入生達がそれなりに生活に慣れ始めた四月の三週目。

『花コン』を基準として見れば 主人公(とうき) の自由な行動が始まるタイミングだが、俺は色々と悩んでいた。

(『花コン』のメンバーはメリアを除いて面識を得たし、本の『召喚器』にも載った……問題はメリアか……)

隠しキャラであり、主人公が攻略できれば対『魔王』戦でも強力な戦力となるメリア。オレア教の最終兵器でもある彼女をどうにか生徒会メンバーに加えることができないだろうか。

(何が嬉しいって、実力があるのもそうだけど グ(・) ラ(・) ン(・) ド(・) エ(・) ン(・) ド(・) に(・) は(・) 必(・) 要(・) な(・) い(・) っていうのが嬉しいんだよな)

グランドエンドに必要になるのはメインヒロイン五人とメインヒーロー五人の計十人だ。サブヒロインやサブヒーロー、隠しキャラのメリアは攻略対象外である。

つまり、グランドエンドを目指しつつメリアルートを進め、それが無理ならアイリスルートのグッドエンドを狙うという 三(・) 面(・) 待(・) ち(・) ができるのだ。

グランドエンドを目指して駄目だった場合、メインヒロイン全員かメインヒーロー全員の ど(・) ち(・) ら(・) か(・) だ(・) け(・) を攻略してハーレムエンドに入るという手もあるが……百年近く『魔王』を『封印』できる程度でアイリスルートと大差なく、それなら難易度が簡単なアイリスルートで十分だ。

透輝が周回しまくっていて最初から強いのなら、誰も攻略せずに単独で『魔王』を倒す『ひとりぼっちの英雄』エンドか『救世の英雄』エンドを目指してもらうのもアリだったが……『ひとりぼっちの英雄』エンドだと『魔王』を倒したあとに透輝が暗殺されるしなぁ。どのみち周回してないから無理なんだけどさ。

さて、そんなわけで透輝が自由に行動できるようになったから、まずはメリアと接触してほしいと俺は願うわけだが。

(メリアの出現方法はともかく、攻略可能にするための方法がなぁ……ゲームならともかく、現実だとどうなるのやら……)

俺はかつて遊んでいた『花コン』の記憶を探る。

『花コン』の隠しキャラ――メリア=アルストロ。

オレア教の秘密兵器とも呼ばれる彼女だが、隠しキャラという割にその存在は隠れていなかったりする。それもこれも、自由に行動できるようになった主人公が行先に図書館を選んだ場合、普通に出会うことができるからだ。

一応、アイリスから『この世界のことを知るなら図書館を利用すればいい』だとか、『図書館には学園内で見たことがない生徒がいる』だとか話を聞くことができ、それがメリアと会うためのヒントだったりするが、その話を聞いてなくても行先に図書館を選択すれば会える。

そして初めて会うと何故か攻略可能な各キャラクターが主人公に向けている好感度を教えてくれる、恋愛ゲームによくいる謎の友人ポジションみたいなことを次回からし始めるのだ。

好感度は細かい数字は教えてくれず、デフォルメした各キャラクターの顔が並んだ表を使い、縦軸の好感度と横軸の関係――他人とか知人とか友人とか親友とかそういう関係をキャラの顔の位置で教えてくれる。

ゲームに慣れてくればキャラクターの反応などから現在の好感度を大まかに推測できるが、慣れない内はメリアの世話になったプレイヤーも多かった。

そしてそんなメリアを攻略可能にする手順だが、主人公を操作できるようになって一度図書館に行き、好感度を教えてくれる状態にしてから次の週以降、週の前半、週の後半、週末の全てで行動の行先を図書館にして三回連続で会う必要があった。

その上で三回連続で会った時に表示される選択肢で正解を選ぶと、好感度の表にメリアの顔が現れるようになる。それが攻略可能になったサインだ。

ただし、生徒会メンバーとして招集するには他のキャラクターと同様に、そこから好感度を上げていく必要がある。

生徒会メンバーになってからステータスを確認してみれば、その強さに驚くことだろう。オレア教の最終兵器の名は伊達ではなく、たとえるなら魔法に特化したランドウ先生みたいなステータスをしているのだから。

