軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第123話:決闘三昧 その3

第一訓練場にいたカトレアからの、突然のお願い。

それを聞いた俺は目を瞬かせ、首を傾げる。

「突然ですね、先輩……理由を聞いても?」

「大した理由じゃないわ。言葉の通り、一人の剣士として手合わせをしたくなった……それだけのことなの」

そう語るカトレアだが、その瞳は実に真剣だった。心から俺との手合わせを願ってここにいるということがうかがえる――が。

(カトレアって『花コン』だとここまで好戦的なキャラじゃなかったよな……いやまあ、『召喚器』が剣だったはずだし、剣士としてこだわりがあるっていうのもおかしくはないんだが……)

『花コン』だと主人公を操作してカトレアと接することになるが、カトレアは生徒会の初期メンバーということもあって序盤から登場する機会が多く、その性格を一言でたとえるなら頼れる先輩キャラである。

主人公やアイリスに対して陰に日向に世話を焼き、二人からも素直に慕われて頼られるため、こうして手合わせを挑んでくるのは俺の中のカトレアのイメージから若干ズレているんだが――。

(もしかしてだけど、先輩が俺の『召喚器』に載った時期……初陣の後ぐらいから何かしらの影響を与えてたのか? それが原因で手合わせを求めてる?)

あるいはここ最近の決闘騒動が影響しているのかと思ったが、カトレアは西部貴族だ。南部貴族じゃないから俺が派閥に悪影響を与えたわけじゃない……はず。

(俺が知らないところで与えた影響に関してはどうしようもないけどさ。それにあくまで個人的なお願いって感じだし……)

うーむ、困った。手合わせ自体は別に嫌じゃないけど、理由がわからないと据わりが悪い。かといって一人の剣士として手合わせをしたい、なんて言われるとそのまま受けたくなるわけで。

「剣士として手合わせをしたくなる気持ちはよくわかりますが、ほら、何かあるでしょう? そこに至った理由が」

少しばかり言葉を崩して尋ねると、カトレアは面食らったように目を瞬かせる。そして口元に手を当てたかと思うと、自身の記憶を探るように夜空を見上げた。

「そう、ね……わたしがミナト君のことを知ったのって、三年ぐらい前……ミナト君が初陣で野盗の頭目と一騎打ちをして倒したって聞いた時なのよ」

「へぇ……そうなんですね」

本当は本の『召喚器』に載っていたから知っているが、初めて聞いた、と言わんばかりに俺は相槌を打つ。

「それでね? その時、わたしよりも年下なのにすごい子がいるんだって思ったの」

「すごい子、ですか?」

それは貴族の令嬢が抱く感想としては少しおかしい。男子ならまだわかるが、令嬢だと血生臭いことを避ける者も多いんだが。

「うん。わたしの家って男児が生まれなくて、長女のわたしが婿を取って家督を継ぐ必要があるから、他の家の女の子と比べて剣の修行にも力を入れててね? だからかな……ミナト君の話を初めて聞いた時、素直にすごいって思えたんだ」

カトレアの家庭環境に関しては『花コン』を通して俺も知っている。

カトレアの家の現当主、ラビアータ伯爵は娘こそいるが息子に恵まれず、長女であるカトレアが婿を迎えて伯爵家を継ぐ予定となっている。

確率の問題なのか相性の問題なのか、ラビアータ伯爵は妻との間に子どもを八人もうけたが全員娘だ。年子、年齢を離して生んだ子など、嫡男を生もうと頑張ったのが伝わってくる人数である。

そんな八人姉妹の長女であるカトレアは面倒見が良く、それでいて将来迎えた婿の性格、能力によっては当主として軍を率いる可能性があることから、他の貴族の令嬢と比べると軍事に関する教育を手厚く受けている。

だからこそ『花コン』でも剣術も魔法も両方こなせる器用なオールラウンダーとして描かれていたんだが……。

(でもやっぱり、こうして剣の勝負を挑みに来るような好戦的な性格じゃなかったよな……つまり、俺の噂が伝わって何かしらの影響を与えた?)

俺が持つ本の『召喚器』はやっぱり、何かしらの影響を与えた際に絵が表示されるってことで間違いないのだろうか。

「突然のことで迷惑だよね? でも、ここ数日の決闘騒ぎを聞いて……ううん、君と初めて握手をした時から、この人と戦ってみたいって思ってたの」

そう言って剣の柄を強く握りしめるカトレア。迷惑だということは理解しているが、剣士としての本能が抑えきれないといったところか。

その気持ちは……うん、まあ、ぶっちゃけよくわかる。強い相手がいたら戦いたいっていうのも、よくわかる。俺がランドウ先生に指導してもらったり、大規模ダンジョンでモンスター相手に戦ったりしていたのも、それが強くなる 近(・) 道(・) だとわかっていたからだ。

近道というと語弊があるかもしれないが、格下相手に戦うのと同格や格上と戦うのとでは得られる経験値が大きく変わる。ゲームでもジャンルによっては弱い相手だと経験値が入らない、なんてものがあるだろう。そういう感覚と同じだ。

