軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第116話:教育 その1

決闘――それは前世の日本でも誰もが聞き覚えぐらいはある言葉だろう。

有名どころでは決闘裁判だったり、西部劇で決闘したり、日本でも 不良(ヤンキー) が 一対一(タイマン) で決闘したりと様々な形で行われてきた。まあ、日本だと決闘罪があるから本格的な決闘は明治以降 一(・) 応(・) は(・) 廃れていたはずだが。

今世、『花コン』における決闘も大まかな認識は前世のものと変わらない。

一対一だったり、多対一だったり、多対多だったり、使用する武器の取り決めがあったり、女性の場合は代理人を立てたり、勝敗の条件だったり。その時々によって異なるものの、お互いに構えてよーいドンで戦うという部分に変わりはない。

決闘を行う理由も名誉にかかわるからだったり、敵討ちだったり、異性の取り合いだったり、単に気に食わないからだったり、様々な理由で行われる。

中にはそんな理由で? と言いたくなるパターンもあるが、本人にとって決闘を挑むに足る理由があるなら決闘は成立する。

「み、ミナト? バリーの剣を蹴っちゃったのは俺が悪かった。それは理解してる。でも、なんでミナトと決闘をしなくちゃいけないのかが理解できないんだけど……」

決闘を宣言し、一気に沸き立つ教室から透輝を連れ出して第一訓練場へ向かい、互いに向き合ったらそんなことを言われた。

「先ほど言ったが、バリーが俺の派閥の人間だからだ。そして君を斬り殺すつもりだったから俺が代わりに決闘を引き受けたわけだ」

「えーっと……つまり、俺のため?」

「そうともいうな。だが、バリーのためでもあるし、アイリス殿下のためでもある」

「……? ど、どういうことだ?」

意味がわからない、と言わんばかりに首を傾げる透輝。そんな透輝の反応に俺は真剣な表情を返す。

「君が そ(・) れ(・) をわからないからこそ、俺が決闘を引き受けた。いいか、透輝。君がいた世界ではどうだったか知らないが、こちらの世界で貴族が相手となるとやった時点で取り返しがつかないことが多々ある。それを教え込むことが殿下の助けとなるだろうさ」

「く、口で教えてくれたり……は?」

「それではバリーの気持ちが治まらないだろう。安心しろ、殺しはしない」

あ、安心できねぇ……と呟く透輝だが、本当に安心しろ。少なくとも俺が相手なら死ぬことはないぞ。バリーが相手だったら高確率で殺されていたからな。

「な、なあ。本当に俺が悪かったって。バリーにも改めて謝罪するから」

「今しがた言ったが、 そ(・) の(・) 段(・) 階(・) は(・) 最初から過ぎてるんだよ」

ただでさえ召喚されてから無意識の内にでもストレスが溜まっているところに、この決闘騒ぎだ。透輝の頬が引きつったのが見て取れた。

「くそっ! 話が通じねえ!」

そして吐き捨てるように透輝が言う。そうだよ、透輝。今、君の目の前にいるのは貴族だ。話というより常識が通じない相手なんだ。

俺がそうやって透輝と言葉を交わしていると、固い表情を浮かべたアイリスが近付いてくる。

「ミナト様、透輝さんの無礼はわたしの方から――」

「 は(・) と(・) こ(・) 殿(・) 」

殿下ではなく、敢えてはとこと呼ぶ。それだけで大衆の面前で頭を下げようとしたアイリスが動きを止めた。

「たしかに今回の件は透輝を管理下に置く貴女にも責任の一端があるだろう。だが、透輝が注意していれば防げたことでもある。そのちょっとした不注意が何をもたらすのか、それを身をもってわからせるのが俺なりの貴女への忠誠心の証だ」

俺がそう言うと、アイリスの表情が揺れる。

貴族科は帯剣している者が多いため、食堂では机の横に剣を立てかけるための置き場があり、よっぽど不注意でないと蹴り飛ばすということは起こらないのだ。

ただ、バリーが言っていたように従者に預ける方が安全で確実ではあるため、バリーの責任がゼロとは言わないが。剣士としては手の届く範囲に剣を置いていたい、という気持ちもわかる。