そんなメリアだが、この世界でもゲームと同様に透輝を助け、条件を満たせば生徒会メンバーになってくれるかというと……可能性はゼロではない、と思う。

『花コン』でも語られていたが、『魔王』の発生が迫っている現状、メリアはいずれ『魔王』との戦いに赴く身である。そしてメリアが持つ『召喚器』はたしかに『魔王』にも通用するが、同時に、メリアの命を絶つ諸刃の刃でもあった。

そのためオレア教も 先(・) の(・) 短(・) い(・) 命(・) ということでメリアのやることは大目に見て、透輝が条件を満たしてメリアが攻略可能になれば学園に姿を現し、時間限定だが他の生徒と同じように 普(・) 通(・) に(・) 生(・) き(・) る(・) ことを許すのだ。

それがオレア教なりのメリアへの手向けであり、メリアルートをクリアするためにはどうにかしなければならない部分でもあるのだが。

(メリアルートの場合、バッドエンドでも一応は『魔王』を『封印』できる……ただし期間が短かったはず……特殊バッドエンドだと数十年の『封印』、特殊ノーマルエンドで百年程度の『封印』だったか。特殊グッドエンドだと『消滅』させることができたはずだけど……)

『魔王』を『消滅』させた結果、その強さが原因で近隣諸国が一斉に戦争を仕掛けてくるんだったか。いやぁ、『魔王』をどうにかするだけだったら選択肢がいくつかあるけど、 そ(・) の(・) 後(・) まで考えるとルートが限られちゃうな。

(まあ、選択肢は多いに越したことはない。できる限り未来につながる可能性を作り出さないとな)

この世界は現実で、ゲームじゃない。そのため『花コン』ではできたことができず、逆に『花コン』ではできなかったことができることもあるだろう。

まずは透輝が図書館に行くよう促して、メリアに会えるかどうかを確認するのが最優先か。

俺はこれから先のことを考え、そう思った。

「え? この世界について勉強が必要? それで図書館……って、図書館なんて学園内にあったっけ? 知らないんだけど」

四月の第三週。貴族科で一日の授業を終えた俺は、生徒会室に行って透輝を捕まえて図書館に関する話題を切り出した……が、反応はあまりよろしくない。

「学園の東南側に入口があってね。その先にあるんだよ。生徒会のメンバーなら入館許可も下りるはずだし、アイリス殿下に申請すればすぐさ」

「へぇ……でも俺、図書館で本とか読むと寝ちゃうんだよな。活字を読むと眠くなっちゃってさ……」

そう言って視線を逸らす透輝。うん、その気持ちはわからないでもないが図書館に行ってもらわないと困る。最悪、一度だけでもメリアと会ったならなんとかオリヴィアに接触し、必要だと説いてメリアを学園に通わせてもらい、そこから交流するって手もあるが。

「図書館という場所は知識の宝庫だよ。君の場合、まずはこの世界の常識から学ぶべきだが……最初から言葉が通じるし、中途半端に常識が似ているからね。本を読んで学ぶことも重要だと思ったわけさ」

「あー……なるほど。なんか悪いな? 色々と気を遣ってもらっちゃってさ。しかし本かぁ……俺としてはアイリスに教わる方が嬉し……じゃない、楽だし覚えやすいんだけどなぁ」

どうやらアイリスとの関係は順調に育まれているらしい。それは実に良いことだが、俺としては図書館に行ってもらわないと困るわけで。

「図書館ならこれまでに発行された絵本なども置いてあるだろうから、常識を学ぶには打ってつけだぞ?」

「絵本? え? あの、俺、絵本を読む歳じゃないんじゃけど……こっちの世界だと俺ぐらいの歳でも絵本って読むのか?」

「難しいところだな。貴族なら幼児向けといえるが、文字を習いたいなら丁度良い教材だったりするし……透輝、ちょっと考えてみてくれ。絵本というのは幼児に善悪を学ばせたり、 や(・) っ(・) て(・) は(・) い(・) け(・) な(・) い(・) こ(・) と(・) を学ばせるものなんだ。常識を学ぼうとする君に丁度良くないか?」