「わたし、自分で言うのもなんだけど才能はある方らしくて……実家でも騎士相手に勝てたわ。もちろん主家の娘が相手だから手加減をしていたんでしょうけど、その後の初陣でも問題なく勝てたの」

その辺りのエピソードも『花コン』で知っているよ。実は騎士は手加減なんてしてなかった、カトレアの才能は本物だった、なんて部分も込みでね。ただ、初陣に出たって話は知らなかったな。

「それで俺と戦ってみたくなった、と?」

「そうなんだけど……少し、違うというか……言葉にするのが難しいわね。 あ(・) の(・) 時(・) 剣士として憧れたあなたに、わたしがどれだけ近付くことができたのかを試したい……そんな感じかしら。ごめんなさいね、自分でもはっきりとしてなくて」

カトレアは謝るように言うが、俺も剣士としてその気持ちはわかる。ランドウ先生に自分がどれだけ剣を振るえるようになったか、見てもらいたくなる時があるからだ。

(南部貴族の先輩方は、『花コン』でいえばモブキャラみたいなもんだ……その点、カトレア先輩はヒロインキャラ……才能値が低めのナズナでさえ あ(・) の(・) 成(・) 長(・) 力(・) があったんだ。そう考えると……)

ナズナは盾の『召喚器』を発現してからというもの、どんどん成長していった。そんなナズナと同じように、カトレアも『花コン』のメインキャラとして成長しているのならば。

(さっき考えていた丁度良い訓練相手が向こうから来てくれた……か? どうだろうな。実際に戦ってみないことにはわからないけど……)

才能値の違いから、成長した主人公と同格とまでは言えない。それでもカトレアのちょっとした仕草を見るだけでもその強さが感じ取れるわけで。

「いいですよ。やりましょう」

「本当っ!?」

俺が頷くと、さすがに断られると思っていたのかカトレアが驚きの声を上げる。ナズナが何やら渋い顔というか、あまり見たことがない表情をしているが……なんだろう?

(武器は……手合わせというか、訓練の一環だし、『召喚器』でも良いな)

実戦か訓練、あとは 抜(・) く(・) べ(・) き(・) 時(・) にしか『瞬伐悠剣』を抜かないようにしているが、今回は抜くべきだと思った。

その理由は単純で、木剣や訓練用の刃を潰した剣で戦うのは厳しそうだな、という印象があったからである。透輝の時みたいに木剣で受けるのが難しいと思えるぐらい、カトレアは腕が立つように見える。

それに加えて、挑んでみたいと 思(・) っ(・) て(・) く(・) れ(・) た(・) 相(・) 手(・) に過剰に手を抜くのは失礼だと思ったのだ。

「では、やりましょうか。準備運動は?」

「……実は、あなたを待っている間に済ませちゃった。待ってる間、体を動かしてないと落ち着かなくて」

そう言って恥ずかしそうに笑うカトレア。おそらくは貴族の令嬢としては恥ずべきだと思ったんだろうけど……俺としては好印象ですよ。

「そっちは準備運動をしなくていいの? それぐらいなら待てるけど」

「構いません。剣の先生の教えでして。いつ、どんな時でも剣を振れるようにしていますから」

「あはっ……それ、すごく素敵ね」

ワクワクと楽しそうに剣を抜き、構えを取るカトレア。それに合わせて俺も『瞬伐悠剣』を抜いてカトレアから十メートルほど距離を取り、剣を構える。

「……若様も先輩も、決闘ではなく、あくまで訓練の範疇を超えないでくださいね?」

俺とカトレアの会話を聞いていたナズナが、渋々といった様子で俺とカトレアの間に立つ。そして審判を務めるべく右手を振り上げた。

「可能なら寸止めを。それでは――開始っ!」

決闘じゃないと言いつつ、開始の合図をするナズナ。さすが幼馴染み、よくわかってるじゃないか。

そんなことを考えつつ、向き合ったカトレアを見る。正確にはその構えをじっと見る。

(へぇ……なるほど、隙が無い……さすがは『花コン』のメインキャラだ)

南部貴族の先輩方でもそれなりに隙があったんだけどな。カトレアは基本に忠実というか、 お(・) 手(・) 本(・) の(・) よ(・) う(・) な(・) 構え方をしている。

カトレアは剣を構えたままでゆっくりと距離を詰め、七メートルほどのところで僅かに不自然な動きを見せながら停止。しかしすぐさま移動を再開して距離を詰めてくる。

そんなカトレアに対し、俺は剣を構えたままで動かない。好きに斬り込んでこい、と言わんばかりに。

すると、そんな俺の意図が伝わったのだろう。カトレアは一瞬だけ目を見開くと、続いてどこか嬉しそうに笑って前傾姿勢を取る。

「やああぁっ!」

そして踏み込み、剣が振るわれた。これまた綺麗な、剣の教科書というものがあれば掲載されていそうな太刀筋だった。

(これはこれは……)