アイリスは俺の言葉に僅かに視線を彷徨わせ、唇を小さく噛み締める。

「待てよ。俺の不注意が原因っていうのならアイリスに責任はないだろ? アイリスにも責任がある、みたいに言うのはやめろよ」

「みたい、ではなく実際にあるからこうして話しているのだが……」

ふぅ、と俺は肩を竦めた。透輝から見ればいけ好かない、腹立たしい仕草を意識して。この時ばかりは『花コン』のミナトに少しばかり近付けて。

すると透輝の表情が更に強張り、強まった怒気が感じ取れた。それを見た俺は良い傾向だ、と内心だけで呟く。

「透輝、君がやったことが回り回って殿下の首を絞めることになる。今の殿下を見ただろう? 君(・) が(・) 原(・) 因(・) で(・) 俺に頭を下げようとした。だが、俺はそれを止めた。今回の件を君への教育で済ませるためにだ」

アイリスに頭を下げられたらこちらも譲歩しなければならないが、事態をシンプルにするためにも止めさせてもらった。

「さっきから教育教育って……なんで同い年のお前にそんなに偉そうに言われなきゃいけないのかも俺にはわかんねえよ」

うん、貴族社会や貴族の性格というか生態というか、 ど(・) ん(・) な(・) 生(・) き(・) 物(・) か(・) を知っていないと理解できないし偉そうに感じるだろうね。

「と、透輝さん!? この国について教えた時、話したでしょう!? 彼は……ミナト様はこの学年どころか学園全体で見ても最上位の剣士で、既に実戦経験があるどころかモンスターの大群相手に防衛戦の指揮を執り、王都に出現した危険人物を撃退した方だって!」

「……ごめん、アイリス。正直なところ頭によく入ってきてなかったんだけど……つまり?」

「すごく強くて偉い方なんです! 偉そうではなく、偉いんです! 陛下から直接勲章を授与されて、『王国東部の若き英雄』と呼ばれるぐらいにはすごい方なんですから!」

どうやらアイリスが俺のことも話していたらしいが、透輝は頭がいっぱいいっぱいで覚えていなかったらしい。たしかに『花コン』でも序盤は抜けているところが多かったっけ?

ただ、『花コン』通りなら序盤でアイリスは召喚された主人公の世話を焼くと同時に、『あなたが必要なんです』と告げ、主人公も確固たる決意とまではいわないがアイリスを守りたいと思っていたはずだ。

俺や他の貴族と話す時と違い、やや強めの口調で注意を促すアイリスの姿は新鮮でもある。今のところ透輝以外には見せない姿だろうが。

「そう褒めるのはやめてくれ、はとこ殿。王家の花たる貴女に褒められるのは光栄だが、貴女に偉い人、などと言われると誤解を招くし、俺はまだまだ未熟な身の上だ。それに、俺はまだ父上の跡を継いだわけでもない。透輝からすれば 偉(・) そ(・) う(・) な貴族の小僧で間違いはないとも」

そうして透輝やアイリスと話をしていると、息を切らせるようにしてゲラルドが姿を見せた。続いて俺を見て大きく肩を落とす。

「決闘が行われるって聞いて駆け付けてみれば……若様……やっぱり決闘を起こす方じゃないですか……」

「ははは、許せゲラルド」

いや本当にごめんね? 俺としては予定通りだけど予想外の事態でもあるんだ。

「というか、若様が決闘をするなら立会人は俺じゃない方が良いですね。止める必要はないでしょうし、経験が浅いやつを連れてきます」

「その辺りは君の判断に任せるよ。決闘委員会の委員長殿?」

どうやら俺なら寸止めなども問題ないし、やりすぎることもないと判断したらしい。それでいいのか立会人……いいのか。ゲラルドも本当、性格がこなれてきたな。

ゲラルドは俺の将来の部下になるんだし、外部から文句を言われる可能性もあるから別人に立ち会ってもらう方がいいか。

「まあ、他の委員が来るまでにある程度進めておきますが……勝敗の条件は?」

そう言われて俺は思考を巡らせる。『花コン』だと透輝もミナトも真剣を使用し、負けを認めるか死ぬかで決着というルールだったはずだが。

「俺は木剣。透輝は真剣でいいだろ。ルールはそうだな……俺は降参するか死ぬか、透輝を殺してしまうか、木剣を折られたら負け、透輝は……」

そこまで言って、チラリと透輝を見る。この決闘は透輝にとって別段、命を懸けるほどのものではない。アイリスにも 使(・) 用(・) 者(・) 責(・) 任(・) みたいなものが降りかかるからこうしてグラウンドまでついてきた、という感じだ。