俺がそう言うと、透輝はなるほど、といわんばかりに頷く。

「そういう考えもあるのか……俺、こっちの世界に召喚されてまだ二週間ぐらいだしな。生後二週間と思えば絵本を読んでもおかしくないのか」

「そういうことだ。ただ、君はこちらの世界の文字を読めるんだろう? 物語性がある本もあるし、ある程度慣れたらそういう本を探してみてもいいかもしれないよ」

俺は周囲に聞かれても違和感を持たれないよう注意しつつ、透輝との会話を進めていく。少しずつ、俺が望む情報を刷り込むように。

「王立図書館は広いし、見て回るだけでもちょっとした探検気分になれるだろうさ。俺も一度行ったことがあるけど、一番奥まで行ってみるといい。その広さにビックリするよ」

そして一番奥まで行ってメリアと会ってきてくれ。ついでに興味を引かれて一週間の内に三回行ってメリアを攻略可能にしておくれ。彼女の力は是非とも借りたいんだ。

「へー、そんなに広いのか……そう言われると見てみたくなってきたな」

「そうか。気になるか。よし、それじゃあ早速行こうか」

「えっ?」

俺は透輝の肩をがっしりと掴む。そして生徒会長の席で俺と透輝の会話を見守っていたアイリスへと視線を向けた。

「と、いうわけで殿下。透輝と一緒に図書館に行ってきます。申請の方、よろしくお願いしますね?」

「え? は、はい……それは構いませんが……」

わざわざ生徒会室で透輝に話をしたのも、すぐにアイリスに申請できるからだ。それだけでなく、生徒会室に来ればナズナやモリオンが傍から離れ、単独で行動しやすいというのも大きな理由だったりする。

「今から行くのか? マジで?」

マジだよ。マジマジ。善は急げっていうだろ? 誰にとっての善なのかは秘密だけどさ。

これで相手がモリオンやアレクなら強引な行動にある程度の理由をつけなければならないが、透輝は良くも悪くも大雑把な性格をしている。俺が強引に連れ出しても最終的には納得してくれるだろう――と、いうわけで俺は図書館まで透輝を連れ出したわけだ。

「うっわ……これはたしかに……見応えがあるな……」

アイリスから受け取った入館許可証を提示して図書館へと来てみれば、透輝は目を丸くして周囲を見回している。

いくら本や読書が苦手といっても、王立図書館の外観自体は一種の芸術品みたいなものだ。芸術に関する造詣が深くないとしても、見るだけでインパクトがあるから連れ出すのにうってつけである。

周囲をキョロキョロと見回す透輝を連れて図書館の内部へ足を踏み入れるが、前回訪れた時と同様に、学園の生徒の姿はほとんどない。それでもゼロというわけではなく、俺は彼ら、彼女らの邪魔をしないよう注意しながら声を潜めた。

「透輝、連れてきてなんだが俺はここの司書に用があるんだ。君は……そうだな、自由に館内を見て回ってくれ。ほら、あっちが奥になる。オレア教の石像も飾ってあるし、観光と思って見てくるといい」

「オレア教? それってこの大陸の宗教だよな? 石像って仏像みたいなもんか?」

オレア教に関してある程度はアイリスに習っていたらしい。本を読むことよりも興味をひけたのか、透輝はどことなく浮かれた足取りで図書館の奥へと向かいだす。

(よし……後を追うか)

透輝がある程度離れたことを確認し、俺は気配を消して物陰に潜む。そして透輝を尾行するように後を追った。

俺が一緒だとメリアが顔を出すかわからないため、透輝だけ先行させようと思ったのだ。

これでメリアが顔を出して透輝に興味を向けてくれればそれで良し。俺がいることでメリアが顔を出さないのなら、今後は俺抜きで透輝が図書館に来るよう誘導する必要がある。

(オリヴィアさんに会えればな……以前、『魔王』を倒せる主人公についても話をしたし、それが必要だって伝えればメリアと透輝を会わせることもできるだろうけど……)

オレア教の教主であるオリヴィアは立場に見合った忙しさに追われており、会おうと思って会えるものではない。運が良ければ会えるかもしれない、程度のレアキャラみたいなものだが――。

「どうやら、今日は運が巡ってきているみたいだな」

そう呟いて、振り返る。ほんの僅かだが、俺の背後に回り込む気配があったからだ。

「――まあ、これはこれは、驚きました。以前と比べても更に見違えた、というべきでしょうね」

振り返った視線の先、そこには以前と変わらない姿で立つ、オリヴィアの姿があって。

「久しぶりね、サンデュークの神童君」

「ええ、お久しぶりです。オリヴィアさん」

そう言って俺は、久しぶりに会うオリヴィアに笑って返すのだった。