上段からの振り下ろしを弾いて捌き、すぐさま返ってきた刃も弾いて逸らす。

繰り出される斬撃の速度、鋭さ、重さ。全てが高水準でまとまっており、なおかつ斬撃の 継(・) ぎ(・) 目(・) も綺麗だ。こちらを仕留めるつもりで振りつつも、弾かれたり受け流されたりした場合に備えた力の入れ具合、間合いの取り方をしている。

(俺がいうのもなんだけど、たしかに才能がある……透輝と比べると劣るだろうけど、羨ましいぐらいだな)

ランドウ先生に師事し直して大規模ダンジョンで修行を重ねていなければ、今頃押し切られていたかもしれない――つまり、二年と少し前の俺が比較対象になるぐらいの腕ってわけだ。

(まずいな……どうにも、楽しくなってきた)

剣士としての 性(さが) か。真っ向から刃を交わし続けていると心が浮き立つのを感じる。透輝の時みたいに素人を叩くのではなく、南部貴族の面々の時のようにずっと 合(・) わ(・) せ(・) た(・) わけではない。

カトレアは繰り出す斬撃がこちらに通じないとわかると、即座に動きを変えてきた。綺麗な太刀筋をわざと雑な、一見隙だらけに見えるほど大仰に剣を振ったり、目線や肩の動きでフェイントを織り交ぜたりと、こちらの防御を突破しようと手を打ってくる。

だが、俺はランドウ先生から重点的に防御の型を仕込まれた身だ。この程度ならいくらでも捌けるし有効打は与えられない。うん、与えられないんだけど……楽しい。

幾重にも斬撃が繰り出され、俺はその全てを弾き、逸らし、受け流していく。そして時折お返しとして斬撃を繰り出すが、カトレアもその全てを捌いていく。少し苦しそうな時があるけど、それでもまだ、余裕を持って。

そうやって刃を交わすこと、幾十か。仕切り直すようにカトレアが後方へ跳び、俺はそれを追うことなく大きく息を吐く。

「ふふっ……どうしよう、ビックリしちゃった。打つ手がないのに楽しいなんて、初めてだわ」

「俺も楽しいですよ、先輩。剣に限れば俺は先生以外でここまで打ち合ったことがないんです。だから……ああ、本当に楽しい」

それは心からの本音だった。ナズナも剣を使えるが、今となっては盾の方を重視しているため剣技はあまり伸びていない。それでも今日戦った南部貴族の先輩には勝てるだろうが、カトレアと戦えば数十秒ともたずに負けるだろう。盾ありなら数分だろうと余裕でしのぐだろうけどさ。

しかし、 剣(・) 士(・) と(・) し(・) て(・) は(・) 俺の方がカトレアに勝る。それは過信でも慢心でもなく、厳然たる事実だ。このままずっと、数十分だろうと斬り合っていても良いが、俺の勝ちは揺らがないだろう。

「剣での勝負はここまでで良いでしょう。カトレア先輩、そろそろ本気を出してはいかがですか?」

故に、俺は 本(・) 気(・) で(・) こ(・) い(・) と促す。剣だけの勝負も良いが、まずは全力で戦ってくれと頼み込む。

「……本気って?」

「間合いの取り方に癖があります。剣で勝負したいというのは本音なんでしょうけど、 本(・) 当(・) の(・) 戦(・) い(・) 方(・) は別にあるのでは?」

俺がそう言うと、カトレアの戦意が僅かに揺らいだ。そして目をぱちくりと瞬かせると、気が抜けたように笑う。

「ああ……すごいなぁ。そんなことまでわかるんだ」

いえ、癖があるのは本当ですけど、『花コン』で貴女の『召喚器』を知っているからっていうのもあるんですよ? そしてその『召喚器』が 剣(・) で(・) あ(・) り(・) な(・) が(・) ら(・) 中(・) 距(・) 離(・) 武(・) 器(・) っていうこともね。

(間合いの取り方から考えると、既に『召喚器』は発現済み……それでいて『活性』か『掌握』の段階にまで至っていると見るべきだな)

そうでないと、ただの剣として発現された状態なら間合いの取り方がおかしいのだ。最初に接近してくる際に動きが乱れたのも、無意識の内に攻撃の間合いに入ったと思ってしまったのだろう。

「……うん、そうね。たしかにこれもわたしの力の一つ、わたしにとっては剣の一つ」

カトレアは少しだけ目を閉じ、決心するように頷いてから目を開ける。このままの戦い方では俺に勝てないと認めたのだろう。

持っていた剣を地面に突き刺すと、一秒と経たずに右手に新たな剣が生み出される。それは一見すると普通の両刃の剣だったが、カトレアは間合いを七メートルほど開けた状態で剣を持ち上げ――不意に、剣の刀身を輪切りにでもするように真っすぐな線がいくつも走る。

「だから、全力で戦うね……そうじゃないと、君に届きそうにないから!」

そんな叫びと共に、カトレアが握っていた剣が刃同士を連結した一本の鞭のように伸びたのだった。