ただ、召喚されて無意識の内に溜まっていたストレスと、俺が繰り返した言葉や仕草でのそれとない挑発で、喧嘩なら買ってやる、ぐらいに怒りを抱いているのが見て取れる。

「負けを認めたら負け、というのでどうだ?」

「……若様、何を企んでいるんです?」

おっと、声を潜めて尋ねてきたけど、内容はわからなくても俺が何か企んでいる、というのは勘付いたか。この学園での生活でゲラルドも成長しているようで何よりだ。

「おや? 酷いなゲラルド。俺の目を見てくれ。何か企んでいるように見えるか?」

「企んでいるように見えますし、『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時より眼光がヤバいですよ。父上からの手紙で知っていますけど大規模ダンジョンで何やってきたんですか?」

「くくっ、ずいぶんと遠慮がなくなったな。それでこそ当家の未来の騎士団長だ。まあ、企むといっても悪いようにはしないさ」

「それ、 誰(・) に(・) と(・) っ(・) て(・) 悪くないんですかね……」

やばいな、成長したと思ったけどずいぶんと良い具合に砕けてるじゃないか。初陣で一皮剝けた時も思った気がするけど、砕けた後の方が印象良いよ。

そんなことを思いつつ、何やら準備運動を始めた透輝を観察する。

(将来的にランドウ先生に弟子入りするけど、現時点では素人だ……でも、『花コン』の先生曰く透輝の才能は破格……凡才の俺よりも優れているのは間違いない)

『花コン』を基準にし過ぎるのもまずいが、透輝はランドウ先生に師事してから『魔王』が発生するまでの二年間でスギイシ流を学び、奥義の『閃刃』まで習得できる才能があるのだ。ようやく『三の突き』が形になってきている俺と比べると雲泥の差である。

今回の決闘についても、透輝の覚醒を促すだけでなく才能がどれほどのものか確認したいという思いがあった。ランドウ先生ほどは読み取れずとも、剣を交えれば才能がどれほどのものかを感じ取ることぐらいは俺でもできる。

(少し……いや、かなりワクワクするな……)

ルートによってはあっさりと死ぬけど、透輝は将来、『魔王』を『消滅』させ得る可能性を持つ存在なのだ。一人の剣士として非常に楽しみに思う気持ちもある。ランドウ先生に破格と言わせる才能は、一体どんなものなのか。

「若様……実戦経験がない奴が見たらビビるぐらい顔がヤバイですよ」

顔がヤバイってどういうこと? 元々強面寄りだから普通に怖いってこと?

俺は吊り上がりそうになる頬を揉んで解し、遠くに視線を向ける。ゲラルドが言っていた、決闘委員会のメンバーが駆け付けたらしい。

「あれ? 委員長がいるじゃないですか。なんで呼んだんです?」

「決闘を行う者の片方が俺の上司だからだ。俺が立会人では公平性に欠けるだろう?」

「えっ? それじゃあこの人が『王国東部の若き英雄』ですか? 嘘、初めて見ましたよ」

なんかじろじろと見られるが、既に決闘委員ということは先輩に当たるのだろう。立ち居振る舞いを見た感じ……まあ、ゲラルドの言う通り実戦経験はほとんどない、か。雰囲気的に二年の先輩だな。

「委員長、そんな有名人の決闘の立会人を後輩に押し付けるんですか? 公平性がどうっていう前に、立会を務められる人がやってくださいよ」

「……俺もその方が良い気がしてたんだよな。若様……いや、 サ(・) ン(・) デ(・) ュ(・) ー(・) ク(・) 君(・) もそれで構わないか?」

「ええ、構いませんよ パ(・) ス(・) ト(・) リ(・) ス(・) 先(・) 輩(・) 」

委員長としての仮面を被ったゲラルドに対し、俺も後輩としての仮面を被って答える。するとゲラルドは物言いたげに首を横に振り、透輝の保護者であるアイリスにも問題がないかを確認してから透輝へと視線を向けた。

「そちらの……トウキ=テンカワ君。準備は良いかね?」

「ああ」

おっと、ゲラルドもフルネームを知っているぐらいには透輝の名前が広まっているのか。アイリスが召喚した人間だし、それも当然といえば当然か?

「……ミナトは準備運動しなくて大丈夫なのかよ」

俺が考え事をしていると、透輝が眉を寄せながら尋ねてくる。腹が立ってはいるが、それはそれとして心配もする、といったところか。

「普段からいつ、どんな状況で戦えるよう鍛えているからな。準備運動は不要だよ」

常在戦場というか、それができないとランドウ先生に何をされるか……。

そんなことを考えつつ、俺は『瞬伐悠剣』に手を伸ばして剣帯から外す。そして近くにいたナズナに剣を鞘ごと差し出すと、ナズナはどことなく嬉しそうな様子で受け取った。

「預かっていてくれ」

「一命を賭してお預かりいたします」

賭さないでね? たしかに『瞬伐悠剣』は大事だけど、命をかけられても困るよ。

そうして剣をナズナに預けた俺は透輝と向き合い、真っすぐに見る。俺の視線を受けた透輝は居心地が悪そうに 身動(みじろ) ぎしたが、頭を振ってから俺に視線を返してきた。

続いて、運ばれてきた剣を手に取るが……どう見ても恐々といった様子である。刃渡りが八十センチほどの片手剣の柄を握り、傍目から見てわかるほど大きく唾を飲み込んだ。その姿を見ただけでは剣の才能があるようには見えないが――。

(実際に戦ってみればわかるか)

俺は運ばれてきた木剣を手に取る。木剣というからには当然木製だが、透輝の剣と同じで刃渡りは八十センチ程度で重く、硬く、粘りがある木材を使用しているため武器として十分に使える代物だ。

「……そっちは木刀……じゃない、木の剣なのか」

「ああ。ハンデというやつさ」

まあ、実際は素人が剣を振り回しても限度があるし、ハンデと言えるほどハンデじゃないんだけどな。むしろ自分の手足を斬ったりしない分、木剣の方が扱いやすいとすら言える。

「それではこの決闘、決闘委員会の委員長、ゲラルド=ブルサ=パストリスが立会を行う」

木剣の具合を確かめていると、俺と透輝の間に立ったゲラルドがそう宣言を行う。そしていつの間にか二メートルほどの槍を握っているが……『召喚器』を発現できるようになったんだな。

「勝敗条件に関してサンデューク君から提案があったが、サンデューク君側が降参するか、死ぬか、テンカワ君を殺してしまうか、木剣を折られたら負け。テンカワ君側は負けを認めたら負けだ。テンカワ君、異存は?」

「……俺が滅茶苦茶有利に思えるんだけど、アイリスからもハンデがないと勝負が成立しないって言われたからな。いいぜ、それでやろう。でかいハンデをつけたこと、後悔させてやるよ」

でかいハンデとはいうが、透輝の敗北条件が負けを認めたら負け――つまり、認めなければ負けはない、と考えると勝負の前から俺の敗北はほぼ決まっている。

それでも 俺(・) の(・) 目(・) 的(・) から考えると負けても別に構わないし、透輝の覚醒を促すのならこれらの条件で良いのだ。

「敗北の条件は決まった。それでは、互いにこの決闘に何を賭ける?」

「何も。俺が勝とうと何も求めないさ。バリーのために透輝を教育するのが目的だからね。ああ、そういう意味ではバリーへの謝罪を賭けることになるか」

「っ……それなら俺は何もねえよ。喧嘩を売られたから買う。それだけだ」

俺と透輝が五メートルほどの距離を開けて向き合い、そんな俺達を見守るように、あるいはただの観戦としてクラスメート達が遠巻きに見てくる。

「両者共、己が信念に従い正々堂々たる勝負を行い給え。決闘――開始ぃっ!」

そんな宣言と共に、『花コン』で最初に発生するイベント戦が始まったのだった。